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天の川よりの巨乳X襲来!?

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天の川よりの巨乳X襲来!?
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リアクション


【三 ビッチブラック】

 折角開放的な夏の内海に足を延ばしたというのに、いつものように確率計算に勤しむ小暮の姿を、遠目から苦笑しながら眺めている姿がある。
 ハーフパンツの水着とサングラスを着用しているだけであり、その簡易さが却って普段の外観からかけ離れてしまっているが為に、正体を隠すのに一役買っているというのは何とも不思議な話ではあったが、サーフボードを小脇に抱えて小暮の確率計算を眺めているのは、紛れも無く金 鋭峰(じん・るいふぉん)そのひとであった。
「団……じゃなかった、ジンさん! 淵がね、お茶の用意が出来たって!」
 レモンイエローのビキニ姿のルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、鋭峰の背後から呼びかけてきた。
 ルカルカの胸も、相当なサイズである。
 トップスの内側ではち切れんばかりに自己主張しながら大きく揺れており、周囲の男性達の視線などもすっかり釘付けとなっているが、鋭峰はそんなルカルカの色香にはまるで興味を示さず、うむ、と小さく頷き返したのみである。
「それにしても、ジンさんがあんなにサーフィン上手だったなんて、知りませんでした。いつ、練習してたんですか?」
「……別に練習などしておらん。今日が初めてだ」
 これにはルカルカも、驚かざるを得ない。
 実際鋭峰は、プロサーファー並みの技量を発揮して、自在に波を操っていたのだ。
 コントラクターとして何らかの技能を使役したという訳でもなく、ただ純粋に、己の身体能力のみでサーフボードを駆使していたのである。
 驚かない方がおかしい。
「別段、そんな顔をする程のことでもない。お前にでも出来よう」
 軽くいい放ちながら、鋭峰はルカルカを背後に従え、海の家のひとつへと戻ってきた。
 座敷に上がると、夏侯 淵(かこう・えん)が持参した茶器に、人数分の高級茶を淹れているところであった。
「おぉ団ちょ……じゃなくて、ジン殿。まぁ一杯、喉を潤されるが宜しい」
 淵が機嫌良さそうに、茶器のひとつを鋭峰に手渡した。
 鋭峰は意外と丁寧な所作で受け取りながら、ふと、座敷に広げられているカレーライスや焼きそばの皿の群れに視線を落とした。
 その様子に気づいたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、あぁこれか、と説明を加える。
「焼きそばは、俺がその辺を見て廻るついでに買ってきておいたが、カレーは向こうから配って廻ってきた」
 ダリルが指差す方向には、同じ海の家の厨房に立つ、妙な仕草の男の子の姿があった。
 時折、股間を気にするように内股になりながらも、重たい鍋を軽々と操ってカレールゥを溶いているその人物は、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)であった。
 水着を着用しているところを見ると、どうやらこのパラミタ内海に遊びに来たと思われるのだが、そのネージュが何故か、海の家の厨房でカレー作りに没頭している。
 かと思えば、樹乃守 桃音(きのもり・ももん)がそのカレーを発泡スチロール製の皿に白米と一緒に盛り、トレイに何皿も乗せて配り歩いている。要は、味見用の試供品であった。
 ネージュの作ったカレーは好評で、味の良さを知った大勢の海水浴客が、ネージュのカレーを求めて行列を作っていた。

 ネージュのカレーは、確かに美味い。
 が、焼きそばがどうにもいけない。
 ルカルカと淵は取り敢えず箸をつけてみたものの、ふた口目以降はどうにも食べる気が起きなかった。
 それは鋭峰も同様らしく、最初に箸をつけた際、物凄く変な顔をしていた。
「いや、これはどうも失敗だったようだ。残りは俺が責任を持って、平らげる」
 申し訳無さそうに頭を掻くダリルだが、鋭峰の意識は既に、別の方角へと向けられていた。
「あの鉄板は、空いているのか?」
「あぁ……どうでしょう? ちょっと訊いてみますね」
 鋭峰の問いに応じる為、ルカルカは厨房に立つネージュの側へと足を運んだ。
「忙しいところ悪いんだけど……この鉄板、空いてる?」
「うん、空いてるよ〜」
 額に汗をうっすら浮かべながら、ネージュは極上の笑顔で応じた。
 どうやら自身のカレーが思いのほか好評だった為、相当に気分を良くしているようである。桃音も今や試供品ではなく、注文されたカレーを客のもとへ運ぶのに、大忙しであった。
 桃音が新たに受けた注文伝票を何枚も重ねてネージュのもとへ戻ろうとすると、不意に鋭峰が桃音の後ろに張り付くような形で、ネージュとルカルカの居る厨房にまで足を運んできた。
「鉄板が空いているのなら、ひとつ貸して貰おう。焼きそばの具材はあるか?」
 鋭峰のこの問いかけに、ルカルカは即座に、ピンときた。
 シャンバラ教導団の総司令官ともあろう人物が、海の家で焼きそばを焼こうというのである。これは、なかなか見られる光景ではない。
「えぇっと、ボク、ここの正式な従業員じゃないから……」
 桃音は一瞬、困ったように小首を傾げたが、すぐにこの海の家でアルバイトとして雇われている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)を発見し、厨房にまで連れてきた。
 何事かと怪訝な様子で足を運んできた吹雪は、サングラスとハーフパンツという極めて簡素な格好の鋭峰に、度肝を抜かれたように顔をぎょっとさせた。
「うぉっ!? だ、団……」
 そこまでいいかけて、ルカルカが吹雪の口元を手で塞いだ。
(しっ! 今日は、お忍びで来てるの! ここではジンさんって呼んで!)
(あっ……お、お忍びでありますか。了解であります)
 ルカルカに小声で耳打ちされ、吹雪は若干戸惑いの様子ながらも、その指示には異論を挟まない。いわれるがまま、鋭峰を青年ジンさんと呼ぶことにした。
「それでジンさん……焼きそばの具材でありますが、挽肉が少々、足りないかも知れないであります」
「そういうことなら淵、来る途中に見かけたスーパーまでひとっ飛び行ってこい」
 即座に応じたのは、ダリルであった。
 小型飛空艇を出したのはダリルだが、彼は鋭峰とルカルカのサポートという大役を自任している。
 これを受けて、淵があからさまに不満の表情を見せた。
「えぇー。俺がかー?」
 それでもぶつくさいいながら、スーパーまで挽肉を買いに行く淵であった。

