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リアクション
作戦前だというのにコロコロと笑いあいながらトラックへ向かう女性陣を見て、高円寺は人数が足りないことに気がついた。
何人かのメンバーが男性陣と共にその場に残っていたのだ。
「あんた達も早く――」
「ああもう、めんどくさいなぁ」
高円寺の声を遮ったのは八神 誠一(やがみ・せいいち)だ。
「面倒?」
「ええ。だって侵入工作って、武力制圧出来ない時にやるべきであって、契約者を数十人単位で雇ってテーマパーク規模の戦力相手にするなら、正面から仕掛けた方が早いと思うんですよねぇ」
彼の言葉に頷いるのはレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)とパートナーのガルム アルハ(がるむ・あるは)だ。
二人の賛同を得て誠一は続ける。
「どうやら相手のコンピュータには捕まえた人を人質として使うようなプログラムは組み込まれてないようですし、と言うか、そういうプログラムを組み込んでるようなら、この依頼自体が成立しないでしょうからねぇ」
パートナー、雨宮 七日(あめみや・なのか)と一緒に参加していた日比谷 皐月(ひびや・さつき)も口を挟む。
「ああ。オレもそう思う。先に行った人間の安全についても同様、本来の用途を考えれば、命の危険はほぼ無いと踏んで良い。武器を持たずに侵入したなら精々が不審者扱い、交流して警察だのなんだのに引き渡すまで身柄は確保、が一番考えられるかね。
攻められた事で捕まった人間を殺す可能性も極めて低い。関連性が見えねー、そもそも、機械的に考えてんなら処理するより迎え撃った方が被害は抑えられる。
防衛に回す人員と手間割いて勾留した無関係である可能性のある人間を殺すなんて無駄な事、する訳ねーしな」
皐月の考えを確認して、誠一は過激な言葉で演説を締めた。
「まあ、人質として使われたって、古来から言われてる対応方法で対処するだけです。
古人曰く、人質ごと潰せ」
「人質……ごと?」
高円寺は眉をひそめる。
「極端だな。確かに山葉涼司からは思い切り暴れていいと言われているが、助けに行く人間の命ごと潰しては全く意味が無いだろ」
二人の間に流れた不穏な空気をいち早く察知し、助け舟を出そうと既に着替えていた為その場に残っていた火村がいつもより明るい声で話しだす。
「貰った資料に目を通した限りの情報ですけれど……、
キャラクターの町人ロボット達が暴れたのは何か誤解が生じたと言えるかもしれません。
確かに皆さんの仰る通り町人ロボット達が施設内に囚われた人を殺したり傷つけたり……は考えにくいですね」
火村の声に被るように高円寺は「ああそうだな」と相槌を打ち、話しだす。
「実際ヤバイのはそのロボット達じゃないと、オレも思ってる。
本当にヤバイのは思考型コンピュータと化したホストコンピュータの方だ。
警備ロボット達を操っているのはコイツだが、コイツ自体がどう考えてを何をどう動かそうとしてるのかは全く分からん。
何せ“教育”を施したプログラム開発者自身が――碌な人間じゃないのはこの状況を見た通りだからな。
相手の出方が分からない以上、人質の命を守る為に一番安全な道を通るべきだ」
沈黙ややあって、その場に居た一人がおもむろに手を挙げた。
「あー……ちょっといいか?」
国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
パラ実らしい破天荒な……というより、もはや変態のようなランジェリーまみれの服装に一見ふざけた印象しか受けないが、
下着メーカーの支社で丁稚奉公中という立派な職業に就く社会人の彼は、彼なりに空気を読んでいる。
「オレが最初に考えてたのはよ、町人のロボットとかで騒ぎを起こす方法なんだわ。
その騒ぎのどさくさに紛れて江戸城地下に侵入して、サーバールームの前にあるコンソールの緊急停止スイッチを押すって寸法よ。
っしたら暴れたい奴らは警備ロボットや火消しロボ相手に大暴れできるし、関係者の救出目的の連中は警備ロボがこっちに足止めされるから動きやすくなるだろうし、
オレはオレで安全に城の地下に侵入できる事になるから、みんなの利害が一致するんじゃね? ってな」
この場を収めようとしているのか、国頭の必死の説明を静かに聞いていた樹月 刀真(きづき・とうま)が口を開いた。
「折衷案。 という訳でもないが――
城の中に入る事ができたら上々、駄目なら強行突破」
彼の言うことを汲み取って、高円寺は言いなおす。
「では八神達には分隊として暫くこの場で待って貰い、人質の安全が確認出来次第、又は事態が悪化した場合突入して貰う……どうだ?」
高円寺が視線を向けると、八神を中心に突入を考えていたもの達も作戦に納得したのか頷き合う。
「概ね異存はないかな」
「突っかかったみたいで悪かったな。
でも人質の命は最優先だ」
「……まあ、善処しよう」
*
男性陣もトラックで準備を済ませた。
中で黒い袴に黒い羽織を選んできた椎名 真(しいな・まこと)が、設計地図を前に作戦を詰めている。
「まずは昨日から閉じ込められている人達の場所を探さなくちゃ」
加夜が建物から目ぼしい場所を見つけようとしていると、椎名が懐から資料の一部を取り出した。
「捕まっているのは警備と工事の作業員さんか。
警備ロボットに捕まった人と、町人ロボット――吉刃羅に閉じ込められたのは、同じ場所とは限らないよな」
それを引き継ぐのはリースだ。
「パ、パークの運営上の害悪って事は、視察団や工事の人達は遊園地のロボットさんにとってその……わ、悪い人って事ですよね。
