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第二章

――東館1階、居間。

「うーむ……あまりいい物はありませんねぇ……」
 一通り探索を終えた月詠 司(つくよみ・つかさ)が溜息を吐く。
「そそそそそうだな……」
 その隣、司の腕に半分しがみつくような形でリル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)が頷く。
「ツカサ、そっちは何かあったのかしら?」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の言葉に、司は首を横に振る。
 司達はこの屋敷に隠し通路があるのでは、という予想を立てていた。その隠し通路が暗かった場合を考え、松明になるような物を探していたのだが結果は芳しくない。
「そっちもないようだな」
 司達と同様に、今を調べていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が声をかける。
「そっち……も同じみたいですね」
 司が苦笑を浮かべた。甚五郎を始め、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)阿部 勇(あべ・いさむ)オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)が渋い表情を浮かべていたのだ。
 甚五郎達の目的は武器になるような物を探す事だ。度数の高い酒や殺虫剤、消火器なんて物と火種になるような物等があれば十分武器になる。
 だが探索空しく、それらしきものは見当たらなかった。
「全く、本当に何もねぇな。酒の一つも無いとかしけてやがる」
 不満を隠そうともせず、オリバーが吐き捨てる。
「ボトルシップとかはあるんですがねぇ……」
「本当に居間なのだろう、普通のな」
 勇と羽純がやれやれ、と息を吐いた。
「まぁ何かに使えるかもしれないから、カーテンだけは引っぺがしてきたけどな」
「あ、それ少し分けてもらっていいですかね? 薪と組み合わせて松明代わりにできるかもしれません。火種があれば、ですが」
 甚五郎が持っていたカーテンを見て、司が言う。
「……そういえば、あの暖炉も薪はあるのに火種が無いって言うのもおかしな話ねぇ」
 ふと、シオンが暖炉に目をやる。
「ああ、それは確かに気になるところだ」
「……確かめる価値、あると思わない?」
 シオンの言葉に、甚五郎が頷く。そして、暖炉へと歩み寄る。
 大きな暖炉を覗き込むと、真新しい薪がくべられている。しかしただくべられているだけで、煤も無く一切使ったような形跡が見られない。
 二人が薪をどかすと、
「ビンゴ!」
「これは……扉か?」
そこにあったのは、正方形の形をした扉であった。取っ手となる窪みがあり、そこを引っ張ると開く仕組みの様だ。
「確か……送られてきた地図には地下に空間がありましたね」
 司が思い出したように呟く。
「とりあえず開けてみるか……よっ、と」
 甚五郎が窪みに手を入れて引くと、大した抵抗も無く扉が開かれる。
「……随分暗いな」
 覗き込んだ甚五郎が呟く。
「何やら階段みたいなのがあるわね……」
「行けますか?」
「駄目ね、暗すぎるわ」
 司の問いかけにシオンが首を横に振る。
「あー……確かにこれはやめておいた方がよさそうですねぇ」
「このまま進むのは無謀だろう」
 後ろから覗き込んだ勇、羽純もうんうんと頷く。
「しっかし不気味だなおい。何か出そうな感じだぜ」
 オリバーがにやけながら言うと、リルが「ひっ!」と小さく悲鳴を上げて司にしがみついた。
「お、おいそういう事言うんじゃねーよ! 本当に出たらどうするんだ出た「あのー終わりましたー?」らぁッ!? で、出たぁ!」
「落ちつきましょうか、御守くんですよ」
 司に半べそ状態でしがみつくリルに天寺 御守(あまでら・みもり)が「出たとか酷いですー」と頬を膨らます。
「似たようなものじゃない。それより見張りはどうしたのよ?」
「ですからワタクシは心霊現象ではないと……随分時間がかかっているようなので様子を見に来たのですよ。こちらに誰か来る様子はありませんわ。ただ、周囲に気配はありますが」
「ふむ……だからといってあまり長居するのも得策じゃなさそうだな。誰か来る前にわしらも離れた方が良さそうだ」
「これ以上の探索も得る物は無いであろう」
 甚五郎の言葉に羽純が頷く。
 物として得た物は少ないが、暖炉の扉の存在という収穫も得た為その言葉に反対する者も居なかった。そっと司と甚五郎達は、居間から離れるのであった。

