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イコプラ戦機

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■ダクト迷路を潜り抜け
「――それじゃあ、確かに受け取ったわ。協力に感謝します」
 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は『根回し』をし、工場作業員から工場内の内部見取り地図を受け取る。そして、それをすぐに《銃型HC》にデータとして登録していくと、他に地図を必要とする契約者たちに回していく。
 ――情報の準備も整ったので、シェルター開放チームは工場作業員の案内の元、工場地下までやってきた。シェルターが閉じている影響か、“人間が”ここから工場へ向かうことは無理である。
 しかし、今はそれを打開する策はある。――イコプラを通気ダクトから侵入させ、シェルターの緊急開放装置がある守衛室へと向かわせるという方法だ。
「……これで準備よし、と。じゃあ、いきましょうか」
 リーンの『空飛ぶ魔法↑↑』によって、イコプラたちはふわりと宙に浮きあがる。これならば、敵機に足音で気づかれることもないだろう。
 さっそく通気ダクトからイコプラを侵入させていく。ここからは人は入れないため、イコプラに搭載されたカメラ機能を使って内部を確認する。
 ――ダクト内は見取り図で見てもわかるほど、複雑な作りとなっていた。何も策を練らずに入っていたら、確実に迷うほどだ。しかし、見取り図を受け取っていたために迷う必要もなく、リーンや遠野 歌菜(とおの・かな)の誘導を受けて開放チームは慎重に先へと進む。
 だがまだ問題があった。犯人がここからの侵入を予見していたのか、ダクト内部には警備としてクェイル型とセンチネル型のイコプラが歩き回っていたのだ。もし見つかれば、狭いダクト内ではかなり厄介なことになるだろう。
「先手必勝!」
 それならば発見される前に撃ち抜くのみ、とばかりに歌菜のイコプラであるアルマイン・マギウス型を素体としたセタレが、マジックカノンでクェイル型を狙い撃ちする。足を狙って撃ったのか、体勢が崩れるクェイル型。増援を呼ばれるよりも早く懐へ接近し、マジックソードの一撃で斬り捨てていった。
「ただの木偶の坊と思ってもらっては困る……!」
 センチネル型もセタレへ応戦するが、その攻撃はセタレを守るために割いってきた月崎 羽純(つきざき・はすみ)の操るイコプラ、ウルヌンガル型のアンジールの盾によって防がれる。重装甲セッティングが施されたアンジールの硬さはかなりのもので、センチネル型の攻撃をものともしない。
 反撃とばかりにカナンの聖剣で一刀両断する。格の違いを見せつけられながら、センチネル型は爆散してしまった。
「思ったより数が多い……だからこそ、透けるブラジャーの陽動が効いてるんだけどな」
 想像以上にダクト内の警備が厳しい。だがそれも、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が操るプラヴァー型のイコプラ・透けるブラジャー三機の内、二機が警備イコプラの陽動に回っていることで、できうる限り警備を薄くすることに成功していた。
 付かず離れずの距離で攻撃を仕掛けながらクェイル型とセンチネル型を陽動、リーンたちの本隊が通るルートから引き離すよう心掛けている。その甲斐あってか、本隊の誘導は滞りなく進み、本隊が進むルート上で出会う敵もそこまで多くなかった。

 ――しばらく進むと、ようやく守衛室に繋がるダクト入り口に到着する。まず先に動いたのは、陽動とは別に動かしていた残り一機の透けるブラジャーを操作している政敏。ダクトのふたを蹴落とし、素早く守衛室内に入り込むと……そこに待ち受けていた敵イーグリットアサルト型三機に対し、《忍び蚕》の糸を纏めて作ったネットを込めたバズーカを撃ちこんでいく。
 本来ならば単体を絡め取ることが精いっぱいの《忍び蚕》の糸も、小さなサイズのイコプラならば多数を巻き込める。素早く反応したニ機は逃れたものの、残りの一機はネットに引っかかり、その動きを鈍らせた。
「ふむ、さすがはイーグリットアサルト型といったところか。高機動を売りとしているだけはある。しかし……こちらには彩音が作ってくれたイコプラと、仲間との連携がある!」
 敵イコプラの回避機動を『行動予測』で読んでいた綺雲 菜織(あやくも・なおり)が操る、ジェファルコン型を元に改造された不知火・弐型のイコプラが、セタレのマジックカノンによる援護射撃を背にしつつ敵機に接近する。懐まで接近すると、先行入力するかのようにコントローラーを操作し、新式ビームサーベルでイーグリットアサルト型を攻撃していく。
