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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

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◆その3 勝手に魔乳狩人DX
 

『今宵、貴女のパイ拓をいただきにあがります。 四代目 二十面相』
「……」
 その日……。
 空京の神社で行われる夏のお祭りへと行こうとしていた泉 美緒(いずみ・みお)は部屋に届けられていた予告状に、困った様子で立ち尽くしていた。
 なんなのだろうか、これは……? とても不気味でどう対応していいかわからなかった。
 二十面相の名前くらいなら、いくら世間知らずな美緒でも聞いたことがある。予告状を出してお宝を盗む怪盗だったような……?
 美緒は首をかしげる。どうしてこんな予告状が……?
「何を盗むおつもりなのでしょうか……」
「それは……あなたの、ココですわ」
 手紙を覗き込みながら、美緒の胸を指差したのは、百合園学園生の城 観月季(じょう・みつき)だった。
 観月季は、空京で行われるお祭りに美緒と一緒に行こうと誘っていたところであった。良家の令嬢として胸も心も豊かに育った観月季は、すでに百合模様の浴衣に着替え、美緒と張り合えるくらいの胸を際立たせていた。
「今夜のお祭りでは、胸の大きさを競うイベントが行われるそうですわ。なんでも狼と羊に分かれて胸の形を取り合うの猟奇的な競技で、すでに大勢のハンターがエントリーして待ち構えているとか」
「ええっ、そうなんですか!?」
 真顔の観月季に、美緒は驚いて目を丸くした。
「この予告状の主も、参加者の一人でしょう。美緒さん、あなたの胸は狙われているのですわ。恐ろしいですわね……」
 リア充爆発しろ、のフリーテロリストの話を聞いていなかった観月季と美緒は、お互いの胸を比べるように合わせて見詰め合った。どちらも負けず劣らず、見事な果実がたわわに揺れる。
「わたくし……、お祭りに行かない方がいいでしょうか? 待ち合わせもしているのですけど」
 怯える美緒に、観月季はきっぱりと言う。
「いいえ、むしろ行くべきですわ。お祭りに行って、あなたの胸を狙う敵を討ち取るのです。攻めは最大の防御といいますし、勝ち残れば問題はありません」
「う、討ち取るって……。お恥かしながら、わたくしあまり戦うのは得意ではありません」
「確かに……はちきれんばかりの前の膨らみは、戦闘には向いておりませんわね。ですが、ご心配は要りませんわ。こう見えても私、『魔乳狩人・愛憎版』を読破してきたのです。主人公がどういう立ち回りをしてきたかは、わかっています。それを倣いますわよ」
 観月季はドヤ顔でよくわからないことを言った。胸を張ってみせると弾力が自信の程をアピールしてくる。
 観月季は先日、親友から『魔乳狩人』なる本を薦められ、思わず欲しくなり購入した後、一気に読破した。古い作品なので左・右乳編版が手に入らなかったのは少々残念だが、愛憎(愛蔵)版をが手に入ったので問題ない。これで、勝てる!
