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学園に潜む闇

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学園に潜む闇

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第三章

「気になる情報があったら、どんどん教えてくれ」
 夜遅く、学校から少し離れた場所で、フェンリルを中心に調査メンバーたちが情報交換のため集結していた。
「一番妙なのは、ここ最近動きがないということだろうな。教員、生徒、話を聞くが、この2週間ほど失踪もなければ新たな噂も聞こえてこない。もっとも、高等科に不良に屋上から突き落とされたロリコン教師が入った、という噂は聞いたがな」
 顕景が薄く笑う。
「目立たないように動くつもりだったんだがな」
 鉄心が苦笑いで答えた。
「2週間ほど前、って言ったわよね? ちょうどあたしとセレアナが転入した時期なのよ。ルカルカに話を聞くまで、各校が動いてんのも知らなかったのよねー」
 セレンフィリティが口を開く。
「私たちは、失踪事件そのものを知らなかったからね。でも、いざ知った上でクラスメイトに話を聞いてみると、いくらでもその手の話がでてきたの」
 セレアナが冷静に補完する。
「転校生が多いとは言え、流石に行方不明者が出ていて、学園側が動かないのはおかしいですね。学園側は行方不明者が出たのなら何らかの対応をしなければなりません。ましてや多数出ているのであれば学園が普通に続けれるとは思いません。その上、転入してきた二人には事件すら気取らせなかった……。保護者への説明などを考えればゲオルクは学園関係者、又は行方不明に何らかの理由を捏造できる立場に居る人間でしょうか?」
 真人が疑問を口にする。
「あと〜、人を浚ってるのに目撃情報が曖昧ですものぉ。多分、鬼を使っても短時間で隠れれる拠点が近いんだわ〜」
「それから、四つ辻に鬼が出る、だったな」
 ルーツが補足する。
「つまり、ゲオルクは学園と関わりが深い位置にいて、しかも、限りなく学園に近い場所を拠点にしている可能性が高いわけね」
 セレアナが呟いた。 
「でも、なんか目的があって生徒たちをさらってるわけでしょ? それならそろそろまた動き始めるんじゃないの?」
「確かに、そろそろ焦れてくるころかもしれませんね。もしお二人が契約者だということで警戒していたなら、今これだけの転入生が来た時点でその意識はなくなっているかもしれません」
 セレンフィリティの指摘に真人も頷く。
「吹奏楽部に特に多く失踪者が出た、というのは遅くまで熱心に練習を頑張っていた結果、帰りが遅くなったのが仇となった……とも考えられないか? 吹奏楽部は寮生がほとんどだからな。学校から寮までの登下校ルートで、仕掛けてみるか?」
「いけるか?」
「ああ。ティーとイコナに頑張ってもらう。フォローは俺一人で大丈夫だとは思うが、向こうが勢いづいて一気に来ると厄介だな」
「俺も動く。皆も状況次第でどんどん動いてほしい」
 フェンリルの言葉に一同が頷く。
「各校に追加応援を要請しておこう」
 ルーツも早速各校への根回しを開始する。
 再び集合する日程を決めると、解散した。

 翌日から鉄心たちは早速動き始めた。
 学校から寮までの道でもっとも暗い場所を見つけると、部活の練習で遅くなったイコナが一人、リコーダーを吹きながら歩く。
 草むらからガサガサっと音がしたかと思うと、大きな鬼が5体飛び出し、イコナを囲む。
「なっ、なんですのっ!?」
 鬼たちはイコナの身体を抱え上げると、走り始める。
 隠密行動を取る鉄心とベルフラマントで気配を消したティーがその後を追うが、鬼たちは突然ピタリと動きを止めると、イコナに何か粉のようなものを振りかけた。
 かくん、とイコナの首が倒れる。
「鉄心……」
「ああ、今日はここまでだな」
 ティーの声に、鉄心は飛び出すと、死角からの素早い蹴りで鬼たちを驚かせ、意識のないイコナを奪い返す。
 鬼たちは反撃せず、散り散りに逃げ去っていく。
「違う方向に逃げたか……」
 鉄心が忌々しそうに呟く。
「イコナちゃん!!」
 イコナの身体を下ろすと、ティーが駆け寄ってくる。
「眠っているだけだ。恐らく睡眠薬の一種だろう」
「そう……ですか」
 ティーがほっとしたように呟いた。
「とにかくすぐにフェンリルたちに報告して、いったん戻ろう」
「はい」
 
