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大江戸爆府☆暴れん坊ロボ将軍

リアクション公開中!

大江戸爆府☆暴れん坊ロボ将軍
大江戸爆府☆暴れん坊ロボ将軍 大江戸爆府☆暴れん坊ロボ将軍

リアクション



【第三章】


 江戸城、跳ね橋前。

 土産物屋や茶屋等幾つかの工事途中の建物が立ち並ぶ中、その建物はあった。
 建物とは言っても屋根部分には布が被せられているだけ。外壁も薄い木の板が骨組みに嵌め込まれているだけで、
完成には程遠い暗い小さな建物である。
 木の板と板の間、カーテンのように掛けられた布が動くと、そこから長身の男と白い髪の少年が現れる。
「ちょっと埃っぽいな……」
 赤い瞳が充血でにじんでいるようだ。手の甲で目をこすっていると、
「おまけに茶の一つも飲めないのだよ……」
 と、中に居た男が口を尖らせる。
 彼のパートナーがため息を付いていたところへ、音も無く、しかし声は大きくその場に現れていた。
「こりゃ待たせちゃったかな?」
「いやー、オレらも今きたとこ」
「よかった」
 女――透乃は小さく呟く妻の声をうっとり味わうと、戦士の表情に戻って話し出す。
「ヴァイスちゃん達とアルツールちゃん達が調べた情報は、武尊ちゃんとにゃんこが刀真ちゃんに報告済み。
 その刀真ちゃんは一足先に江戸城の中に向かったよ」
「先に……とは?」
「デタラメにも悪党ロボを味方につけちゃったみたいよ。
 柚ちゃん達は吉刃羅に連れられてったし、火消しロボットの詰め所に居る加夜ちゃん達も上手くやってるっぽい。 
 これでみーんな関係者入口からVIP対応だ〜」
「えー!? オレもその中に入れば良かったー!」
「一般人……正確にはフリだが関係者ではない連中を関係者専用の場所に入れてしまう等、全く嘆かわしい程出鱈目なロボット達だな」
「朝から昼までこの中回って色々見てたけど、まさにアルツールちゃんの言う通りだよね。
 ここのシステムのそのまま営業やってたら、苦情だらけで結局だめになってたんじゃないかなーっ思うよ。
 メインキャラは色ボケだし火消しは喧嘩売って来るし悪党は因縁付けてくるし。
 私の言えるこっちゃないけど、限界を知らないんだね。
 ――でも」
「その駄目ロボット達をこれから目一杯使おうってオレらに言える事じゃぁないけどね」
 ヴァイスは如何にも悪そうにニヤリと笑うと、カーテン状の布を横に引き千切って捨ててしまう。
 陽子が暗い部屋の中に突然入ってきた強い光に目を細めると、
数秒後、光の中に何十……いや、百は居そうな程の数の町人ロボット達が集まっているのが見えた。
 江戸城の跳ね橋に向かって我先にと走っているロボット達。
 列の先頭にいるのは武尊と又吉だ。 
「こっちだこっちだ! 男も女もジジィもババァもガキ共も、一人も出遅れんじゃねぇぞ!」
「吉刃羅様と悪党衆の大喧嘩! 江戸ッ子がこいつを見逃す手はないぜ!!!」



 その頃、江戸城の中の天守前のステージには悪党ロボット達が最初に辿り着いていた。

 悪代官ロボットがステージ前で文字通り芝居ががって説明する。
「この天守に上様がいらっしゃる。ここで待っておれ、お目通り出来るよう手筈を整えるユエ……」
 ハデスがうやうやしく頭を下げていると、コホンと咳払いをして
「ところでハデスよ、お主先ほどの約束を覚えてはいるだろうナ」
「は?」
「”別の趣向”の事ダ」
「ああ! それですか」
 手をこぶしを掌にのせてポンっと叩くと、その手を開いてパンパンっと叩く。
 現れたのは着物姿の少女、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だ。
「ちょ、ちょっと、兄さん!
な、なんで私がこんな役なんですかっ!! 他に方法はないんですかっ!?」
 明らかに自分に向けられている非難の声を華麗にスルーしているハデス。
「さあ、ご存分にお楽しみを……」
 ハデスの台詞でショーはスタートしたようだ。
 ここからは手あかのついた、しかしマンネリ万歳の世界である。


