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リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

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◆その6 ハンターハンター

 さて、お祭りは今のところ何事もなく進んでいるようだったが、実はそうではなかった。胸の拓を狙うフリーテロリストたちは、準備を整え虎視眈々とチャンスを狙っていたのだ。
「ほう、まずまずの戦果ですな。……ん?」
 射的の屋台でずっと粘っていたリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)は、人の気配と無数の視線に気づき、視線だけで様子を伺った。
 あちらこちらに、明らかにお祭り見物の客とは違う邪悪な気配を漂わせた人物がこちらの様子を伺っているのがわかった。
 まだ仕掛けてくる様子はないが、何か機会を待っているような……。
「……」
 どう出てくるだろうか。
 まあ、しばらくはまだ射的で遊べそうだった。リブロはクスリと微笑むと、更に大きなお菓子を狙い始める。
 一方。
「……ううう、また紙、破れてしまいました」
 金魚すくいにチャレンジしていたのは、リブロのパートナーのレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)だった。こちらも、単にお祭りを楽しんでいただけだが、不穏な気配に顔を上げる。
「……」
 何かが動き出している気配。すぐに迫ってくるわけではないが、遠巻きにじっとこちらを見つめ続けている視線をひしひしと感じていた。
(何かイヤな感じですね。このねっとりとした感触……)
 とりあえず、しばらくの間は金魚すくいで遊べそうだった。
 どうするかは、敵が迫ってきてからにしよう。




「ああ、祭囃子が聞こえます。みんな楽しそうですね、畜生……。本来なら私たちも、のんびり参加できましたのに……」
 近くの草むらにござを敷いて、酒盛りをしている人影があった。
 夜風に当たりながら酒の注がれたコップをやけ気味に傾けているのは、浴衣ならぬ和服をぴっちりと身に着けた女性、鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)だった。
 すぐに空になったコップに一升瓶で酒を注ぐ偲。かなり顔が赤く目が据わっている。ずいぶんと酒が回っているようだった。
「それもこれも、あのバカのせいです……ひっく。私たちが、尻拭いにどれだけ奔走しているかしらないでしょうが、あのロクデナシが」
「まあ、気持ちはわかるが、今は飲んで忘れるといい」
 偲をなだめながら、自分もゆっくりと酒の入ったコップを傾けているのは偲たちと共にやってきていた渡辺 綱(わたなべの・つな)だった。
「思うほど悪いことにはならないだろう。生存力だけはずば抜けた男だからな」
「というか、あのバカは何処へ行きました? 来た時はいたんじゃないですか」
「あぁ。彼奴ならついを持って何処かへ消え失せたよ」
 彼は、改めて辺りを見回す。騒ぎの元凶となる男、彼らのマスターはいつの間にかどこかに姿を消していた。……まあ、いつものことだ。
「どうせその辺りで調子こいて、野たれ死んでるんでしょう。もう帰ってこなきゃいいのに」
 やってられない、とばかりに偲は酒をぐいぐい流し込んでいく。どう見ても飲みすぎだった。
「もし、あのバカが、他人様に多大なるご迷惑をかけていようものなら。この私は責任をとって切腹して果てる所存」
「ああ、わかったから少し落ち着くといいでしょう。そんなことにはならないだろう、さすがのあのバカでも」
 偲のあまりの痛飲に、綱は少し心配になってくる。
「夜風に当たろうか。少し場所を離れた方がいい。頭を冷やしたら、辛いのも収まるだろう」
 綱は偲の手を取って、立ち上がる。深い意味はないが、月でも眺めながら連れて歩くのも悪くないだろう。
「……」
 ふと、彼は境内で行われているイベントに目をやる。ずいぶんと人が集まっているようだった。
「なんだあれ?」
「……うぃっく」
 綱は千鳥足の偲を引っ張って近寄っていった。
 なんかよくわからんが、酔い覚ましに参加してみるか……。



「わぁ、見てください、ほら。ステージでなんかやってますよ」
 綿菓子をなめながら指をさしたのは、葦原明倫館から遊びに来ていた紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だった。彼女は、肝試しの方へ行ってしまった兄と別れ、姉たちとお祭りを楽しんでいたのだった。 
 境内のベストカップルコンテストは、最初こそ参加者が少なかったが、何組かカップルが出場しているうちに注目を浴び始め、大勢人が集まってきていた。
 なんだかよくわからないが、ふたり一組で何かするらしい。
 人ごみを掻き分け舞台を眺めていた睡蓮は、振り返って姉に聞いてみる。
「出てみたいです。いいですよね?」
「……おぬし一人でか? ちなみに、わらわは興味ないぞ」
 そもそもカップルとか面倒くさいしと、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は今ひとつ乗り気でない表情だった。
「兄さん……、どこかへ行っちゃいましたし」
 睡蓮は、このお祭りにつくなり森の奥へと入っていってしまった、マスターの紫月 唯斗(しづき・ゆいと)を思い浮かべた。彼は今頃どこで何をしているのだろうか? いずれにしてもここにいないのでは仕方がなかった。
「……」
 睡蓮はもう一度ステージを見た。何か惹かれるものがあった。何とか参加する方法はないものか。少し考えて……。
「そうだ! ……大丈夫です! ……順番が来たらもう一人の方も来ます!」
 睡蓮は一人でステージへと上がっていってしまった。一人なのに、普通にエントリーされてしまう。もう何でもありらしかった。
「さあ、盛り上がってまいりました」
 舞台が賑やかになって、聡は身振りを大きくした。一組づつのカップルも悪くないが、やはり、並べて比べてみるのもコンテストらしくていい。
 身振りを大きくしながら、聡は集まってきたカップルにマイクを向ける。
「さて、こちらのカップルは色黒だな。コレはコレで新鮮なものだ」
「“(自称)まっしゅ”です」
「“(自称)おるでが”です」
 マイクを手に、黒い三連星の残った二人が、表向き笑顔で愛想を振りまく。リア充を狩るために、彼らはカップルのフリをしてコンテストに潜り込んでいたのだ。そのままカップルになればいいのに、というのはナシ。だって、それができないからこそ非リアでフリーテロリストをやってるんだから。
「……“(自称)がいあ”の奴、どこ行っちまったんだ?」
 “(自称)まっしゅ”は知らなかった。“(自称)がいあ”がすでに警備の者の手によって討ち取られていたことを。
「……そうよ。“(自称)じぇっとすとりーむあたっく”が使えなくなったじゃない」
 “(自称)まっしゅ”と“(自称)おるでが”はひそひそと言葉を交わす。
「さあ、次のカップルの紹介に行ってみましょう」
「……」
 進行係兼警備役の聡が、彼らの正体に気づいていない限りは、まだまだ希望がある。
 黒い三連星の二人は、チャンスをじっと待つ。
 天が彼らに味方するときが、必ずやってくるはずだった。