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第1章  さくせんかいぎ


 佐保とティファニーによる、思いつきで喋っちゃった感満載の放送後。
 眠るハイナの元へは、たくさんの生徒達が駆け付けていた。

「ハイナが病気、ねぇ……しかも。
 房姫が材料の調達に動くとは、それも護衛があの子らか……」

 腕組み壁にもたれかかりながら、呟く佐野 和輝(さの・かずき)
 いつものハイナを観ていると、病に倒れるなど意外すぎてならないと。

「2人とはそれなりに付き合いが長いし、これは行くしかないかな……」

 そしてそれ以上に、房姫のことが心配でならなかった。

「アニスは既に行く準備万端だし……」
「え、リモンが看病!?」
「ん?」

 和輝が眼を上げれば、アニス・パラス(あにす・ぱらす)の驚く表情。
 たいしてリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)はというと、むしろアニスの反応が不思議でならない。

「ダメ!!
 リモンが看病なんてしたら、絶対悪くなるよ!!
 ねぇ!?」
「そうだな……」
(大方、和輝との契約で動いているだけだろうな。
 契約には素直な奴だが、念のため見張っておくか)

 アニスに同意を求められれば、とりあえず頷くものの。
 禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)には、リモンの真意も想像の範囲内だった。

「そう言うな。
 処置してやらんこともないが、対価として経過観察をさせてもらうぞ。
 なかなかに面白いからな」
「まぁ大丈夫だろう、ほかにも看病を手伝う者はいるようだからな。
 リモンと、運動嫌いのリオンは付き添い。
 俺とアニスで房姫の護衛ってことで、いいな?」
「は〜い」
「本が好き同士というよしみだ、協力してやるか。
 ありがたく思えよ、本来なら『本』は動かんのだからな」
「処方薬が到着すれば解決する病だ。
 それまでの間の絶対安静や体力の消耗抑制を目的とするならば、通常の処置で充分であろう」

 下手をするわけではない。
 ただ、その行為が本当に患者のためになるのかは疑わしい。
 ゆえに、周りの面々へと託す選択をとった和輝。
 とりあえずは二手に分かれて、自身は山へと向かうこととする。

「山へ行く皆さんは、少し耳を貸してもらえるだろうか?」
「アニスも行くよ〜♪」

 呼びかけた和輝は、山における警戒のとり方を説明し始めた。
 曰く【優れた指揮官】としての和輝を起点として、陸に『親衛隊員』と空は『飛装兵』を放つ。
 イメージ、房姫を中心とした艦隊陣形を真似た輪形陣を展開するのだ。
 また『斥候』にて、偵察要因を喚び出したい。
 戦場全体を把握することにより、迅速に行動することが可能だと考えたためだ。

「あとは……登山では歩行速度を一定にし、歩くリズムを崩さないようにしてください。
 焦って登るよりも体力の消費が少ないから、結果として早く目的地へ辿り着けます。
 それと、適度に休憩を取りますよ。
 休憩なしはペースを崩す原因となり、結果として怪我や到着時間の遅れを生みますからね」
「ん〜アニスの『空飛ぶ箒ファルケ』に乗って、一気に山の頂上までいけないの?
 和輝を乗せて飛んだこと有るから、房姫が乗っても堕ちないよ?」

 さらに、スキル【博識】を発動し、歩行技術やスケジュールを報せる。
 アニスの案も、房姫次第で採用すればよいということになり、話はまとまった。
 しかし極度の人見知りであるアニスが初対面の相手と普通に話せるのも、和輝のおかげだ。
 和輝がパイプ役となってくれているからこそ、であろう。

「ほれ和輝、私の使い魔を連れて行くがよい。
 危険な事をしているとはいえ、房姫の安全が分かればハイナも少しは落ち着くだろうさ」

 『使い魔:カラス』と『使い魔:ネコ』を、和輝へとパスしたら。
 言いつつダンタリオンは、ハイナの傍で『「ハイ・ブラゼル」のおとぎ話』を拡げる。
 ただし、ハイナの安静に害を為す相手には魔法を放つつもり……それも無言で……だった。

「……これは一体……身体に力が入りません。
 お腹が減ったのでしょうか?
 とりあえず、なにか、食べたい……」

 そんななか、呟きののちに倒れた東 朱鷺(あずま・とき)
 この症状はどうやら、ハイナと同じ病のようで。

「たっ、たいへんでござるっ、一刻も早く薬をっ!」
「こっちへ来て安静にしているネっ!」

 佐保とティファニーが焦るのも無理はないと、その場にいたすべての生徒達の表情が物語る。

「汗が凄いか……身体を冷やさぬうちに着替えるぞ。
 ほら、男共は出て行った出て行った!」

 ほどなくして、和輝とアニスは生徒達と山へ向かう。
 同じく登山するも先回りをする者達と、海を目指す一行も、ともに城門を出た。
 と。
 しばしの間、男性陣はリモンによって校長室から追い出されることに。
 台詞どおりハイナの着替えと、朱鷺も衣類の下まで検査したかったから。

「ふふ……ハイナ校長、お久しぶりですね。
 お正月ぶりでしょうか。
 声も出せぬ程に衰弱されるとは……」

 袂に寄り、朱鷺はハイナの手を握った。
 じきに朱鷺も、意識を保てず眠りに就く。

「ハイナ校長の為、この朱鷺も全力を尽くしたかったのですが……無念です」

 今回の旅行で新たに得た、羅刹の力。
 ゆえに、少しでもハイナの役に立ちたかったのだが。
 朱鷺の気持ちは、またの機会までお預けである。