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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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■敵を屠れ、光の刃
「――九時方向の敵、凍らせました!」
「わかった!」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が吹きかける《ブレスオブアイシクル》の凍結の息吹によって、たちまちに桜の精たちは凍りついていく。そしてその氷像を清泉 北都(いずみ・ほくと)が『サイドワインダー』で確実に破壊する。――思えば、ツタの化け物と呼んでいた頃から同じように倒し続けてきた敵ではあるが、今回ばかりはいつも以上にその量が多く、手慣れた二人でもひと苦労せざるを得なかった。
 ……『超感覚』で空気の振動を感知している北都であったが、いつもよりその感知力は落ちている。これもまた魔吸桜の影響によるものであり、クナイの『禁猟区』と組み合わせてやっとこさいつもの感知力として対応できるくらいだ。
「うーん、結構やり辛いものだねぇ……これは」
「ええ、そうですね。しかし、ここは踏ん張り時です。先にいった翼様たちに追撃がいかないよう、私たちが頑張りませんと」
 クナイの言うように、翼たちはすでに先行している状態である。道を作った後、ここで追撃阻止をするため、北都とクナイ、そして氷室 カイ(ひむろ・かい)の三人が周囲を囲む桜の精を引きつけていた。
「敵は多数で瞬間的に再生するか……だが、凍ってしまえばその動きは鈍るようだな」
 こちらも慣れた動きで『抜刀術『青龍』』や周囲を一掃する『歴戦の武術』で桜の精を圧倒するカイ。互いに互いと協力することも忘れずに、確かな連携を繰り出していた。
「――ツタの多さじゃ負けるけど、気持ちで負けるつもりはないよっ!」
 北都の気持ちに呼応し、北都のペットである《Sイレイザー》も猛る。その一撃一撃が桜の精たちを弱らせ、そこへクナイが『歴戦の立ち回り』で接敵して攻撃。さらにカイが『真空斬り』で多数のツタを両断する。
 一つ一つの力が弱まれど、重ね合わせることで本来以上の力を発揮する。北都たちの戦い方は、まさに契約者としての戦い方の見本となり得るものなのかもしれない。
 そんな中、クナイは『風の便り』でこの祠のことを調べようとしたが……どうやら、これといった結果は得られなかったようだ。どちらにせよ、今の乱戦状態ではきちんと調べるのも難しいだろう。
 ただわかったことは、翼たちは確実に前へ進んでいる――という、安心できる確信だった。


「ちっ、さっき以上に防衛網が厚くなってやがる……!」
 順調に前進し、あと少しで祠に到着できる……そんな矢先、桜の精による防衛網は先ほどまでの比にならないくらいの厚みを帯びていた。思わずエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も舌打ちをしてしまうほどだ。
「これ以上は時間もかけるわけにはいきません。なんとかしませんと……!」
 儀式の完了する時間が徐々に近づきつつあるため、樹菜も焦りを感じている。浄化の手段もわからぬまま魔吸桜が復活してしまっては、手の施しようがなくなる可能性が高い。一刻も早く祠に向かわなければならない状況で、翼たちは厳しい局面に立たされていた。
「こっちはいつもの力を出せず、敵は無数に加えすぐ復活する……反則すぎだろ」
 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)も思わずぼやいてしまう。しかし同時に、自分ならば道を切り開くことができる確信を持ち合わせていた。だがその力は、あまりにも危険……それ故に、勇平はその手段を口出せずにいる。
(どうする……イプシロンのフルパワーなら一度振るうだけで道を作ることはできる。だが振るったが最後、俺自身は戦線維持もできなくほど消耗する……そうなったら押し切られる可能性だってあるわけだし……いや、それ以前に暴走してしまったら――)
 イプシロンの制御はいまだ完全ではない。少し油断してしまえば、あっという間に制御者やそれを封印していた者の命を喰い散らかすだろう。しかし、今使わねば作戦は失敗に終わる可能性が高まる……!
 ――勇平は意を決する。その視線を、パートナーの一人であるウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)に向けると……すでにその瞳には決意の意思が固まっていた。
「……イプシロンを使うのですね」
「ああ……この局面を切り抜けるには、それしかない」
 勇平もまた、決意を固めている。ウイシアはその決意に……改めて、心の中で思う。
(イプシロンが暴走する理由――それは、私の心にある。大切な人を失う恐怖、奪われるくらいならいっそ自分が奪えという心の闇……。そう、イプシロンはただ自分の願いを叶えようとしていただけ。それならば、今の私の願いは一つ。勇平君を、私たちを――皆を守るための力になってほしい。心の闇を受け入れて、今――私は私を乗り越える……!!)
