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「うーん……特にコレといったコダワリはないんですよね。強いて言うとしたら名前でしょうか」
「名前?」
 伝道師の言葉に、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が頷く。
「俺の名前、なんでも『人を愛することを貴ぶこと』っていう意味らしいですよ? この名前は親からもらった最高の愛の形だと思うんですよ」
 名前の漢字それぞれの意味を素直に信じるとするのならばね、と付け加え、貴仁が言う。
「親の愛、ってやつかの……そう思われて親は幸せじゃのぉ」
 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)がからからと笑う。
「ふむ、今の貴仁の言葉でわらわも思いついたわ。わらわの愛は与える愛じゃ」
「ほう、愛を与えるのですか」
「うむ、愛を欲しておる者に与える。これも愛じゃ」
 そう言って、座椅子代わりにしている【救世主 木村太郎】を房内が引っぱたいた。直後、「ありがとうございましゅうッ!」と歓喜の言葉が木村から上がる。
「えっと、その人そんなことさせていいの?」
 心配そうに言うアゾートに、房内が笑う。
「ああ、木村にとってはご褒美でしかないでの」
「ええ、よろしければ貴女も私に愛を与えてくだされば」
 いい笑顔で木村が言うが、アゾートは「うわ……」とドン引きしつつ伝道師の後ろに隠れる。勿論木村にはご褒美でしかない。
「ところで、そなた」
「……私、ですか?」
 伝道師を指さし、房内が頷く。
「そうじゃ……いや、話を聞いておるとな、その……あんまり言いたくはないのじゃが……そなたただチョコを貰えないから僻んでおるだけではないのかの?」
「ちょ、房内さん!」
 面倒な事になりそうだと貴仁が止めようとするが、房内は続ける。
「それを真なる愛とかなんとか言って自己弁護してカップル狩りをしてるようにしかわらわには見えんのじゃよ……そなた、モテなむぐっ」
「房内さぁーん! そこまでにしましょうかぁー!?」
 慌てて貴仁が房内の口を塞ぐ。
「むー……何か勘違いされてますねぇ」
 少し残念そうに、伝道師が呟く。
「勘違い?」
「ええ、別に私カップル狩りなんてしていませんし。ねぇ?」
「え? う、うん……」
 伝道師に話を振られ、アゾートが頷く。
「そうなんですか?」
「うん。一緒に見てるけど、今の所カップルだからって襲ってるようなことは無い、かな」
 貴仁に聞かれたアゾートが答える。一部例外はあったが、それを話すと拗れるのであえて黙っておいた。
「ならそなたは何故――」
「おうおう、何だか面白そうな事してるじゃねぇか!」
 場の空気も読まず、前振りなくゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が横から入ってくる。
「おっと皆まで言うな。愛について話していたんだろ?」
 ゲブーがドヤ顔で言い放つ。こういう空気は読むか。
「という事は、貴方も語るべき愛があるのでしょうか?」
「ふっふっふ……あるぜ? とっておきのがな」
 伝道師が言うと、ゲブーは勿体ぶるように笑みを浮かべ、たっぷりと時間を取ってから口を開いた。