――東館1階、物置部屋。

「ほい、一丁上がり」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が台の上にごろりと置いたのは爆弾。物置の材料で作った簡易的な爆弾である。
「そっちはどうだ?」
「ええ、こちらも完成しましたよ」
 恭也の声に応えた自称愛の伝道師、エルが電動釘打ち機を台の上に置いた。ただの釘打ち機ではなく、改造を施し簡易的なニードルガンのような物になっていた。
「こんな感じでよろしいですかね?」
 エルに問われた恭也は釘打ち機を構えると壁を一発撃った。釘が壁に深々と突き刺さる。
「ああ、良いと思うぜ……けどいいのか? 俺が貰っちまって」
 恭也がエルに問う。

――恭也が物置部屋を訪れたのは、武器を得る為である。置いてある物を使うのではなく、材料として武器作ろうとしていた。
 そこで偶々一緒になったエルが提案したため、作業を分担することにしたのであった。

「ええ、私はこれがありますから」
 そう言ってエルが見せたのは、角材に釘を刺した凶器であった。
「火種になる物があれば簡易的な火炎放射器とか作れたんですがねー……あ、よろしければその爆弾、少し分けてもらえますか?」
「ああ、構わないぜ」
 恭也から数個、爆弾を受け取る。
「……うーむ」
 その様子を先程から見ていたエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が、何処か腑に落ちない表情を浮かべていた。
「どうしたエグゼリカ?」
「いや、納得いかないのです」
「何が?」
「……先程からこの方の作業を見ていたのですが」
 ちらりと、エグゼリカがエルを見る。
「……あの角材、釘以外にガムテープだけしか使っていなかったのですが」
「いやまて、よく解らないんだが」
「ですから、普通なら角材に釘を打つのならわかるのですが、ガムテープでぐるぐる何かやっているだけにしか見えなかったのです」
 エグゼリカに言われ、恭也がエルの持っている角材を見る。思い返してみると、釘を打つような音など聞こえていなかった。
「更に言うとその釘打ち機もガムテープでべたべた何か貼っているだけでした」
「マジかよおい」
 そう言われて釘打ち機を見るが、ガムテープを使った形跡など何処にも見当たらない。
「ガムテープがあれば大抵の物は組み合わせるじゃないですか」
 エルが不思議そうに首を傾げる。恭也は何か言おうとしたが、かける言葉が浮かばずただ首を横に振った。
「さて、ここに留まっていても何もありませんし、そろそろ離れますか」
「ああ……っと、ちょっと待ってくれ」
 エルに促され、部屋を出る際恭也が扉でごそごそと何かを仕掛けていた。
 手に持っていたのは物置で見つけたワイヤーと作った爆弾だ。
「よし、これで扉を開けたらドカン、だ。さて、行こうぜ」
 恭也は満足そうに頷くと、歩み出した。
「……うーん、何かそれフラグになりそうなんですよねぇ」
 そして扉を見つめて、エルが不吉な事を言った。

――西館1階、書斎。

『やる事がある』というエルを見送り、書斎内にアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)金元 ななな(かねもと・ななな)の二人が残されていた。
「さて、ボク達はどうしようか」
 アゾートがぽつりと呟く。
「そうだねー……あまり動きたくないけど、じっとしていても危ないしね……ん?」
「どうしたの?」
「しっ……誰か来る……!」
 なななが身構える。視線は出入りする扉に向けられていた。
 アゾートも扉へと視線を送ると、ドアノブがゆっくりと回り、扉が開いた。
「「……んん?」」
 入ってきた人物を目にし、二人が訝しげな表情を浮かべる。
「あら、先客ですか」
「そうみたいね」
 入ってきたのはシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)と、彼女に背負われたグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)であった。
「よっと……ところで、何やってんのあんたら?」
 シィシャの背から降りたグラルダがアゾートとなななに問いかける。
「えーっと、これを見ながらこれからどうしようかって話をしてたところかなー?」
 そう言ってなななが館の見取り図をひらひらと振る。
「そっちはどうしたの?」
「あたし? あたしはそれを貰いに来たの」
 アゾートの問いに、グラルダはなななの見取り図を指さして答える。
「ほえ? この見取り図?」
「そうよ、借りていっていいかしら?」
「別にいいけど……」
 そう言ってなななが差し出した見取り図をグラルダが受け取る。
「けど、借りてどうするの?」
「調べたい場所があるのよ……よし、ここね」
 グラルダは見取り図のとある場所を指さし、シィシャに見せる。
「次はここに行けばよろしいのですか?」
「ええそうよ。わかったらとっとと行くわよ」
 そう言うとグラルダはシィシャの背に飛び乗る。
「ねえ、調べるって何を?」
 アゾートが尋ねると、グラルダはふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「最強の武器の在処よ」
 そしてそう言うと、シィシャに背負われたまま書斎から去っていった。
「……はー」
 それを見送った後、なななが気の抜けたような声を出した。
「……そう言えばさ、見取り図って確か全員にデータで送ってたよね?」
「……そうだよね、別に持って行かなくても良かったと思うんだけど」
「……後、何で背負われてたんだろう?」
「さあ……怪我とかしてないみたいだし……」
 単純な疑問を述べるが、それはまた後程明かされる筈である。

