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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

「ぬぬぬっ……!」

 先にアジトへと入り込んだクィンシィ・パッセはエリザロッテから渡された地図を片手に唸っていた。
 そんな彼女を振り返り、名喪無鬼 霊(なもなき・れい)は言う。

「道はこっちでいいのカ……クィンシィ様?」
「いや、そちらではなくこちらへ行くのだ」

 クィンシィはそう言って違う道を指さした。

「あの、クィンシィ様――その地図って当てになるの?」

 『黒の書』にそう言われて、クィンシィはウッと短く声を上げた。
 エリザロッテから渡された地図は内部の構造が書いてあるにはあるのだが、絵がかなり下手くそであまりに役に立っていない。
 だが、クィンシィたちが白衣の男を見つけるために他に頼るべき能力や物もないのでこれを頼りに進むしかなかった。

「クィンシィ様……!」

 と、何かを感じ取った霊がクィンシィの前に出る。
 それを見てクィンシィや『黒の書』も戦闘体勢を取った。
 だが、そんな彼女たちの前に現れたのは仲間の契約者だった。
 クィンシィたちは「何をしているのか?」と聞かれ、少し焦りながらも白衣の男を探していることを告げた。
 それを聞いた契約者は自分たちも白衣の男を探している途中である事を告げ、クィンシィたちを一緒に誘った。
 この地図よりも役に立ちそうだ――そんな事を考えながら、クィンシィはその申し出を受け、その契約者たちと一緒に白衣の男を再び探し始めた。


                    ◇


『GAAAAAAAAAAA――!!』

 N‐1が百獣の王を思わせるような声で吼える。
 その叫びは衝撃波を生み、N‐1を取り囲む陽動組の契約者たちを吹き飛ばす。
 彼らは持てる力を振り絞って立ち上がり、再びN‐1へと攻撃を加える。
 しかし相手はまさに怪物のような高い生命力を持っていた。
 彼らがダメージを与えても、少し経てばN‐1の傷は自然に塞がっていく。

「どうなってるんだ――!」

 誰ともなくそう叫ぶ。
 すると超感覚を持ったN‐1はあざとくその声を聞き分けて、地獄の炎を口から吐き出した。
 地面を転がるようにして契約者たちはなんとかそれを回避。
 だがその炎はイルミンスールの森を焼いていく。

「そこのデカブツ!」

 と、誰かがN‐1に向かって叫ぶ。
 見ればそこには、イルミンスールの森の中にある左道星辰館からやってきた高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)の姿があった。
 彼は表情をムッとさせながら、素早くいくつもの印を結んでいく。

「近くでうるさいんですよ。修行の邪魔です……!」

 そして玄秀はそう言い放ち、地面に両手を突き立てた。
 すると植物のツタが地面をボコボコと盛り上げながら、N‐1に向かって進む。
 玄秀の優れた式神の術により式神化しているこのツタたちは、意思を持ってN‐1に絡みつき、その動きを封じていく。

『――UUUU!?』

 N‐1は身悶えをしてそれに抗うが、ツタは次から次へと巻きついていき、ついにはその動きは完全に止めてしまった。

「今よ!」

 それを見て、玄秀のパートナーティアン・メイ(てぃあん・めい)は盾と剣を構えながら突撃していく。
 そしてN‐1に近づくと、足の関節など敵の弱そうな場所に斬撃を加える。

「次は眼よ!」

 ティアンは足を斬りつけた剣を引いて、今度は目に向かって刺突を繰り出す。
 その時だった。
 彼女とN‐1の暗澹とした視線が交錯する。

「あ…ああ……」

 ティアンは攻撃の手を止めて、一歩後ろへと下がった。
 彼女の心の中にある不安や恐怖――それが増幅し、幻像として目の前に現れる。
 N‐1と同じように、底のない闇を湛えた瞳を持った玄秀が薄ら笑いを浮かべている。
 そしてその玄秀は彼女を拒絶するような言葉を永遠と繰り返す。

「そんな、私を見捨てないで! シュウさえ側にいてくれるなら……私は……それで!」

 混乱したティアンは武器を手放し、その場にうずくまる。
 その間にN‐1は荒ぶる力で身をよじり、ツタの束縛から脱出した。
 そして蛇の尻尾をムチのように振ってティアンを攻撃する。

「ティア!? ダメだ! そこから離れろ!!」

 玄秀が無意識のうちそう叫んだ。
 彼は背中には氷の翼を生じさせると地上を滑空する。
 そしてうずくまるティアの側まで行くと、彼女を庇うようにその体を抱きしめた。
 そんなふたりへ、容赦のない一撃がお見舞いされる。

「ぐあぁぁっ!!」

 N‐1の攻撃を受けたふたりは抱き合ったまま吹き飛んだ。
 地面を転がるその衝撃でティアンは正気に戻る。

「えっ……シュウ!?」

 彼女は自分の側で倒れる玄秀の姿を見て声をあげた。
 それをあざ笑うかのように、N‐1は咆哮をあげる。

「ふふふ……色々な気配に誘われて来てみれば何やら面白そうなモノがいるわね」

 黒い陽炎のような翼で空に浮かぶレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)がN‐1を見下ろしながらつぶやいた。

「遊び相手には丁度いいかしら……ふふふ」

 レイナ――いや、今は自分のことをノワールと呼ぶ裏の人格は、闇を切りとったかのような漆黒の大鎌サイス・オブ・ノワールを構える。
 そして口元に笑みを浮かべ、その身からおぞましい気配を放つとN‐1に向かって急降下していく。

「さぁ、存分に私を楽しませて頂戴……!」