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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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第8章 アイデア術を考えてみようStory5

「術か〜…。陣くんのお得意の厨ニ…何か思いつかない?」
「リーズ、何か言いかけたみたいやけど、オレの気のせい…やね」
 さっそくリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)にいじられ始めた七枷 陣(ななかせ・じん)は、魔道具の反応に影響が出ないように、ふぅ…と息をついて怒りを静める。
「うん、気のせい♪」
「エアロソウルを持ってないと、視覚認識が出来ない魔性もいるんやったな。それがなくっても、見えるコンボ技はどうや?」
「ボクみたいに魔道具を持ってなくても大丈夫なのかな?」
「この黄緑色の宝石とアークソウルの能力を合わせて、宝石を持たないヤツでもオレの周辺にいる不可視の魔性を、見たり気配を察知したり、ジュディの酸の雨で魔性自体を弱体化もさせるんや」
「―…ぇ、雨って…。陣くん、術名は?」
「見抜き通す雨、レイン・オブ・ペネトレーションやね」
「へっ…?天敵の雨を味方につけようっていうの?ずうずうしいっていうか、もうスイートブレインだね」
 ほぼ無能化することもある恐ろしい存在を、名前にまで使うなんて…と嘆息する。
「ちょ……、彼氏に向かってそこまで言うかっ。甘い脳ってどいうことや!」
「脳内が甘すぎるってこと。不満ならスイートマインドに変更してあげる」
「いや、ほぼ同じやないかっ」
「だったらせめて全世界の雨粒に土下座して謝ってよ♪」
 怒鳴る陣をからかうように言い、リーズは口元をニヤつかせる。
「雨どころか粒単位って…、何年かかると思ってるんやっ」
「さぁね〜?」
「無事に成功したら、我の手作りの饅頭でもやろう」
 褒美でもやれば陣も、もっとやる気を出すだろう…。
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)はリュックの中にある饅頭を取り出す。
「名づけてロシアン饅頭じゃ」
「陣くんのために作ってきたんだね?よかったね、休憩のおやつがないって騒ぐ心配もないよ♪あっ、ボクの分があったとしても、陣くんに全部あげるから」
 身の危険を察知したリーズは、全部陣に食べさせようと、わざとらしく言う。
「うむ、ありがたく食せよ。リーズはいらぬと言っておるから、全てやろう」
「それなんてもう、失敗しようが成功しようが、食べろと言ってる気がするんやけど!?」
「まさか…我が作ったものを食せぬというのかっ。ならば、その口に全て詰め込んでやるのじゃ」
 食べないというなら、今すぐにでも食わせてやろうと詰め寄る。
「いやいやいやいやいやっ!いらないなんて、言ってないやないかっ」
 実弾入りまで詰められてはたまらないと、顔中から冷や汗を流し、ぶんぶんとかぶりを振る。
「フフフッ。これは術が成功した後の褒美としてやろう。この中にしまっておくとするか…。陣、つまみ食いするでないぞ?」
「しないって!(つーか、いるとも言ってないんやけど!!)」
 何が入っているかなんて、恐ろしすぎて中身を聞く気にもなれない。
「中身は何?」
「(聞くなリーズ、聞くなぁああーーーっ!!)」
 彼女の言葉に陣が心の奥底から叫び声を上げた。
「もちろん当然……」
 ジュディはフッと笑いを漏らし、横目で陣を見る。
「毒かもしれないもの入りだ」
「(当然って…お、おまえ……)毒ってどいうことやっ!!!」
 親指を立ててドヤ顔する彼女に、心の中だけで叫ぶはずだった声が、口からズバッと吐き出した。
「ロシアン系といえば、当たり前じゃろう?」
「こーゆうものに当たり前とかナイから、毒っていう時点でありえないからっ」
「人体には無害じゃぞ?それに我は“かもしれない”と…言ったはずじゃ。ふぅ…しかたないのぅ、ヒントをやろう」
「(ヒントくれなくっても全力で逃げるしっ!)」
