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イコプラ戦機

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イコプラ戦機

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■占領地域を解放せよ
「セレン、左九時方向から敵が二機! すぐに対応して!」
「わかってる! ……ああもう、なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ!」
 ――梱包地区の戦いは激化を増していた。セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とそのサポート役としてセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)、そして葛葉 杏(くずのは・あん)の三人がこの区画を解放するべく、敵イコプラ軍団――キラーラビット型のイコプラ軍団と対峙している。
 しかし、その割にはセレンフィリティの動かすイコプラ・レンタル品のプラヴァー型の動きは芳しくない。……というのも、セレンフィリティはこういった操縦技術が赤点ギリギリの腕前しかもっていなかったからだ。
 ではなぜこのイコプラ戦場に駆り出されているのか。それは以前、イコプラバトルの大会の時にラウンドガールとして参加していたことがきっかけで『シズモ』の店長から「猫の手も借りたい」との連絡が入り、そのまま押し切られる形で今回の戦闘に参加している……という次第。
 今は何とか、セレアナの的確なナビゲーションと杏の強力無比な武装一斉砲撃のおかげで持ちこたえてはいるものの、やはりその動きはどこか危なっかしい。
「えーと、これで……何機目かしら。ああもう、つくづくイコン操作ってのに向いてないわ! イコプラはやっぱりジオラマ撮影が一番よ!」
「熱くなりすぎないでよ、セレン。勝負事はカッカしたら負けよ。……あと、ジオラマ作るのはいいけど操縦技術をきちんと磨かないと。……そろそろ弾薬が尽きそうだから、一度後退して補給を受けてちょうだい」
 ……セレアナからの正論にぐうの音も返せないセレンフィリティ。ちょうど、襲ってくる敵機に押される振りをしながら後退しつつ、左右への移動が困難になる機械と機械の間に誘い込んでいくところだった。
 そして、高くバックジャンプすると同時にナビに合わせて前足の関節部分を狙いをぶらしながらも撃っていくと……後ろに控えていた杏のイコプラと、着地にてその立ち位置を変えていった。
「補給が終わる前に全部片付けちゃうから! ――さぁ、パーティの再開といきましょうか!」
 両手に構えたガトリングガン、肩や腿横に取り付けたミサイルポッド。先ほど撃ち尽くしたそれらを一度補給し、戦場へと戻ってきた杏専用イコプラ。その威風たるや、まさに堂々。まずは挨拶代わりに、と先ほどセレンフィリティが攻撃したキラーラビット型に向けてガトリングを撃ちながら狭いこの場所を抜けるべく前進する。
「邪魔よ!」
 完全重武装の装甲に、キラーラビット型の攻撃はほぼ効いていない。頭部を穴だらけにさせて撃破すると、広い場所へ出ると……ちょうど、キラーラビット型の群れが姿を見せてきた。――完全に、囲まれている。
「……ふっ、この【海京の弾幕ガール】の二つ名を持つイコプラバトラー・杏様がこの程度の敵イコプラ勢に負けるわけがないわ。――せっかくのパーティーだし、盛大な花火をぶちかましてあげるわよ!」
 威勢のある言葉をぶつけ、コントローラーを操作する杏。杏のイコプラが武装全門を開くと、標的に向けて大量の弾幕が発射される!
 それはさながら、抑えられぬ砲火衝動に駆られる猟犬のごとく、確実に着弾してはそのイコプラの活動を止めていく。……しかし、それも少しして後に弾切れという形で弾幕が途切れてしまう。
「まだ結構いるわね……やれやれ、本当は次のショップ大会までの隠し玉にするつもりだったけど――」
 そう言うと、杏は特殊コマンドを入力していく。すると……杏のイコプラにある変化が起こり始めた。
「……見せてあげるわ、私のイコプラの真なる力を。――アーマー・パージ!」
 瞬間、イコプラを覆っていた頭部・胸部・関節部以外の重装甲パーツが弾け飛び、先ほどとは一転してフレームメインの身軽な姿を披露していく。手に持つ得物はスピア一本。――猟犬の主は、確かに敵機を捉える。
「さあ、第二ラウンドの開始だよ」
 ――味方数の少なさというハンデをものともせず、常軌を逸した操作テクニックとイコプラとの絆にて次々とヒット&アウェイで敵をスピアのみで屠っていく杏。途中でセレンフィリティたちも援護に加わっていき、最終的には援軍到着前に梱包地区を解放までに導いていったのであった……。


