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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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★第四話「外と中からの大掃除」★

 恭也が暴れていたのと同時刻。別の出入口では咆哮のようなものが聞こえた。
「邪魔だ! どけぇえええっ」
 赤い魔獣――ロアである。大きく立派な角に鋭い爪。縦に裂かれた瞳孔はまさしく獣としか言えない。
 その声が聞こえたリカインが息を吸い込んだ。次に彼女の口から発せられたのは、眠りを誘う歌声。
「侵入者が……っ」
「おいっ? どうし」
 その声を聞いたものたちが次々と眠りに落ちていく。だがいち早く気づいたものたちがリカインのいる場所から離れるように指示を飛ばす。
 だがリカインもそれだけで倒せるとは最初から思っていない。簡単に眠ってくれるのは雑魚だろうと、眠らなかった相手に目標を絞る。
「でも眠ってた方が良かったかもしれないわよ?」
「なめるぐぎゃっ」
 襲いかかってきたモヒカンを殴り飛ばしたリカインは、再び口を開く。空間に響く歌声――そういえばすごく大事なことを忘れてるような、と首をかしげつつ、リカインの動きに容赦はない。
 忘れているのは他にも味方がいると言うことであり、リカインの歌声に巻き込まれる可能性がある、ということだったが
「……少し、ききました」
「離れててよかったわね」
「我には効かんぞ」
 なんとかその範囲から離れていた吹雪らは、なぜか今だみかんの箱をかぶったまま移動していた。
 目立ちそうだが、なぜか気づかれぬままに目的地――武器庫にたどり着く。そのまま3人がかりで爆弾を仕掛ける。
 そしてすぐさま退去……数秒後、武器を取りに来た数名のモヒカンを巻き込んで爆発。盗賊たちをさらなる混乱に叩き落とす。

「やってんな。俺たちも行くか」
「うむ」
「うん。準備はできてるよ、兄さん」
 月琥が頷き、和深セドナもまた物陰から飛び出した。
「ちくしょー! 次から次へと」
「2人だけだ。やっちまえ」
「できるものならな」
 軽く笑ったセドナがすぐさまヒプノシスで数名を眠らせる。眠らなかった強敵に和深が剣を振り降ろし、打ち倒す。
 そうして2人が気を引いている間に月琥が爆弾を設置し、2人に合図を送る。セドナと和深が目を合わせて後ろに跳ぶのと爆発するのは同時。
 爆発に巻き込まれて吹き飛んでいく盗賊たちをしばって抵抗できないようにした後、和深はそれを見つけた。
「これは――」
 爆弾の影響か壁の一部が崩れていたのだが、壁の向こうにも空間が広がっていた。覗きこんだ先には、丸い球体がいくつも転がっていた。
「兄さん、どうし……えっとこれってどこかで」
 どこかで見かけたような物体。
 そう。
 土星くんに似たものがそこには大量に転がっていたのだった。

 時間は少しさかのぼる。
 グラキエスエルデネストを呼びだし、情報収集していた。
「かなりしっかりした組織体系があるようですね」
「ああ……ただの盗賊にしては妙だな」
 どさり、と倒れたのは血を吸われて弱り切った盗賊たち。下っ端らしい彼らから話を聞いたのだが、頭と呼ばれる者の他にも厳密に決められた役職のようなものがあるらしい。
 ふとアジトが騒がしくなってきた。
 そろそろ脱出すべきだろうと判断した2人は、罠を張りつつ慎重に外へと向かう。
 グラキエスたちが外を目指している中、ロアは友人を助けるために盗賊たちを薙ぎ倒していた。
「ドゥーエ! あまり突っ走るな!」
 ウルディカは声を上げつつ、ロアが取りこぼした敵を素早い動きで打ち倒していく。このまま自分たちが誘導になればグラキエスが動きやすいだろうと思っているので、目立つのは構わないのだが。
「だいたいが貴様らのせいでこんなことに!」
 八つ当たり気味に魔法を放っているレヴィシュタールは、ここに来るまでに引きずられたり置いて行かれたりと散々な目に会っていた。八つ当たりもしたくなるだろう。
 だが盗賊たちも決して弱くはない。ロアたちの身にも傷が増えていき、疲労と共に押され始める。
(このままでは数が多い分、あちらが有利か)
 冷静に分析するウルディカは、銃型HCを確認する。新しく送信された情報はグラキエスたちの位置を教えていた。
「っ! ドゥーエ、次の曲がり角を右に曲がれ」
 指示通りに曲がったロアは、そこに自身と同じ赤い髪を見て、その目に理性を取り戻した。
「グラキエス!」
「ロア!」
 無事なその姿を見た喜びでロアはその身に抱きつき、その身を舐めて噛みつこうとしたが、目の前に倒さなくてはならない相手がいたのでレヴィシュタールが止めた。
「貴公に言いたいことはあるが、今は目の前の敵に集中するとしよう」
 グラキエスの姿に安どしたのはレヴィシュタールがやウルディカもであった。その顔から完全に焦りが抜け、動きもより俊敏になる。
 敵の中には彼らよりも強い者もいたが、合流を果たした今、恐れることはない。
 時間はかかったもののなんとか倒した後、グラキエスはロアたちに笑顔で礼を言う。ロアの獣じみた様子に驚くそぶりはまるでない。どころか
「腹減ったのか? なら食べてもいいぞ」
 と自分の身を差し出そうとして、真相――自ら囮になろうとした――を知って怒っていたレヴィシュタールとウルディカにダブル説教をくらうことになる。
「グラキエス。貴公はもう少し自分の身を……っと、ロア? 何をしようと、止めろ」
「グランマイアの言うとお……ドゥーエ、落ち着け」
 制止は一歩遅く、ロアは満足そうにその身にかじりつき、滲み出た血を舐めたのだった。
「ぐ、やはり最後はこうなるのか……」
 レヴィシュタールがお腹(胃の辺り)を押さえていたとかいないとか。

