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第四章

 吹奏楽部の練習はなかなか難航していた。
 瑛菜とローザマリアたちのバンドは短い時間で綺麗にまとまっている。
 ソーマの独特すぎるアレンジも、北都と東雲が間に入ることによって、吹奏楽部のメンバーとうまく音が合うようになっていた。
 しかしこの二組が一緒に音を出すと、どうしても合わないのだ。
 そこに合唱部の歌が入ると、さらにその溝が深くなっていく。
「ヘンデル先生どうしちゃったんだろ……」
 ヘンデルの代わりにタクトを振っていた部長が不安そうに呟く。
「わたくしたち、まだご挨拶しかさせていただいてませんけれど……そんなに素晴らしい指導者なのですか?」
 菊が穏やかに尋ねる。
「うん。私たち、全然音もバラバラで、編成もガチャガチャだったの。でも、ヘンデル先生が来てくれてから一気にまとまって。一人ひとりのレベルももちろん上がったんだけど、調和が取れるようになったの」
 部長の言葉に吹奏楽部のメンバーが頷く。
「音を聴いている限りでは、そなたたちかなりレベルの高いチームだと思っていたが……」
「ヘンデル先生のお陰だよ」
 グロリアーナの言葉に部長がうつむきながら答える。
「なぁ、ヘンデル先生って俺と同じで途中から来た先生なのか?」
 ウォーレンが口を挟む。
「あ、そうなんです。シュトロン先生より少し前です」
「あ、そんな最近なんだ」
「ヘンデル先生から聞いてらっしゃると思ってました。まだ半年経ってないんです。4ヶ月くらい? それで、大会に向けて一気にレベル上げてくださって」
「なるほどねぇ……ま、教員も授業とか部活のほかにも結構めんどくさい仕事色々あるからさ。ヘンデル先生も大会直前のスケジュール調整するために、今頑張ってるんじゃないか?」
「そう……ですよね。うん。私たちはとにかく練習ですよね」
 ウォーレンの言葉に、部長が力強く頷く。
「そうね。もう1回合せてみましょ」
 ローザマリアの合図で頭から通す。
 先ほどよりは音が合うようになってきた。
「4ヶ月前、ねぇ……」
 ウォーレンは一人呟くと、即座にルファンにメールした。
 一通り練習を終えると、音楽室に拍手の音が響いた。
「良い演奏じゃな」
 ルファンが入り口で手を叩いていた。
「おまえも入部するか?」
「わしは遠慮しておこう」
 冗談めかして聞くウォーレンに、ルファンが苦笑いで答える。
「みんなに聞きたいことがあるんだよなー。あのさ、ゲオルク、って名前のヤツ、聞いたことないか?」
「作曲家ですか?」
「あ、いや、そっちじゃなくて……ん……?」
 ウォーレンが突然考え込む。
「先生……?」
 部長が不安そうに首をかしげた。
「あ、ああ、悪い。いや、歴史上の人物とかじゃなくてそういう名前のやつが転入してきたりしてねえかなと」
 吹奏楽部の部員の一部がざわつく。
「聞いたこと、ないです。あの、それって、転入生のみんなが言ってる、失踪事件に関係があるんですか?」
「ほぅ。もうほぼ皆隠す気もないんじゃな」
 ほぼ隠密行動の意味がなくなってきた転入メンバーに、ルファンが笑い声を上げた。
「らしいんだよな。俺もよく知らねえんだけど」
「分かりません」
 うつむいたまま部長が答える。
「そっか。まあ、心当たりあったら教えてくれると嬉しいな。さて、もう遅いし今日はここまでにすっか。ヘンデル先生には俺から今日の報告はしとくから。早く帰れよー」
 返事をすると生徒たちが次々に音楽室を出て行く。
「残念だが、あたりじゃろうな」
「ああ。フェンリルにも連絡する」
 ルファンとウォーレンも音楽室の鍵を締めると、外へと出た。