 翌日。昼間の授業中にも関わらず、突然鬼が集団でセレンフィリティたちの教室に突撃してきた。
「ベアトリーチェ!!」
 明るく振舞いながらも、絶えずディエクトビルを使用していた美羽が、いち早く異変に気づく。
「まさかこんな昼間に動くなんて……」
 驚いたように呟きながらも、ベアトリーチェは素早くディエクトビルを発動する。
 鬼たちの姿に、教室中から悲鳴が上がる。
 契約者として転入しているメンバーが前線に、一般生徒のフリをしているメンバーは生徒たちを護る位置へと、自然に移動した。
「えええいっ!!」
 生徒に襲い掛かろうとした鬼にバーストダッシュで突撃すると、美羽はそのままの鋭い蹴りから真空波を放つ。
 テコンドーやカポエラで鍛えた美羽の足技は、それ単体でも十分な効果を持つ。
 そこへ真空波を放ったのだ。
 蹴られた鬼は、廊下まで吹っ飛んだ。
 ベアトリーチェも手から光の魔法を放ち、鬼たちに攻撃していく。
 あまりにも見事な二人の技に、戦闘中にも関わらず、教室から歓声が上がった。
「あんだけ蹴り上げて、中見えないとかどーゆーこと!?」
 目の前の鬼をフルボッコにしながら、美羽の蹴りを見たセレンフィリティが叫ぶ。
「ちょっと、力抜けるからやめてよ。ちゃんと集中してあげて。惰性でボコボコにされてて、その鬼かわいそうだわ」
 冷静に鬼の急所を突く攻撃を繰り出しながら、セレアナがぼやく。
「美羽さんの、鉄壁のスカートです」
 飛び上がりながら魔法を放ちつつ、ベアトリーチェが説明する。
「へー。便利なもんがあんのねー」
 表立った攻撃はできないものの、そ知らぬ顔で真人は召喚獣を召喚すると、生徒たちを護衛しつつ、鬼に攻撃を加えていった。
「というか、もう隠す必要もない気がしてきましたね。クラスメイトにこれ以上嘘をつくのも気が引けますし……」
 状況から冷静に判断を下すと、真人自身も歴戦の魔術やサンダーブラストで応戦を始める。 
「美羽さん、いきますよ!」
「うん!」
 ベアトリーチェは美羽に合図をするなり、手から魔法を放ち、最後の1体となった鬼を美羽に向かってふっとばす。
「いっけええええええ!!」
 ちょうど正面に来た瞬間、美羽は華麗な足技で、その鬼を蹴り飛ばした。
 教室中から歓声が上がった。
「……ウサギ……?」 
 一人そんな教室から出て、逃げ遅れた鬼の一体を観察していたルカルカは、鬼が小さなウサギの姿に変わったのを見ると、抱え上げ保健室へと向かう。

 保健室の中からは、女子生徒たちの黄色い声が響いていた。
「で、どこが悪いんだ? 怪我か? 体調不良か? 順番に見るぞ」
「違いますよ〜。先生を見にきたの。ね〜」
「俺を見に来たのか。なら紅茶とクッキーでも出そうか」
「きゃー! 本当ですかぁ?」
 保健室とは思えない盛り上がりっぷりに、ドアの外でルカルカは一瞬足を止める。
「先生って、付き合ってる人とかいるんですかぁ?」
「俺か? 君にいるかどうかも気になるところだが」
 喉の奥で笑いながら呟いたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に、女子生徒たちから悲鳴が上がる。
(たらしの才能ありだよ……)
 ルカルカは苦笑すると、ドアを開ける。
「エクスキューズミー。ウサギを休ませたいので、ベット借りますね」
「ウサギ……? かまわないが」
 訝しげに聞き返すも、後で状況を確認しようとダリルは再び女子生徒からの情報収集に戻った。

 そんな中、追加要請を請けた各校は、さらに契約者の派遣を進めていた。
「私はこの外見でから、潜入はむりですし……今回はお二人に任せますよ。留守番でもしてます。お二人は、他の方々が問題なく任務を遂行できるように一般人として生徒達をガードしてきてください。お二人ならできますよ」
「それは別に構わないけど、なんであたしが中学生よ? あたし、いちおう20歳よ?」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の言葉に、中等科に転入手続きを取られた緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が不満げにぼやく。
「見た目は……まあ、確かに身長低いし童顔かもしれないけどさあ……まあ……そうね……うん」
 ぼやいているうちになんとなく自分で納得してしまう。
「ククク……たまには……こんなのも……楽しい……です……ね」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は初等科への転入だ。

