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天の川よりの巨乳X襲来!?

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天の川よりの巨乳X襲来!?
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リアクション


【七 アタック・オブ・ザ・きょぬーんズ】

 案の定、ルシェンはあれだけの長身美人であり、且つマッチョマンポーズが大いに受けた為、無事に予選を通過した。
 その一方で、緒戦から涙を呑んだ者も居る。
 例えば下川 忍(しもかわ・しのぶ)の場合、情報戦での失敗が、そのまま予選の結果となってしまった。
 846プロ事務所の仕事して、今回の水着コンテスト女子の部にエントリーされていた忍は、当初は胸パットを仕込んでの参戦予定だったのだが、急遽思い直し、件の五色の浜にてきょぬー化を施してからトライすべし、と考えた。
 これが、そもそもの失敗だった。
 水着コンテスト予選が始まる少し前、桃色の海に身を浸した忍は、海から上がろうとして、己の肉体変化が予想外のところに現れていたことに愕然となった。
「そ……そんな……!」
 忍は一瞬、海から出られなかった。
 出てしまえば、大変なことになってしまう――きょぬー化に失敗しただけではなく、この海域は忍にとって、致命的な一撃を与えていた。
 何とか別の色の海域に移動して事無きを得た忍だったが、この時に受けた精神的ダメージは隠しようもなく、予選での意気消沈とした様子が、そのまま点数に跳ね返ってしまった。
 結果、忍は予選で敗退した。
 全ては、己のリサーチミスだった。
 予選終了後の忍の落ち込みようは、傍から見ていても気の毒な程であった。
 自らのナチュラルな体型と、か弱さとおしとやかさを前面に押し出して予選突破を勝ち得たマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)などは、忍の消沈した様子がひどく気にかかり、本選前のインターバルを利用して、静かに声をかけてきた。
「あの……大丈夫ですか?」
 マルティナに呼び止められた忍だが、その反応はいまいち鈍い。
 そもそも、マルティナの声が耳に届いているのかも、若干怪しかった。
 だがこの時、忍のどんよりと沈んだ気分に、すっと馴染むようにして入り込んでくる歌声が、どこかから聞こえてきた。
 マルティナの耳にも、その歌声が聞こえてきている。
「この歌声は……あそこから、聞こえてきているようですね」
 五色の浜のすぐ近くに広がる岩場に、三つの人影が見える。
 忍は、風に乗って流れてくるこの歌声を聴いているうちに、それまで波立っていた自身の心が、次第に落ち着いてくるのを感じた。
 歌は、ひとの心を癒す、といわれている。
 図らずもその事実を、忍は自分自身の体験として実証する形となった。
「どんなひと達が歌ってるのかな……ちょっと、行ってきます」
 いうが早いか、忍は駆け出していった。

 岩場で歌声を紡いでいたのは、マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)であった。
 笹飾りくんへの感謝の気持ちを柔らかなメロディーに乗せて、自作の歌詞を歌い上げていたのである。
 左右には保護者担当の早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と、カメラマンを買って出たヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の姿がある。
 いずれも、マユの歌作りを手伝う、或いは諸々の面でサポートする為に、同伴してきていた。
 時折マユが、撮影されていることを意識してもじもじする場面もあったが、ヘルが笑顔で、
「あー、そのままそのまま。自然にしてれば良いから」
 と、その都度声をかけてやっていた。
 実のところマユは、優れた歌い手であるラナに、自作の歌詞とメロディーを添削してもらいたかった。
 が、ラナの方はまだ、マッサージ講座が忙しい為、手が離せそうにもない。
 一応、呼雪がマッサージ講座に出向いてラナと交渉し、マユの歌作りのサポートを事前に頼み込んである。ラナは快諾してくれたが、手の空く時間がいつになるのかについては、まだはっきりとは分からない、とのことであった。
「それにしても、笹飾りくんって実は、相当な実力者なんだな……」
「……だよなぁ〜。まさか本当に、星を落としてくるなんて思っても見なかったよ」
 マユが歌詞の内容を必死にチェックしている傍らで、呼雪とヘルは、未だ波打ち際の少し向こう側の位置に突き刺さっている星型の巨大物体を呆れたように眺め、互いに苦笑を漏らしている。
 と、そこへ――。
「お待たせしました、今は、どのような按排でしょうか?」
 岩場の陰から、ラナがひょっこり顔を出した。
 微妙に足場が悪く、若干ふらふらしながら歩いてくる為、胸のふくらみがたゆんたゆんと揺れに揺れているのだが、呼雪達三人は健全なのか、或いは全く逆なのか、ラナの自己主張してやまない巨乳に対しては、然程に意識することはなかった。
「わぁ……本当に来てくれたんですね! ありがとぅございますっ」
 マユが心底嬉しそうに面をぱっと明るい色に染めて、何度も頭を下げた。
 ラナは気恥ずかしそうに頭を掻き、いえいえとんでもない、と小さく掌を振った。
「丁度今、講座の方は各参加者の皆様に、自由に実践して頂くフリータイムに入りましたので、こちらにお邪魔させて頂きました。少し聞かせて頂いたのですが、とっても良い歌に仕上がりつつあるみたいですね」
 予想外の高評価に、マユのみならず、呼雪やヘルまでが幾分興奮して目を輝かせた。
 ラナ曰く、マユの作った歌は歌詞・メロディーとも基本は既に完成しており、後はビブラートや音程の微調整程度で良いのではないか、とのことであった。
「笹飾りさんへの感謝の気持ちに溢れた、とても良い歌だと思います。歌は、そりゃ技術や知識も多少は必要ですけど、最後に必要なのは矢張り、歌い手の心なのではないでしょうか」
 呼雪とヘルは、改めて感心する思いで、ラナの美貌をまじまじと眺めた。
 ラナ程の実績のある吟遊詩人でも、心を重視するという基本を常に忘れないという姿勢を持っている。
 昨今の、技術的な面に走りがちな音楽業界に、ある意味では一石を投じるのではないか、とさえ思えた。
「ありがとうございます、ラナさん……完成したら僕、笹飾りさんの為に一所懸命、歌います!」
「その時は是非、私もご一緒させてくださいな」
 この言葉は決して、社交辞令でも何でもなく、ラナ自身の本心であった。

