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夢見月のアクアマリン

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夢見月のアクアマリン

リアクション

「数が多い!」
 倒しても倒してもきりが無い敵を前にしていた海達の耳に入ってきたのは神ですら慄くと言われるディーヴァの咆哮だった。
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の全身を掛けた声に、セイレーン達は霧消していく。
「目には目を。歌には歌を、と言ったところかな」
 海達に笑顔を向けると、リカインは再び歌を紡ぎだす。
 セイレーン達はディーヴァの歌に畏怖の念で恐れ慄き、歌う事を忘れて居る。
 彼女の歌の中で、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が放つ聖なる光が舞い踊る。
 戦いというよりは、何かの舞台でも見て居るような夢のような光景だ。
 彼等に奮い立たせられて剣を振るう内に、セイレーンがその場に具現化するスピードが遅くなっているのが分かった。
「割といい感じじゃないか!?」
「あとちょっとです、頑張りましょう!」
 某と柚の声に海は柄に込める力を一層強くする。
 前に現れたセイレーンを撃破しようと走り寄った時だった。
 さっきまで聞こえてこなかった銃声その場に響くと、今まさに倒そうとしていた敵が消え去った。
 某らの前でも月の様な光が淡く輝くと同じように敵が消え去って行く。
「大丈夫か!?」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)火村 加夜(ひむら・かや)そして東 朱鷺(あずま・とき)が駆けつけたのだ。



 それから後は事態が収束するまでそれ程の時間を要さなかった。
 大人数を相手に相手―というものがいるのかはともかく―の力が切れたのか、セイレーンの幻影は彼等の前に現れなくなったのだ。
「しかしここまで離されちゃうともうあの場所には戻れないか」
「下手にさっきの場所まで戻るとまた攻撃されるかもしれませんね」
 康之と綾耶が話している声は壁を叩きつける拳の音に遮られる。
「海君?」
 加夜達に事情を話していた柚は話すのをやめて海の顔を覗き込む。
 海の目は怒りで燃えて居た。
「あいつは……雅羅はジゼルに会えて良かったって言って……信じてたんだぞ!?
 それを、裏切るなんて!!」
「待って下さい、ジゼルちゃんにも何か理由が」
「どんな理由だろうと騙すような奴に協力なんてしたくなるか!」
 某の声が遮る。
「柚、某の言う通りではあるよ。
 だって今回の話し……確かに元々怪しすぎだよ」
「三月ちゃん!」
 三月に振り向く柚の間に加夜はさっと入ると、その場の空気を変える様に両手を胸の前で合わせた柔らかい姿でにっこりと笑った。
「少し、整理してみましょうか」
「俺は自分達だけが御馳走になるのは申し訳と思って外に出たんだ。
 こう見えても料理の腕には自信がある。
 食事の最中に席を立つのは礼儀に反する気もするが、調理場を借りて何か1つジゼルに御馳走してやりたいと思ったんだが、
 まさかあんなでかい魚にあうとは思わなかった」
 レンの和ませようとする話しに、海達の怒りの気持ちがそがれてしまう。
「ふふ。私もびっくりしました」
 加夜は笑うと、少し表情を固くして、続ける。
「ジゼルちゃんもさっきの幻影と同じ、セイレーンの一族と言う事なんでしょうか。
 それでその一族の為に力が必要だと……」
「こんな事をするのは何か理由があるはずだ」
 そう言う朱鷺の後ろからリカインが声をかける。 
「蒼空歌劇団で演技を磨く身としてジゼルの態度には引っかかるものが。
 おそらくは意図的に騙そう、陥れようとしているわけではない罪悪感……迷いが原因なのだろうけど」
「私、さっき聞こえました。
 力や魔力以外は何もしないかどうかって確認しててだからジゼルちゃんは悪い人じゃなくて」
「だがジゼルが俺達を騙して力を奪おうとしているのは確かだ」
 柚と海の話しに、加夜は二人の額を両手の人差し指でつっつく。
「今はね、ジゼルちゃんが本当に悪いのか、そうでないのかって話しても仕方ないと思うわ」
「迷いの原因は具体的な中身や理由が分からない限り改心させるのは難しいもの」
 リカインの言葉だ。
「それを本人に聞くしかないですね」
 加夜の締める言葉を聞いて、レンは頷いた。
「真実はまだハッキリとはしていないが今は動くことを優先すべきだ。
 足りない情報は足で稼ぐ。出口とジゼルを探し出そう」
「情報は私がテレパシーで共有出来る様にします」
 レティスが名乗りでると、レンは大きな声で皆を鼓舞した。
「今は行動あるのみだ!」