「さあっかかってくるがいい。腐った性根を叩き直してやろう」
「肉のか……げふん。前衛はお願いね、サブちゃん」
 三郎景虎東雲らの動きを考え、盾を手に前へと飛び出す。リキュカリアは途中で何か言いなおしつつ、高めた魔力を敵へとぶつける。
「ほんとっ良いストレス発散だよ」
 リキュカリアは敵からの攻撃を景虎に任せ、自身は攻撃に集中してスキルを余すところなく使用する。
「せっかく軌道に乗り始めたんだから、アガルタの邪魔はさせない」
 東雲も傷ついた景虎の傷をいやしたりリキュカリアのSPを回復させたりと、盗賊退治に協力。
「はあぁっ」
 景虎の持つルーンの槍が相手を貫けば、リキュカリアの魔法が多数の盗賊を吹き飛ばした。さらにリキュカリアは召喚獣、ケイオスブレードドラゴンもけしかける。本当に容赦がない。
「東雲はサブちゃんの後ろだから大丈夫として、シロ……まあ巻き込まれないように逃げ回ってね」
 言われずとも、とンガイはしっかり東雲の傍で待機していた。作戦名は命大事に。うん、ほんと大事。
「あー、もう終わり?」
 一通りの敵を倒した後、周辺を調べて回る。が、もうこの部屋には敵はいないようだった。
「別の場所に……東雲? どうした」
「あ、いや、その」
 屈みこんだまま立ち上がろうとしない東雲に、心配になって声をかける景虎。顔を上げた東雲は少し挙動不審だったが、意を決して立ち上がり、ソレを皆に見せた。
「これ、持って帰ったらダメかな?」
 大事そうに東雲が抱き上げていたのは、土星くんに似た何かだった。

「俺は盗賊じゃないぞ! たしかに名前はローグ(盗賊)だが」
 とブツブツ呟くローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)とそんなローグを呆れた顔で見るフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)もいた。
 名前がローグなだけに何度も職質されて、これじゃ話が進まない! ということで間違われる迷惑な盗賊を退治に来たらしい。
(本当に下らない理由よね)
 フルーネはそう思ったが、心の中だけにしておいた。本人にとっては大切な問題なのだ。
「まあどっちみち。困ってるやつがいるしな。叩きのめしてやる」
「……ふぅ。あまり無茶ばっかしないでよ」
 逃げ出してきた盗賊たちへと突っ込んでいくローグを、フルーネは呆れた目で見つつもフォローするために地面を蹴ったのだった。ローグは口で答える代りに、モヒカンの1人をダガーで斬りつけた。フルーネはそんな様子を見てまた肩をすくめた。

