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〜セイレーンとの戦い2〜

「何よこれ……こんなの聞いて無い!!」
 宴会場に続くホールでは、戦いが繰り広げられている。
「どういう事なの? 強硬手段は取らないって……何もしないって言ってたのに!!」
 戦い続ける者達の気付かない間に、ジゼルはその場から走り出した。
 ホールでは戦いが続いている。
「皆、目を閉じて!!」 
 箒で空から呼びかける布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)の声にその場の皆が反射的に目を閉じると、セイレーン達の悲鳴が耳を劈く。
 眩い閃光はセイレーン達の目を潰し、一面の白い世界へと誘った。
「目を潰したよ! 今のうちに!!」
 佳奈子の機転にいち早く反応したのは相棒のエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)で、バーストダッシュで低空を飛ぶように走り込むと
右往左往しているセイレーン達を翼の剣で切り裂いて行く。
 彼女等の後ろからはサオリ・ナガオ(さおり・ながお)の十字砲火による攻撃がセイレーン達を襲う。
「後ろは任せてドンドン斬り込んで下さいですぅ!」
「分かったわ」
 エレノアは返事をしながらまた一匹のセイレーンを切り上げる。
 そして宣言通りエレノアのガラ空きになっている背中は、サオリのライフルによって護られていた。
 元々チームとして組んでいた訳でも、打ち合せた訳でもないのに上手く連携が取れ、セイレーン達の数はみるみる減って行く。
「ちょっといい感じね、上手くいきそう!」
 佳奈子は二人見て口の端を上げた。しかしその時
「ッッ!!」
 肩に衝撃が走ったかと思うと、次に痛みが襲ってくる。
 飛び上がったセイレーンの鋭い爪が佳奈子の細い肩口に食い込み、斬り裂かれていた。
 光術の眼つぶしから回復していたのだ。
「佳奈子!!」
 エレノアは佳奈子の元へ走る。
 目の前にいるセイレーンがそれを好機と攻撃をしかけてくる。
 きき足の太股を斬り裂かれたが、かまってはいられない。
 その足でセイレーンの腹部を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐ……ぅ!!」
 太股の傷からは血がほとばしり、痛みに目を見開くがそんな事に構ってはいられない。
 エレノアは佳奈子の元へと走る。
「ぅあああ!」
 まるで火が燃え上がるかのようだ。
 痛みは増していき佳奈子は柄を握る力を失うと箒から地上へと振り落とされる様に落下していく。
「佳奈子ぉ!!」
 10メートル

 9メートル

 距離は近づいていくが、無常の現実が彼女の目に飛び込もうとしていた。
「だめえええ!!」
 エレノアは恐ろしい予感に思わず目を閉じる。
 しかし
「ま、間に合った〜……」
 目を開いて映った光景はエレノアが恐れて居たものではなく、大谷也 康之の両腕に受け止められた佳奈子の姿だった。
 パートナーを失うかもしれないという最悪を考えてしまった所為か、腰が抜けている所をそっと伸びてきた手が起こしてくれる。
「大丈夫ですよ、安心して」
 杜守 柚はエレノアに笑顔を見せながら手をひき戦いの喧騒から離れた位置へ連れて行くと、そのまま戦闘へと戻って行く。
 衝撃で気を失っている佳奈子を両腕に抱いて、康之がエレノアの隣へ横たえる。
「佳奈子、大丈夫!?」
 心配そうにのぞきこむエレノアの前に柔らかい光が流れ、佳奈子の肩口へエレノアの太股へと伸びて行く。
 結崎 綾耶の命のうねりが佳奈子を包み込み、傷はみるみるうちにふさがって行く。
「大丈夫か、敵はとったぜ?」
 倒せば霧消してしまう敵だ。血はついてはいないのだが、条件反射的に剣の血を振るそぶりをしながら匿名 某がやってくる。
「はい、もうすぐ動けるようになりますよ」
 某への返事はエレノアの顔を見ながら言ってやる。
「……ぅ」
 小さな呻きと共に目覚めたパートナーを見て、エレノアは安堵のため息を漏らす。
「良かった」
「え、エレノア? どうしたの私」
「……皆が助けてくれたのよ――」
 佳奈子に某達を紹介しようとして、エレノアは顔を真っ赤にする。
 少し遅れて同じく佳奈子も顔を赤くして背けてしまう。
 二人の視線の先には熱い視線で見つめ合う某と綾耶の姿があったのだ。
「おいおい。某もちみっこも人様の前でそんなイチャつくなよなぁ!」
 茶化すような康之の声に、綾耶は慌てて両手を横に振るがもはやそれは後の祭りだ。
「ちっ違います! これはただ」
「俺の虹のタリスマンに禁猟区をしてくれてただけで」
「あー言い訳はいいから」
「言い訳じゃないんですったら!」

 戦いが終わり、硝煙が残ったホールでサオリが海達を見上げながら口を開いた。
「助けるつもりがすっかり助けれちゃったですぅ」
「そんな事はない。助かった」
「それにしても困ったですぅ。宴会場の皆様は力を奪われているみたいですし、セイレーン達の攻撃も……。
 このままでは皆様の生命が危険ですぅ」
「そうだな、ジゼルを早く探し出そう」