天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

リアクション公開中!

リア充爆発しろ! ~サマー・テロのお知らせ~

リアクション

「な、なんですかこれ? 何が起こっているのですか?」
 突然ステージが墨汁と爆煙に包まれ、偲は咳き込みながら退避する。
 頭がガンガン痛い。飲みすぎだった。眠気の吹っ飛んだ偲は辺りを見回す。
「と言いますか、どうして私たちはこんなところへ……?」
「いや、なんとなく酔い覚ましに面白そうだから並んでみようかな、と」
 綱も、このコンテストにやってきた深い動機などないことに気づいた。ふとその気になって二人で参加してしまったのだ。それがこんな有様になるとは。
「テロリストですって……? まさか、あのバカの仕業ではないでしょうね?」
「いや、いくらなんでもそこまではバカじゃないと思う」
 綱は言うが、自信はなさそうだった。
 とにかく二人は騒ぎの中心地から逃れようと先を急ぐ。視界の利くあたりまでやってきたあたりで。
ゴボリ!
「えっ……!?」
 突然、綱は足を踏み外す。巧妙に仕掛けられた落とし穴に嵌っていた。これは不覚だった。
「……」
 背後で膨れ上がる強烈な殺気。偲が身構えるより先に、その人影は襲い掛かってきた。
 怒りのフリーテロリスト、葛城吹雪。そのどす黒いオーラと存在感から、今夜のMVPの一人なのであった。
 酒の回った偲は反応が遅れる。吹雪はためらわなかった。むき出しにしやすい偲の上半身を、ずるりと引き摺り下ろす。
「リア充爆発しろ!」
「……ひっ!?」
 偲の形のいい胸がたわわんと弾んだ。そこに紙を押し付ける。
 ぐにゅり、ぷに。
 しっかりと感触を味わって。丸い鮮やかな拓が墨のついた紙に刻み込まれた。
「きゃあああああっっ!」
 偲は完全に予想外の出来事に悲鳴を上げていた。
「おおおおうううっっ!?」
 落とし穴に落ちた綱も、驚愕のうめき声をあげた。吹雪のパートナーのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が絡みついて一仕事を終えていたのだ。
「……くっ!」
 涙目になりながらも偲が反撃しようとしたとき、パイ拓を手に入れた吹雪は姿を消していた。
「わ、私は、リア充じゃありません!」
 そんな偲の叫び声だけがその場に残った。



