天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

リアクション公開中!

【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

リアクション

     ◆

 ばらばらに動いているその中にあって、もしもある一点でその線が交差するとすれば。
それは本来ならば交差しながらも再び進行方向を変える事無く進む必要があるのだろう。がしかし、事態がそれを許さないとするのであれば、それは必ずしもそうである必要はない。
 トレーネとパフューム。
バラバラに、それこそ役割分担をこなし、陽動であり探索である彼女たちが此処で交差するのであれば、現状に置いてそれは、共に動き、目前の敵を打ち砕く と言う選択肢になるのだろう。
「トレーネ姉! みんな!」
「あら! パフューム! それにみなさん」
 出会いがしらで言えば、それはまあ決まり文句の様なものだった。
「大丈夫ですか? 皆さん」
「そっちこそ。って、言うか。みんなさ。確かに前後の事がわからないのは仕方ないけど、僕は味方になったんだよ。そんなに敵意むき出しにしないでくれると嬉しいなぁ」
 合流した中、先程まで敵として対峙していた託が居る、と言う事に驚きと警戒を持っているトレーネ達に、託は苦笑しながらそんな事を言った。
「……どうでも良いけどさ。それは本当にどうでも良いんだけど、何やってるのさ? 陽動で動いてる筈のお前たちが此処にいたら、私たちも動きが制約されるはずなんだけど」
 透乃の発言は尤もではある。が、今まで会った事をパフュームたちに聞けば、トレーネ達探索班も納得しないわけにはいかない。
「と、いう事は。一先ず共闘戦線を張るとしましょうかしらね」
「ほんと、困っちゃうよね。トレーネ姉も皆も、少しだけ協力して! あとね、なんとなくだけど場所の目星はついたかもしれない」
「と、言いますと?」
「上に行ったんだけど、それで何個か見つかったんだけど、多分それ、偽物じゃないかって」
「偽物、ですか。何故それを?」
「一見すれば誰もが間違えそうな出来なんだけどね、微妙に違うの。全部が全部違うんだよね……飾りの位置が違ったり、ペダルが微妙に違ったり。まるでわざと、それが偽物だってわかる様なつくりでさ」
「それで、それを僕たちが考えた結果。もしかしたらウォウルさんはそれを『ワザと』偽物として配置してるんじゃないか、という結論になった訳です」
「それで、残るはこの階――地下って訳、ですわね」
「うん。だからもう、後は力押しで言っちゃおうかな、とか考えてたら、丁度トレーネ姉に会ったってわけなんだよね」
「なるほど」
 合点がいった、とトレーネ達が頷いた、そのタイミングで。

「よぉ…! ここら辺に居るってラナロックから聞いてきたんだが、人数増えてやがんな」
 声がした。男の声。一同がふと見ると、其処にはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)の姿。
「もう……漸く逃げられたと思ったのに……って言うかこの屋敷、一体何人警備の人がいるのよー!」
「ほらほらパフューム。そんなに叫ぶんじゃありませんわよ? もう堂々と歩き回っていますけれど、一応私達、盗みに来てるんですから」
 半泣きになりながら地面に座り込むパフュームと、状況を聞いていただけにもう苦笑しか出ないトレーネ。彼女たちに味方している面々は、真剣な顔で武器を構え、それぞれが臨戦態勢を取り始める。すると更にそこに、何やら音楽が流れ始めた。彼等がこの屋敷内に入ってからずっと聞こえているハープの音色ではない、また違った音色のそれ。
辺りを見回し警戒する一同は、しかし今自分たちの前に現れたアキュートの後ろに何かを見た。音楽を聞き、心当たりがあるのか頭を抱えるアキュートの後ろ、一同はそれをみつめる。
 (主に)緑色に光り輝く方から、徐々に音が近付いてくると、突然にそれは、音楽と共に流れてくる。何とも愛らしい、音声拡張期を経由した音声。


