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 第四章 『鎮圧作戦』開幕


 誰よりも早く、敵に見つからず倉庫に潜入する二つの人影。

『こちらアニス、作戦行動に移る……なんちゃって〜♪』

 そのうちの一人、アニス・パラス(あにす・ぱらす)ののんびりとした声が、精神感応を通してもう片方の佐野 和輝(さの・かずき)に伝わる。

『……はいはい。敵に見つからないようにするんだぞ』

 テレパシーでアニスと会話を行いながら、和輝は誰にも見つからないよう戦闘は避け、侵入をしていた。
 目的はフランの声帯についての情報。レヴェックがなぜフランを襲ったかは分かったが、その奪った声帯についての事細かい情報を探し出すためだった。

(……と、何かあっちに俺が欲しがってる情報がある気がする)

 和輝のトレジャーセンスによる第六感が、自分が欲しがっている情報の場所を示していた。
 和輝は音を立てないようすり足で進み、リノリウムの床を歩いていく。
 しばらくすれば、倉庫第二区画と書かれたプレートを発見して和輝はアニスにテレパシーを送った。

『アニス、今大丈夫か?』
『にひひ〜っ、どうしたの〜?』

 会話をしながら、和輝はトラッパーを応用。
 罠がありそうな場所にあたりをつけ、解除を行っていく。どうやら罠の数は多く、この場所の警備は厳重のようだ。

『……倉庫第二区画って場所分かるか? 出来れば合流したいんだ。
 どうやらそこの警備は厳重みたいで、周囲に敵がいないか確認して欲しい』
『にゃは〜っ、了解〜』

 アニスはやけに間延びした声で了承すると、しばらくして罠を解除している和輝の側にやって来た。
 そして、アニスは殺気看破を使い敵の数を感知する。

『……ん〜、結構敵が多いみたいだよ〜』

 一応、側に居ても音を立てないために二人はテレパシーでの会話を続ける。

『キュゥべえのぬいぐるみで敵の確認をしてみるね〜』

 アニスは式神の術でキュゥべえのぬいぐるみを式神化。前方に走らせ、敵が居ないかどうかを確認しながら進んでいく。
 その後を追随するように和輝がついていき、ときにはトラッパーを応用して罠を解除していく。

 敵がいた場合は通路を迂回し、時間をかけながら進んでいき、やがて目的の場所へと辿りついた。
 鉄製の厳重な扉には鍵がかかっていて、和輝はこれをピッキングで開錠。カチッと何かが嵌ったような音と共に鉄製の扉は開いた。

『ここに、欲しい情報がある気がするんだが……』
『うう〜ん、暗くて何がなんだか分からないね〜』

 二人して入ったその部屋はアニスの言葉通り真っ暗で、光源がないため何があるかどうかさえ分からない状況。
 それでも和輝は目をこらし、やがて真正面の机に置かれた一枚のレポートを見つけ、手に取った。
 そして、紙面に目を落とし――。

『アニス』
『にひひ〜っ、どうしたの〜?』
『……大当たりだ』

 和輝はテレパシーでそう言うと、アニスに片手に持つレポートを見せた。
 アニスも目をこらし、そのレポートに書かれた文字を読み上げる。

『んにゃ? ……フラン・ラクレットの声帯について。現状ではオークを従え、統率させる程度だが、研究開発次第では、更に強力なモンスターを多く操ることが出来そうだったので、奪った……。あの失敗作に持たせるより、私が持っているほうが有用だ……? 和輝、これって、』
『ああ、そういう事だ。レヴェックがなぜ声帯が奪ったかがこれで――』