「お、おお。もう少し、ですな……」
 射的に熱中していたリブロはいつしかかなりの前傾姿勢になっていた。
 なんと、景品に貴金属やアクセサリ類まで有ったのだ。それを撃ち取るために、銃を構えギリギリまで身体を折り曲げる。つい本気になって無意識に射撃姿勢が照準がぶれない様に銃と共に上半身を台に固定させてお尻を後ろに突き出すセクシーな狙撃姿勢になっていた。
 パン、とリブロの発射した弾丸が景品の光り物に命中する。
「ふふふ、獲ったぞ」
 彼女が会心の笑みを浮かべたときだった。
「ん?」
 迫り来る無数の気配。むっちぷりんに蠢いていた彼女の腰周りの色香に引かれてテロリストたちが襲い掛かってきていた。すでにおっぱいでもどこでもいい感じだった。
「おっと……、惜しいですな。……ああ、おじさんありがとう」
 屋台のおじさんから景品を受け取りながらも、リブロは身体を捻りやつらの攻撃をかわす。実のところ、射的に熱中していながらも彼らの動きは把握していたのだ。
 リブロはスパイ映画の一シーンの様に一歩早く踵を返してコルクの弾を先陣ハンターに撃ち込んで牽制し、屋台の中に素早く潜り込むと愛用の対物ライフルを取り出してハンター達を正確に狙撃して一瞬で壊滅させる。
 ダダダッ! と激しい連射をして対物ライフルの狙撃姿勢で白豹柄の下着がセクシーに見え隠れした。そんな隙間の光景に気を取られた敵を一掃して彼女は、ふぅと息を吐く。
 あちらこちらから悲鳴が聞こえている。
 リブロは身を翻した。
 同じく……。
「どうして私を狙ったのですか?」
 むしろ穏やかな口調でレノアは機関銃を突きつけていた。
 あの後、無数の不穏な気配を感じ取っていた彼女は、金魚すくいの屋台を離れ、敵をおびき寄せるために路地裏に逃げ込み、怪しい人物を捕らえていた。
 機関銃でテロリストと思しき一団を無慈悲に一掃し、中の一人を掴み上げる。
「……い、いや。ぱんつみえたから」
 鼻時を流しながらも幸せそうに男は言う。もはや、ただの痴漢と変わらない連中もいるらしい。
「そうですか」
 レノアはニッコリ微笑むと、軽くボコって男たちをその場に打ちすてる。怒るほどの相手でもなかった。と……。 
 あちらこちらから悲鳴が聞こえてきて、リブロは急いで身を翻す。
「……遅かったようですな」
「ああ、おまえも来ていたのか」
 多くの者たち被害に遭ったテロの現場で、リブロとレノアは顔を合わせる。無残なことに、辺りは墨で真っ黒にされ、被害者たちは剥き身のまま放置されていた。
「これは、ひどいな。手当たり次第だ」
 下着を剥ぎ取られパイ拓を取られたあとからレノアも目を気を使って目をそらせる。自分は恥ずかしくなくても他人から同情や哀れみの視線を向けられるのを屈辱と感じる者もいるだろう。
 レノアが吐き捨てるように言った時。更に背後から迫り来る敵の気配を察知していた。
 新たに現れた大ぶりな胸の持ち主、レノアを獲物と無差別に襲いかかってきた。
「ふんっ!」
 漆黒の下着をちらつかせ、彼女は強烈な蹴りをお見舞いしてやった。足蹴りや居合い撃ちで敵を殲滅させたまでは良かった。ここまでは、彼女たちの独断場だったのだ。
 あの“本物”さえ現れなければ。
「……えっ!?」
「な……!」
 強烈な殺気に、リブロとレノアは同時に視線を向ける。
 まだ立ち込めている弾幕の煙の向こう。恐るべき負のオーラを纏って人影が姿を現す。これまで蹴散らしてきたザコ共とは全く違う異質な闘気。
 今宵、最悪のフリーテロリストの一人。シャンバラ教導団の爆発魔――葛城吹雪。
「リア充爆発しろ!」
「くっ!?」
 世界を恨みつくした怨嗟の声に、リブロとレノアはこれまでとは変わって真剣な表情で身構える。もう、戦闘本能でわかる。こいつはヤバい。
 ドドドドド! と戦闘が始まる。相手はリブロとレノアの倍程のレベルがあった。さらには、吹雪のサポート役として現れるイングラハム。この変な宇宙人型の敵ですら、彼女らよりも遥かにレベルは高い。
「ふっ……ここまでのようですな……」
 圧倒的な敵の攻撃力にリブロは敗北を予感した。
「見事な手並み……私たちの負けですな。……さあ、構いませぬ。持って行かれるがよろしかろう……」
 リブロはレノアと頷きあうと、自らの手で上半身から衣装を取り去った。獲物としてハンターに奪われるのではない、敵に敬意を表して差し出すのだ。
 ご自慢の、豊満な胸があらわになり、ぷるんとゆれた。
 ぺたり、と墨のついた紙が押し当てられ形のいい二組の拓が刻まれる。
 用だけ済むと、テロリストたちは霧のように姿を消す。
 上半身むき出しで胸は真っ黒なまま、リブロとレノアはその場に立ち尽くしていた。
「ふ、ふははははは……」
 むしろすがすがしくなって、リブロは笑い声を上げる。
 楽しい……夏祭りだった。



「何が彼らをあそこまで駆り立てるのでしょうか」
 上田 重安(うえだ・しげやす)は、屋台の焼きそばを食べながらのんびりと状況を見守っていた。彼は、現在大活躍中の葛城吹雪のパートナーで、面白そうだから見物に来ていたのだ。手伝うつもりは全く、離れたところで見ているだけで十分満足だった。
「帰る支度をするわよ」
 パイ拓ハンターとカップルの激しくもむなしい攻防を眺めて楽しいんでいた重安の背後から、同じく吹雪のパートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がやってくる。最後の仕上げの準備をしていた彼女は、重安とカップルを装いながらその場を離れる。
「よく頑張ったけど、そろそろ限界よね。最後は派手に散りましょうか……」


