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リアクション
第9章 アイデア術を考えてみようStory6
「ロア、あの者の術に協力するのか?」
グラキエスが提案したものとは違うが、協力してみるかどうするか、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が聞く。
「せっかく持ってきたのに、試せないままなのもつまらないな。グラキエス、どうする?」
「時と場合によるが、下級の魔性にまで痛みを与えるのは正直好まない。だが、効力を調節してくれるなら考える」
たいていの不可視の者は見ることが出来るようになったり、位置が分かったりするなら使い道はありそうだ。
魔法防御力を下げる効果を調節するのなら、考えなくもない…と言う。
「敵じゃなくって協力してくれる相手だし、ほんのすこーしつねる程度の感じならいいか?」
「あぁ、それくらいならな」
「と…いうことだ。分かったか、ロア」
「だったらこれを外せ」
スペルブックの使い方を教わろうにも、レヴィシュタールに奈落の鉄鎖で縛られているため集中しづらい。
両腕にまで鉄鎖が巻きついているため、本を持つことすら出来ないのだ。
「念のためと言うことがある。単なる保険だ」
「まるでペットね」
獣を鎖につないで散歩させているようにも見えてしまい、グラルダが嘆息する。
「まぁ…アンタが獣だろうとなかろうと、理解しようとする気があるなら、教えてあげるけど?」
口の端を持ち上げ、フンッと笑う。
彼に対して悪気はないのだが、学びたい気持ちがあるのか問うように、茶色の双眸で見つめる。
「教えてくれ!グラキエスと一緒に、術を試せるチャンスだしなっ」
気分を害する様子を見せず、興味津々に目を輝かせる。
「スペルブックには日本語ページもあるから、ちゃんとアタシの聞けば理解出来るはずよ。インデックスの代わりに、説明を含む目次のようなものが記されているわ。新たな章が増える度に、それも増えるのよ」
「なんで普通の目次じゃないんだ?」
「術を使う前に、それを読んで理解しろということ。章のページにある文章を見てみて」
「これを読めばいいのか?」
「というより、その内容に合わせて詠唱しなければいけない。記されている内容と、まったく異なるような言葉でなければ、ある程度は自由よ」
「チームじゃなくって、この章だけの効果を使うとしたら、持続する時間はどれくらいだ?」
「一定時間だけね、そんなに長く保てるわけじゃないわ」
「―……へぇー…」
「(ほう…、真剣に学んでいるようだな。だが、まだまだ安心は出来ない!ここでもめごとを起こそうものなら、訓練場の外に放り出されてしまうだろうからな!)」
ロアの真面目に学ぶ姿を眺めながらも、レヴィシュタールは奈落の鉄鎖を緩めようとしない。
「っていうか、鉄鎖を外せって!スペルブックを持てなきゃ、参加出来ないだろっ」
「ふむ、では腰にでも巻いておくか」
グラキエスに食いつかないように捕まえているが、本が使えない状態にさせておくのは可哀想かと思い、鉄鎖をロアの腰に巻きつける。
「ふぅ、これで自分で持ってきた本が読める!暗記しなくていいってところがいいな。―…よしっ、覚えたぞっ」
「じゃあ試してみるか。陣のほうもいけそうか?」
「いつでも大丈夫やっ」
ロアがグラルダに教えてもらっている間に、陣も歌菜に宝石の扱い方を聞き学んでいた。
「グラルダはやらないのか?」
石の上から立ち上がろうとしない彼女にグラキエスが聞く。
「今日は遠慮しておこうかしらね、アタシは次の機会に望みをかけるわ」
彼女は両腕を組み、彼らの術の結果を見届けようと見物することにした。
「詠唱ワードは一応考えておいたから、オレの後に続いて唱えてくれ」
そう言うと陣は、首から下げたペンダントに触れる。
「なんかアレだったら、ちっちゃーい声でもいいと思うよ♪」
「ちょ…リーズ!!」
「にゃはははっ♪」
「なんダ?オバカの匂いがぷんぷんするゾッ」