『なかなかの上玉ではないか』
 先ほどと違ってロボットらしい口調ではなく、声優が予め吹き込んだようななめらかな喋りは、
ハデスの敷いた出鱈目なレールが今日のショウシナリオにぴったり合致していたらしい事を証明していた。
 実は彼はスキル根回しを使用し作戦を円滑につつめていたのだが、その場にいる誰一人としてそれに気づいていなかった。
「に、兄さん! 私が何も出来ないの分かってるんでしょ。兄さんったら!!」
『ほほっ。愛いヤツだの。ワシがたっぷり可愛がってやる故、何も怖がる事はないのだぞ』
「ちょっやめて下さい! 本当にやめてくださいってば!!」
『よいではないかよいではないか』
「あーーーーれーーーーーー」
 お馴染みの、でも実際時代劇を見ていると目にする数が少ない帯でグルグル、がステージ状で展開されていた時だった。

『その宴、この世の名残りの宴と知るがよい』

 ここでヒーローが現れるのもお約束だ。
 エコーがかった声が響くと、何処からか矢張りピンスポットの光が吉刃羅の姿を照らす。
『お前はこの前邪魔してきた奴か!』『お代官様、こいつが毒田パラ之助です!』
 悪党衆が悪代官に向かって口々に言いまくる。
『己の立場を利用して、民を犠牲にし私腹を肥やす不埒な悪行三昧その醜き姿……。
 美しい衣で着飾ってもこの吉刃羅にはお見通しだ!』
『吉刃羅?』
『愚か者! 余の顔を見忘れたか!!』
『……う、上様!?』
 BGMがシーンを盛り上げると、悪党衆が一斉にその場にひれ伏した。
 ハデスや咲耶、その場になんとなく乗せられてしまったカガチらも取り敢えずひれ伏した。
『その罪、断じて許し難い。潔く法の裁きに服すが良い』
『……くっ。
 こ、こ奴は恐れ多くも上様の名を騙る不届き者だ!
 斬れ!斬り捨てぃ!!』

 ♪ジャーンジャーンジャーンジャジャジャジャジャジャジャーンジャーンジャーン

 いよいよ戦いのスタートだ。
 吉刃羅の神速の剣が一閃する度、悪党達が倒れて行く。

「……ように見えるだけだね」
「ありゃぁ殺陣だな。さも食らってるように見えて実際は一撃も当たって無いんだ」
「ところでどうする。高円寺達もきたみたいだが、取り敢えずショーが終わるまで待つか?」
「何とか混乱に乗じて中に入れねぇかな?」
 カガチと刀真が話していると、先ほど彼らが使った関係者用の門が開いた。

「パラサン!!」
 やってきたのは真ら率いる火消しのロボット達だ。
「パ組の!」
「なんだか知らねえが喧嘩となっちゃ黙っちゃいられねぇ! 俺たちも加勢するゼ!!」
 予定に無かった火消しロボット達が上がってきたたお陰で、ステージ上は明らかに人数オーバーだ。
 そんな中、劇中の登場人物として静かにしていたドクターハデスが唐突に声をあげた。
「悪の用心棒アルテミスよ!やってしまうがいいっ!」
 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の登場だ。
 言われた通り律儀に用心棒姿で登場した彼女は、矢張り律儀に台詞を喋り出した。
「不届きな侵入者ですね!
オリュンポスの騎士…じゃなかった、秘密問屋オリュンポス屋の用心棒アルテミスがお相手します!」

 観客席に降りて状況を見ていた三月らも、遂には口からため息を吐いてしまう。
「なんだか滅茶苦茶だね」
 頭を欠いていると、隣に座っていた柚が何かに気付いたのか目を見開いている。
「三月ちゃん、あれ!!」
 柚が指さす方向には加夜が居た。その彼女の前に何台もの監視カメラを搭載した警備ロボットがいるが、
その何れもがピタリと動きを止め、ステージの反対側を向いていた。
 リースらを助けた時と同じように情報撹乱を使っているのだ。
「スキルを使ってるんだわ!でも台数が多すぎる。今すぐ加勢に――」
「セレン、待って!」
 セレアナに止められ、冷静に確認してみると、フレンディスとベルクがステージの影から囚われていた関係者を連れて
こちらへ走ってきた。
「ロボット達は止まっています!今のうちに外へ!!」
 フレンディスらに先導され走るが、閉じ込められていた時間が長すぎた。疲労しきったその足は重く時間がかかりそうだ。
 城内のデータが正確に送られてこない為、ホストが不信感を抱いたのか警備ロボット達は後から後から城の中へ現れる。
 術を使い続ける加夜の眉は苦しそうに下がり、額には脂汗が浮かんでいた。
「だめだわセレアナ、早く加夜を止めないとこのままじゃ」
 セレアナが頷いた時だった。