 実のところ、彼女も事情を今ひとつよくわかっていなかった。お祭りに変なイベントが行われると風の噂で小耳に挟み、それを勝手に脳内変換して判断しただけだった。
 予告状が来ていたのは予想外だったが、状況が変わったわけではない。
「猟奇的なイベントですので、作戦を立てないとすぐにやられてしまいます。敵を血染めにして胸の拓を真っ赤に染めてやるのです」
「ち、血染め……!」
「……痛いのはいやなので、ケチャップを用意してきましたの。敵は墨を使うそうですから、赤と黒の饗宴ですのね」
「はあ……」
 紙とケチャップを受け取った美緒が釈然としない様子で頷いたときだった。
「あら、あなたもやってきていたのですわね」
 観月季は向こうからやってきた、親友のルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)を見つけて微笑んだ。どれくらい親しいかと言うと、観月季は愛読書の『魔乳狩人・愛憎版』をルゥに薦められた仲なのである。魔乳が素晴らしいと。特に魔乳が見所だと。二人で胸を弾ませながら熱く語り合った間柄であった。
「……あら、こんなところで出会うなんて奇遇ね」
 観月季に声をかけられたルゥは、一瞬、警戒するようにピクリと反応したのがわかった。だが、何事もなかったかのように微笑み返してくる。
「私たちも、これからお祭りに行くところなの。よかったら一緒にどう?」
「……」
 観月季は顔に笑みをたたえながらも、ルゥが日傘代わりにさしていた【戦闘用ビーチパラソル】の影に小さな墨の瓶を隠したのを見逃さなかった。相手が友好的なのは、こちらを油断させて不意打ちするつもりなのだ。もちろん、観月季もそのつもりなのだけど。
 隙あれば相手の真っ赤なパイ拓を取ってやるつもりで、観月季も自前のケチャップをこっそりと装備していた。聖典『魔乳狩人・愛憎版』の教えであった。
「あら、今夜は雅羅さんもご一緒なのね」
 観月季は、ルゥの少し後ろで油断のない目つきをしている雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を見つけ、こちらにも優雅に挨拶をする。
「……」
 水色の浴衣姿の雅羅は、警戒した表情で観月季を見つめ返し、腕で胸元をかばいながらわずかに身構える。
「どうなさったの、雅羅さん?」
「……」
 雅羅は知っていた。自分がとんでもない災難体質であることを。油断していたら、いつどこでどんなロクでもない出来事に巻き込まれるかを。決して気を許してはいけない。
 今日も今日とて、学校帰りにルゥに誘われてお祭りに来ることにしたのだが。ルゥ曰く、おかしなイベントが催されているというではないか。
「……パイ拓ってなに? ねえ、胸の形を拓にとって何かいいことあるの? バカなの、死ぬの?」
「ええ、奴らはバカなのよ。死ぬ気まんまんみたいだから、返り討ちにしてやりましょう」
 ルゥと雅羅は、ひとしきりわぁわぁと騒いだ挙句、神社に来る途中にも敵に襲われても身を守れるようにがっちりとコンビを組んできたのであった。出会う人が全て、自分たちの胸を狙う敵に見えていた。敵にやられる前にやるのだ!
 彼女らもまた、盛大に勘違いをしていた。テロの噂を聞きかじり、パイ拓を集めているという情報不確定のまま脳内変換した結果、お祭りで狼と羊に別れてのハントが行われていると結論付けていたのだ。
「……」
 観月季とルゥは態度は親しげだが、目が全然笑っていなかった。猟奇的なイベントだ。親友と言えどもいつ態度を豹変させて襲い掛かってくるかわからない。二人とも緊張感をみなぎらせ、じっとりと汗をかいているのは秘密だった。
 すぐ後ろでは、美緒と雅羅がお互いちらちらと視線を交わしながら、不安と親しさを織り交ぜたなんとも言えない複雑な表情で歩いている。
 と、その時だった。
「……!」
 ルゥが無言で動いた。獲物を見つけたのだ。
 道の反対側、お祭りに行くのだろうと思われる、見たことのない女の子に、ルゥは接近する。
「な……!?」
 相手の隙をつき、足払いで体勢を崩すして襲い掛かった。
「覚悟!」
「きゃあああっっ!」
「あ、あわわ、なんだかわからないうちに始まってしまいましたわ……」
 美緒が怯えて後ずさりながら、両手で顔を隠す。
 それくらいの早業だった。
