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『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

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『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

リアクション



〜 episode8 最強ドラゴン! 〜

 ―― 空京警察特務刑事課 ――

「ばっかもん!」

 空京警察の特務刑事課では、いつもごとく課長のどなり声が響いていた。

「エリート刑事が殉職しただと!? その間何をしていたのだ、お前は!」

 先ほどと同じく、課長デスクでドラゴンを相手に血相を変えて怒っているのは、ドラゴンの上司の課長役のカールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)であった。
 彼は、事件が解決する様子が全くないことに焦りと憤りを覚えていた。胃薬がいくつあっても足りなかった。

「エリート刑事を撃った犯人も不明だわ、見つけたカテゴラスは別人だわ、事件はいつになったら解決するんだ!」
「ピヨ」
「だいたい、はみ出し刑事って……はみ出しすぎなんだよ、お前は!」
「ピヨ」

 かわいらしい声で答えたのは、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)とそのパートナーであるアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の操るジャイアントピヨだった。
 イコンである。
 はみ出してるってレベルじゃない。
 大きいので警察署には入れず、外から窓越しに話している状態だ。
 高円寺海も山葉聡も、色々と疲れたので引っ込んでしまった。これからは、ジャイアントピヨの時代だった。

「しばらく見ない間に、ずいぶんと大きくなったじゃないか、ドラゴン。それに……なんだか見ているうちに、卵やチキンが食べたくなってきたぞ」
「ピヨ」
「……まあいい、事件解決のために、もう一度動いてくれ。今度こそいい報告を期待しているぞ」
「ピヨ」

 課長はジャイアントピヨの風貌には全く動じた様子はなかった。大物というよりは、もはや開き直っている感じだった。

「ピヨ」
「ピヨ」
「ピヨ」

 ジャイアントピヨは、これまでのドラゴンとは違い見かけによらずまじめだった。さっそく地道な捜査を開始する。

「ピヨ」
 
 ジャイアントピヨがやってきたのは、町外れのバーだった。こういうところで情報集めするのが渋い刑事なのだ。

「あ〜、入っちゃだめだめ」
「ピヨ?」

 常連のドラゴンにいきなり出禁を食らわせてきたのは、行き着けのバーのマスターのオルカ・トランジエント(おるか・とらんじえんと)だった。

「悪いが今日は帰ってくれ。それから……、ドクターはすでに禁断の生命体を完成させたそうだぞ。いくらお前が図体が大きいからと言って油断しないほうがいい」

 邪険にしながらも、しっかりと情報を教えてくれるオルカ。ツンデレである。

「ピヨ……」

 やはり、もう直接製薬会社に乗り込んだほうがいいのだろうか……。ドラゴンが考えているときだった。

「ああ、やっぱりお兄ちゃん! このバーに来ると思っていたわ。やっと会えたわ。待っててよかった……」

 バーから一人の少女が出現する。ドラゴンの妹役のリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)であった。彼女は少しモジモジしていたが、ややあって意を決したように言う。

「私、お兄ちゃんと一緒にいたくて、故郷から追いかけてきたのよ。……早速だけど、私と勝負しなさい!」
「ピヨ?」
「私との勝負に負けたら、私のことお嫁さんにしてくれるって約束したわよね。そのために修行だってしてきたんだから!」
「ピヨ!」
「代わりといっては何だけど、もしお兄ちゃんが勝ったら、私も捜査の協力をしてあげるわ!」
「ピヨ」

 ドラゴンが戸惑っている間に、リーシャはいきなり襲い掛かってくる。愛を込めた、本気の攻撃だ。

「ピヨ」
「きゃああああっっ!」

 ドラゴンはカンフーの達人だ。妹相手に本気で戦うわけにも行かず手加減したつもりだったが、それでもリーシャは吹っ飛んだ。
 
「負けたわ……さすがお兄ちゃんね……」
 ほどなく、リーシャは苦笑とともに負けを認めた。満更残念な様子もなく、恥ずかしそうにやや頬を染めながら言う。

「約束よね。一緒に捜査に協力してあげる。わたしのこと……好きにしてくれていいのよ」
「ピヨ」
「さあ、行きましょう!」

 リーシャに腕を引かれ、ドラゴンはカテゴラス製薬の研究施設に向かうことになった。いよいよ本格的な捜査の始まりである。

「ピヨ」
 
 現場まではひとっとびだった。ドラゴンが研究施設に到着すると、侵入者を追い返すべくゾンビがわらわらわとやってくる。どういうわけなのか、猫耳だ。腐っているが微妙な感じ。

「ピヨ」

 ドラゴンはこれまでのドラゴンとは違った。生まれ変わったジャイアントピヨである。特に気にせずに猫耳のゾンビどもをあっさり倒すと、悪の首魁を捕らえるために中に入っていこうとする。
 ……入れなかった。

「大丈夫よ、お兄ちゃんはここで見張っていて。私がドクターを捕まえてきてあげるわ」
「ピヨ」
「心配ないわ。こう見えても私、腕には自信があるの。銃器の扱いだってかなりのものなんだから。……お兄ちゃんには負けちゃったけど」
「ピヨ……」