「“バングラデシュの唐辛子”じゃ」
「(うわぁああ、さらりと答え言ってるぅううーーーっ)」
「本当はオーストラリアの唐辛子にしようと思ったのじゃが、我のせめてもの慈悲として、触っても危険そうじゃからそれにしたんじゃ。どうじゃ、凄く優しいじゃろ?」
 せめてもの慈悲として、ジュディは優しい辛さの唐辛子に変更してくれたようだ。
「饅頭…怖っ!饅頭怖すぎ!!」
「話が術のことからだいぶ逸れてしまったようじゃのぅ。まったく、陣は喋り好きじゃなぁ」
 まるで彼のせいのように言い、軽く睨みつけて嘆息する。
「それたのはオレのせいやないしっ!―…って、2人じゃ足りないやないか。歌菜ちゃんも来てるはずやけどな…」
「噂をすれば…じゃな」
 一緒に組んでくれそうな相手を探し歩く遠野 歌菜(とおの・かな)の姿をジュディが見つける。
「歌菜ちゃんーーっ、オレらと組まない?」
「いいですよ!」
「もしかして4人だけか?」
 後1人足りないのでは?と月崎 羽純(つきざき・はすみ)が言う。
「そうなんや。術を試そうにも、人数が揃わないと不発やからな…」
「ボクがスカウトしてきてあげる♪」
 ライド・オブ・ヴァルキリーの翼を広げ、人材をゲットするべくターゲットに向かってかっ飛ぶ。
「弥十郎さんゲットー!」
 顔なじみなら頼みやすいかと、彼の腕を掴むが…。
「―……っ!?」
 なんと…リーズの方へ振り返ったその者は、まったく別人だった。
 突然背後から掴まれ、しかも名前まで間違えられた彼は、猫のように目を丸くする。
「(リーズ!!全然違う人、ゲットしてるしぃいーーーっ)」
「ぇえー?確かに弥十郎さんだと思ったんだけどなぁ…」
 弥十郎を捕獲しようとしたが、その傍を通り過ぎようとしたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)を捕まえてしまったようだ。
 その本人は…。
「せっかくアイデア術を考えてみたのに、術者が足りないなんてね。まさか先に組んじゃうなんて…」
 “弥十郎さん、こっちこっちー!”と呼ぶ陣の声に気づかず、ぼやきながらとぼとぼと歩き、彼らから離れていってしまった。
「用がないなら離してくれないか」
「ぁー…うん、ごめんね。―…そうだっ!」
「今度は何だ?」
「キミが持ってる魔道具って何?」
「ペンダントとアークソウルだが…」
「人手が足りなくって困ってるんだ。陣くんたちと組まない?」
 惜しくも友人を捕獲し損ねたものの、協力してくれないか誘う。
「すまないが俺は別の術を考えているんだ。そっちと意見が合うか分からないからな…」
「ぅーん…。他の人はもう組んじゃってるかもしれないし。この中の、誰かの提案に合わせるっていうのはどう?」
「これ以上探しても、人を集められるか分かりませんからね。とりあえず、ここは話を聞いてみてはどうでしょう、グラキエス様」
「俺の話も聞いてくれるなら考えるが…。それでいいか?」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の言葉に小さく頷き、リーズたちの方へ視線を向ける。
「ボクは皆がどんな術を考えてるか興味あるけどね♪陣くんはどう?」
「まぁー…、あれやね。チームでやるわけだし、他の人の話を聞いて効力の効き目とか、調節する必要もありそうやからな」
 提案するだけじゃなく他の考えも聞いてみるべきか…と指で頬を掻き、丸い石の上に座る。



 書記を務めようとロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)がノートを開くと…。
 グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が“その話し合いに、アタシも参加させてもらうわ!”と言い、キープセイクたちの傍へ寄る。
「と…いうことは、4つの意見の中から選ぶ…ということでしょうか?」
「なんかさ、提案数多くないか?」
「あはは…確かにそうですね。でも、いろんな話が聞けて面白いと思いますよ、ロアさん」
 眉を顰めて首を傾げるロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)に歌菜が言う。
