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機械仕掛けの歌姫

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 第五章 この道はきっと誰かを


 鏖殺寺院の支部、倉庫の前。
 そこでは、大多数のオークにより敷かれた陣と交戦を行う鎮圧部隊の姿があった。

(敵は多いが所詮は烏合の衆。勢いに乗られると厄介だが、出鼻を挫いてしまえば脅威にはなりえない)

 レンはそう考え、風銃エアリエルを抜き取る。
 風の妖精の名を持つその銃は、風術の術式刻印が施されており引鉄を引けば銃弾が籠もっていなくても、突風で敵を吹き飛ばす事が出来る強力な銃だ。
 レンはその銃に大魔弾『コキュートス』を装填し、両手で握り締め引き金を絞るように引き抜いた。
 
 途端、花火が爆発するかのような轟音と共に大きな反動がレンの身体を襲った。

 レンはその反動から生まれた衝撃を押さえつけるのではなく受け流す。
 両腕が跳ね橋のように跳ね上がり、腕を通して肩にそして外に威力が放出される。
 レンはその行為を行いながら、射出される大魔弾『コキュートス』から視線を外さなかった。

 大魔弾『コキュートス』は着弾点――すなわちオークの集団の前方の地面に着弾。
 闇黒属性と氷結属性を伴った大きな魔法が炸裂した。
 それを見たオークの足が止まる。そして、すかさずレンは警告を発した。

「ただちに武装を解除し降伏しろ。さすればおまえたちの身の安全は保障する!」

 レンの大魔弾『コキュートス』に足止めを喰らったオークだが、それに聞く耳はもたず注意をレンに向けて突撃を開始。
 オークは元々好戦的な種族。レンにとってそれは百も承知。その警告の真の目的は敵の注意を引きつけること。

「……私は許せないんです。誰かの声を奪うという行為が」

 レンの傍にいるパートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は誰に言うのではなく、そう呟いた。
 それは自身のあふれ出る怒りを少しでも抑えるため。戦場では感情を取り乱してはいけない。そんなことはメティス自身分かっている。

「だって声を奪われてしまったら、その人は自分の大好きな人に『好きです』も『ありがとう』も言えなくなってしまうじゃないですか」

 メティスは守ることは考えず、思い切り力を溜める。

「そんな哀しいことは、私が許しません……ッ!」

 そして、自身の怒りと想いを乗せてメティスは正義の鉄槌を発動させたロケットパンチを放つ。
 腕用の鎧であるそれはロケット噴射で飛び、オークの集団へと放たれる。さながらそれは、正義の鉄拳とも呼べる一撃。

 メティスの正義の鉄拳を浴びたオークの集団は吹っ飛んだ。

 そして生まれた活路を何やら口争いをしながら、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)若松 未散(わかまつ・みちる)が進む。

「ふふふ……お久しぶりですねぇ。未散さん」
「はぁ!? なんでお前がいるんだよ!」

 どうやらこの二人には浅からず因縁があるらしい。
 お互いに口論―未散が突っかかっているようにも見えるが―しながらも、オークを蹴散らして進んでいる姿は流石ともいえるが。

「まあ、今回は協力者同士。お互い仲良くいきましょう?」
「……お前と行動するのは癪だけどフランの為だ、仕方ない……か」

 ぐぬぬと呻きながらも、エッツェルのその申し出を未散は了承する。
 それを見たエッツェルはどこか不敵な笑みを浮かべてから、足を止め倉庫周辺の大規模な敵の相手に回った。

「最前線で暴れる怪物は囮に最適、さあ今のうちに行ってください。未散さん」
「うぬぬ……おまえに命令されるのはやっぱり癪だが、仕方無い」

 未散は元来のつり目をより一層険しいものにして、エッツェルのその言葉に小さく首を縦に振り走り出す。
 エッツェルはやはり不敵な笑みを浮かべて、未散の背中を見ていた。

 と、同時にエッツェルの背中からは肉の絡まった骨の翼が背皮膚を突き破って生えてくる。

 死骸翼「シャンタク」。そう呼ばれる異色の翼に魔力を込めて羽ばたかせ、辺り一面にブリザードを起こす。
 生まれた氷の嵐はオークの集団に直撃するやいな、その腕を足を胴体を至る所を凍りつかせた。

「……エッツェルさん」

 不意に、背後からエッツェルは声をかけられた。
 エッツェルは死骸翼「シャンタク」を羽ばたかせブリザードを絶えず起こしながら、振り返った。
 そこには、未散のパートナーであるハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)がエッツェルを睨んでいた。

「……あまり未散くんを刺激するのはやめて下さいませ」
「ふふふ……考慮しておきます」

 ハルはエッツェルのその言葉に一層睨む目を鋭くさせる。
 が、不敵な笑顔を崩さないエッツェルにこれ以上は無駄だと判断したのか、やがて視線を外し未散を追いかけていった。
 エッツェルはハルを見送ってから、もう一度視線をオークに戻した。そして、一言。

「さぁ、今ですよ。思いっきり暴れなさい」

 エッツェルの呟いたその一言を皮切りに、左右の少し離れていたところで待機していたアーマード レッド(あーまーど・れっど)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は行動を開始。

「任務了解……敵戦力 ヲ 殲滅シマス」
「ククク……さあ……お楽しみの……時間で……す」

 そこからの三人の戦闘は圧巻の一言だった。
 
 エッツェルは身体から生える数多の刃の触手でオークを切り刻む。
 至近距離まで近寄ったオークは異形の左腕で喰らい尽くし、吸精幻夜で自身の養分にする。

 アーマードはありったけの銃火器を使用し、戦場のあちこちに火柱と爆発を起こす。
 そして、重量二十トンという質量自体も武器とし、ブーストで高速移動しながらオークを轢殺していく。

 ネームレスは数限りなく瘴気の怪物を呼び出しオークを押し潰していく。
 死んでも死んでも生み出される瘴気の怪物は、ネームレスが倒れない限り作り出すことができ底なしの兵力と化していた。

 三人の周りのオークは喰らわれ、潰され数が減っていき、倉庫への活路が生み出された。
 エッツェルは戦い、というよりかは圧倒的な強者による蹂躙を行いながら、少しだけ思う。

 この道はきっと誰かを――守るために続いているのだ、と。
 なれば怪物である自分はその道を歩むのではなく作り出すほうが似合っているのだ、とも。

「ふふふ……柄でもない感傷ですね」