「全てのモヒカンは俺様の友! 友の為に俺様は戦うぜ!」
「おおっモヒ友よ!」
 ゲブーとモヒカンたちはすっかり意気投合していた。ちなみにモヒ友とは『モヒカン心の友』の略である。
 モヒ友が苦労して集めた物資を集めた隠れ家を襲うなんざ、許せねぇぜ!
 ということでアジトにやってきたゲブーは、盗賊たちの中で強者として扱われていた。
「っという事でモヒカンの敵は倒す!」
「カッコいいぜ、ゲブーの兄貴!」
 なぜアニキかと言うと、ノリである。
「俺様のモヒカンが光って唸るっ! モヒカンの敵を倒せと! だがおっぱいは別だぜ?」
 実際にモヒカンが光って唸ったら怖いが、そこにツッコミはきっと不要なのだ。士気が落ちかかっているモヒカンが意欲を取り戻したのだから。
(っとはいっても、意外とおおぜいが攻め込んできたな。分が悪いか)
 このまま1人残らず捕まる、とはさせてたまるか。ゲブーはそう思い、任された部隊に撤退指示を出し、頭の元へと向かう。
 頭は赤い、他のモヒカンたちより一層立派なモヒカン――各自の想像力にゆだねます――をした物静かなお男だ。
「ハーリーめ。予想以上の戦力を投入してきたらしいな」
 ぼそりと「襲撃は3日後のはず……気づかれたか」と呟いていたが、意味を察せられた者は誰もいない。頭は立ち上がり、ゲブーたちについてくるように言った。どうやら抜け道があるらしい。
「でも頭! 他の奴らが」
「俺たちまでが捕まれば、助けることすらできなくなるぞ」
 騒ぐモヒカンを一言で鎮めるその様は、どこかカリスマ性のようなものを感じさせる。だがその足が止まった。
「逃がしはしない」
 そこに立っていたのは甚五郎羽純ホリイ。上空にはブリジット。仲間からの情報をもとに、元から盗賊たちを怪しく思っていた彼らは知恵を持つ者――頭をとらえるために動いていたのだ。
「わわっ! かなり強いですよこの人たち。なんでこんな実力があるのに野盗なんですか!」
 ホリイがそう言いながら、敵をさばいて行く。
(とはいえ、少し相手の数が多いか)
 ボスとゲブーの2人は手ごわいのは見てとれる。甚五郎は不利を悟った。ここは頭に集中すべきだろう。
「おっぱい!」
 ゲブーが叫ぶ。おっぱい=女の子は愛すべき対象。
「後でやさしく愛してやるからそこで待ってるんだぜー!」
 盗賊たちは死に物狂いで(1人意味合いが違うが)抵抗してくる。なんとか足止めするが、向こうも必死。
「モヒカンは消毒だ!」
 しかしそこへ火炎放射器を持った恭也が突入してきたことで均衡が崩れた。おっぱい目指して奮闘していたゲブーだが、ブリジットのミサイルの爆撃に巻き込まれて吹き飛び、恭也が突き破った壁の瓦礫に埋もれてしまっていた。
「……おっぱい、がく」
 最後まで求め続けた彼は男だ!
 ちなみに後々がれきを撤去した時、彼の姿はどこにもなかったと言う。

 隙ができた頭を甚五郎がねじ伏せる。
「さておぬしには、話してもらいたいことがある」
「ぐぬっ」

 その後の調べにより、頭はアガルタを拠点として活動している傭兵団の頭と判明し、その情報はすぐにアガルタへ知らされた。
「やっぱりお前らだったのか」
「くそっ」
 ハーリーはとある男の前に立っていた。司令部内で働いていた頭の弟だ。
 警備計画。荷の中身。それらの情報を兄へと流していたのだ。盗賊の動きがおかしいことに気づいたハーリーは、確たる証拠を見つけるために今回の作戦を決行した。
「やれやれ。まあいい機会になったよ。大掃除のな」
 動機は単純だ。治安が悪化すれば護衛の仕事が増える。また中々捕まらない盗賊から荷物を守り抜ければ知名度も上がる。つまりは自作自演。
 他にも関わっていた数名をとらえ、一先ずこれで盗賊騒ぎは落ち着いた。
「賑やかになればこういう連中も出てくるっていう教訓にもなった……礼を言うぜ」
 連れて行け。
 ふーっと息を吐きだしたハーリーは執務室へと戻り、深く椅子に座った。執務机の上にある書類へと目を落とし、いつもと同じように仕事を始めた。
「出店希望か。店名はフリダヤ……提出者は佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)か。……問題はなさそうだな」
 許可の印を押した時、部下がセレスティアーナの到着を告げた。