 意外と お目目 パッチリー
 ウインクしても わからなーい
 グラスの中の お酒もー
 ヒレで持てずに 飲―めなーい

 すーてきー なー声ー
 出ーしてー 叫ぶマンボー

 こーらえー てーてもー
 やっぱり 体がー 光ーるよー

 見ーつめる マンボー
 メールヘン ダンディ
 みーどり色(?)に 光ーぁるー

 あーやしく マンボ―
 ヒーレ振り ダンシン
 つーき明かり浴びてー 浮かっぶぅー

 イッツ シャイニング フィィィッシュ!
                    』

 軽快な音と共に姿を現したのは、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)。彼は全身全霊でもって光を放ち、地下であり、暗闇であると言うのにまばゆい光を辺りに放っている。その近くで――何故かフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の肩を借りながら――と言うか寧ろ彼女の肩に乗りながら今の歌を熱唱しているペト・ペト(ぺと・ぺと)。当然、その光景を見ていた一同は思わず動きを止めていた。
「あ、えっとあの……何で私、こんな恥ずかしいポジションにいるですか? ……あれぇ?」
「恥ずかしくはないのです! ペトと一緒に大活躍なのです!」
「大活躍……してる感じじゃないんですけどぉ……ううぅ……恥ずかしいよぅ……」
「ペトの歌声にまた新たな感動が生まれたですか! それは良かった、ペトはそう思うのです」
 顔が、それこそ火が出そうな勢いで赤くなるフレンディスと、大層満足げな表情で誰かに手を振るペト。
「時にペトよ――」
 何処からともなく良い声が響き渡ったのは、現在もなお発光を続けているウーマ。無駄に良い声が辺りに響き渡り、彼の存在を知らない数名が思わず肩を竦めるほどだ。
「それがしはいつまでこうして光っていればいいのか……」
「ずっとです」
「あ、ペトさん今凄くさらっと酷い事言いましたね」
 フレンディスにツッコまれながらも、しかしペトは気にする事無くフレンディスの髪を引っ張ってアキュートのところへと向かわせる。
「すまねぇなあ、姉ちゃん。どうにもあんたと波長があったみたいでよ」
「い、いえ(怖い……)大丈夫ですよ。あの……私も、その……楽しかった? ですし?」
「感動していただけました」
「おう。そっか良かったな。でもなペト。多分この姉ちゃんは感動はしてないと思うぞ?」
 アキュートのフォローに目一杯首を縦に振るフレンディス。が、やっぱりペトは見向きもしなかったのでわからない。