 見知らぬ女子生徒から、パイ拓第一号を手に入れたルゥは、全身ポーズで勝鬨を上げた。地面に座りこんでしくしく泣いている被害者の女子生徒は置いておいて、更なる獲物を求めて奥へと進んでいく。バシバシ……、と戦闘音が聞こえてきた。
「動く奴は獲物だ。動かない奴は訓練された獲物だ……! 狩ってやる狩ってやる」
「ええええ、あれ目がイッちゃってるんだけど、大丈夫なの?」
 ゲームにのめりこみ熱中して周りが見えなくなったルゥを、雅羅は心配げに見やる。
「いいよの。さあ、私たちも、頑張りましょう!」
 観月季が美緒と雅羅を連れてゲームを開始しようとすると。
「仕返しよっ!」
 ルゥに拓を取られた見知らぬ女子生徒が、すぐに気を取り直して怒って飛び掛ってくる。彼女自身がされたように、観月季に低い回し蹴りを放ってきた。
「……!」
 スローモーションを見ているようだった。
 ノーマークと完全に油断していた観月季は体勢を崩す。倒れまいとたたらを踏みながら、両手は反射的につかまるものを探していた。
 ずるり! 鈍い衣擦れの音。観月季の両手は助けを求めて雅羅の浴衣をつかんでいた。そのまま、浴衣をずり落とそうとする。
「!」
 雅羅は観月季の手から逃れようと身をよじった。とっさとはいえその身の捻りは鋭く、今度は雅羅が観月季を投げるような体勢になる。
 どうっ、と二人はそのまま地面に倒れこんだ。受身を取ろうと手を伸ばした雅羅は弾みで観月季の浴衣の襟に手をかけてしまう。
 べろり! 派手にめくれる観月季の浴衣。
「あ……」
「えっ……」
 観月季と雅羅は浴衣の上半身が脱げ、弾力豊かな果実をあらわにしたまま、押しつけあうようにして地面に転がる。ついでに裾もバリ割れだ。
 仰向けに倒れた雅羅を観月季が覆いかぶさる姿勢で、一瞬時間が止まった。
 言っておくが、全て不可抗力である! 
「……」
「……」
「ふん、ざまあみなさい!」
 さっきの女子生徒は、仕返しを終えると向こうへ去っていった。
「……」
「……」
 胸丸出しでたわわんと弾ませあった観月季と雅羅が、呆気に取られて見詰め合う。
「き……」
 雅羅が悲鳴を上げるよりも先に。
「待てゴルァ! このテロリストが!」
「うわぁぁぁん、ごめんなさい!」
 狩りに出ていたルゥが、警備員に追いかけられて凄い勢いで戻ってきた。さすがに、通り魔的犯行に、警備メンバーが動き出したらしい。「ゲームだと勘違いしていました」では許してくれず、マジ怒りだ。
「ひいいいいっっ!?」
 背後から容赦なく飛んでくる無数の矢に、さすがのルゥも涙目で助けを求める。浴衣に下駄では上手く走れない。一直線に観月季たちの方へと駆け寄ってきたルゥは、つまずいて……。
ぼふり!
「えっ!?」
 なすすべもなく立ち尽くしていた美緒の胸の間に顔を突っ込ませていた。
「きゃあああっっ!?」
 美緒が悲鳴を上げ、手に持っていたケチャップを握りつぶす。
ぶりゅっべちゃべちゃ……!
 豪快な発射音を伴って、ケチャップはぶちまけられていた。
 顔面シャワーだった。ルゥと美緒は頭からトロついた粘液を被り、その場に硬直する。胸の谷間に顔をうずめたまま。
 言っておくが、全て不可抗力である!
「……」
「……」
 なんともいえない空気の中、警備に当たっていたスタッフの一人がこちらにやってきた。
「……なにをやってんだよ、お前ら?」
 惨状を半眼で見やりながら聞いてきたのは、【黒狼の刃】の異名を取るオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。彼女もまた、弾けんばかりの見事な胸の持ち主だ。
 オルフィナは、本来の持ち場である肝試しの警備に向かう途中、ドタバタ騒いでいるルゥを見つけて他の警備員と一緒に追いかけてきたのだ。テロリストではないのはわかったが、あまり悪ふざけが過ぎると、おイタしなければならない。
「全く、ただでさえフリーテロリストを名乗る連中が暴れているのに、遊んでちゃだめじゃん!」
「ご、ごめんなさい」
 美緒はしゅんとなってしまった。
 雅羅も観月季もルゥも、慌てて立ち上がり何事もなかったかのように、身を整えなおす。
「……まあ、無事ならいいか。あまりきつく言うつもりはないんだけどさ」
 オルフィナは、すぐに怒りを収めると、雅羅と美緒をまじまじと見詰めて頷く。
「しっかし、アレだな……お前ら、相変わらずいい胸してやがるねぇ」
 オルフィナは、美緒と雅羅の胸を無造作に鷲掴みにした。