ここのテーマになっている日本のエドって時代だと、悪い人は牢屋敷に閉じ込められるって本で読んだ気がするから、
沢山の人を閉じ込めておけるような大きなお屋敷とか町人ロボットさんに聞き込みをしてみるのはどうでしょうか?」
「奉行所とかなら牢屋がありそうですね。その辺りの情報を重点的に集めてみましょう。
怪我などしてないといいんですけど……心配です。早く見つけて保護してあげなくちゃ」
意見を同じくして、加夜とリースは頷きあう。
そこへフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、何処からかストンと降りてきて
「サポートは忍の私にお任せ下さい」
と、真剣な表情を見せる。
彼女の後ろに立っていた岡っ引き姿の少年が「あーそれについて補足」と口を開いた。
ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)はこういった方向に明るいのか、機嫌よさそうに舌を滑らせはじめる。
「警備ロボットはホストコンピュータと違って処理能力が高い訳ではないから誤差もあるけど、ホストの意思をダイレクトに反映して動いてる。
逆にホスト側も警備ロボット達から得た情報で、作戦を練って来るはず。
つまり警備ロボットとホストコンピュータ、この二つはほぼ同じものと見ていいと思うぜ。
「警備ロボットに俺達の正体がバレたら、アウトって事だね」
椎名の確認に、ヴァイスは頷く。
「そ。
もしそうなっちゃったら全部壊して進むしかないな。
いけるんならデータの修正、やってみるけど」
*
「ふーっ……すっきり」
――何をしてきたのだろうか。
何故か下半身をモジモジさせてよろける妻の手を引き、不自然な程の爽やかな笑顔で遅れてトラックの影から出て来た透子の前に、
彼女よりもずっと前に着替えを済ませたはずのコンクリート モモ(こんくりーと・もも)が怪しい足取りで皆の元へ向かっているのを見つけた。
「ちょ、おま……足元ふらついてるけど大丈夫なの?」
「うふふ! これなら全く問題無し!!」
「問題無しって……まあいいけど」
締めようとして、モモの手に怪しいボトルが握られているのが目に入る。
酒豪の透子はそのボトルの正体にすぐ気がついた。
「いや良くない。これもしかして……ドンペリ!?」
「ホストの弱点なら知ってるわ…ドンペリでしょ?ドンペリ!」
「……いやー……突っ込むのも憚られるというか何というか」
「あの……モモさん。
……それってホスト違いなんじゃないんでしょうか」
「え? ホスト違い? え? ええ!?」
モモが真実に気がついて羞恥の絶叫をあげていた頃。
トラックから着替えをしていた最後の二人が下りてきたことに杜守 柚(ともり・ゆず)気がついた。
一人は自分のパートナーである杜守 三月(ともり・みつき)。出発前に「武士の格好とかしてみたいな」と彼女に話していた通り、
鎖襦袢を着こみ額には額当てを付け、今すぐにでも戦いに行けるような扮装をしてきている。
そしてもう一人は高円寺。
頭をかきながらばつの悪そうな顔で手に持っている長い布を見つめている。
「これどうつけるかわかるか?」
「おう、任せとけィ」
気風のいい返事で、カガチが高円寺にたすき掛けをしてやっているのを見ながら、柚の口からは思わず声が漏れてしまう。
「……海君、格好良い……!」
暫く呆けた顔で見つめていたのだが、自分の周囲に沢山の人間が居ることに気がついて慌てて口を押さえる。
しかし彼女の後ろから
「確かにカッコイイねー」
と、セレンの声で柚は内心飛び上がる気持ちだった。
「(き、聞かれちゃった!? )」
どうやって隠そうかと、訳も分からずに両手をブンブン振り回していると、セレンに続いて
「ねー、似合ってる」「素敵ですね」「イケてるイケてる」「うんうん」
等、男女交って言い合い始めた。
どうやら自分の言った格好良い。だけが別の意味を含んでいる事には気づかれいなかったらしい。
柚が息を吐いて気持ちを落ち着けていると、いつのまにかパートナーが横に立っていた。
「良かったね、気づかれなくて」
「み、三月ちゃん!!駄目だったら!!」
「いててて叩かない叩かない」
その場に全員が揃い、館内に入る者たちが華やかな装いになっているのを見渡して、真は友人の服が何時も通りなことに気がついた。
「そういえば。カガチはそれでいいの?」
言われてカガチは初めて自分の着ている物を確認してみる。
普段着からして着物を着ている彼だが、女性陣の華やかな扮装と見比べるとただの着物では見劣りしているのは明らかだ。
「成るほど、俺もちょっと遊んでみるか?」
そう呟くと、彼は「着流しをちょいと汚して」と袖や裾に泥を含ませ、「髪は少し高い位置で結って髷風に」と手早く髪を束ねる。
「んでそこらの土産屋で拝借した木刀かなけりゃ模造刀を腰にさせば……、
どうよどこからどうみても武芸者浪人風だろ?」
両手で着物の裾を引っ張り振り返って見せた彼の手際と完ぺきな着こなしに、メンバー全員が拍手をする。
「いいねぇいいねぇ。血が騒ぐってもんだ。」
生まれた時代は違うとは言え、日本に生まれ日本に育った英霊、原田 左之助(はらだ・さのすけ)は、昔の血が騒ぐのだろうか。
羽織の両襟掴むと、パンッと音を立て整える。
「さぁて。波風立たずにさっさと終わるか。それともロボット相手に一世一代の大喧嘩になるか?
男共!嬢ちゃんたち!!
気合入れていくぜ!」
「応!!」
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