「あーあ、見ちゃったねぇ」

 不意に、背後から声がした。
 和輝とアニスは振り返り、声の主を見る。

「あんたたちは見たところ鎮圧部隊のメンバーかい? と、言っても答えてくれはしないだろうけどね」

 そこにいたのはスティルだった。
 和輝とアニスは答えることもせず、ただ黙って武器を抜き出す。
 それを見たスティルはおどけたように片手を上げて。

「いやはや、良かったよ。ここが監視用の罠で溢れていて。
 続々と罠が解除されているのが不思議に思って来てみれば、こんな侵入者が見つかるとはね」

 スティルは親指と中指を合わせ、指パッチン。
 同時にけたたましい警報の音が鳴り、音を聞きつけたのかオークが逃げ場を塞ぐようわらわらと集まってきた。

「さて、こいつらの相手でもしてもらおうか」

 それは圧倒的な戦力差。和輝とアニスの二人に思わず緊張が走る。
 口元を吊り上げ嘲笑めいた笑みをみせてから、スティルは踵を返し二人の視界から消えていく。が。

「ああ、忘れてた。そういや」

 スティルは足を止め、思い出したかのようにぽつりと呟いた。

「――もう一人単独で侵入している奴がいたね」

 言葉と共にスティルは風の鎧を発動。スティルの身体を触れれば切り裂かれるような強力な風が覆う。
 それとほぼ同時。突如として現れた黒い影はスティルに二筋の剣閃を奔らせた。
 が、その剣閃はスティルの風の鎧に弾かれ、黒い影は大きく跳躍し後退。

「……気づいていたのですか?」

 そう呟いた黒い影はアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)を魔鎧として纏ったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。
 フレンディスは忍者の特性を生かし、和輝とアニスのように一足先に潜入していたのだった。

「まぁ、あんたたちの狙いは大体分かっていたからね。
 自分自身に気を張っていればそれなりに気づくもんさ」

 スティルはそう言うと、おもむろにポケットから機晶姫の部品を取り出す。
 それは、フレンディスが侵入した目的であるフランの声帯。

「おおかたトレジャーセンスであたしを嗅ぎつけたってところだろう?
 惜しかった。だが、残念だね。あんたはここで終わりだよ」
「!? おねーさま、来るよ!」

 アリッサの叫びと共に行け、とスティルがオーク達に命令。すぐさま、オークの集団がフレンディスを囲み、埋め尽くそうとした。
 フレンディスはそれを拒むかのように、魔障覆滅をオークの集団に放った。
 たゆまぬ鍛錬の結果身に付けた、目にも留まらぬ五つの斬撃はオーク達を切り裂いていく。

「へぇ、やるねぇ。でも、まだまだオークはいるさね。
 どこまでその気概が続くのやら――ん?」

 スティルは余裕綽々と言った風に言うが、ふと目の前の事態を見て言葉を詰まらせた。
 それはフレンディスが切り裂いて倒れた数体のオークが、立ち上がり彼女を守るかのようにスティル達と対峙していたからだった。

「……あんた、何をした?」

 スティルの声が急に冷たくなり、薄暗い廊下に響きわたる。

「申し訳御座いませんが、傀儡になってもらっただけですよ。
 一時的に私の命令で動く、傀儡に」

 それは、フレンディスの持つ二対の忍刀の特性だ。
 敵を倒す際、相手に魔力を込めることで短時間だけ自身の命令で動く傀儡にすることが出来る。

「えらく面妖な技を使うんだねぇ。
 ……どうやら、あんたとあたしは相性が悪いみたいだ」

 吐き捨てるようにそう呟くと、スティルは踵を返し足早にそこから去っていった。
 もちろんフレンディスは追おうとするが、狭い廊下を埋めつくさんばかりのオークがそれを許しはしない。

「……ッ!」

 フレンディスは迫り来るオークの急所を経絡撃ちで攻撃。
 倒れるオークを飛び越え、素早く次々とオークを倒していくが、スティルの姿はいつの間にか消えていた。

「待ちなさい……!」

 フレンディスはスティルを追おうとするが、アリッサに諌められる。

「おねーさま、今は追いかけるのじゃなくて、あの部屋の中の人と協力したほうが得策だよ!」
「くっ、……確かにそうですね。
 ここは一旦、和輝さんとアニスさんと合流しましょうか」

 フレンディスは忍刀を奔らせ敵をなぎ倒し、自身の傀儡として使役する。
 そして、幾多もの銃声が響く鉄の扉の部屋の中へと走っていった。