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ACT5・白衣の男


「フリッカ」
 
 白衣の男を探していたルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が、前を行く契約者フレデリカ・レヴィに声をかける。

「どうしたの、ルイ姉?」
「捕まっていたみんなは無事だったようです」

 ティ=フォンに届いた仲間からの連絡に目を通して、ルイーザは言った。
 それを聞いたフレデリカはほっと息をつく。

「それなら残るは敵の首謀者だけってことね」
「外にも何かいるようですけど……」
「そうえいばそうだったわ。じゃあ急がないとね」
「ええ、そうですね」

 ふたりはそんな会話を交わしながらアジトの中を進むのだった。


                   ◇


《敵はいないな、アニス》

 隠れ身の技術を巧みに使いながらアジトの中を進む佐野 和輝(さの・かずき)は、精神感応で繋がるパートナーアニス・パラス(あにす・ぱらす)へと話しかける。

《大丈夫、敵はいないみたいだよ〜♪》

 式神の術で式神とした右銀翼の髪飾りで周囲の索敵を行なっていたアニスはそう答える。

《よし、なら行くぞ。後についてこい》
《りょ〜かい♪》

 先を行く和輝の後をアニスが空飛ぶ箒ファルケにまたがって追いかけていこうとする。 そんなアニスの服の袖を禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が”むんずっ”と掴む。

「ちょっと待て、私に運動をさせる気か?」
「あっ、ごめんごめん。忘れてたよ」

 にひひっ、と悪びれた様子もなく笑みを浮かべながら、アニスは空飛ぶ箒ファルケの後ろに『ダンダリオンの書』を乗せた。

「それじゃあ行くよ〜♪ びゅ〜ん、全速前進〜♪」

 そしてそんなアニスの掛け声と共に、空飛ぶ箒ファルケはどーんと轟音を響かせて通路を疾走していく。

「おっ、おい! ちょっとスピードを出しすぎではないか!?」

 アニスの体に必死な様子でしがみつく『ダンダリオンの書』はそう言った。
 だがアニスは余裕の表情で答える。

「大丈夫、大丈夫♪」

 アニスはそう言ったが、空飛ぶ箒ファルケは和輝を余裕で追い越して先へと向かう。
 と、そこへ巡回をしていた鏖殺寺院の信徒が曲がり角からひょっこりと顔を現した。

「ぶつかるっ!?」

 『ダンダリオンの書』は思わず叫んだ。そして鏖殺寺院も叫んだ。
 アニスたちの乗る空飛ぶ箒ファルケと敵は正面衝突を起こし、派手に吹き飛んだ。

「にゃは〜」

 地面に転がるアニスや『ダンダリオンの書』はぐるぐると目を回す。
 そんなアニスたちの元に、騒ぎを聞きつけた他の敵が集まってくる。

「そこをどけ!」

 と、後ろからやってきた和輝の怒号が響く。
 彼は地面を蹴り上げて跳躍すると、アニスたちの前へと一気に躍り出た。
 敵と正面から相対する和輝は、敵の配置や武器を素早く見て取る。
 そしてすべてを把握すると、敵集団への攻撃を開始した。
 効率の良い打撃で足の関節を狙い、絶対に外さない距離で利き手を狙って銃を発砲する。
 その攻撃に敵を次々に無力化していき、うめき声を上げてうずくまっていく。
 戦闘の後、ひとりだけそこに立っていた和輝はアニスたちを振り返った。

「あまり先行するな。わかったな」
「うん」
「よし、時間がもったいない。行くぞ」

 和輝はそう言うと踵を返し、歩を進めた。