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第五章


――裏口。

 一通りの探索を終え、そろそろ本格的に脱出を始める事になった。
 一部の者達が根暗モーフを陽動している間に脱出路を確保する、という話になり、他に脱出路が見つからなかったことにより裏口の扉の開錠を試みる事となる。
 そして現在閉ざされた扉の前にアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)金元 ななな(かねもと・ななな)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)九条 レオン(くじょう・れおん)、そしてマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)が集まっていた。

「さて……集まったのはいいんだけど……」
 扉を前にして、アゾートが腕を組み唸る。
「どうやって開ければいいんだろ……」
 アゾートがノブを捻るが、扉は開かない。過去の出来事から、横にスライド出来るかと思ったがそんなことは無かった。
「えーっと、鍵とか見つけた人ー?」
 なななが集まった面々に問いかけるが、誰も手を挙げない。
「困ったなー……どうしようか……」
 なななが困ったように呟いた。
「壊そう……って言っても難しいよねこれ」
 九条が扉を見て唸った。扉は他の部屋と違い、木製ではなく金属製である。
「鍵開けとかできないし……どうしようか……」
 美羽も腕を組み唸るが、答えは出ない。
「うーん……もう一度探索しなおす時間もないし……ん?」
 ふと、アゾートがノブの下に何かあるのを目にする。
「……んー?」
 よく見ると、それはツマミの様であった。
「どうしたの?」
 その様子を見て不思議そうになななが問うが、アゾートは黙ったままつまみを捻った。

――カチャリ、という音がして、ノブを捻ると呆気なく扉は開かれた。

「……うん、そうだよね……家の中なんだから、内側から開けるのに鍵って普通いらないんだよね……
「そう言えばそうだよね……普通ね……」
 ろくでもないオチにこめかみを押さえるアゾートとななな。本当にろくでもないオチだ。
「と、とにかく開いたんだからいいんじゃない? 早く出ようよ」
 九条に促され、外へと足を踏み出す。
「そうだね、その前に他の皆も伝え――」
 美羽の言葉を遮り、館内から声が聞こえる。主にヒャッハー系の。声の主は聞き覚えのある方々だ。
「――なくていいね」
 美羽の言葉に一同が頷く。下手するとこちらが被害者になりかねない。
「それじゃ外でピザでも食べる? 持ってきたけど使わなかったし」
「たべるー!」
 コハクの【宅配ピザ】を見て、レオンが目を輝かせる。
「っと、その前に皆さん、ちょっとやりたい事があるのですが、手を貸していただけませんか?」
 ふと、何かを思い出したようにマルティナがポン、と手を叩いた。

――館内。

「そぉら! 撃たれたい奴はかかってこいや!」
 陽動作戦に参加した柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)エグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が改造した電動釘打ち機を構えつつ根暗モーフから逃げる。
 危険な釘打ち機を前に、根暗モーフ達も中々手を出せず防戦状態になっている。
「主、奴らが集まってきてます」
 エグゼリカに言われ、恭也がちらりと背後を見ると、追っている根暗モーフの数は続々と増えている。
「よし、そろそろこいつの出番か」
 そうって恭也が荷物から作成した爆弾を探す。
「これは……ッ! 主!」
 そして、爆弾を探す恭也は気づかなかった。周囲に漂う小麦粉と、笑みを浮かべて【ドワーフの火炎放射器】を構える毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の姿に。
「汚物は消毒だぁ―ッ!」
 大佐が火を放つ。恭也ごと。
「ぎゃあああああああああああ!」
 空中に漂う小麦粉の粒子が放たれた火に着火。一瞬にして大きな炎と化し、根暗モーフを飲み込んだ。恭也ごと。
「あ……あ、あなたは一体なんてことをしてんだ! 主が! 主がぁ!」
 エグゼリカが大佐の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「てへぺろ(・ω<)」
 この大佐、全く反省の色が無い……!
「そんな事より、まだ集まってきているな」
 ちらりと大佐が横目で、集まりつつある根暗モーフを見る。
「そんな事で済まそうとするな……ん?」
 ふと、エグゼリカが足元に転がる物を目にする。
 それは、先程まで恭也が探していた爆弾。
「「え」」
 気づいた時にはもう遅い。
「「ぎゃあああああああああああ!」」
 爆弾の爆風が、二人を飲み込む。
 そして、大佐が持っていたタンクが破損。中から溢れたガソリンは周囲にばら撒かれ、爆発の際生じた火が着いた。
 結果、あっと言う間に館に火の手が広まっていった。

「消火活動はどうだ!?」
「駄目だ! 火が回るのが早すぎる!」
 報告を聞き、リーダーが歯を軋ませる。作りが古い洋館はあっという間に火の手が回り、最早全体に回るのも時間の問題だ。
「早く逃げた方がいいと思いますよ。もうそろそろ時間ですし」
 そんな根暗モーフに、エルが釘角材で肩を軽く叩きながら言う。
「時間? 何の時間だ?」
「いえ、ちょっと厨房に爆弾を仕掛けさせていただきまして。駄目押しでガスも充満させておきましたからよく燃えると思いますよ。この手の館は最後、炎上させるのがお約束ですからね。まぁ他に火の手が出たのが予想外でしたが」
 そう言った直後、館の何処かからか爆発音がして地響きが起こる。
「では、失礼します」
 そう言うとエルはガラスをぶち破り、外へと飛び出した。
「ッ! た、退却ぅーッ!」
 一瞬、呆気にとられたリーダーだったが、すぐに他の根暗モーフ達へ退却命令を下した。