「喧嘩の会場はここかぁ!!」
 突然、堅く閉じていた門扉が開き、武尊に扇動された町人ロボット達がわらわらと入って来る。
 その瞬間――
「ハデス様の策が上手く行けば、事件を穏便に解決できるのですから……
 ここは力ずくでも退いていただきますっ!」
 会場が突然の冷気に包まれる。
 アルテミスが『グレイシャルハザード』を放ったのだ。
 目の前のロボットの一台が冷気に包まれ氷結したのを見て、町人ロボット達は天に向かって拳を振り上げる。
「ウオオオオ喧嘩だ喧嘩ダア!!」「どいつが悪党ダ!」「わかんねぇからもう全部殴っちマエ!!」
 館内の全ての町人ロボット、悪党ロボットが集合し、入り乱れ大混乱の大乱闘が始まった。
「ねえ、カガチ。あれもタテって奴なの?」
「いや、嬢ちゃん……ありゃあ」


 ガチだった。引くほどガチな殴り合いだった。


 吉刃羅をはじめ悪党ロボットはショウに出演する出演者として、特殊なプログラムが組まれていたようだが、
全てのロボットに演技のアクションの機能が備わっていた訳ではない。
 なのに「人を殴ってはいけません」という幼稚園生でも理解できる。更に言えばロボット三原則に関わるような部分を、
このロボット達は開発者に教えてもらっていなかったのだ。
 いまだかつて無い状況に、ホスト自体がどう判断して良いのか迷っているのか、警備ロボット達も右往左往している。
「加夜! もういいわ、スキルを解除して!」
 セレンの声にやっと状況を飲み込んだ加夜がスキルを解除する。
「大丈夫?
「だ……大丈夫です。まだ……」
 必死に誤魔化そうとする加夜だが、その足はまともに地面を踏みしめる事が出来ていない。セレンはそれを見抜いていた。
「もしまだ余力があるならあの人達をサポートしてあげて」
 
 セレンの指さす先に工事と警備の関係者らがいる。
 フレンディスとパートナーが彼らを先導しているのだが、乱戦の中を進むのは大分効率が悪そうだ。
 おまけに衣装も衣装である。
 フレンディスの要望で若殿のような扮装を着こんでいたベルクだが、今朝生まれて初めて袖を通した和服では走るのも上手くいかない。
 状況を理解して彼らの元へ走って行く加夜の耳には、ベルクのため息が聞こえてきていた。
「……フレイ
 もーちょい恰好どーにかならなかったのか?
 つか、厄介事は止めろと…」
「でもマスターお似合いです」
 と、フレンディスに褒められ、何も言えなくなる。
 惚れた弱みというやつだ。
「機械相手っつーのはやりにくいんだよなー。
 ったく、悪者はとっとと消えろっつの」
 ボヤキつつ関係者らとフレンディスがロボット達の闘いに巻き込まれないよう、彼らを囲むようにサンダーブラストで雷を落としていく。
 フレンディスはタイミングを見計らって
「お覚悟を…」
とブラインドナイブズを駆使して、彼女らが進むのを邪魔するフェイクの忍刀で、しかし本職の忍者らしく的確に警備ロボット達を暗殺……暗壊? させていった。




 町人ロボットに交じって中に入ってきたのは武尊達だけではない。
 ヴァイスや透乃、アルツールらは勿論のこと……
「おい、その包はナンダ!?」
 悪代官ロボットに絡まれているのはドンペリを抱えたまま入口で皆とはぐれ居なくなったと思われていたコンクリートモモだ。
「いや、頭が病気のおとっつぁんに飲ませてやろうと思って……」
「頭が病気ダト!? 一体どんな奴ナンダ!!」
「え、おとっつぁんの仕事? おとっつぁんの仕事はホストコン……コン……」
 入口で指摘されるまで、モモは本気でホストコンピュータとホストを勘違いしていたのだが、
今は手にしている酒瓶で、コンピュータを破壊するつもりなのだ。
「妙な女ダ! だが気に行ったゾ!!」
「ちょっと何するの!」
 悪代官ロボットはモモの着物の帯を掴むと、例によつて例のごとく――

