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第五章

 バレンタインの夜が終わった空京。
 昨日の惨劇のような騒動とは打って変わり、平穏な日常が繰り広げられていた。
「いやー……全身痛いなー」
 ゴキゴキと骨を鳴らしてなななが言う。
「そりゃRPGの爆撃受けたりしたし……大怪我してないのが不思議よ」
 雅羅も腰を逸らすと同様に骨が鳴った。むしろその程度で済んでいる所が流石コメディ。
 その隣、こほこほとアゾートが咳き込む。
「あら、風邪?」
 雅羅に聞かれ、アゾートが首を横に振る。
「昨日大声出し過ぎて……」
「ツッコミ疲れか。大変だったねー」
「全くだよ……う゛」
 アゾートが足を止めた。
「どうしたの……ああ」
 雅羅が納得したように頷いた。
 正面から歩いてくる人物が、トレンチコートを着ていたのだ。
「ちょっとしたトラウマよね……」
「うん……」
 どうしても昨日の事を思い出し、アゾートが溜息を吐いた。
「まぁ、昨日の人とは違うよ。あの人、女の人だし」
 なななが元気づけようと笑う。正面の人物は金髪の髪を後ろに括っている女性であった。
「違うのはわかってるんだけどね……ん?」
 女性とすれ違った後、アゾートが道に何かが落ちている事に気付く。それは折りたたまれた白い布だった。
「ハンカチ? それにしては大きいけど……あの人のかな?」
「そうかもしれないわね」
 アゾート達が振り向くと、少し距離は離れていたが女性の背中が見えた。追いかければまだ間に合う距離だ。
「ねえ! これ、落としたよー!」
 布を高く掲げ、アゾートが声を上げると女性は気づいたようで駆け足でこちらへと向かってきた。

「「な……ッ!?」」

 雅羅となななが凍りついた。
「どうしたの? 変な声出して……」
 アゾートが首を傾げるが、二人は黙って手にある布を指さすだけ。
「これ? これがどうした……の゛っ!?
 アゾートも凍りついた。

――手に持ったハンカチと思われていた布は、頭を覆い隠すマスクであった。
――その顔に当たる部分にはハートマークが描かれている。
――それは昨日、よく見た物であった。

「あ、すみません。ありがとうございます」
 軽く息を切らして女性がアゾートに駆け寄ってくる。アゾートはというと、わなわなと体を震わせて固まっている。
「大事な物なんですけど、つい落としちゃって……あら?」
 女性はアゾートを見ると、何かに気づいたように声を上げた。
 じっと、アゾート顔をその碧眼に映すと、ふっと笑みを作る。
 そして、アゾートの手からマスクを取ると、口元に当てる。

――言ったでしょう? 妬む理由が無いって。

 それは、昨日よく聞いた低い男の声であった。
「それでは、縁が有ったらまたお会いしましょうか皆さん」
 マスクを離し、女性の声で別れを告げ女性は去っていった。
「は、ははは……」
 乾いた笑いが、アゾートの口から洩れた。それはなななと雅羅の口からも発せられていた。

――私は妬みなんかで人を襲いませんよ。そもそも妬む理由なんてないですし。

  伝道師が昨日言った様に、確かに理由なんてなかった――あげる側であるのならば、貰えないと妬む理由は無いのだ。

 だが、

「「「色々と納得いかねー!」」」
三人の声が、空京の街に空しく響いた。

担当マスターより

▼担当マスター

高久 高久

▼マスターコメント

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。今回担当しました高久高久です。
この度はご参加頂き誠にありがとうございます。
そして過去最大の遅延。大変申し訳ありませんでした。本当にお待たせして申し訳ございません。

さて、今回私がGM登録してから一年目、という事でそれを勝手に記念してのシナリオでした。
なので、最初からブレーキなんて無しで脊髄反射で作成した結果がこのリアクションです。
笑って済ませていただければ幸いです。

毎回アクションを読ませていただき、楽しく読ませていただいてます。
毎回勉強させられる事も多く、自らの未熟さを痛感させられています。
今回特に『愛』について真剣に語る方も多く、『キミを殺しにかかる』つもりが殺されかかったのは私、という結果に。
『愛? 何それ食えるの?』な私が愛なんて語ってはいけなかったんですね。反省しています。

それではまた次の機会、皆様と御一緒できる事を楽しみにしております。

※3月1日 一部記述ミスの修正を行いました。