――西館1階、浴場。

「……ふむ」
 洗濯機を見て、久我 浩一(くが・こういち)が一人頷く。
 洗濯機は二層式の古いタイプの物であった。タイマーのつまみを回すと蓋が開いていようが、中に何もなかろうがガタガタと少し揺れながら動き出す。
 それを確認すると、浩一は洗濯機の裏側を見る。壁のコンセントに刺さったコードを見つけると、そっと引っこ抜く。
 電力供給されなくなった洗濯機は、少しの間ガタガタと揺れながら回っていたが、やがて動きを止めた。
「なにをしているのでありますか?」
 そんな浩一を見て、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が首を傾げた。
「ん? いえ、この館に電気供給されているのか確認していたんですよ」
 もう一度コンセントに差し込み、洗濯機が動くことを確認してから浩一が言った。
「そういえばそちらは何を? 先程から浴場を調べているみたいですが」
「自分は罠を仕掛けているであります」
 吹雪がちらりと浴場を見る。浴場への扉は開かれており、水道も全開にして浴槽へ水が注がれている。
「あの浴槽から水を溢れさせて廊下まで流すのでありますよ! そうすればこのドライヤーで漏電させることもできるであります!」
 吹雪がドヤ、という表情(要するにドヤ顔)を浮かべる。
「ねえ、こっちはこんなものでいいかしら?」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が手に持った物を吹雪に見せる。それは塩素系とアルカリ系の洗剤であった。混ぜると危険な組み合わせである。
「上出来であります。それを混ぜてガスの武器にできるようにするであります」
「了解。すぐ使えるようにしておくわね」
「我は何をすればいいのだ?」
 イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が吹雪に問う。
「イングラハムにはとても危険な役目があるであります……しかし、この役割を果たしたら望みを叶えるでありますよ?」
 その言葉に、イングラハムが手と言うか触手みたいなものを上げて嬉しそうにしている。
「廊下まで、ですか……」
 そんな光景を見て浩一がちらりと浴場に目をやる。
 浴場は大浴場、と言う程ではないが一般の物と比べると広く、大きかった。水を溜め脱衣所等を経由して廊下まで、となると相当時間がかかると思われる。
「……ちょっと難しそうだと思うんですが」
 久我が呟く。
「ふふふふふ……待っているでありますよ。目にものを見せてやるであります!」
が、吹雪達の耳には全くもって届いていないようだった。

――西館1階、食堂。

「ふんふふーん♪」
 厨房では【魔法少女コスチューム】を身に纏った崎島 奈月(さきしま・なつき)が鼻歌交じりで鍋をかきまぜる。中身はくつくつと煮込まれたカレーだ。
「こんなもんかな? ね、どう思う?」
 奈月に尋ねられ、ヒメリ・パシュート(ひめり・ぱしゅーと)は一口味を見ると一度頷いた。
「んー……こんなもんじゃないのぉ?」
「おっけー、それじゃもうちょっと煮込んでいくね」
 奈月が焦げ付かないよう、鍋をかきまぜる。厨房にカレーの香りが漂っていた。
「人の家上り込んで勝手にカレー作るっていうのも中々の度胸ですわね」
 そんな奈月たちを見て、アシェルタ・ビアジーニ(あしぇるた・びあじーに)が呆れた様に言う。
「人の家上り込んで勝手に冷蔵庫のケーキ食べてるアシェルタが言っていいセリフじゃないよねー」
「そうよねぇ……厚かましいわよねぇ……ふふっ」