2人のコントをオバカ呼ばわりし、姿を消している魔性がケラケラと笑う。
「そんなオバカの相手をするキミたちも、同類の匂いがするよ。ボクは違うけどね♪」
「なんだトー、こノ…ホライゾーンバストッ」
「いなイ、いなイー」
「むぅうう!ビンタしてやるから出てきなよっ!!」
魔性の安っぽい挑発に、リーズは顔を真っ赤にしてぶちキレる。
「リーズ…、自分が挑発されてどうするんや」
囮という感じはしないが、引き付けてくれているようにも見えなくもない。
「(―…まっ、いっか。今のうちに術を試さんとな)」
陣は脳内から雑念を追い出し、精神を落ち着かせる。
「魔を貫く雫よ…魔の匂いと魔の真実を暴く元素を抱き、天へ駆け昇り…弾けて混ざれ!」
静かに言葉を紡ぎ始めたかと思うと、いっきに声音のボリュームを上げ、叫ぶように唱える。
エレメンタルケイジの中の宝石が輝き、飴色と黄緑色の2人の光が、ジュディとロアのスペルブックの中へ飛び込む。
裁きの章の中に、誰かが書き込んでいるかのように、唱えたその言葉が文字となって浮かび上がる。
“ロアの章にも文字が…。効力を受けた影響だろうか?”と、グラキエスは友人のスペルブックを覗き込む。
「グラキエス様、今は術に集中しましょう」
「そうだな…」
エルデネストの声に小さく頷き、宝石の力をロアやジュディに送ろうと、本への興味は心の中にしまいこみ集中する。
「混ざりし雲よ、我らに全てをさらけ出す豪雨を降らせよ!」
宝石の力を吸収した章から黒い霧が噴出し、それは空のない天井へ広がっていき、黒い雲へと変わる。
「ぱっと見ただけだと、怖い色にも思えるけど…。ただ相手をやっつけるため…とか、そんな感じがしないわね」
「祓魔術とは、単純に相手を倒せばいいってもんじゃない。それは歌菜だって分かっているはずだろ?」
怖さや恐ろしさを不思議と感じにくいのは、そういうことじゃないだろうか。
ペンダントをぎゅっと握る彼女に、羽純が笑顔を向ける。
「ホーリーソウルの畏怖だって、ただ怖がらせるためのものとは違うのよね…」
「相手と場合によりけりだけどな」
「うん…、そうなんだけどね。(姿を見せてもらうのは、傷つけたいからじゃない。どこかで悪さをしている子たちをとめたいからなの…)」
話し合って分かり合えるなら、自分の言葉を相手にも信じてもらえるようにしなきゃいけない。
その感情を祈りに込め、2人の術者に力を与えようと、宝石に祈りを込める。
「セット!レイン・オブ・ペネトレーション!」
生い茂る木々へ降り注ぐと、魔道具を持たないリーズでも薄っすらと雑草の中を駆ける魔性の姿を確認出来る。
「リーズ、見えるか?」
「うん!少しはね」
囮役をしようと挑発しょうとしたリーズは、逆に挑発されご機嫌斜めだったが、術が成功したと分かると笑顔になる。
「俺は術者だから、はっきり見えたっていうことか?」
リーズの言葉にロアは首を傾げる。
どうやらアイデア術に参加してない者には、見えにくいようだ。
特定の宝石の効力を扱える者以外が、視覚認識するためには術者として参加しなければいけないようだが、まったく見えないわけでもない。
「どこにいるか気配を察知出来るか?」
「ううん、それは無理かな」
「てことは…察知する効力は、オレらだけっていうことか」
「ロアやグラキエスにも魔性が見えたなら、術としては成功したのよね?それでよしとするべきよ」
想像していたものとは違うだろうが、不発の失敗ではないのだし、結果としてはマシなほうではと言い、グラルダは軽く睨むように視線を向ける。
授業という枠の中でしか魔道具を使ったことがないのだから、まだ理解していないこともあるだろう。
「そうやね。皆、協力してくれてありがとうな!」
自分のアイデア術に付き合ってくれたロアやグラキエス、歌菜たちに礼を言う。
「まー、なんか成功したみたいだな」
「あまり遠くのものはまだ探知しづらいが、近くにいるヤツならすぐ分かるな」
草むらの中からこちらを見ている黒い双眸の持ち主に、グラキエスがゆっくりと近づく。