――根暗モーフ達が命からがら外へと逃げ出す頃には、館全体に火の手が回っていた。
 火は衰えるどころか、どんどん勢力を増して館を飲み込む。
 そしてさほど時間もかけずに火で包まれた。それはまるで一本の火柱の様。
 燃え盛る館を見て、リーダーは膝をついた。そして、問う。
――一体何故こんな事になったのか。何故、自分たちがこのような目に遭わなくてはならないのか。
 ただ自分達は山奥のこの館で暮らしていただけだ。それが何が原因かはわからないが『この館に幽霊が出る』なんて噂が流れだし、肝試し目的で不法侵入者が現れだし、自分達の安住は破られた。
 勝手に入り、面白半分で館を荒らされる。それを防ぐ為に武装し、侵入者たちを捕まえるようになっていた。

「俺達は……ただ……働かず毎日ゴロゴロして楽しく暮らしていたかっただけなのに……サボって昼まで寝ていたいだけなのに……いつか二次元に行けるって信じているだけなのに……! それの一体何がいけないというんだ!」

 悲鳴のような叫びが、木霊した。悲しい、一人の漢の叫びであった。

「何もわかっていないようですね」
 そんな根暗モーフに、エルが首を横に振りながら言った。
「わかっていないだと? 一体何を……」
「その己の怠惰が原因だという事です。引きこもり、外に出ないため世間からは生きているのか死んでいるのか認識されなかったから、幽霊が出るなんて噂を流されたのではないでしょうか?」
「なん……だ……と……!?」
「原因は俺達……だった……のか!?」
 根暗モーフ達が衝撃を受けた様に全身を強張らせ、呟く。
「貴方達は自宅という殻を失いました。しかしこれは好機であるとも言えます。貴方達がもう一度生まれ変わる好機……もう一度立ち直り、今度こそ世間から隔離などせず穏やかな暮らしを手に入れましょう」
 優しく言うエルに、黙ってうつむいたままの根暗モーフ達であったが、やがて何か決意したかのように顔を上げ、言った。
「「「「だが働きたくはないでござる」」」」
「まずはそのふざけた考えを消毒するッ!」

「ぎゃああああああああ!!」
 そしてエルが何処かから持ち出した火炎放射器により、根暗モーフ達が火に包まれた。館から離れたせいか、武装も効力を取り戻していた。
 炎に飲まれ、次々と倒れる同胞を見て、自身も燃えながらも尚リーダーは立っていた。
「おのれ……許さん……許さんぞ! 俺は倒れぬ! まだ心は折れてない! 目にものを見せてくれ……ん?」
 視界の隅に、何かが映り込む。
 それは木々で枠組みされた簡易的な炉。中央に薪の様な物がくべられ、そこから火が上がっている。神社でもやっている護摩のような光景であった。
「さーてどんどん御焚き上げしましょうねー」
 その炉に、マルティナが次々と何か――館の中で手に入れたグッズを放り込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何してくれちゃってんのあの人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
 リーダーが悲鳴のような声で叫ぶ。だがいとも容易く行われるえげつない行為は止まらない。
「燃やすのは惜しいですが、こういう文化に触れるのも悪くはありませんね」
「どんどん燃やしちゃいましょう。跡形も何も残らないくらいに」
 同じくロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)も館内でゲットして今までずっと抱えていたフィギュアなどをどんどん放り込む。
「火力が弱いですね」
 そして、エルの火炎放射器によるダメ押しで火の手は更に勢いを上げ、遂には全てを塵へと返す。
 己が大事にしていた物全てを失った今、リーダーの心はバッキバキに折られていた。
「……もうゴールしてもいいよね?」
 そう呟くと、顔面から倒れてピクリとも動けなくなる。完全なるオーバーキルであった。

――炎は館の全てを呑みつくし、やがて勢いを失い自然に消えた。
 残ったのはかつて館であった瓦礫の山。最早面影は無い。
 その瓦礫を、エルが寂しげに見つめていた。
「根暗モーフ達……彼らの行為は正しいとは言えませんが、全て悪いとも言えません」
 ぽつりと呟く。
「勝手に自宅を肝試しの場として扱われ、安住の地を荒らされた……彼らは彼らなりに、安住の地を守ろうとしていただけなのでしょう……彼らもまた、被害者であると言えます……正義とは難しい物です」
 そして、黙ってうつむいた。
 その言葉を聞いてアゾートとなななは『少なくともコイツは正義とは言えないんじゃないか』と漠然と思ったのだが、あえて口にはしなかった。
「……あれ? そういや何か忘れている気がする」
「……そう言われれば、何か大事な事を忘れているような……」
 だが、アゾートとなななは思い出せず、首を傾げながらも石村邸を後にするのであった。