「きゃあっ!?」
「な、なにをするんですかっ!?」
 悲鳴を上げて飛びのく、美緒と雅羅。ううう……と胸を腕で隠しながら軽く睨んでくる二人に、オルフィナはニカッとさわやかに笑う。
「ははは、まあ、そんなに怒るなって。胸揉むのは、いい女への挨拶みたいなもんだろ」
 エロ狼で体裁を気にしない黒狼を自負するオルフィナは気にした様子もなく言った。
「そういうことだよ。今夜行われているのは、ゲームなんかじゃないんだ。モテなくて逆恨みをした連中が、カップルや巨乳相手にリア充爆発しろ、とテロをやってるってわけさ」
「……え?」
 ルゥは見る見る顔を赤くした。ものすごい勘違いに恥ずかしくなって、そのまま彼方へと走り去っていく。ケチャップを被ったまま……。彼女の再起を期待しよう。
「え〜っと、それは……」
 まだ、今ひとつ状況が掴めていない観月季に、オルフィナは表情を引き締める。
「ほら、噂をすれば影だよ。お前ら、大切なモンさらけ出したままあまりにも無防備だから、嗅ぎ付けてきやがったのさ」
 オルフィナは、美緒たちをかばうようにして前に出た。
 取り囲むように蠢く無数の気配。間違いない。フリーテロリストの連中のお出ましだった。彼女らが乳プレイをしている間に、数を増やしていたらしい。
「大丈夫だ。そこ動くんじゃないよ」
 オルフィナは、不安げな表情の美緒たちを安心させるように言って、身構える。
 その殺気を合図に、テロリストたちも姿を現し、襲い掛かってきた。
「パイ拓! パイ拓!」
「……残念。だからお前らはいつまでたってもモテないんだよ」
 オルフィナは、ザコどもなどに用はないとばかりに容赦なく撃破していく。数が多いとはいえ、女の子の胸に触りたいだけの烏合の衆だ。
「ああ、惨めだねぇ……。なんて可愛そうな連中なんだろう……」
 楽しそうな笑みを浮かべながら、オルフィナは次から次へと出現するフリーテロリストたちを、ぷちぷちと丁寧につぶしていった。
 と……。
「あなた、やりすぎでしょう?」
 今回のテロの首謀者の一人、用宗 たいらがオルフィナの大人気なさに姿を現す。もっと後での決着かと思いきや、いきなりの登場だった。
「私は……、テロは少し見合わせようかと思っていたところなのよ。自主的にお願いして、拓をもらおうと来ただけなのに」
「わけのわからないことを言ってんじゃないよ」
 オルフィナは、問題外といった口調で言って、たいらをじっと見つめやる。
「へえ、おまえが噂の、フラれてやけくそになった非リア女か……?」
「……っ」
「で……なんだよ? テロの首謀者と言うから、どんなアバズレが出てくるのかと思いきや、委員長みたいな真面目っ娘じゃん。やだねぇ……こういう娘は思いつめるから。バカなことやってねぇで、帰って勉強でもしてろよ」
「余計なお世話よ。私だって……けじめくらいはつけられるんだから」
「やれやれ……、一応、逃げるチャンスは与えたし警告はしたんだけどねぇ」
 笑みを浮かべたまま、オルフィナは攻撃を放った。
「……!」
 たいらも、契約者らしく攻撃をかわし応戦してくる。ある程度経験も積んでいるようで、そこそこにできるが、オルフィナを苦戦させるほどではなかった。
「勘弁してくれよ。もうこれ以上遊べないんだけど……」
 少しでも戦闘を楽しもうと、数分間にわたって攻撃の応酬を長引かせていたオルフィナは、痺れを切らしてため息をつく。
「やっぱ、おまえ二流だよ。非リアは非リアらしく、惨めに散るがいいさっ」
「きゃああああっっ!」
 たいらは、オルフィナの渾身の攻撃に耐え切れずあっけなく吹っ飛んだ。更に数発打撃を叩き込んでおいてから、オルフィナはゆっくりとたいらに近づく。
「全然面白くなかったよ。この責任、どう取ってくれるんだい?」
 オルフィナは、地面に倒れ伏したたいらの襟首を掴み持ち上げた。
「……あうう」
 と、ぐったりと力を失いながらも必死で睨みつけてきたのを、オルフィナはフンと鼻で笑う。
「まあ、たまにはこんな華奢なタイプで遊んでみるのもいいか。体型貧相だけど全体的に外見は悪くはないし……」
 なにやら一人呟くオルフィナに、たいらは、えっ、と息を呑む。しっかり着こなした蒼空学園制服の首筋にバスタードソードを差し込まれて、怯えて身をすくめた。
「おっと、動くと肌切るよ。せっかくの獲物は綺麗なまま召し上がりたいもんだからさ、頼むよ」
「ひっ……!?」
ビリリッ……!