「怪我はないか…?」
酸の雨をどれくらい受けてしまったか、小さなボディを見る。
「あァ、大丈夫ダッ。ある程度ハ、自己回復出来るしナッ」
「協力してくれてありがとうな…」
「授業としての実践じゃなくッテ、実際に戦うと書いテ、実戦並みにぶつけてないみたいだしナッ」
「いや…。たとえ授業としてでも、無闇に傷つけたくはないからな。ん…?だんだん見えなくなってきたな…」
「たぶん持続タイムが終わったんじゃないか?」
不思議そうに首を傾げる友人にロアが言う。
「効力がきれると、章の文字も消えるのか?」
グラキエスがロアのスペルブックを覗き込むと、新たに書き込まれていたものが、いつの間にか消えている。
「もう1度、術を使ったらまた文字が現れるのだろうか…」
「んー…そうかもな。ところで腹が…うわっ!?」
ぎゅるるる〜っと腹の音を響かせ、友人を噛もうとしたその時、レヴィシュタールが鉄鎖を引っ張る。
「なんだよっ、ヒトカミくらい、いいだろ!腹減ったぁああっ」
「こら、暴れるな!!」
大口を開けて迫ろうとするロアを、グラキエスから引き離そうとする。
「お疲れ様です、グラキエス様。紅茶をご用意いたしましたので、こちらにお座りください」
ちょうどよい大きさの石の上に座ってもらい、彼のために淹れたての紅茶の入ったカップを、エルデネストが彼に渡す。
「申し訳ありません。荷物が少々多くなってしまうため、このような席しかご用意できませんでした」
「いや、これで十分だ。ありがとう」
その気配りだけでも嬉しい、とグラキエスは小さくかぶりを振る。
「お茶菓子は、私が作ってきました。エンドの口に合うかどうかは分かりませんが…」
「―…うん、美味いな」
キープセイクに切り分けてもらったバームクーヘンをフォークでさし口へ運ぶ。
「お弁当も持ってきましたよ。夕飯前ですが、帰宅するのに時間がかかりますからね」
「これも美味しそうだ。じゃあ、ハムチーズのやつをもらうか」
蓋を開けると、サンドイッチが詰め込まれている。
「訓練場を汚さないためにも、おにぎりかサンドイッチか好ましいと思いましてね」
校舎の外に置いてある小型飛空艇アルバトロスに積んできたため、ちょっとしたおやつをいろいろと用意してあるようだ。
「いいな…。俺もなんか食いたい!食わせろっ」
「騒がなくても用意してありますよ」
グラキエスの友人といえど、彼を好き勝手にかじられては不愉快だ。
エルデネストはお茶を淹れてやりカップを渡す。
「むっ、お茶だけか」
「何かご不満でも?」
「別に!いっぱい飲んでやるっ」
お茶で腹を満たそうと、いっきに飲み飲み干した。
陣のほうもジュディが“ご褒美”として用意してくれた謎の饅頭を食すように勧められている。
「いらん、いらんっ」
「我が作ったものを無駄にする気か!リーズ、陣を捕まえるのじゃっ」
「おっけー任せて!ごめんねー、陣くん♪」
「や、やめろ…やめてくれー!―…ウボァーーーーーー!!!!!!」
ジェット機のように迫るリーズにあっけなく捕まり、彼女に無理やり大口を開けさせれ、饅頭を口の中に詰め込まれる。
「きゃぁあっ、陣さん口が真っ赤ですよ!」
歌菜と羽純も休憩しようと、フリーサービスで入口付近に置かれている、ベアトリーチェが作ったコーンスープをもらって戻ってくると、陣の口が真っ赤になっている。
超辛い饅頭に悲鳴を上げる陣を助けようと、歌菜は手にしているカップの中にあるスープを、全て彼の口に流し込む。
「んぐっ!?―…これだけじゃ無理ッ」
「仕方ないな、じゃあ俺のもやろう」
「うぅ…っ」
「わー、陣くんのお腹が大変なことになってるっ。にゃははは♪」
膨れ上がった腹を見て、リーズがケラケラと笑う。
「どっきり大成功じゃ!」
「それもう、どっきりじゃないし!途中でネタバレしてるし…げほっごほっ」
とっても残念なことに、今日はリーズだけでなく、ジュディに食べ物ネタでいじられてしまった。
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