「それじゃいきましょ、ヴァディーシャ」
 天御柱学院普通科との技術交流のための臨時教員という名目で手続きを取ったイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)ヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)に声をかける。
「日本にいくですね! ママ!」
「……ついてくるのはいいけど、学校じゃ『ママ』はダメよ? ちゃんと『先生』って呼ぶこと。特別扱いはしないからね」
「わかったです。先生ですね、ママ!
「今から練習しておきましょうか。これから学校に行って、帰ってくるまでは絶対にママって呼んじゃ駄目よ?」
「大丈夫ですマ……先生!」
「はいはい」

「なぁ、吹奏楽部入らないか?」
 教育実習生として潜入していたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は現代文を担当することにより、初等科から高等科まで違和感なく出入りできるようになっていた。
 根っからの面倒見の良さから、泣きついてきた吹奏楽部部長の頼みを断れず、部員探しを買って出たのだ。
 本来高校生のみで編成していないと大会に出られないが、「そんなこと言ってる場合ではないですね」というヘンデルの一言により、幅広い学年から部員を探していた。
 だが、大概「怖い」という理由で断られてしまうのだった。
「やっぱ、被害者が一番多いってのが響いてるよなぁ」
 ぼやきつつ初等科の教室に入る。
「んじゃー今日も授業やるぜー」
「ククク……じゅぎょう……」
「お、おー、転入生か?」
 最前列で薄ら笑いを浮かべるネームレスの姿に、さすがのシリウスも一瞬びびった。
「夕霧……名無……です……たぶん……」
「たぶんかよ!!」
「恐らく……は……」
「別に言い方にツッコんだわけじゃねえよ!」
「クク……そう……ですか。じゅぎょう……はじめま……しょう……か」
「お前が進行すんのかよ! オレの立場は!!」
 そんな二人のやりとりに、教室中から笑いが起こる。
「名無、怖いと思ってたけどおもしろいな」
 独特の雰囲気に距離を置いていた児童たちが、次々にネームレスに話しかける。
「おーい、授業やんぞー。教科書32ページ開けー」
 パンパンと手をたたきながらシリウスが言うとやっと騒ぎが収まる。
「名無、きゅうしょく一緒に食べようぜ」
「……はい……ククッ……」
 ネームレスの隣に座っていた男子生徒がヒソヒソ声で誘うと、ネームレスはこくりと頷いた。
「このクラス、誰か高等科の吹奏楽部に入ってみたいやついないか??」
 授業が終わって、思い出したように質問したシリウスの言葉に児童たちの顔がひきつる。
「クク……いません……ね……」
「いや……だ……」
 突然児童たちがネームレスのマネをして喋りはじめた。
 引きつった生徒たちの雰囲気が突然崩れた。
「むずかしいなー。なあなあ名無、おまえのその、ククって、どうやるんだ??」
「……ククク……」
「おー。すげー!」
「うん、まあ、そいつとしては普通に笑ってるだけなんだと思うぞ」
 ネームレスが笑って見せるとなぜかクラス中から歓声が起こる。
 少し変わっているぐらいのほうが、馴染んでしまえば人気になりやすい年代なのだろう。
 部員が見つからなかったのは残念だが、児童同士が仲良くなるのは何よりだ。
 と、突然ネームレスが隙を見て密かに外に駆け出していく。
 妙な気配を感じたシリウスもすぐに後を追う。
 と、裏口を出たところで鬼と対峙するネームレスの姿があった。
「出てきやがったか」
 苦々しげに口にする間にも、ネームレスが鬼に突撃する。
「クク……」
 有り余る力で鬼を抑えると、投げた。
 シリウスがその後を殴り飛ばす。
 初等科の中に進入させるわけにはいかなかった。
「大丈夫か」
 用務員室の監視カメラで様子を見ていたアスカからの要請で、ルーツが高等科からかけつける。
 忍ばせておいた魔導銃を使い、遠距離からの援護を開始する。「ヒプノシス」で鬼の眠気を誘い、行動を鈍らせる。
 すかさずシリウスが体当たりを食らわせ、鬼の意識を奪った。
「二人とも気づかれないうちに戻ったほうが良いだろう。こやつは我が処理しておこう」
「クク……では……失礼……します」
「ああ、頼んだぜ。オレはもうちょい色々情報聞いてみるよ。吹奏楽の部員探しながらだけどな」
 二人を見送ると、ルーツは鬼を抱え用務員室のアスカのところへ向かった。