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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

 爆発と共に派手に暴れ始めた陽動部隊の契約者たち。
 敵の注意はそんな彼らへと完全に向けられていた。

「もうそろそろいいであろう」

 ザコを相手に戦っていたクィンシィ・パッセ(くぃんしぃ・ぱっせ)は、そんな現状を見てつぶやく。
 そんな彼女の言葉に、すぐ近くで一緒に敵の陽動を行なっていた無名祭祀書 『黒の書』(むめいさいししょ・くろのしょ)はうなずいて応えた。

「わかりましたわ、クィンシィ様」
「うむ、では行くとしょう」

 クィンシィがそう言うと、ふたりは息を合わせて同じ呪文を唱え始める。
 すると二人を中心にして濃度の高い酸性霧が立ちこめ、辺りを包み込んだ。
 クィンシィたちを相手に戦っていた敵たちは、その霧に視界を奪われ、相手を見失う。

「ふふふっ、愚か者どもめ!」

 クィンシィがそんな敵たちをあざ笑いながら、手薄になったアジトの入口に向かって走る。
 彼女は潜入組が動き出す前にいち早くアジトに乗り込み、白衣の男と接触を試みようとしていた。

「ちょっと待って!」

 と、そんなクィンシィを呼び止める声。
 足を止めて見てみれば、モヒカン子ぐまを抱えたエリザロッテ・フィアーネがそこに立っていた。
 クィンシィは自分の思惑が気取られたと思って少し警戒する。
 そんなクィンシィたちに向かって、エリザロッテはに一枚の紙を差し出した。

「これはなんじゃ?」
「ヴェルデ――私の契約者がこの子に持たせたアジト内部の地図みたいなの。だから中に行くのなら、これを使って」

 エリザロッテの申し出は願ってもないものだった。
 クィンシィはそれを受け取ると、地図を片手にパートナーたちと共にアジトの中へと突入していく。
 そんなクィンシィたちから少し遅れて、潜入組の面々もついに動き出した。
 隠れるのをやめた契約者たちは、手薄になった正面入口に向かって一直線に向かっていく。
 そんな契約者たちの姿に気づいた敵が、他の仲間に連絡を入れようと通信機に手を伸ばす。

「――がふっ!?」

 だが、その手に握った通信機のスイッチを押す前に、敵は一発の銃弾に撃ち抜かれて事切れた。

「そうはさせません」

 イルミンスールの森に生い茂る高い木々のてっぺんに、ふわりと立っている坂上 来栖(さかがみ・くるす)がそうつぶやく。
 その手には、白煙の立ち上る対人外用12mm拳銃マリスが握られていた。
 エイミングの技術と鷹の目のような視力を使って、敵を狙い撃ったのは彼女だった。
 そんな来栖は、アジトへと突入していく契約者たちへと視線を向ける。

「這いよる混沌、無貌の神。アレに関係したモノに手を出す愚か者を罰するのなら、それらしい相手が一番ですかね」

 ぽつりとそうつぶやく来栖の視線は、アジトへ潜入していくあるひとりの人物に向けられていた。

「ギィギャァッ!!」

 と、潰れた鳴き声が来栖の近くから聞こえてきた。
 見れば、空飛ぶヴァリアントモンスターがいつの間にか来栖の周りに集まり、周囲を取り囲んでいる。

「出来損ないのさらにひどい劣化物ですか……」

 右から左に視線を流し、来栖はそう言った。
 すると次の瞬間――剣、槍、斧といった無数の武器が来栖の頭上高くに生じ始める。
 それは彼女の得意とする虚栄魔術によって生み出されていく偽りの現実。
 名のある武器や名のない武器、正邪の区別を付けず、次々と武器が顕在化していく。
 だがそれに気づいていないヴァリアントモンスターたちは、奇声をあげて一斉に来栖へと襲いかかった。
 その奇声を耳にした来栖は、不快そうに眉根を寄せて言い放つ。

「目障りだ――消えろ」

 するとその言葉を合図にしたように、宙に浮いていた無数の武器たちが雨のように降り注ぎ、敵の体をズタズタに切り刻んでいく。
 そしてすべてが終わると、モンスターも偽りの武器たちも消え、そこにはひとり来栖の姿だけが残っていた。


                    ◇


「大変です!」

 慌てた様子の鏖殺寺院の信徒が、勢いよく部屋へと入ってきた。

「一体どうしたんですか?」

 イルミンスールの生徒たちに投与する薬を調合していた白衣の男が、肩越しに後ろを振り返ってイラだたしげに言う。
 そんな白衣の男に向かって鏖殺寺院の信徒は契約者たちが外で暴れていることを告げた。

「もうやってきたのですか……思ったより早いですね」

 信徒の話を聞いて、白衣の男は顔を歪める。
 そして薬の調合をしていた手を止めて、助手に逃亡の準備を急ぐように言うと、自分は通信機を手にとった。

「N‐1の拘束を解きなさい」

 白衣の男はマイクに向かってそう告げる。するとマイクの向こうにいた人物が短く返事を返した。
 白衣の男はニヤリと口元を歪める。

「聞こえますか、N‐1? 私からの命令です――外にいる奴らをひとり残らず喰らい尽くしてしまいなさいッ!!」

 アジトの地下奥深くで特殊な鎖と拘束具により束縛されていたN‐1と呼ばれる魔物の耳に、聞きなれた主人の声が響く。
 N-1は微かに残る自分の幼い頃の記憶から、白衣の男の言葉に従うことを良しとする。
 拘束具を解かれたN‐1は咆哮し、主人の命令を実行するために動き出した。