 岩場ではマユとラナの暖かな親交が実を結ぼうとしていたが、浜辺は逆に、いささかカオスな展開に陥ろうとしている。
 オーッ! マイッ! ガーッ!
 というような悲鳴が飛び出してきそうな、実に悲壮な表情で、姫宮 みこと(ひめみや・みこと)早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が五色の浜の砂上に愕然と立ち尽くしている。
 ふたりは、これまでの様々な葛藤に打ち勝つべく、自ら志願して五色に輝く海域へと身を投じていった。
 たとえ一日だけでも良いから、コンプレックスから解放されたい。本来あるべき姿の自分を、心ゆくまで堪能したい。
 そんな切なる思いで五色の浜へと姿を現したみことと蘭丸だが、その思いは無残に引き裂かれた。
「みこと……ちょ、ちょっと……その、格好……」
「蘭丸さんも……あぁ、そんな……」
 みことと蘭丸は海面上で互いの姿を指差しあい、わなわなと震え続けている。
 それもその筈で、みことも蘭丸も、それまでとはまるで似ても似つかぬ容貌に変わり果ててしまっていたのである。
「どう見ても、それって……」
「お、お、お……おっさん……」
 海水に浸かるまでは、みことも蘭丸も愛らしい少女、という外観だったのだが、頭から色のついた海水に浸かり、次に浮上した時には、ふたり揃って『おっさん』になってしまっていたのである。
 更にあろうことか、胸周りと腰周りはそれなりに発達し、ウェストはきゅっとくびれている。
 いわば、ボン・キュッ・ボンのゴージャスバディーを獲得したのではあるが、しかし顔立ちが妙におっさんっぽくなってしまっていたのである。
 これは一体、どういうことであろう。
「そ、そうだわ、みこと、こう考えるのよ!」
 蘭丸は、既に精神が半ば崩壊しつつあるのか、突拍子もないことを口にし始めた。
「大阪のおばちゃんってさ、顔はおっさんみたいなひとも大勢いるけど、体は結構、出るとこ出てるよね! だから、あたしたちは今日はおばちゃんで居ようよ!」
「お、お、お、おば、おば、おば、ちゃん……」
 みことは危うく、卒倒しそうになった。いや、本当に卒倒しつつある。もうこのまま、海の底に沈んでしまいたい気分だった。
 と、その時。
「うぬら、大丈夫か? 熱中症にでもなったのか? 気分が悪いならすぐに海から出て、海の家で休憩するが良かろう」
 浜辺の方から、野太い声が響いてきた。
 見ると、そこに女の漢を現在進行形で突き進んでいる馬場正子の姿があった。
 今の自分達は、まさにあれと同じ状況なのか……そんな思いが浮かんだ途端、みことと蘭丸はふらふらとその場に崩れ落ちてしまった。