 同じ海の家には、久途 侘助(くず・わびすけ)香住 火藍(かすみ・からん)の姿もあった。
 侘助の外観は、いつもより幾つか年が若返っているようにも見える。それもその筈で、侘助は五色の浜のうちでも、肉体が若返るという噂でもちきりの、赤い海域へと頭から飛び込んでいたのである。
 若齢化の効果は思った以上に大きな影響を及ぼしたらしく、それまで着用していたハーフパンツとパーカーがぶかぶかになってしまい、まともに着ていられなくなってしまった。
 そこで火藍が、現在の侘助に合わせて、海の家で販売されている衣服を購入してきたのだが、それがどういう訳か、水連が描かれた女物の浴衣だった。
「なぁ……これしか、無かったのか?」
「いえ、他にも一杯ありました」
 爽やかな笑顔でしれっと答える火藍に、少年・侘助はがっくりと頭を垂れた。
「火藍さ……絶対俺で、遊ぼうと思ってるだろ?」
「えぇ勿論」
 矢張りこれまた、透き通るような笑顔でさらりと応じる火藍。最早、返す言葉も無い。
 恐らくこれから色々と弄り倒されるのだろう、などと考えながら、侘助は思わず、小さな溜息をついた。
「お待たせしました〜」
 と、そこへ桃音が注文のカレーふた皿をトレイに乗せて足を運んできた。桃音は桃音で、侘助と火藍の間に流れる微妙な空気を察したのか、代金を受け取ると、そそくさとその場を去っていってしまった。
 折角の助け舟が、侘助を全く救う気配も見せずにさっさと逃げて行ってしまったので、侘助は心底、困り果ててしまった。
 一方の火藍はカレー皿を受け取るや、ひと口分をスプーンで掬い、侘助の口元へと運ぶ。
「はい、あ〜ん」
「いやちょっと、おい、なぁ、それ、マジで勘弁……」
 侘助を子ども扱いするどころでは終わらず、今や完全に保護者然としてきた火藍に、侘助は内心で頭を抱えてしまった。
 この調子だと、本当に一日中、火藍のお人形さんになってしまうかも知れない。
 と、そこへ。
「ふむ……この濃厚な香り。そのカレー、なかなか侮れないようネ」
 何故か、笹飾りくんのコスプレ(?)に身を包んだキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が、軒先から座敷内を覗き込むような格好で、火藍の手元をじっと凝視している。
 今回は水着コンテストの審査員として五色の浜を訪れていたキャンディスだが、相変わらず、パートナーの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は百合園女学院の敷地からは一歩も出ようとはしない為、今回も単独でパラミタ内海にまで足を運んできたようである。
 ただ、水着コンテストまではまだ少し時間がある為、笹飾りくんの格好のまま、そこかしこを適当に歩いていたら、海の家でいちゃつく(?)侘助と火藍の姿、ではなく、火藍の手元にあるカレーに目が留まったのだ。
 今度こその救いの手が……と期待した侘助だが、キャンディスの姿はどう見ても救世主のそれとは思えず、そのガッカリ感はちょっと普通ではいい表せない。
 一方のキャンディスは、カレー皿を配って歩く桃音の姿に、視線を転じた。
「あの子が配って歩いて……っていうか、厨房に立ってるのは百合園団の子じゃなくって?」
 厨房でカレー作りに没頭するネージュの姿を認めたキャンディスだが、いつもとは若干異なる雰囲気を見せているところに、幾分の違和感を覚えた。
「……まぁ、何でも良いワ。黄色いお菓子を食する前に、カレーを味わうのも一興ってものヨ」
 どことなく意味深な台詞を口にしながら、矢張りキャンディスも侘助を救おうという姿勢はこれっぽっちも見せず、そそくさと厨房付近の座敷へと去っていってしまった。
「助けは、来ない。俺はひとり、死地で戦い続けるのみ」
「はい、あ〜ん」
 侘助の独白も、火藍の差し出すスプーンの前では一切、無力に等しい。