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リアクション
第二章 『鎮圧作戦』始動
各校の生徒が入り混じり構成された部隊。その鏖殺寺院の支部を鎮圧する為に結成された部隊は険しい山間に陣を敷いていた。
その陣の後方、最も多くの人員で構成された本隊を任せられたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、出撃前にヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)に教えてもらった情報を頭の中で反芻していた。
(元々、そこにいたのか後で住み着いたかは知らんが結構場所的に見て厄介だぞ?
何が厄介かは黙秘権を行使して語る気はないが、俺が仕掛けた罠と元々そこにあった罠等々が大量にあるのはまぁ工作員にして罠師の俺という所から察するだろうが、あそこの罠は通常の罠と違って逆に罠に掛らないといけない場合の物が多々あるから敵に会う前に相当被害受けてこっちが弱るだろうな……)
ヴェルデの言葉をそこまで思い出して、クレアは小さくため息を吐いた。
その理由はここに辿り着くまでに、あちこちの部隊が罠の被害に合い少なからず被害を受けていたからだった。
(後、道中におびただしいぐらいの量の監視カメラも仕掛けられているからな。
たぶん、部隊の行動は相手に筒抜けになっていると思うぞ。
……まぁ相手が住み着く際に罠全部除去してたなら知らないし、この情報を真実ととるかガセネタととるかは兎も角どっちにしても一筋縄ではいかんだろう)
そして、こちらの行動は相手に筒抜けだという厄介なおまけつき。
「ガセネタなら良かったのだが、ここまで来るともう信用するしかないな」
言葉と共に出た白い息は、やがて空気に溶け合い、流されていく。
クレアは空を見上げた。日の出と共に出立してきたはずなのに、もう太陽は完全に昇っている。
春を間近に控えた空はとても綺麗だけれども、雲行きが怪しい。雨が降りそうだ。
「……何事もなく、誰も失うことなく。戦いが終わればいいんだがな」
クレアは蒼穹を見上げながら、ぽつりと洩らした。
静寂に包まれた雰囲気は、まるで嵐の前の静けさのようで。
その双肩にかかる重圧を感じながら、本隊を任された指揮官はただ空を見上げていた。
――――――――――
「フランの声帯……?」
「ええ。寺院が態々声を奪い取ったんですから、本人も知らない何かがあったのでは? と思いまして」
後方支援を任された部隊で待機していた小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は、水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)にフランの声帯について質問をされていた。
「……うーん、確かに引っかかることではあるけど。
でも、フラン自身は自分の声には吟遊詩人や歌姫のように、声や音から魔力を引き出すことは出来ないって、」
「……魔力があるからどう、と言うわけでもないかもしれませんよ。
例えば特定の周波数の音を混ぜた『歌』を歌うことで聞き手に何らかの向精神作用を与えることができるとか。
普段使っていた機能がたまたま元気にさせるようなものだったのかもしれませんし……」
睡蓮のその言葉に、秀幸は思案顔になった。
確かに、睡蓮の言う事は的を射ている。フランがただの機晶姫だとすれば襲う必要だってないし、ましてやなぜ声帯のみを奪ったのかも説明がいかないのだから。
「……考えすぎかもしれませんけど、そうでなければ声を奪う必要性なんて。
……だって、フランに何か他の取り柄があるわけではないのでしょう?」
「確かにそうだ」
二人の会話に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が介入する。
レンの手には相手の戦力―斥候が相手部隊の構成員を書いたものだ―を記したリストがあった。
「塵殺寺院がどうして機晶姫の声帯を奪ったのか?
敵戦力のリストを見て、1つの推論が立った。
それは彼女の『声帯』を使い、オークら亜人を大量に従えるというもの。
そして、彼女から奪った『声帯』を使い、計画的に戦力を増やせると考えたのだろう。
問題は、なぜレヴェックが彼女の『声』に何かしらの効果があると踏んだのか、という点についてだが――」
「レン、そこからは私が話しをしよう」
レンの声を遮り、レオン・カシミール(れおん・かしみーる)がやって来た。
二人はフランの声帯について事前に自らの推論を話し合い、一つの筋が通った推論を生み出したと言う。
「彼女の声帯と契約者を奪う意味は何処にある?
レヴェックの起こした行動は私怨と考えられる部分が多い。レヴェックはフランの開発に携わった技術者の一人なのだろう。
失敗作の烙印を押された彼女は棄てられ、開発者達は研究の最先端から外された」
そうして、少し目元を険しくさせながらレオンは言葉を紡ぐ。
「……そして今の支部長の立場にいる、そんなところだろうな」
レオンの言葉が、静かな山間部に響く。
そして、続くようにレンがぽつりと呟いた。
「……馬鹿な話だ。誰かの心を揺さぶる歌声には必ず歌い手の想いが込められている。
それは機晶姫も同じ。
機械で同じ声を作り出すことは出来ても、其処に何の想いも込められていなければ意味はないと言うのに……」
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