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第四章


――今日が終わる時刻が、刻一刻と迫り出す。
 空京に来ていた者達の中でも、帰路に就く者の姿が目立ち出していた。

「いやー今日はまた疲れたッスねー大さん」
「人多かったからなー」
 配達のアルバイトを終えた四谷 大助(しや・だいすけ)ルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)が帰路に就いていた。
「……それにしても、今日の大さん凄かったッスねー」
 ニヤニヤとルシオンが大助を見て笑みを浮かべる。
「……その話は勘弁してくれよ」
 大助はそんなルシオンにうんざりした表情を浮かべた。

――大助達がバイト中の事。愛の伝道師を名乗る者がいきなり話しかけてきた。
「……愛? そりゃ好きな人くらいいるけどさ……そんなの赤の他人に話す事じゃないだろ!?」
 バイト中という事もあり、うっとおしいので追い払おうと大助が言うと、伝道師はこう言った。
「ほぅ、他人に話す事もできないのですか」
「……なんだと?」
 その言葉に、カチンと来た大助が言った。
「じゃあ認めさせてやるよ、俺の想いを!」

「『人を愛するってことは、そいつと幸せになりたいと思うことより、そいつとなら不幸になっても構わないと、そう思うことだと思ってる。だから、オレは雅羅が好きなんだ』……キャー! 聞いててこっちが赤面ッスよ!」
 その時、言った事――雅羅に対する想いを真似するように言うルシオンに大助は大きく溜息を吐いた。暫くからかわれるのだろうか、と少し心配になった。
「まぁまぁ……もしかしたら、あの人が言うとおり本当に雅羅さんに聞かれてたかもしれないッスよ?」
 ルシオンがからかうように言う。
 伝道師は去り際、『その言葉、もしかしたら本人の耳に入っているかもしれませんね』と言っていた。
「勘弁してくれよ……本当に雅羅に聞かれでもしたら、オレ顔合わせられないって」
 そう言って大助は苦笑した。

 一方その頃。
「……そっち、居た?」
「ううん、見つからない」
「そう……何処へ行ったのかしらね」
 雅羅となななは、今尚伝道師を探していた。
「そうだねー……ところでさ、さっきあっちの方行った時やけに顔赤かったけど、何かあったの?」
「え? な、何にもなかったわよ? そ、それより早く探さないと!」
 慌てる雅羅に、なななはただ首を傾げていた。



「全く、何なのよアイツ」
 帰路を歩くセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は怒っていた。
 今日はパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とのデートを楽しむために空京に来ていた。
「いきなり人の邪魔してきて、失礼な奴だったわね」
 セレンフィリティが先程から怒っているのは伝道師に対してである。折角のデートを邪魔されたのが原因だ。
「え、ええ……」
 歯切れ悪くセレアナが頷く。
「こっちから質問したってさっさとどっか行っちゃったし……ってどうかした?」
 セレンフィリティが顔を覗き込むと、セレアナは顔を赤くした。
「顔赤いけど、風邪?」
「な、何でもないわよ?」
 セレアナが手を横に振って否定する。セレンフィリティは首を傾げていた。
(参ったわね……)
 熱くなる頬に手を当てて、セレアナが溜息を吐く。
 先程の伝道師との邂逅の際、愛を問われたセレンフィリティはセレアナを抱き寄せ、散々惚気た挙句にこう言い放った。

『セレアナ以外に大切な物なんてないわ。互いに愛し合っている、この感情を共有していることが何にも代えがたい宝物よ!』

(もう……あんなこと言われちゃまともに顔なんて見れないわよ)
 再度溜息を吐くセレアナ。
「ねー、やっぱり顔赤いよ? 熱あるんじゃない?」
 セレンフィリティが再度、セレアナの顔を覗き込む。
 ぼっ、と音が出そうな勢いで、更にセレアナの顔が赤くなった。
「な、何でもないったら! ほら早く帰るわよ!」
 首を傾げながらも、セレンフィリティ。そんな彼女にセレアナは、『一体誰のせいだと思ってるのよ』と心の中で呟いた。