 妹は、危険な施設にひとりで入っていこうとしていた。心優しいドラゴンは、それを放って置くような真似は出来なかった。出来ればついていってあげたい。だが、この大きすぎる身体がそれを許さなかった。
 ジャイアントピヨは自分のふがいなさに怒りを覚えた。この身体が憎い……、せめてもっと小さければ……。
 名案が閃いた。代役を立てればいいのだ。
 映画上では、ジャイアントピヨの思いの強さに、新たな覚醒を遂げたドラゴンという設定だった。

「私は、ネオ・ドラゴン。実は、ドラゴンはエリートの恋人だったの! 私は、殉職したエリートの仇を討ちに来たんだからっ!」

 そんな役柄で強引に出演することになったのは、『アイドル刑事(デカ)・ラブ』ことラブ・リトル(らぶ・りとる)だった。
 恋人であるエリートの力になる為、単身製薬会社に乗り込もうとしていたラブだったが、彼女が調査を始める前に、エリートは殉職してしまったのだ。

「えっ! お兄ちゃんって、その正体は女の子でアイドルだったの?」

 リーシャはびっくりだ。しかもお兄ちゃんはかなり年下でちびっ子だった。

「そうよ、驚いた? しかも、私の愛している相手はエリートよ! 妹なんかに興味ないわ」

 えっへんと役柄に胸を張るラブに、リーシャはええっっ? と目を丸くする。はっと気を取り直して演技を続ける。

「そんな……嘘よね。お兄ちゃんは照れてそう言っているだけよね? あるいは、製薬会社に騙されているか変なお薬投与されているか、人体実験にされて頭がおかしくなっているだけよね。いいのよ、隠さなくても。私が助けてあげるからね。絶対取り返してあげるからね。お兄ちゃん、私と結婚してくれるって言ったもんね。私、毎日毎日ご飯作ってあげるからね。もっともっと頑張るから、いっぱいいっぱい食べてね。ずっと傍にいるからね。寝る時もお風呂に入る時もどこに行くにもついていくからね」
「ヤンデレ化しちゃったじゃない! ドラゴンの妹、怖っ!?」
「私のお兄ちゃんが、エリートのことを愛するなら私殺してやるわ。だってそんなお兄ちゃん私のお兄ちゃんじゃないもの。お兄ちゃんは私だけのものなんだもの。……はっ、う、嘘よ、お兄ちゃん。ごめんね、そんなつもりじゃなかったの。私がお兄ちゃんにそんなこと言うはずないじゃない。でももし違ったら……」
 
 リーシャは包丁をも持ってラブに迫る。瞳孔が開いて目の焦点が合っていない。

「ふ、ふんっ、そんな脅しみたいな台詞に惑わされないわ。私の好きなのはエリートなんだもん!」

 負けず嫌いなラブは、つい素が出て強情に突っ張る。

「お兄ちゃんのばかぁぁぁぁっっ!」

 思いつめすぎたリーシャは包丁を構えたまま突進してきた。ドスリと鈍い音がして刃が深々と突き刺さる。
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の心臓に。
 ラブのスタントマンとして、代わりに凶刃をその身に受けたのだ。ロボットの装甲を突き破る包丁らしかった。 

「ぐはぁっ!」

 とコアはうめく。
 だが、倒れたのは劇の主演のラブの方だった。そのまま演技は続く。
 
「……あたしは大丈夫だから、戦って……エリート」

 ラブは、なんかもう開き直って強引に続けるようだった。自分の欲しかったシーンを撮るために、出演予定のなかったコアまで巻き込みだ。
 力なく崩れ落ちたラブを抱きかかえるコア。刺されて痛いのか演技なのかわからないくらいに、おおおおおっっ、と慟哭する。
 ラブは最期に、優しく微笑みながら愛の別れを告げる。このシーンのハイライトだ。

「コア、私あなたのこと……それほど愛してなかったわ……さようなら……」

 そして、彼女の手からゆっくりと力が抜けていく……。
『アイドル刑事(デカ)・ラブ』は静かに天に召された。心に秘めた想いを告げた、おだやかで安らかな死に顔だった。

「ラ、ラブゥゥゥゥゥゥゥッッ!?」

 コアはもう一度本気で慟哭した。
 ラブの【ラブ・ソング】がBGMで流れ始める。CDが売れそうな歌だった。

「……なんだこれ?」

 映像を撮っていたマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)はしきりに首をひねる。もはや劇中で何が起こっているのか理解しがたかった。

「それはこっちの台詞だよ。ロボットが出ていた方が映像栄えしていただろう、いやほんと。もちろん娘さんたちも可愛いんだけどさ……」

 シーンには映らない場外で、三反田監督はコアとマグナをかわるがわる見つめる。
 
「……で、どっちが一号機でどっちが二号機?」



〜 CM 〜
「よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゅう商会の冒険者向け超強力ボディソープ【バニシュメル】の18時間、体臭ブロッキングパワあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアア!」
「がう(正直すまんかった)」

くちゅくちゅ……とルイの胸の筋肉が上下に震える。
 18HOUR!
BLOCKER!

「パパパッパッパ、パパゥアッー!」

 背後で画面が爆発した。

 == 陽竜商会 ==