 ――一方、イコプラ倉庫では慎重に戦いの火ぶたが落とされようとしていた。
「……偵察完了しました。敵の雷火型は外装はほぼ無改造、ただAIがかなり強化されてるものと思われます。数は二〇〇……一気攻勢をかければ、十分いけるかと」
 自身のイコプラに『迷彩塗装』をかけて隠密行動にて敵戦力を偵察していた木賊 練(とくさ・ねり)と、それにイコプラで付いていった彩里 秘色(あやさと・ひそく)が、偵察を終わらせてその結果を報告する。おおよその敵戦力は秘色がイコプラのカメラ越しに『身体検査』で調べたようで、おおよその戦力を見抜けたようだ。
「雷火型は空は飛べないから、楽にいけそうだね。じゃあ、いこう!」
 練の言葉に頷く契約者たち。それぞれのイコプラを起動させると、さっそく先制攻撃とばかりに斎賀 昌毅(さいが・まさき)のイコプラ・イザナミ マルちゃん仕様EXが武装を構える。
「照準よし――いけぇぇぇぇぇ!!」
 重武装射撃特化ならではの派手なフルバーストが倉庫内の戦場を襲う。大部分の雷火型を撃ち倒しながら、見事な先制を決めていく。
「後の打ち漏らし、頼むっ!」
「よし、いけ! Eジェットさん!」
 切り口は開いた、とばかりに打ち漏らしを倒しに行くべく、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)のイコプラ・Eジェットさんに全てを託す。……というのも、このEジェットさんは自律行動可能なイコプラなので、エヴァルトたちがやれることはプログラムを書き換えての攻撃対象設定などくらいなものである。つまり、後はEジェットさん次第というわけであり……。
「――自動で動く分、反応は早いが柔軟性が足りてないな。状況に応じて最適のモーションデータを実行するようにはしてあるけど……ええい、己の腕を信じられずしてなんとする! 頑張れEジェットさん!」
「私たちのEジェットさんが無敵だってこと、証明しちゃえ!」
 AI同士のイコプラ戦闘。Eジェットさんが雷火型と刀で斬り合ったりとAIならではの動きで戦いをこなしていく。地上の掃討はEジェットさんが何とかできそうな勢いではあるようだ。
 一方、空中では練と秘色のイコプラ・練星と秘星(どちらも流星型を改造したもの)が上空からミサイルなどで雷火型へ更なる先行攻撃を仕掛けていた。ちなみに、このミサイルにはネバネバ弾が搭載されており、爆発の代わりにこれが広がる仕組みになっている。自身では壊そうとしない辺り、機工士らしい機械愛があるのかもしれない。
 空からの攻撃に雷火型も対応しきれないらしく、回避が精いっぱいのようだ。さらに大打撃を与えるべく、練と秘色は背中合わせにフォーメーションを組む。
「ひーさん、いくよ!」
「心得ました!」
 両機が構えると、全方位をカバーするかのようなミサイル一斉発射を繰り出す。AIで動くEジェットさんや昌毅のイコプラは被害を受けないところへ移動していくと、雷火型はどんどんネバネバ弾の餌食になっていた。
「――む、危ない!」
 が、難を逃れた雷火型もいたようで、背を向けているEジェットさんに向かって攻撃を仕掛けようとしていた。しかし、それを発見した秘色はネバネバ弾入りミサイル弾幕がいまだ飛び交う空中を一気に駆け、雷火型とEジェットさんとの間に割り込んでは、近くにあった雷火型の鬼刀を急ぎ拾ってつばぜり合いにまで持ち込んでいく。
 何度かの刃の打ち合いを経て、足払いからのネバネバ弾ミサイル発射で雷火型の動きを止めていく秘色。……どうやらこれで最後だったらしく、これ以上の敵機の動きはないようだった。
「ひーさん、やるー! 徹夜で操作技術叩き込んだかいがあったよ!」
「いえ、これも木賊殿のおかげです」
 無事に区画を解放できたようで、練は各機にハイタッチで喜びを分かち合おうとしたのだが……。
「……あれ? 斎賀さんは?」
 ……その場に、昌毅の姿はなかったのだった。

 ――昌毅はどこへいったのか。答えは至極簡単で、倉庫内の人目のつかぬ所である人物とばったり会ってしまっていた。
「あちゃー……ここで人に出くわすとは思いませんでしたよ」
「……俺もそれに関しては同感だ」
 昌毅の目の前にいる人物、それはテルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)だった。お互いの瞳を見ながら……先に、テルミが動く。
「――私ね、イコプラが大好きでして。もしかしたら工場内に見たこともないような試作品パーツが眠ってるんじゃないかな、と思って工場奪還をついでにして探していたところだったんですよ」
「奇遇だな、俺もさっき撃った攻撃でレアなパーツとかレアなイコプラとかが吹っ飛んだんじゃないかな、と思ってこの辺探してたんだよ。……もし見つかったとして、それが“なんらかの”“たまたまな”“どうしようもない”事情で知らぬ間に俺の懐に入ってきちゃったら、それはそれで持って帰ってもしょうがないかなー、とは思ってるんだがな」
「……あー、そうだったのですか。私もあわよくばー、とはこれっぽっちも考えちゃいませんよ。“何かの原因で”“偶然に”“知らない間に”私の手の内に収まったら、それはしょうがないことですし」
「はははは」
「あははは」
 ……乾いた笑い。そして二人は悟る。“同類だ”と。
 特にテルミは、何かあった場合に備えて自爆機能を搭載したゴーストイコン型のイコプラを携えていたので、ここで使う必要はないと知ってか少し安心している。
「――それで、めぼしい物は?」
「今のところはないな。多分、どっかに機密区画とかありそうな気がするんだが」
「……機密区画かー。そこなら未知の技術とかありそうだよねー……んふふ」
 そこへ増える女の子の声。その声のほうをテルミと昌毅が振り向くと……そこには、練の姿があった。
「ちょ、おま……!?」
「安心して、ひーさんたちは先に他の場所へいってもらったから。それより……私としても、他人のイコプラを分解したり研究したりあれやこれやしたいから、混ぜてもらってもいいかな?」
 練のその言葉に、少しの沈黙が流れる。――目的は三人とも違えど、狙っている物はほぼ同等。ならば協力関係を結んでも何ら問題はないように思える。
「……わかりました。三人揃えば文殊の知恵、とも言いますしここは協力し合いましょう。私はレアなパーツなどを物色しに」
「俺は絶版レアイコプラの入手に」
「私は……門外不出の技術を手に入れるために、かな」

 ――協力関係を結ぼう。

 今ここに、即席の同志たちが同盟を組んだのであった……。