 帰路に就いていた樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の間には何処と無く気まずい空気が漂っていた。
 お互い無言で、刀真はちらほらと視線を彷徨わせながら、月夜は俯いて歩いている。
 そんな状況でも会話を試みようとしているのだが、
「……な、なぁ」「……ね、ねぇ」
と被って会話がそこで途切れ、また気まずい空気に。
(あー……これもアイツのせいだ)
 刀真が心の中で毒づく。アイツ、というのは先程会った伝道師である。
 愛する物を語れ、と言われた刀真は『下手に逆らうのは得策でない』と判断し、で剣と業の事についてを語った。その際、伝道師はこう言った。
「随分と大切にしているんですねぇ。まるで人のようです」
 その言葉を聞いて月夜の顔が赤くなっていた。剣の花嫁である彼女にとって、剣を語る事は自分が語られているように感じたのだろう。
 そのことに刀真も気付き、お互い照れ臭くなり気まずい空気となっていた。
「……さっきのあれ、な」
 いい加減この空気をどうにかしようと、刀真が切り出した。
「う、うん」
「えーっと……剣の事だからな?」
「わ、わかってるよ」
 そう言うと、月夜は再度俯くが、ちらちらと刀真の様子を伺っていた。
「……わかってないじゃないか」
「わかってる……でも、恥ずかしい物は恥ずかしいのよ」
「そう言う物か」と刀真は溜息を吐いた。
「それに、私の事言うならちゃんと女の子として言って貰いたいよ……」
 月夜が小さく呟いた。
「何だって?」
「……何でもない」
 月夜は俯き、刀真の袖を掴んだ。何となく、離れたくなかったから。
 その様子に溜息を吐きつつ、刀真は歩く速度を落とした。
(……ちゃんと見てくれてるんだよね)
 その心遣いを嬉しく思いながら、月夜は少し袖を掴む力を強くした。



「くちゅんっ!」
 帰り道、師王 アスカ(しおう・あすか)が小さくくしゃみをする。
「だーから言っただろ。あんなとこで薄着でいるからだ」
 そんなアスカを見て蒼灯 鴉(そうひ・からす)が呆れたように言う。
「仕方ないじゃないのよ〜営業なんだもの〜」
 アスカが頬を膨らます。今日、バレンタインという事で彼女は街に似顔絵描きとして一稼ぎしに来ていたのであった。店など構えているわけでもなく、路上での営業だ。
「だからってマフラーも手袋も忘れて……子供かお前は?」
「それは言わないでよ〜」
 鴉の言葉に、アスカが苦笑する。
「あ〜寒い〜……鴉〜暖めて〜」
「あ、おい!」
 そう言うと、もぞもぞとアスカが鴉のコートに潜り込む。
「えへへ〜暖か〜い♪」
 コートに包まれ、見上げるアスカに鴉は慌てて目をそらす。
(ったく人の気も知らないで……あんな風に言われてどんな顔すりゃいいんだよ……)
 血が上る顔を悟られないように、鴉が空を見上げる。

――少し遡り、鴉がアスカを迎えに行った時の事である。
 防寒具を忘れたアスカに呆れつつ、鴉が向かうと彼女は丁度誰かと話している所であった。
「なんだ、客か」
 営業の邪魔をするのも悪いと感じ、少し離れて鴉が様子を伺っていた。
「愛ねぇ……えっと〜……絵と〜……」
(……一体何の話をしているんだか)
 彼女に悟られないように、鴉は盗み聞きしていた。
「でも他の「愛」も知る事ができたのぉ。その人は、不器用だけど私の為に怒ってくれたり……優しくしてくれたり、嫉妬してくれたりする人で〜初めて……私に他の「愛」を教えくれた人なのよぉ」
(……本当に何の話してるんだか。てか、誰だおいそいつは)
 照れ臭そうに、アスカが言った。
「大好きって言葉じゃ物足りない……うん、愛して……るのかな?  正直まだ慣れないんだけど、その人…鴉の事考えるとポカポカするんだぁ〜えへへ」
 その言葉を聞いた瞬間、鴉の体は動いていた。
「この絵画オタク! 何してやがんだこのアホ!」
 そう言って、これ以上恥ずかしい事を言う彼女を止める為に。