「さてと。んじゃあ余興は此処までとして――」
 空気を変えようと、ペトを近くの安全そうな部屋へと連れて行ったアキュートが、呆然としながら一連のやり取りを見ていたトレーネ、パフュームたちに声を掛ける。が、
「アキュート、それが――」
「うるせぇな、じゃあもう光らなくていいよお前ちょっと黙ってろ」
「……心得た。うむ、しかし最近それがしおもうが、アキュートよ。そなたちょっとそれがしの扱いがひどくなってきていると思うのだが」
「気の所為だろう。俺のパートナーはお前だけなんだから、安心しろ」
「そ、そうか! それは安堵したぞ!」
「オーケー。わかった、わかったからもう光らなくていいぞ」
 やれやれ、と頭を一層抱え、アキュートはがっくりとうなだれた。
「それではそろそろ、本題を始めるとしようか」
 不意にアキュートの隣から現れたのはレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)その人。
「おいちょっと待てお前。今オッサンが頑張って話進めようとしてたじゃねぇか。お前さらっと美味しいとこだけ持ってくのな!」
「おいおいおい! 誰がオッサンだよ!」
「ふん。美味しいなどとは思っておらんぞ。彼はちょっと今頑張りすぎたからな。疲れが見え隠れしていたので私が代わりに頑張ってみようかなと思っただけさ。他に他意はない」
 毅然と答えるレティシアに突っ込みを入れたのはベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だ。
「マスター、それはそうと、私たちは彼女たちの妨害をすればいいのですかっ!」
「え、何今更!? 此処まで来て今更それ聞くのか!?」
「煩いぞベルク。貴様少しは時間帯を考えてだな――」
「おう。とりあえずこの件始まると長いから、此処通りたきゃあ俺たちを倒してけ、ってこった」
 後ろで何やらベルクとレティシアが言い合いをしているのを割り込む形で、アキュートとフレンディスが呆然としている彼女たちに言う。
「えっと……何。結局この人たちを倒さないと先に進めない。って、今行ってたけど……って、ええええ!?」
 パフュームが整理をする為に独り言を呟いていると、何に気付いたのか大声を上げる。
「どうしましたの? パフューム」
「だって今、後ろからあのちょーこわいお姉さんたちが追いかけて来てるんだよ!?」
「ちょーこわい、お姉さん?」
「ああ、ラナさんたちね」
 果てと首を傾げるトレーネに、託が笑い名がら捕捉を入れる。
「多分今此処で挟み撃ちされるとまずいと思うんだけどね。って言うか、挟まれると多分勝ち目ないと思うから」
 さらっと笑顔で言う託に、真人とセルファ以外は大慌てになって武器を取る。
「此処は強行突破で行きますわよ!」
「トレーネ姉! 後ろ!」
 今度は何! とでも言いたげに後ろを振り返る彼女。そこには、壁から何とも爽やかアン笑みを浮かべて登場してきたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の姿が。
「久しぶりな、君たち。いやいや、泥棒がどうの、という話を聞いてきたのだが、君たちも気をつけるんだぞ」
「え、ああ。いや、その」
「うん? どうした? おっと、そう言えば、何故君たちはラナロックさんの家に居るんだ? 君たちも呼ばれ――」
 コア。どうやら彼女たちがその泥棒である事に気付かなかったらしい。忠告しながら再び壁へと潜り込もうとした時である。
「こらぁ! コア! あなたねぇ! 壁抜けの術使って勝手に見回るのは良いけど、後追いかけるあたしたちの身にもなってよねっ!」
 コアのパートナーであるラブ・リトル(らぶ・りとる)馬 超(ば・ちょう)が漸く。と言った様子で走ってきた。
「ああ、これはすまんな」
「すまんな、じゃないわよ! 全く」
「おう、久しぶりだな。でっかいの。お前さん、相変らずロボットしてんだな」
 アキュートの不思議な声掛けに、コアが思わず笑って返事を返した。
「今日もではないぞ。そんな事を言ったらいつもそうだ、はっはっは」
「……ん。確かにそうだな。ああ、そうだ。言っとくけどな、泥棒こいつらだぜ?」
「何?」
 笑っていたコアが停止する。
「何だって!?」
 数拍遅れてのリアクション。
「いやいや、だから。こいつらが犯人だって」
「なんだと!? うむ……そうか。これは困った。が、犯罪をみすみす見逃す事など出来るか!」
 壁抜けの術の途中であったコアが再び壁から離れ、トレーネとパフュームの前に立ちはだかる。
「ちょっと不味いですわね……流石にこの人数は……」
「トレーネ姉。逃げるしかないと思うんだけど……」
「同感ですよ……」
「ぎゃははははは! 敵の数が半端なさすぎるぎゃ!」
 一同が散開をしようと散り散りに走り始める。が――そこで。
「おいハーティオン。来るぞ――」
「誰がだ。馬超よ」
「ラナロックだ」
 軽快な音――。故に全員が物陰に姿を隠した。アキュート、フレンディス、ラブ、馬超がコアの背後に隠れる。彼の体に銃弾が辺り、何ともこぎれの良い音が辺りに響いた。
「大丈夫か、みんな!」
「ああ! マスター! レティシアさん! 危ないですよ!」
 コアの背後に回ったは良いが、しかし回避行動をとらずに口喧嘩をしているベルクとレティシアにフレンディスが慌てて声を掛ける。
数発の銃弾が二人の元に向かって行った時、二人はそれを喧嘩しながら叩き落としたのだ。
「え――」
「いや。嘘でしょ。だってめっちゃ喧嘩――」
「誰だ! こんな無粋な事をしてきたのは!」
「他人ん家の中で銃を打ってんじゃねぇよ!」
「突っ込むところそっち!?」
「あ、ごめんなさい。泥棒さん達かと思って」
 ラブのツッコミと同じタイミングで、走ってきたラナロックが苦笑しながら声を掛けた。
「パフューム。今の内にばらけますわよ。機会をうかがって、各自シェリエ達と合流し、この先のハープが保管されてる部屋へ!」
「わかった!」
 完全にバラバラに散開する形でもって、何とかその場を離脱するトレーネ、パフュームと彼女たちに協力するコントラクターたち。
「やっべ……俺も逃げなきゃいけねぇよなぁ……」
 一人。なかなか物陰に隠れる事の出来ないドゥングがおろおろしながら逃げようとしていた矢先。進行方向の先から何かが――かれに向かってやってくる。
「ん? なんだありゃ――」
 何かが擦れる音――。
「おい、リーラ! とりあえず落ち着け! 今はそんな事をやってる暇――」
「煩いはねぇ! 折角このあはひが酒の誘いをしへふってるのに、何ひょ!」
 ふらりふらりと頭を振り、ゆっくりゆっくり廊下の向かうからドゥングを見つけてやってきたのは、もう色々とできあがちゃってるリーラと。そして彼女を懸命に止めようとしている真司の姿。彼は必死にリーラの腕を持ってとどめようとするが、しかし一升瓶を振り回しているので、すぐさま離れなければ危ないのだ。
「おいドゥング! 逃げろ! 危ないぞ!」
「誰ふぁあぶらいろよぉ! ……ヒック! くしょー…… こんらにかわいーおれーさんからの誘いを袖にひらがっれぇ!」
「ちょいちょいちょい! 今それどころじゃねぇんだってのよ! おい嬢ちゃん! っとあぶねぇ!」
 ドゥングの顔面に向けて振り回される酒瓶。
「ったくぅ! ほら! 行くわろ! あっひれ飲むろっ!」
「いやいや! あぶねってんだよ!」
「おい猫。お前何やってる……」
「……あっちゃ、もっと性質悪いのが来た」
 酒瓶で頭を引っ叩かれながら、後ろからした声の方へと目をやるドゥング。無論、近くにいた真司もそちらを向いた。
「おい、兄ちゃん。逃げるぞ」
「……俺は逃げる必要、ないんじゃないのか?」
「いや、多分八つ当たりが来るから兄ちゃんも一緒に逃げた方がいい」
 そう言うと、近くにいたリーラを担ぎあげ、ドゥングが走り出した。
「何でだよ! 俺何もしてないぞ!」
「そう言うの、あいつが意味ねぇっての、しってんだろ!」
「ああ! もう! わかったよ。付き合う。付き合ってやるよ。ったく。リーラ、後でお前何か奢れよ……こんな厄介事ばっかだな」
「るふふ、あい。奢ってあれる」
「返事すんな、下噛むぞ」
 二人は全力疾走でもって逃げるのだ。忘れてはいけない事としては、真司とリーラは逃げる必要がない、と言うところにある。