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リアクション
「絶望した! 私のステキすぎる方向感覚に絶望したっ!」
同じ頃。屋敷の廊下には綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の声が木霊していた。
「だから止しましょうよと言ったのに……」
呆れたような声で抗議するのはアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)、彼女の恋人だ。
パーティーに招かれて、豪華な食事に下鼓を打って……そこまでは良かったのだ。
ふと思った「この城の中ってどうなってるんだろう」という考えがまさか自分の死亡フラグになろうとはさゆみは夢にも思わなかったのだ。
心配顔の恋人に「大丈夫、大丈夫♪」と言いながら適当にに城の中を散策し、細かい装飾や珍しい調度品に感嘆の声を漏らし。
ひとしきり好奇心を満たした所で気付いたのだ。
綾原さゆみは方向音痴である。
という事実に。
好奇心は猫を殺すと言うが、今まさに自分は瀕死の猫で泣きそうな気分だ。
ジゼルからはホームパーティーだと言われたが、コスプレイヤー魂というかプライドもあってそれなりにドレスアップしていた。
城に付いた時は逆に相応しい格好をしてきた自分を褒めてやりたい気持ちだったが、今になってはそのドレスが足かせだ。
一刻も早くあの宴会場に、いや、自分の家に帰りたい。
歩き回って痛い脚を手でさすっているさゆみの腕をアデリーヌがそっと掴む。
彼女の表情は暗く、潤んだ瞳からは隠そうとしている不安が零れてしまっている。
「さゆみ、なんだか嫌な予感がしますわ。……私の杞憂で済めばいいのですけれど……」
「大丈夫よ。アデリーヌは心配性ね。」
作った顔はきちんと笑顔に見えて居るだろうか。
くたくたのさゆみには、悲しいくらいに余裕が無かった。
「取り敢えず行って無い所に進みましょう」
途中から気付いて無駄な足掻きでもとマッピングしていたHCを見ながら歩みを進める。
と、その時、彼女達の目に人影が飛び込んできた。
「やったああ」
「ひとですわ!!」
二人が駆け寄ったのは清泉 北都(いずみ・ほくと)だった。
「どうしたの?」
「あの、私達、出口を探してて……」
「そうかぁ……でも困ったな、僕もリオンの事を探してて適当に歩いてきたから
……会場に戻る道は良く分からないんだぁ」
「そ、そんなぁ……」
「あ、でもさっき人を見たよ。
給仕係の服を着てたらから、その人に聞けば分かるんじゃないかな?」
北都の言葉に、さゆみ達はぱっと顔を明るくさせると手を振る彼に会釈して給仕係がいたという方向へ走って行く。
彼の言う通り、その先には給仕係が歩いていた。
「さゆみ!」
「うん。きっとさっき聞いた宴会の給仕係の人ね」
二人は笑顔を合わせて給仕係を追い掛けて走り出す。
「あのー! 待ってくださーい!」
どうやら給仕係は厨房にでも向かう所らしい。逆の方からもやってきた同じ服のものと合流すると真っすぐ廊下を進み、一つの部屋に入って行った。
「ここに入りましたわ」
アデリーヌの声に、さゆみは勢いよく部屋の扉を開いて、次の瞬間目を見開いた。
「さゆみ? どうしたんですの?」
後ろからそっと近づいてきたアデリーヌは、同じく部屋の中を見て茫然と立ち尽くした。
給仕係の入った部屋は誰も、居ない。何も無いガランとした空室だったのだ。
「あ、あの人たちは……一体……」
「何処に消えたんですの?」
「そもそも元々”居た”のかな?」
思わず発した一言に、さゆみとアデリーヌは顔を見合わせて、そして抱き合って悲鳴を上げた。
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