 ケーキ片手にむっしゃむっしゃかっ食らうアシェルタをミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)が咎めるわけではなく、軽く小馬鹿にするように笑う。
「あら、わたくしは何もしていないわけではないんですわよ? 一応【慈悲のフラワシ】を待機させていますわ」
 失敬な、という態度でケーキをかっ食らうアシェルタ。一応補足しておくと、待機させているだけで働かせているわけではないのでそこまでドヤ顔できる立場ではない。働け。
「結構カレーの匂いって広がるもんなんだな」
「こっちの方まで漂って来てるよ」
 その時、食堂を探索していた世納 修也(せのう・しゅうや)ルエラ・アークライト(るえら・あーくらいと)が厨房に戻ってくる。
「あ、お帰りー。そっちはどうだった?」
「いや、不発だ。食堂なら無くした時用の鍵でもあるかと思ったが」
 修也が溜息を吐きつつ、先程厨房から拝借した麺棒で軽く肩を叩く。武器代わりになると思って持って行った物だ。
「思ったより何もなかったね……もうちょっと武器になる物があれば良かったんだけどな」
 そう言ってルエラが修也と同様に武器代わりにしていた麺棒を見る。流石にこれを武器にするのは少々心許ない。
「ふっふっふ、こっちは大量であったよ」
 そうってホクホク顔の毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が食糧庫から現れる。手には小麦粉と酒瓶があった。
「小麦粉? 小麦粉なんて何するの?」
「まぁ、その内解るさ」
 首を傾げるルエラに、大佐が答える。
「ふぅむ、匂いねぇ……」
 ふと、漂うカレーの香りを嗅ぎながらミリーが辺りを見回す。
「……あ、みっけ」
 ミリーが見つけた物は、通気口であった。
「どうしたのぉ、ミリー?」
 そんなミリーを見て、フラットが首を傾げる。
「いやさ、こういう通気口って出口になるかなーって思ったんだけどね」
 再度、ミリーが通気口に目を向ける。その通気口は、人が入っても問題なさそうなそこそこ大きい物であった。
「まぁこんなあからさまに人が通れるレベルの通気口なんて怪しいよねぶぁッ!?」
 突如、通気口の扉が吹き飛びミリーを壁に叩きつけた。
「あ、マジだ。カレーの匂いするわ」
「だろ? 俺間違ってなかったろ?」
「……っておい! 侵入者じゃねーか!」
 そこから現れたのは、3名の武装した根暗モーフであった。
「ど、どうしよう修也!?」
「ちぃッ! とにかく逃げるぞ!」
 ルエラの手を引き、修也が走り出す。厨房を抜け、食堂へと出ると何か白い物が漂っていた。
「ん? 何これ……?」
 ルエラが問うが、誰も答えない。まるで霧の様に漂う物を抜けると、そこには火炎放射器を構える大佐が居た。
「点火ァーッ!」
 そして、霧に向かって放射。
 火炎放射器の炎は通常の火力より遥かに劣っていたが、炎は射出された。炎は漂っている霧――小麦粉に点火される。
 空気中に漂う小麦粉の粒子が、次々に燃え広がる。僅かだった炎はドンドン広がり結果、まるで爆発したかのように炎が広がった。
「「「危ねぇッ!?」」」
 その炎をのけ反って避ける根暗モーフ。だが、その一瞬で既に大佐と修也とルエラとは追いつけない距離ができていた。
「そのうち解ると言っただろう? あれが答えだ」
 逃げながらルエラにドヤ顔で言う大佐。
「あ、あれ危なかったよ!? ボク達も燃える所だったよ!?」
 わなわなと先程の危機にルエラは身を震わせる。
「なぁに、助かった幸福を噛みしめるがいいさ」
「それそっちが言っていいセリフじゃないだろ……」
 溜息を吐きつつ、修也が呟いた。

「あーあぶねぇ……」
「何だよアイツら……超こえぇ……」
 根暗モーフ達が先程の出来事を思い返し、身を震わせる。辺りはまだ焦げ臭い。
「それよりどうする、逃がしちまったけど」
「うーん……ん?」
 根暗モーフが厨房を振り返る。
「わぁミリー、とっても無様よぉ」
 壁に叩きつけられ、ピクピクと痙攣するミリーを見てフラットが愉しそうに笑う。いやちょっとは助けろ。
「あー、ケーキ美味しいですわー」
 本日何個目かわからぬケーキをかっ食らうアシェルタ。お前は働け。
「あ、カレー食べる?」
 カレーを器によそい、差し出す奈月。人の家で何している。
「……あー眠い」
 そして奈月の横で眠そうにしているヒメリ。もうちょい危機感を持とう。
「……とりあえず、こいつら確保だな」
 呆れた様に、根暗モーフが言った。