 オルフィナの剣は、上から下までたいらの着ていた制服を下着ごと切り裂いていた。前は全開きになり、真っ白な肌と小ぶりな胸があらわになる。
「い、いや、やめて……」
 これから何をされるのかを察したたいらは、両腕で胸を抱えたまま恐怖に地面にぺたりと座り込んだ。目に涙を浮かべ喉の奥から懇願の声を絞り出す。
「おやおや、他人のパイ拓を取るのは平気だけど、自分はいやだって? そうは問屋が卸さないよ。……もっとも、おまえは拓だけじゃすまないけどね」
 お仕置きとして残酷な陵辱を加えようとしていたオルフィナはニィッと笑う。
「……!」
 ふと、強烈な非難の視線を感じてオルフィナは振り返った。
「……」
「……」
 オルフィナの様子を見に来た美緒と雅羅が、ものすごい嫌悪の視線を注いでいた。言葉で止めるられるよりも明らかな制止の視線に、オルフィナはやれやれ、と肩をすくめる。
「おいおい、そんな顔をするなよ。ちょっとおしおきしてやっただけだろ?」
 何事もなかったかのように立ち上がって向き直るオルフィナに、美緒は珍しく嫌な物を見る目で眉根を寄せたまま言う。
「どう見ても、弱った女の子をいたぶっているようにしか見えませんでしたわ。それも……こんな……その辱めを……」
「わかったわかった、俺がやりすぎだったよ。ここまでにするから、許しておくれよ」
 オルフィナは、美緒たちをなだめるように言うと、ぐったりしたままのたいらに向き直る。
「次は、こんなのじゃ済まさないよ。これに懲りたら、家に帰って大人しくお勉強をしていることだね」
「……」
 それだけ言うと、オルフィナは軽く手を振りながら持ち場へと戻っていった。
「あ、あの大丈夫だった……?」
 雅羅は、たいらに駆け寄ると抱き起こす。
「ひどい目にあったわよね。……でも、もうやめようね、こんなこと」
「触らないでよ!」
 たいらは、泣きながら叫ぶ。破れた制服を前でかき合わせると、敵意むき出しの目で美緒と雅羅を見つめた。
「悔しい……。巨乳女、大嫌い! 一度……テロやめようとも思ったけど、もういいわ! パイ拓を、狩りつくす!」
「……」
「……助けてくれてありがとう。あなたたちは、一度だけ見逃すわ……でも、次に会ったら……そのときは……」
 たいらは立ち上がると、よろよろと去っていく。
「……」
 美緒と雅羅は、かけてあげる言葉が見つからず、無言でその場を後にした。
 一度消えかけた、夏のテロが激しく燃え上がるのは、これからであった。



「ふう……。全く、よりにもよってバカげた騒ぎに巻き込まれてしまったものだよ」
 美緒たちから少し離れた所で軽くため息をついたのは、城観月季の弟の城 紅月(じょう・こうげつ)だった。姉の観月季たちが無事に去っていったのを見届けると、改めて当たりの様子を伺う。
 ここは、お祭りの行われる神社近くの通り道。少し細く薄暗くなっているので、悪い連中が潜むには最適だ。
 警備を引き受けていた紅月は、お祭りに参加する人たちが途中で襲われることもなく、無事に送り届けるのが役目であった。
 彼のすぐ近くでは、今だにテロリストたちの気配が蠢いているのがわかった。
 先ほどのオルフェリアの戦闘力に一旦は退却したものの、またやってきたらしい。さすがに、スキルを使って予め奴らの現れる場所を割り出しておいただけのことはある。
「……ああ、こんばんは。今夜はいいお祭りを楽しんで来てね」