「すごいです、黒いシャワー初めて見ました」
 ステージの上で起こった事件に、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は驚きつつも喜んでいた。
 よくわからないうちにアトラクションがあり、皆が騒いでいる。転倒してくる壁からとっさに逃れていた睡蓮は、首をかしげた。
「やっぱり、ランプの魔人さんを呼んだのが悪かったのでしょうか? 兄さんが、困ったら呼んでいいって言っていたんですけど」
 実際は、フリーテロリストが爆破しただけで彼女の仕業ではないのだが、少々気になっていた。
「こんなところにいたのですか。少し場所を変えましょう。なにやら騒がしくなってきました」
 睡蓮を探して連れに来たのは、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)だった。彼女は夏祭りを楽しんでいたのだが、急な騒ぎに迎えに来たのだ。
「うむ……? どうやらテロらしいぞ。墨と紙を持った連中がパイ拓を取るとか取らないとか」
 お祭りを堪能していたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は屋台めぐりから帰ってくる。せっかくの楽しい一時を台無しにされて気分を害しているようだった。
「なんでも、胸小さいがゆえにフラれた女がやけくそになって言い出したらしい。巨乳を狩ろう、と。どこをどう間違えたらそんな結論に行き着くのかは謎なのだが」
「ほほう、パイ拓ですか……率直に申し上げますと、皆様非常に残念ですね。何を食べて育ったら、そんなおかしなことになるのでしょうか」
 プラチナムは辺りを取り巻くテロリストたちの気配を察しながら、呆れた様子で言う。リア充に恨むを抱く以外にも、単にパイ拓が欲しい連中まで混ざって大混乱中との事だ。
「ランプの魔人さん、あと残り時間1分ほど残ってるんですけど。踏み潰していいですよね。なんか、あの人とか悪そうですし」 
 睡蓮は了解を取るより先に、巨大な魔人をけしかける。
「ぎゃああああっっ!」
 辺りはますます悲鳴の渦に巻き込まれた。
 そんな中。
「リア充爆発しろ!」
 墨汁を撒き散らしながら、怒りの非リアが現れる。強敵から奪い取るパイ拓のみに価値がある。誇り高きテロリスト。もはや目は爛々と輝き獣の領域に入っていた。
 その背後から、おこぼれに預かろうと狙うその他の狼たち。
「わぁ、私たち、リア充ですって」
 睡蓮は嬉しそうだった。
「はぁ、私のパイ拓ですか? どうぞ」
 プラチナムが向き直る。
「って、何やっとるかこの阿呆魔鎧! いちいち面倒事に首を突っ込むでないわ! 貴様等も人様に迷惑かけとらんで大人しくせぬか!」
 お祭りめぐりを再開したかったエクスは係わり合いになりたくないようだったが、プラチナムはしれっと言う。
「は、別に減る物ではないですし。私の胸は客観的に見て、サイズ、形、ハリ等全てにおいてバランス良くカースト上位ですので、残念な方々とは違い誇れる物。隠す必要は無いと判断します」
「そういう女には、この世の憎しみや恨みなど理解できないものでありますよ。持たざる者のみの情念。それが今夜の結果なのでありますよ」
 トラウマに苦しむ吹雪は自嘲気味に笑う。
「そう、胸の小さい者の内心は胸の小さい者にしかわからないものであります。小さい者は小さい者同士で分かり合える。そちらのぺったんこなら理解できるでありましょう?」
 ぺったんこと指差されたエクスは、くわっと表情を変える。
「は? 胸が小さい者同士気持ちは解る筈だと? 知るかド阿呆! たしかに、わらわの胸が小さいのは確かだ、認めよう。だがそんな事はどうでも良い。何故か? 決まっておる!」
 エクスは誇らしげに薄い胸を張った。
「見よ、妾は美しい。良いか? 妾は美しい。胸など些事! この美貌こそ常日頃の努力の賜物よ! 故に妾は自身に絶対の自信を持っておる! ふ、女子達よ、このような事をしている暇があるのなら己を磨くのだな」
「そう上手くは行かんものであります。自分はその者たちの代弁者であります」
「ごたくを並べる出ないわ。それでもダメなら決まっておろう! 実力で奪い取るのみだ!」
「それを聞いて安心したでありますよ。実力で奪い取って見せましょう」
 吹雪の後ろで、テロリストたちが賛同する。
 もう、戦うしかない。全員が、覚悟を決めて構えを取った。
「いいでしょう。ですが、安い女ではありませんのであしからず私の防御を突破出来た方のみに許しましょう!」
 プラチナムが【光明剣クラウソナス】を持ち出してくる。スキルもフルに使ってまとめて大人気なく粉砕する気だ。
 戦いが始まる。 
 善も悪もない。おっぱいのためだけの戦いが。
「全員、やっちまえ!」
 ステージを粉砕された聡も怒りを滲ませ号令をかけた。
「間に合ったな。わずかとはいえ関わったステージ、爆砕されて大人しく引き下がっていられない」
 外周を見回りしていた高円寺海も戻ってくる。
「海くん。勝ったら、肩たたき券もう一枚下さい」
 これは杜守柚。海との静かな巡回を台無しにされて激怒の様子だ。
「揉ませてやるぞ。肩でも足でも首筋でも……そして胸でも、好きなところだ」
「……絶対勝ちます!」
 飛び掛っていく。
「ちくしょおおおおおおおっっ!」
 いくらなんでも多勢に無勢。あっという間に追い詰められた怒りのフリーテロリスト葛城吹雪はリア充を呪いながら絶叫する。もう本気だった。
「覚えておけ、この世に嫉妬がある限り新たなるパイ拓ハンターが現れる!!」
 カチリと、何かにスイッチが入る音。
「!!?」
 嫌な予感がした全員が、慌てて防御姿勢をとった。
「リア充爆発しろ!」
 カッ! と目を焼く光芒が走った。
ドオオオオオンンッッ!!
 凄まじい大爆発が当たり一面を吹き飛ばす。もうもうと燃え上がる炎の上に真っ白な爆煙が立ち昇った。
 吹雪のパートナーのコルセアが火薬の量を増やし爆発力を強めてあったのだ。このためだけの入魂の爆弾であった。

「……」

 煙が晴れると、全員が呆気に取られていた。
 お祭り会場は巨大な爆発でめちゃくちゃになり、もう催せそうになかった。爆心地にはクレーターができているところからその破壊力の凄さが伺われた。
 最悪の事故、最悪のテロリストだった。
 夜空に吹雪の顔が浮かび上がる。満足げなやり遂げた笑みだった。
「ばかやろおおおおおおっっ!」
 全員の罵声が夜空に響き渡る。