「んじゃ俺から!前の授業の時はペンダントについて聞いてみたけどさ。やっぱ狩る方が好きだし、今日は本を持ってきたんだ。グラキエスのアークソウルと、裁きの章の能力組み合わせたら何ができっかな…。って、思ってさ……」
「それで、その先は…?―……ロア?」
 元気よく話してくれていた友人の声音が、だんだんと小さくなり、話の続きを聞こうと彼の顔を覗き込む。
「―……無理!グラキエス任せた!何か考えてくれ!」
 脳内でいろいろと思案してみたが、アイデアを纏められず友人に投げる。
「ぇっ、俺が考えるのか?…そうだな、例えば…俺が持っている宝石、アークソウルの探知能力と裁きの章の毒を合わせたら、探知した魔性の元へ毒を誘導し、毒の檻のように閉じ込められないだろうか?」
「誘導して、その後はどうするんだ?」
「毒に取り囲まれた状態で説得して、自ら離れてもらえば苦痛なく祓えそうだが」
「こっちにその気がなくても、魔性からしたら身の危険を感じるようなライブオアダイじゃないか」
 生きるか死ぬかの選択を迫るように聞こえなくもない、というふうにロアがツッコミを入れた。
「……脅迫だな」
 そう見えなくもないか、とグラキエスは声音のボリュームを下げて言う。
 端から見れば、逃げ場を失った者に悪事をやめさせ、改心させるというよりも、そう思えるだろう。
「ちょっといいかしら?」
 話の内容の中に疑問点を見つけたグラルダは、2人の会話の中に入る。
「何だ?グラルダ」
「酸の雨に、毒があるとは聞いてないわよ?アタシはスペルブックについての授業を受けたけど、酸の雨に毒が含まれているという説明はなかったわ」
「2時間目の授業は受けていないんだ…。もしかしたら…と思ってな。説得出来るなら、なるべく傷つけたくはないからな…」
「傷付けずに祓う方法を考えられるとは、グラキエス様はお優しい。苦痛なく祓われるなら、魔性も喜ぶでしょう」
 エルデネストは彼に賛同し、脅迫大いに結構という態度で言う。
「他の魔道具が揃えば、索敵や誘導範囲を広げたりとか…。いろいろ考えているんだ」
「それなら傷つく者や被害も少なくなりそうですね。どなたか、そういうものを扱える方がいらっしゃるとよいのですが」
 毒で囲むアイデアが通らなくても、それを扱う術者がいれば可能かもしれないと思い、リーズたちに顔を向ける。
「ボクは持ってないよ」
「私と羽純くんは、宝石を持って来ましたよ!」
「オレも宝石やね」
「我は裁きの章じゃな」
「同じくスペルブックを持ってきたわ。アタシもその章を使えるわ」
「グラキエス様がアークソウルを持っていて…、ドゥーエは裁きの章を使えるんですよね?」
 彼の提案してもらうだけでなく、それぞれどの魔道具を所持しているか把握する。
「スペルブックの授業には出てないから、誰か教えてくれればな」
「章を扱える者がいますから後で聞けば大丈夫でしょう」
「能力を合成できるとは、随分自由度の高い能力なんですね」
 ノートにグラキエスが考えた術を書き込みつつ、無理なこともあるが自由度は高いほうかと、キープセイクが呟く。
「んにー…いいなぁ、楽しそう。ボクに出来ることといったら囮になるか、陣くんをいじることくらいだよ」
「マジな時は、マジでいじるのやめてくれ…」
「へっ?分かってるよ♪(たぶんね、にゃはは♪)」
「ホントに分かってるのか?」
「話の途中ですみません。陣君の考えた術も聞きたいのですが…」
 カレカノのじゃれあい中に、キープセイクが遠慮がちに小さな声音で聞く。
「フラワシ以外の不可視の魔性を誰でも見たり、気配を察知したり、弱体化もさせる酸の雨やな」
「ふむふむ…。普段は見えない霊体も視覚認識することが出来るんでしたよね。ですが…弱体するといっても、相手の攻撃まで弱まるわけじゃありませんから、気をつけませんとね」
 さっそくノートに書き込み、なるほど…そういう考えもあるのかと思うものの、弱まるのは魔法防御力のみだから油断しないようにしましょう…と言う。
「攻撃力が弱体化するわけじゃないから、つっこんでくることもあるってことやね」
「ええ、その通りです」