「――わかりました。イプシロン、力を貸してください……!」
 ウイシアは全ての覚悟を賭け、自らの身体に封印された光条兵器《イプシロン零型》を取り出す。その刀身は以前のとは違い、どこかしら確かな雰囲気を持った一振りとなっている。
「後は俺がこれを制御して、祠までの一直線の道を作る……! みんな、来てくれ! この状況を打開するために手伝ってほしい!」
 《イプシロン零型》を手に取った勇平はすぐに翼たちを呼び、この場を切り抜ける作戦を伝えていく。その内容は至極単純で、勇平が《イプシロン零型》をフルパワー状態まで制御するまでの間、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)、そして魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)が周囲の桜の精を抑え込んでもらい、フルパワー状態を制御した瞬間に勇平が《イプシロン零型》で防衛網を薙ぎ払って道を作り、道ができたらすぐにエヴァルトが翼と樹菜の二人を一気に祠まで運び、他の契約者たちもその道を一斉に駆け抜ける……というものだった。
「それしか方法がないなら、やるしかないな」
「元々私たちは防衛網を抑え込まなきゃならなかったし、ね」
「やれやれ……空京の時と今回のツタといい、温泉のにゅるにゅるしたモノといい、つくづく触手系と縁があるのね」
 三者三様、それぞれの思いはあれど作戦にはおおむね同意したようだ。さっそく勇平はウイシアと共に《イプシロン零型》の制御に入ると、襲ってくる桜の精をゆかり、マリエッタ、そして複韻魔書の三人で抑え込んでいく。
「まったく、厳しい状況ではあるが……勇平もウイシアも命を懸けて戦っているのだ、わらわも魔力が尽き果てるまで戦おう――さぁ、我が魔術の深淵……その全てを披露してやろう。復活するのを悔やむほどにな」
 全身全霊の魔力を賭して、次々と桜の精を撃破していく複韻魔書。能力が低くとも、その魔力は確かなもののようだ。
「取りこぼしは任せて!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
 複韻魔書が討ち損じた桜の精を、ゆかりとマリエッタの二人が連携して倒していく。ゆかりの持つ《レーザー銃》が出力最大で化け物を焼き払い、ツタがゆかりたちへ近づこうとするならば『サイコキネシス』でそれを引きちぎって撃退。紫と背中合わせになって桜の精を対処するマリエッタもまた、『サイコキネシス』『遠当て』で遠距離から攻めたてながら、近づく敵は『氷術』で凍てつかせて『等活地獄』で一気に粉砕する。さらに『先の先』『後の先』を巧みに使って、ゆかりと共に桜の精を一掃し、道を切り開くために尽力していく。
「私も手伝いますっ!」
「わ、私も!」
「ダメよ翼、樹菜! ここは私たちが抑え込むから、あなたたちはただ前に進みなさい。振り返ったらダメよ、私たちが祠までの道を切り開いてあげる、でもそこから先はあなたたち次第。こればかりは自分自身で突き進むしかないの。それに――まだ作戦は始まったばかりなんだから、力は温存しておかないと」
 三人の奮闘ぶりを見て、思わず助勢をしようとする翼と樹菜だったが、ゆかりに止められてしまう。そして同時に、エヴァルトが翼と樹菜の二人に声をかける。
「そういうこと、二人はやるべきことがあるんだ。それに集中してくれ――バーニングパラテッカァァァァァァ!!」
 すでにティールセッターという掛け声と共に『変身!』し、パラミティール・ネクサーと冠されたパワードスーツ装備を身に纏っていたエヴァルト。周囲の敵を焼き尽くさんと、翼たちが来る直前に肩部装甲を展開してそこから『ファイアストーム』を放ち、桜の精たちを一気に燃え上がらせる。複数燃やせば、火種によって次々と燃え上がっていく、という寸法だろう。
「――こっちの準備も整った! 起動しろ、イプシロン! その刃で、“絆”を守る道を!!」
 勇平のほうも、《イプシロン零型》をフルパワー状態までに制御できたようだ。迸るその刃は以前とは違って穏やかな波動を持ち、それ故に純粋な力を正しく伝達している……!
「――切り開けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 そして次の瞬間、勇平の振るった光閃は一直線に防衛網を分断する。それは暴走することなく、制御する者たちの想いがこもった一筋の光明……!
「仙道院さん、天翔さん! 掴まれ、超特急で祠に突入する!」
 《イプシロン零型》によって切り開かれた祠までの一直線の道。すぐにエヴァルトは翼と樹菜の手を掴むと、『空飛ぶ魔法↑↑』で群れのやや上空を飛び始め、『真空波』をバリアのように纏いながら一気に飛翔する。ツタを『真空波』バリアで弾きながら、切り開かれた道を全速力で駆ける他の契約者たちの突入に目を向けさせないようにするというエヴァルトの作戦のようだ。
 ……翼たちの突入を見送った後、勇平はいまだ自分が倒れていない事実に気付く。どうやらイプシロンが本来の姿を取り戻し、制御が容易になったことで勇平への負担もだいぶ軽くはなっているようだ。
「これが……イプシロン本来の姿……」
 安定した光の刃を握り直すと、勇平もまた桜の精と戦う仲間たちに加わり、助力していく。
 ――すべては皆を守るため。ウイシアの思いが、勇平に新たな力を与えた瞬間であった。