 浴衣姿のカップルが笑顔でお辞儀をしてくるのを、紅月も【貴賓への対応】で心地よく見送ってから、すぐさま走る影を追った。カップルを狙って後をつけていた少年を見つけたのだ。細身の、肌がこんがり焼けて褐色の、そこそこのイケメンだった。
「ぐぎぎぎぎ……、こ、この僕も一足先に成果をあげるんだな」
 彼は、黒い三連星の一人、“(自称)がいあ”だった。他の二人は先に祭りにいってしまった。薄情な連中だ。だが、パイ拓くらい一人で取れる。元々、肌の色が黒いと言うだけで大して連帯感などなかった。
「やあ、そんなこじゃれたアイテム持って、お出かけかい? ちょっとこっちへ来ようか」
 墨のたっぷりとしみこんだ大きな紙を構えて忍び寄る“(自称)がいあ”の肩を、紅月はぽんと叩いた。
「!」
“(自称)がいあ”はいきなり攻撃をぶちかましてきた。素人ではなく、戦闘訓練を積んでいるらしい。
「ほんと、悪い奴がいるなぁ……」
 紅月は、【歴戦の必殺術】【アンボーン・テクニック】を駆使して、あっさりと撃退する。こいつ、外見だけに磨きをかけていたので大して強くなかったのだ。
“(自称)がいあ”は倒れながらも、じたばたと恨みつらみを吐き捨てる。
「ぐ、ぐぐぐ……おのれ、リア充め……」
「まだ言っているよ。おまえがモテないのはね、拓とか甘いことを言っているからだよ」
 ニッコリと微笑みながら、紅月は人目につかない路地裏に“(自称)がいあ”を引っ張っていく。
「ち、ちくしょう……放すんだな! 僕にはリア充たちを爆発させる使命が……」
「ああ……、その心配は要らないよ。おまえはこれから満足な時間を過ごすことになるんだからさ。リア充のことなんてすぐに忘れるよ」
 叩きのめしたテロリストに説教かと思いきや、紅月は耳元で優しく囁く。
「ワルイ子にはお仕置きがお約束だよ。甘い夜にしてあげるね?」
「なんだとっ!? ……、お、おおっっ……?」
“(自称)がいあ”はとても気持ちよさそうに身悶え始めた。
 紅月が【吸精幻夜】や【誘惑】などのスキルで、甘い感覚を呼び起こしたからだ。
 紙と墨で拓を取るなどナンセンス。不毛な連中に消えない快感の痕を刻み込んでやるのが彼の目的だった。
「さて、何種類のいい声で鳴いてくれるかな……?」
 もと薔薇学生の彼は、【女帝遊戯の鞭】で甘く打ち据えながら、“(自称)がいあ”と濃密な一時を楽しみ始める。その手並みは見事なもので、“(自称)がいあ”は程なく恍惚とした表情になった。
「ああっっ、ああああっっ……」
「ふふふ……、もっと、啼いてよ。俺を満足させるくらいに。全身がぞくぞくと疼くくらいに……」
「い、いいよぉっ、もっともっとぶってぇぇぇぇっっ」
“(自称)がいあ”の甘い声が路地裏に響き渡る。
 黒い三連星の一人、“(自称)がいあ”はこうしてお祭りの舞台からいとも簡単に姿を消すことになった。
 程なく。
「……ああ、こんばんは。今夜はいいお祭りを楽しんで来てね」
 路地裏から出てきた紅月は、丁寧な物腰で別のカップルを見送った。とても幸せそうで見ているだけで微笑ましくなる。
 ふと、カップルの片割れが振り返り紅月に聞いてきた。
「テロリストが出るって聞いたけど、大丈夫かな?」
「……そんなのいないよ。ご安心を。そして、お幸せに」
 紅月は優しく答える。
 借りて読破した、【魔乳狩人・愛憎版】、重宝しそうだった。