「たいていの魔性は、人と会話が可能と考えれば、それを利用してくるんじゃないかしら?降参したフリをして襲ってくることもあるかもしれないわ」
「相手も悪知恵を働かせることもあるでしょうね、グラルダ君」
「弱らせたり…捕まえるだけじゃなく、説得する言葉も考えなければいけないな」
「それも重要な課題ですよね、エンド。そのためにも、皆と力を合わせた術が必要…ということですが。グラルダ君も何かアイデアがあるんでしたよね?」
「アタシも裁きの章の力を効果を維持して、物理的作用を別のものに変えるものを考えていたけど…。陣が言ったように、魔法防御力を下げる…というものだから、機械自体には影響がないのかしら?」
 酸の雨ならば器としている物まで影響するのかどうか、疑問に思ったグラルダが言う。
「ん〜…物理防御力まで下がるわけじゃないから、基本的には扱う者次第やね。なるべくそうならないようにってことで、章を使わなきゃいけなんやないか?」
 術の影響で、器まで傷んだりする危険は、ないんじゃないか?と説明する。
「で、器としている物を破壊させないうちに、弱らせて対処するってことやね」
「万が一にこともあるし、念には念を…って思ったのよね。この裁きの章でエアロソウルに働きかけ、エレメンタルケイジから機械の魔性を弱体化させる風を生み出せないか?と考えたの。効果を拡大させるために、哀切の章を使える人もほしいところね」
「まず宝石にそれっぽい元々の能力があるか…ってことやね。歌菜ちゃんたちはペンダントの授業に出たんだっけ?」
「はい!先生たちのお話や皆の質問もたくさん聞きましたよ。確かにエアロソウルに、風の魔力はありますね。でも今のところは、ホーリーソウルみたいに魔法攻撃が出来るっていうわけじゃないですし…」
「今はまだ風力は備わっていないから、風を生み出すのは難しいかもな。今後、どのような力を持つのかは不明だしな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は歌菜の言葉に続けて言い、説明をつけ加える。
「学び始めてから日が浅いし、断念するのも早いと思うけどさ。裁きの章と風っていうことは…、テンペストみたいなことになりそうだな」
 裁きの章は酸の雨を降らす効力を持っているのだから、ひょっとしたら暴風雨のようになるんじゃないか?と首を傾げる。
「そうね…。もし出来るようになれば、風で飛ばした後の衝撃のことも考えないといけないわ…」
 魔性を器ごと吹き飛ばしてしまったら、物理的に破損することもあるだろうと、グラルダは口元に片手を当てて想定してみる。
「グラルダ君の術は、今の段階では難しい…ってことですね。えっと…では、歌菜君たちの考えを聞かせてください」
「1時間目のペンダントの授業で、小鳥さんの精神ダメージを回復させたんです。常に回復の聖なる力を張り巡らせて、魔性を近づけさせないようにするっていうのはどうでしょう?エクソシストには、必要な防御術だと思うんですよ!」
 歌菜は癒しの効力を、守りの力に出来ないかと考えた。
「ペンダントを使う術者の精神力消耗の負担が、結構ありそうですね」
「効力を与える役割ですからね、多少は仕方ないかと…」
「それだと哀切の章になるかしら。ホーリーソウルに章の効力を送り込めば、なんとかなりそうじゃない?」
 チームを組んで行う術なのだから、退かせるような効力が当然必要だろうとグラルダが言う。
「グラルダさんこの中に、その章を持っている人はいないのよね?」
「エルデネストが手持ちの魔道具を確認していた時、それらしいものを持っている者はいなかったわ」
「うぅ…揃えば出来るかもしれないのに…切なすぎる」
「これから組む相手を見つけるのは難しいからな」
 めそめそしても今日は無理だな、というふうに言い、羽純は彼女の頭を撫でて慰める。
「誰とも組めないってわけでもないしな?」
「そ、そうよねっ。陣さん、よろしく♪」
「えっ、オレが考えたもんでいいわけ?」
「あぁ〜…、陣くんの厨二術になっちゃうなんて…。あ、言っちゃった♪」
 リーズはわざとらしく言い、てへっと笑う。
「うん、マジ黙ってくれない?」
 そろそろもみあげをぎゅむーって引っ張ってやろうか?と、彼女を軽く睨んだ。