 腰スラスターの回転と勢いを利用した居合い、そして彩音・サテライト(あやね・さてらいと)が改造のプランの一つとして採用した“強化装甲と『先端テクノロジー』で加工されたサーベル”の威力が重なり合い、イーグリットアサルト型の持つ武装を弾き、その機体を斜めに斬り裂く。イコプラを操作しているとはいえ、その動きはイコンに乗っていると思わせるほど、寸分のない機敏さを持っていた。
「そっちは――任せた!」
 そして菜織は居合いによって発生した機体の回転を利用し、機体そのものを反転。すぐ手近にいる敵機――糸が絡まった敵機だ……に向けて新式プラズマライフルの一撃を放つ。その一撃は牽制射撃であり、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)と彩音、そして歌菜たちへと繋げる一撃であった。
「せいっ!!」
 敵機の体勢を崩したところへ美幸操作のブルースロート型が接敵する。懐に飛び込んでこようとするその機体に対し、イーグリットアサルト型は体勢を崩したまま近接攻撃を仕掛けていくが、強化装甲パテによって加工されたクリアパーツをビームシールドのようにして扱いつつ、それを受け止める。懐に入ったことによって近接攻撃の勢いを殺したのか、受け止めるのも容易だったようだ。
 そして間髪入れず、美幸はイコプラの右腕で機神掌を敵機にぶつけ、再び体勢を崩させていく。そこを狙い、右足に先ほどの強化クリアパーツを展開させて――旋風回し蹴りを遠慮なく繰り出す。
 迷いのないその一撃は綺麗に直撃し、イーグリットアサルト型を吹き飛ばす。撃破寸前までダメージを受けたそれを映像で見て、政敏はなぜか背中がゾッとしてしまった。
 しかし吹き飛んだせいもあってか、完全撃破までには至っていない。歌菜のセタレを狙おうと、最後っ屁とばかりにサーベルをセタレへ投げつける。
「――悪いが……させない!」
 しかしその攻撃も羽純のアンジールが持つ盾によって弾かれていく。伴侶を護る盾はいまだ健在――!
 そして歌菜はアンジールの影から身を乗り出すと、セタレのマジックカノンで、打つ手無しとなったそれを正確に撃ち抜いて止めを刺していった。
 残り一機。素早い動きで、彩音の操るイーグリット型の改造イコプラ・不知火を翻弄する。だが、不知火には美幸がプログラミングした特別な機動システムをフィードバックさせてあるため、それを巧みに使い動きに対応していた。
 襲いくる敵のサーベルを、不知火の肩スラスターを逆噴射させて受け流す。逆噴射によってサーベルの勢いを吸収されたところへ、合気道でいなすかの如き動きで敵機の機体を泳がせると……不知火は両肩のスラスターを全開にさせ、機体全体を回転させるようにしながら、強化加工されたサーベルで一気に真っ二つにしていった!
「やった! ……あ、でもやっぱあの子直したい!」
 一瞬笑顔で喜ぶ彩音であったが、修復したいという気持ちが強かったためかすぐに言葉を訂正。……真っ二つになったものが直せるかどうかは不明ではあるが。
 ……ともあれ、この一撃が決め手となり、守衛室は無事に制圧完了。すぐさまシェルター開放チームはシェルター緊急開放装置を動かすための準備に入る。
 リーンと美幸のイコプラが所定の位置につくと、リーンは『ユビキタス』の応用で、イコプラに搭載した《銃型HC》機能を介した遠隔ハッキングを開始する。美幸もまた、リーンの補佐としてハッキングの手伝いをしていた。
「――やっぱり、プロテクトがかかってるみたい。ちゃちゃっと解析してシェルターを開けちゃうわよ!」
 リーンのコントローラーを動かす指先が早くなる。だが、慣れない遠隔ハッキングのためかすぐに解析は終わらなさそうだ。
 その間、菜織たちは先ほど出てきた通気ダクト付近で防衛網を敷き、ダクト側の警備イコプラが守衛室奪還に来てもすぐに対応できるよう待機している。そろそろ陽動でその場を離れていた敵イコプラたちもこちらへ向かってくる頃合い、何があっても守衛室を守る気概だ。
「……プロテクト解除! 美幸!」
「はい、お姉さま!」
 リーンがプロテクトを解除したと同時に合図を送ると、美幸がシェルター緊急開放装置を起動させる。――鈍い音を立て、工場を覆っていたシェルターがゆっくりと開き始めてきた。
 リーンはさらに、プロテクトを逆にかけて再び閉まらないよう細工を施しておく。とはいえ、守衛室から直接弄られてしまうとまったく意味のない簡単なものではあるが。
 そしてそれとほぼ同時に、ダクト付近では守衛室の防衛戦が開始されていた。先ほどよりも尋常でない量のクェイル型とセンチネル型を守衛室に入れまいと各機が奮闘する。
 ――道は開かれた。犯人を捕らえるための攻勢が、今始まろうとしていたのであった……!