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 第4章 - 『お姫様』

 1
「いやあ、姉御たちとはぐれちゃってにゃあ」
 猫耳の少女がカラカラと笑う。
「それでは、あなたがロビン・フッドの一人だ、と。三姉妹だったとは」
 美術館内の一室に避難して、泪が言った。
「額縁、持ってかれちゃってるみたい」
 ルカが額縁に設置した発信器を探知しながら言う。
「それで、ロビン・フッドさんはどうして額縁を盗もうと、したんでしょうかぁ……」
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が猫耳少女の肩に手を置いて尋ねる。
「どうして、っていうのもまた難しい話だにゃあ」
 姫さまが――少女が口を開く。
「姫さまが生き別れた王子様と再開したいから、と言ってたにゃあ」
「お姫さま……?」
 日奈々が尋ね返す。
「お姫様ですか。概ね予想通りと言ったところですが……」
「果たして、本当に姫君ならばもっと合法的な手段で額縁を手に入れることもできただろうに」
 ロレンツォ・バルトーリに続けてリリ・スノーウォーカーが言う。
「まあ、姫さまって言っても、手紙にそう書かれてただけだからにゃあ」
「そうすると……ロビン・フッドさんはそのお姫さまの為に額縁を」
「なんてったって、わたしたちは義賊だからにゃあ。これくらい当然のことにゃ」
「やっぱり」
 日奈々が小さく言う。
「ロビン・フッドさんは、本当にお話の中の人みたいですねぇ」
「ロビン・フッドさん、『お姫様に飼われた大勢の兎達』って絵を知りませんか?」
 七瀬歩が尋ねると、猫耳少女は首を傾げた。
「なんのことかにゃ」
「……私たちは、元々絵画の中に居たんだ」 
 今までロザリンドの傍で沈黙を守っていたロップイヤーが口を開いた。
「ただ、私たちは私たちが居た絵画を失くしてしまった。……それを探してる」
「ほほー、それはまるで、今回の額縁みたいなお話だにゃ」
「だから――ロビン・フッドさんも絵画の中の人なんです」
 猫耳少女が、日奈々の言葉を聞くと、目を細めた。
「私たちはお姫様に飼われていた兎。そういう設定。そしてそのお姫様は、生き別れた王子様を探している。そういう設定」
 そして。
「あなたたちは義賊として人の為にと盗みをはたらく――そういう設定」
 ロップイヤーの言葉に、僅かに空気が重くなる。
「ところで」
 リリがふいに声を上げた。
「この絵画に覚えは? 見覚え――いや、身に覚え、というべきだろうか」
 これは先にラズィーヤから借り受けた物なのだがね。
 言いながら、身近に置かれていたイーゼルに被せられた布を剥がした。
 中心部に空白部を備えた絵画に、シャーウッドの森を思わせる緑に溢れた情景が広がっている。
「君たちの帰る場所はどうやら、ここのようだよ。怪盗さん」


 2
「二人?」
「そう、二人。額縁を持っている奴と、そのサポートらしきもう一人」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が答える。
 木立警備班にとっての最終防衛ラインであり、ロビン・フッドを追いこむチャンスだった。
「まったく、こっちからしたら良い迷惑よ。この街でその名前を名乗る以上、それなりの覚悟はできてんでしょうねぇ」
 この街で、ロビン・フッドを名乗る――それは自分たちだけだ。
 美術館へ無関係だという挨拶をし、その後に予告状を出した犯人への挑発として噂を流すも、当の『大怪盗』は反応を見せやしない。
「これでは多勢に無勢だな。愉快犯もこれでお仕舞いだ」
 カモフラージュで身を潜めたリブロがシャープシューターを駆使し、連続三発速射。
 額縁を抱えた少女の脚を掠り、銃弾が樹木に突き刺さる。
「追いつめると同時に、どういうつもりなのか吐かせるわよ。この手でとっ捕まえるんだから――」
 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がリネンを引きつれて怪盗の元へ向かう。
 リブロの追撃が怪盗少女の気を引く間に、彼女らの背後に、レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が躍り出た。
「追いつめたぞっ! 賊め――」
 ランスバレストによる容赦ない一突きが少女の脇腹に刺さる。
 しかし、手応えが無い――これは自分と同じ肉体を持つ存在なのか?
 レノアは逡巡しながらも、もう一人を牽制するようにランスバレストを放つ。
 駄目押しとばかりに、バーストダッシュで開いた間合いを一挙に詰め、額縁を抱えた少女を突き飛ばす。
 放りだされた額縁を駆け付けたリネン・エルフトが抱え上げると共に、その額縁に駆け寄ったもう一人をヘイリーが羽交い締めに捕える。
「さあ、アンタの目的は? よくも人の街で勝手をしてくれたわね」
 レノアが仕留めた少女の元へ歩み寄る。
 顔を覗き込むと、その頭に猫耳が付いているのに気付いた。
「……泥棒猫、か」
 レノアが口を開いた瞬間――少女は跳ね起き、ヘッドバッドでレノアを退けると身体を組み伏せ、鋭く伸びた獣が如き爪をレノアの首元に突き付けた。
「額縁を渡して頂戴」
「物盗り風情の下衆が、自分の状況を分かっているのか?」
 眉根を寄せて、レノアが言う。
 こうも冷静で居られるのは、自分に何か起きようものなら、リブロが仕留めてくれるだろう絶対の自信があったからだ。
 それ以前に。
 もう勝負は決しているとしか思えない。
 人が集まる気配がする。
「――そこまで、にしてもらえないでしょうか」
 アリアンナ・コッソットの小さくもはっきりとした声に、リネンとヘイリー、レノアと猫耳少女二人が振り向く。
「往々にして好奇心は猫を殺すものだが。しかし、だとしたら、何も殺してしまう必要はないだろう」
 リリが言うと、絵画を抱えたララが一歩踏み出した。 
三匹の泥棒猫は、とある絵画の中では『怪盗ロビン・フッド』だった、ということです」
 ロレンツォ・バルトーリが言う。
「それが理由でしょう。それが彼女たちが義賊で大怪盗である理由。それだけが」
 絵画の中には一匹の泥棒猫が、既に丸くなっていた。
「さあ、元に居た場所へお帰りなさい。そうすればこの『魔法の額縁』は、あなたたちの物になるんだから」
 アリアンナが小さく言った。
 二人の猫耳少女が目を見合わせると、絵画の中から「にゃあ」という鳴き声が響いた。