「俺様が愛する物……それはずばり【ピー】よ!」
 
 伏字が発生してしまったので解説する。
 ゲブーが愛する物というのは、女性の胸、乳房と呼ばれる存在であり、要するにオパーイのことである。

「「「「……はぁ?」」」」
「まあまて、今俺様が解くと語ってやるからな……心して聞きやがれ!」
 そう言うと、ゲブーがオパーイについての愛を語る。
 詳しく書くと色々と問題があるので省略するが、内容的にはアゾートが(¬△¬;)←こんな顔をしてドン引きするようなものであった。
「おいおい、そんな顔して失礼だな。何なら俺様が愛を教えてやろうか?」
 わきわきと手を握ったり開いたりするゲブーに、アゾートがさっと伝道師の後ろに隠れる。
「あ、こんなところにいた!」
 そんな中、伝道師を目にしたなななと雅羅が駆け付けてくる。
「あら……あぁッ!」
 そして雅羅が、ゲブーを目にした瞬間、
「こいつッ!」
銃を抜き、発砲する。
「おわっ!? おいおい、いきなり何するんだ!? 俺様の嫁だろ?」
「嫁?」
「誰がアンタの嫁よ! こいつ、以前私の胸揉んだのよ!」
 憤慨する雅羅に対し、
「ああ、揉んだな。揉んだからには俺様の嫁だ」
ゲブーが下品な笑みを浮かべる。
「……さいてー」
 アゾートがジトっとした目でゲブーを見る。ちなみにその視線が欲しいと木村が指をくわえ、羨ましそうにしていたが今は全くもって関係ない。
「最低とはなんだ。これが俺様の愛の流儀って奴よ! そこの伝道師ならわかってくぶぅえっ!?」
 言葉を言い終える前に、伝道師の鉄拳でゲブーはぶっ飛ばされていた。
「な、何故……!?」
「理由、言わないといけませんかね?」
 ボキボキと拳を鳴らしながら伝道師がゆっくりと歩み寄る。
「あ、当たり前だろうが!」
「ふむ、あんまり言いたくないんですが……何処かの誰かが『巨乳揉みしだいた経験あるだけで罰じゃぼけぇ! えぇい畜生羨ましい!』と血涙流しながら判定されたので」
「あ、なななも変な電波受信したよ。何か『俺も二次元の住人になりてぇよこの野郎!』とか叫んでる」
「この場で最低なのはその何処ぞの誰かかもしれんのぉ」
 しみじみと房内が呟いた。むしろ我々の業界ではご褒美です。
「さて、それではお楽しみの更生タイムに……」
「ちょっと待った」
 RPGを構えようとした伝道師を、雅羅が止める。
「どうしました?」
「私も混ぜてもらえるかしら? 愛、とやらを教えたくなって」
 ニヤリ、と雅羅が笑みを浮かべる。
「ふむ、ならこちらをお使いください」
 そう言うと、伝道師はRPGを雅羅に渡す。
「ええ……」
 雅羅は受け取ったRPGをゲブーに照準スタンバイ。
「ちょ……ちょっと待った! 何か不満でもあったのか!? 俺様の超絶テクが気に入らなかったとでも!?」
 流石にヤバい事に気付いたのか、ゲブーが必死で雅羅を説得しようとする。
 そんなゲブーを見て、雅羅が超イイ笑顔を見せた。
「な、なんだろう。雅羅さん、怖いんですけど……」
「うん、あれ本気で怒ってるね……」
「近寄らない方が身の為だね」
 貴仁、アゾート、なななはその笑顔に寒気を感じ、傍観を決め込む。
「ふふふ……何を勘違いしてるのかしらねぇ……これはお礼よ?」
「礼、だと?」
「ええ……よくも恥ずかしい目に合せてくれたわね! 消え去れこの変態がぁッ!」
 雅羅が引き金を引く。弾頭がゲブーに向かってGO。
「ぐあああああああ!」
 爆風に包まれたゲブーの悲鳴が、辺りに木霊した。
「ふぅ……汚物を消毒するのは気持ちがいいわね」
 先程のうすら寒くなる笑顔とは違い、何かをやり遂げたいい笑顔を見せると雅羅はRPGを伝道師に返す。
「お疲れ様でした……それでは、我々は先に失礼しますね」
「ええ、ありがとう」
 そう言って、雅羅達は伝道師を見送った後、
「ってあああああああ! 今の内に捕まえておけば良かったじゃないの!」
「後RPG返さなくても良かったよ! なんで返しちゃったのさ!?」
「なんでそれを言ってくれないのよ!?」
と、自分たちの目的を思い出し叫んでいた。
「……ああ、羨ましい……私もああいうことをされたらと想像するだけで……もう……モウッ……!」
 尚、消毒されたゲブーを見て恍惚の表情を浮かべる木村であったが、やがて「ハウッ!」と声を上げると菩薩のような表情で倒れ込んだ。
「……どうしましょうか?」
「放っておけ。その方が喜ぶじゃろうし」
 困った表情を浮かべる貴仁に、房内が吐き捨てるように言った。