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【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

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【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

リアクション

 5.――



     ◆

 屋敷内の三階。一番上と言う事で、此処がなければ後は下、と言う結論に行きつく訳だがしかし、だからこそ彼等は懸命にその階を探っている。
 正解とハズレ。
正解の前に罠がある事は当然としても、より正確に敵を無力化するのであれば、ハズレはハズレで罠がある。
正解以上に高火力の、言ってしまえば見境ない暴力が待っているのだ。探し物やら人との会話やら、やり取りやら駆け引きやらを全て台無しになる程の物がある。だからそうならない事を願い、彼女たちは自らの探し物をしていた。
「それにしても、やっぱりこの建物は大きいねぇ……全く見つかる気がしないや」
 苦笑を浮かべる託が近くにある部屋の扉に手を掛け、言いながらに扉を開く。中を覗きこむもそこに探し物の影はなく、何もない、随分と殺風景な部屋があるだけ。
「でも、他の階も確認していない扉もありますし、もしここがなかったとしても、まだ当てがなくなったわけではないですよ」
 真人も託同様に扉を開きながら言った。
「えー……なんかさっき見たときはかなり不気味な部屋ばっかりだったんだけど、あそこいくの……?」
 次々と扉を開けて部屋の中を確認している真人の後ろに隠れながら、セルファが嫌そうに言うと、彼女が突然に声を上げた。悲鳴のような声――。
「どうしましたセルファ!?」
 慌てて身構えた真人が振り返ると、セルファの背中を押したままの体勢の祐輝の姿が。
「や、其処まで驚かんでもええやろ……あはは」
「……貴方ねぇ……」
「こんのぉ……っ!」
 ため息をつきながら呆れ返る真人の言葉を遮り、悲鳴の後は怒りの咆哮を上げ、拳を思い切り祐輝の腹部目掛けてめり込ませるセルファ。
「ホントにビックリしちゃったでしょ!? 何やってるの!? もうっ!」
「……ちょ、痛い……」
「あ、あんたたち真面目に探してる? ってかちょっと遊んでないかな?」
 激痛に悶絶しながら床へと崩れていく祐輝と真人に取り押さえられているセルファの姿を見たパフュームが、扉から顔をだして尋ねた。どうやら彼女、部屋の中に入って細かく確認作業をしていたらしい。
「いやぁ、僕たちはちゃんと探しているよ? まあ少しふざけちゃったみたいだけど。彼」
「セルファ……! 少し落ち着きなさい…!」
「離しなさいよ! ビックリしたのもそうだけど、悲鳴あげてちょっと恥ずかしい思いさせられたのよ!? もう一発くらいぶん殴ってやらないと気が済まないわよ!」
「お……おおお……痛いし、ごっつい怖いわぁ……」
 さんざんな状況に頭を抱えてため息をつくパフューム。と、真人と託の雰囲気がそこで一変する。
「来たねぇ」
「その様です」
「え、ちょ……真人。気持ちは嬉しけど、そんな大袈裟にする必要はないんじゃ――」
「黙っていてください。あと別に、セルファが思ってる様な事はしませんよ」
 言い切って、二人はそこで向きを変えた。祐輝も、その行為そのものには別段驚きを浮かべず、ゆっくりと立ち上がる。
「え、何々?」
 パフュームとセルファが理解出来ずに辺りを見回すと、遠くの方から足音が聞こえてきた。一つではなく、二つでもなく、三つでも四つでもない。随分と賑やかな行軍の音。
「ちょっと……何でこんなに居るの……? あれ? 警備の人、いないんじゃ……」
 困惑するパフュームを前に、託が笑う。
「表だけで判断しちゃ駄目だよ。普通はどうかわからないけど、ウォウルさんたちを敵に回すのであれば、一側面で物は意味ない方がいいと思うんだ。そうだよねぇ?」
「ええ。話を聞いた時おかしいと思ったんです。何が一般の学生なもんですか」
 託の言葉に反応して苦笑する真人。
「ふーん。何や、そんなけったいなやつらなんかい? オレはまだ面識ないねんけども」
「んー……凄く達が悪いわね。此処でウォウルさんたちだったらいいんだけど、一番うれしくないのは………はぁぁぁ……やっぱりそう来たかぁ」
 深々と。本当に深々とため息をついて頭を抱えるセルファが、隣で首を傾げる祐輝とパフュームへと向けて続けて言う。指を指しながら。ため息をつきながら。
「彼女……ラナさんが一番アウトかも」
「え! 何それ!? だってあの子小さいよっ!? 全然余裕だって!」
「せやなぁ……あんま見た感じでは強そうやとは思えんねんけど……」
 廊下。足音の正体が彼等の前に現れる。小さな体に、独特な髪形を風に靡かせる彼女が、手に手に銃を握り、歩いてやってくる。
「戦ってみればわかるんじゃない? どうせ倒さなきゃ危ないんだし、やるだけはやってから逃げようよ」
「でも待って……真人。見間違えかな」
 と、セルファが武器を構えた途端、目を見開いて動きを止める。
「どうしました?」
「あれ。あの黒いの。あれって……」
「そうですよ。ドゥングさん。どうやら彼もハープの警護に来ているみたいですね」
「何……あの人も知ってるの?」
 パフュームの言葉に、三人はしっかりと声を揃えて言い切った。もう笑うしかないのか、本当にどうでもよさそうにしながら声を揃えて、きっぱりと言い切る。
「化け物」
「って人外かいっ! せやったら敵う訳あらへんやん!」
「大丈夫ですよ。彼ね、あちらにはついてますが、それもどうだか」
 ふと何かに気付いたらしい。真人が笑う。
「ねえ、あんた何か凄く悪い事考えてない?」
「僕は悪い事なんて考えませんよ、失礼だな」
「僕も真人くんが何を考えてるのか、なんとなくわかったかな」
「ちょっと! 勝手に話進めないでよ! あたし全然把握できないんですけど!」
 セルファ、真人、託の交わす言葉に割って入るパフューム。声を荒げてはみたが、託と真人はただ「まあ見ててくださいよ」とだけ言って、一歩前に足を進めた。
タイミング良くその場に到着した、彼女たちに対峙して。
「あら。いらっしゃいませ皆様」
「こんばんは。ラナさん」
「どうも。あら……託さん、貴方裏切ったんですわね。ふふふ、まあ、良いですけど」
「そうだねぇ。だってほら、困ってたし」
「そうですか。相変わらずお優しいんですね。と、御挨拶が遅れましたわね。私、この屋敷に住んでいるラナロックと申しますの。そこのお兄さんと御嬢さん。初めまして、御機嫌よう」
「………」
「ようよう! ご苦労さん! せやけど残念やね、あんたが大事にしとるもん、今日はきっちり貰いに来たで」
「ふふふふ。そうですか。それは困りましたわね。ところで御嬢さん? 今日はハープを取りに来ましたの?」
「……そうだよ」
「その情報は何処から仕入れたんでしょうかねぇ」
 にっこりと笑い、顔を傾けるラナロック。