(こっ恥ずかしい事平気で言いやがって……てかなんで疑問形なんだよおい)
「ねぇ鴉〜」
「……何だよ」
 顔を下ろした鴉が少しぶっきらぼうに答える。
「さっきの話、聞いてたでしょ」
「……なんの事やら」
 そして、冷や汗だらけになって顔をまた上げた。
「ふーん……ならそういうことにしといてあげるねぇ」
 そういってアスカが笑った。



 一人歩いていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、ふと空を見上げた。
 星が輝く夜空。闇だけではなく光が存在する空に、少し前の出来事を思い返す。

――空京の街を歩いていた詩穂は、愛の伝道師なる者から質問を受けていた。
「……いますよ。片思いだけど、最愛の人が」
 詩穂が語るのは、最愛と思えるとある少女の話。
 今はとある事情により、詩穂と彼女は離れ離れになっている。
「その人と、離れて改めて好きだという事に気づきました。今は想う事しかできませんが」
 詩穂はそう言って苦笑する。
「想う事は大事です。想いは届かないかも知れなくても、想い続けなければ届くことはありません」
 そんな詩穂に、伝道師は言った。
「……貴女の想い、届くといいですね」
 そう言って、伝道師は去っていった。

「想う事は大事、か」
 空を見つつ、詩穂が呟く。
 この空の下、離れていても詩穂が想う少女は共にある。今はその距離は遠い。けど、
「……大丈夫。約束したもん」
詩穂が少女との約束を思い返す――なにがあっても2人は一緒よ、と交わした約束を。
 目を閉じ、詩穂は願う。いつかわからない遠い未来、彼女の隣を並んで歩けることを。



「〜♪」
 鼻歌を交えつつ、嬉しそうに遠野 歌菜(とおの・かな)は歩く。
「随分と嬉しそうだな」
 その様子を見て月崎 羽純(つきざき・はすみ)が言う。
「うん、羽純くんからあんな言葉聞いたら嬉しくって♪」
 振り返り、満面の笑みで歌菜が言った。
「……さっきのアレか」
 苦笑しつつ、羽純が先程の事を思い返した。

――空京でのデートの最中の事だった。
「最初は放っておけなかったんです。でも、何で放っておけないんだろう……って考えたら、もう好きになってたんですね。理屈じゃなくてこの人の笑った顔が見たい、幸せにしたいって、そう思ったんですよ」
 嬉しそうに、照れ臭そうに歌菜が語る。語る相手は愛の伝道師を名乗る者。愛について問われた歌菜は、パートナーの羽純の事について延々と語っていた。
「放っておけばいいのに……」
 その横で溜息を吐く羽純。自分の事を話されているというのが、どうも照れ臭い。
「ふむ……貴方はどうですか?」
 そうこうしていると、伝道師は羽純に話を振ってきた。
「俺? そうだな……」
 少し羽純は思考し、口を開く。
「歌菜は俺にとって…… 喩えるなら……そう、『光』なんだ」
 羽純が語る。自分が封印されていた頃の話から、封印が解かれた後、歌菜が色々としてくれた事を。
 その言葉に満足したのかはわからないが、伝道師はそのまま去っていった。

「羽純くんにとって私は光みたいな存在なんですね〜」
「あーあれはその……」
 何か羽純は言おうとするが、何も言葉が浮かばず、恥ずかしさをごまかすように歌菜の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ふふ……愛してますよ、旦那様♪」
 くすぐったそうに顔をほころばせ、歌菜が嬉しそうに言った。

――余談であるが、この日一人の名もなき紳士が怒り狂い「次はぜってぇリア充爆破してやる」と吠えたらしいが、それを確認できる物は残されていない。