「あ〜れ〜!」

 くるくるまわってゆくモモ。
 そして何故が着物の他に何も身につけていなかったらしく、 嬉し恥ずかしのスッポンポンである。
「こら、お前ら見るな!スケベ!」
 ボッティチェリ作、ヴィーナスの誕生のポーズで慌てて隠すモモだが、その脳内にある考えがよぎった。
「(悪党ロボとホストコンピューターってデータ共有してるんだよね?
 ……ってことは今の画像ホストコンピューターに保存されちゃったじゃん。
 これじゃ、ただ強制終了とかするだけじゃ駄目だ……ぶっ壊さないと!!)
 目指せ江戸城地下二階!」
 モモは落ちた着物を拾い、全裸のまま一直線にサーバールームへ向かっていく。
 その後ろに続くのは一匹の白猫。ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)だ。
「にゃ〜ん! ゆる族ならテーマパークにいても違和感ないのにゃー。
 にゃーんてにゃ」
 デカい独り言を言いながら走るギルティ。
 その姿をヴァイス見つめている。
「にゃんま……いや、ひこにゃ……違う違う。
 あの姿、あの形、あのリボンはまさしく鬼て……













 何だあのねこ」



「今のうちに中へ……」
 高円寺は柚を振り返り、そしてギョッとして言葉を失った。
「(ぬ、脱いでる!?)」 
 柚が腰の帯に手を掛ける。帯はどういう訳か一瞬にして床に落ちた。
次に着物の襟を掴む。
「お、お前何考えて――!!」
 海が慌てて止めようとしたが、彼の目に飛び込んできたのは下着姿ではなく、忍者服姿の柚だった。
 マーガレットの着物にスパッツと可愛らしくアレンジされたそれや、透乃と陽子の下に着るものをすべて脱ぎ去ってしまったようなエロエロくのいちではない、
割と正統派なその服を着ている彼女は何時もよりしっかりした大人の女性の様に見える。
「海君! 行きましょう!!」
「お……おう」


 天守内部に向かって走り出した柚らを見て、刀真もそれに続こうと立ちあがる。
「月夜、剣を……」
 状況が状況だけにもう愛刀を抜いても問題ないだろう。と、手を月夜の胸に伸ばし――。

 手に独特の感触を感じた。
 ああ、このふんわりとして柔らかく、それでいて適度な弾力を持ち……
 マシュマロ等と簡単に形容する事は出来ない甘美な感触。
 それぞれ大きさや形の違いはあるにも関わらず、どれも同じように赤子の尻と同じく何時までもそれを味わっていたいと思わせる。
 触れれば体の奥から突き抜けるように湧き上がる歓喜を抑えきれないそこは――

「……あっ、ごめ――」

 ズン!
「ゲッ」

 洒落ではない音と共に刀真は蛙が踏まれたような声を口から吐いて膝から崩れ落ちた。
 月夜の手から強烈なボディブローがさく裂したのである。
「しっ、信じらんない! こんな緊急時に何すんのよ!」
「……ごふぉごふっ……ご……ごめんじこ……事故!!」
 女性の繊細な部分に触れたのだから当然の仕打ちだろう。
「……ま、まあ事故なら許してあげない事も無いけど」
 刀真は腹を押さえつつヨロヨロと立ちあがる。
「ふぅ。分かってくれたか。
 でも月夜、よかったな。少し大きくなって」

 ガカァ!!
「がふぉっ!!」

 今度こそ洒落にはならない顎の骨が砕けるような音を頭で感じながら刀真は遥か後ろの広場の門に向かって吹っ飛んだ。
 女性の繊細な心に触れたのだから当然の仕打ちだろう。
「ちゃっかり大きさを確認するな!! TPOをわきまえなさい!!」
 やべ、目の前が霞んできた。
 刀真はどこに居るのかも分からなくなったパートナーに向かって謝罪し続けた。
「スンマセンスンマセンマジスンマセンゴメンナサイホンッットゴメンナサイ」