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リアクション
★第二話「飛び出せ、真セレスティアーナ・アッパー」★
「セレス。ほら、双眼鏡」
アンテナ塔の内部にある、展望台。リア・レオニス(りあ・れおにす)が双眼鏡を差し出すと、セレスティアーナが「おお、用意がいいな」とやはり無駄に偉そうに受け取った。
異性とは言え、慣れているからか。触れなければ問題ないようだ。
リアは喜んで景色を堪能している姿を微笑ましく思いながら、隣にいる完全に観光気分なパートナー、ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)を肘で小突く。
(なんだよ。俺は観光楽しむから護衛は任せたって言っただろ)
(周りに見せる必要は無いけど一応緊張感は持ってくれよ。お前も俺に準じる立場なんだからな)
(……そういやお前ロイヤルガードだったっけ。忘れてた)
「忘れるなよ」
「ん、どうかしたのか?」
小声に気づいたセレスが振り返る。リアは「なんでもない。ほら、あそこに見えるのが繊月の湖で」と説明を始めた。とはいっても、彼女にも理解できるごく簡単な説明だ、というと失礼か。
護衛として参加したリアだが、あくまで友人の1人という態度で接していた。恋慕の感情はなくとも、その真っすぐさは好ましく思っているし、何よりも愛する人にとってセレスティアーナは大切な存在。ならば自分にとっても同じだと考えていた。
「しっかしここからだとよく見えるなぁ」
ザインが何か買ったのか。お菓子のようなものを食べながら言うと、セレスティアーナがそれに気づいた。
「これか? さっき売ってたから……いるのか?」
「よし、食べてやってもいいぞ!」
笑いながら感想を言い合っている2人を見つつ、リアは周囲へ軽く目を走らせた。
――何か今……妙な気配を感じたような。
視界の隅をマントらしいものがよぎった気がしたのだが。
「防衛施設もかなり充実してきてるな」
感心した様子の十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)に、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が小さな手で何かを指示した。
「リーダー! これ何まふ?」
リイムが指差した先には、赤くて丸いスイッチがあった。上には「危険! 触れるな」の文字。
「うっいかにも危険そうなボタンが……決して押さないぞ、決して!」
ちょっと心惹かれつつもその場から離れる。そして視界に入ったセレスティアーナに声をかけた。
「セレスティアーナ様、知っておられますか? 古代の高貴なニルヴァーナ人はこぞって珍しい抱き枕を持っていたようなのです」
『は、何言って』
「そうなのかっ?」
土星くんが怪訝な顔をする横で素直に驚くセレスティアーナ。土星くんは宵一のからかうような目に気づいて、呆れつつも黙ってくれた。宵一はリイムをセレスティアーナに示しつつ
「実はこのリイムも彼らが持っていた抱き枕の子孫だという噂が! あるとかないとか」
キラキラと輝くセレスティアーナの目がリイムに向けられ、リイムは喜んでその腕の中に飛び込む。
「こ、これは……!」
もふもふもふもふと感触を楽しむセレスティアーナ。かなりお気に召したようだ。
「僕、パラミタ1の抱き枕を目指してるんでふ。良かったら応援してくださいでふ」
「お気に召されましたら、リイムそっくりの抱き枕をパラミタで販売してみるとかどうでしょうか」
「おお……うん。考えてみるぞ」
そんなやり取りを微笑んで見守っているヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は、自然と会話に混ざりつつも、セレスティアーナの動向から目を離さない。
(せっかくの機会ですし、伝説の『セレスティアーナ・アッパー』とやらを身につけたいですわ)
セレスティアーナが出しそうに無ければ、宵一を無理やりにでも接触させてアッパーを出させるつもりだった。
「……なんか企んでないか?」
「まあ企むだなんて、失礼ですわね」
「お姉さま、セレスティアーナさんに気に入ってもらえたでふ」
「ふふふ。よかったですわね」
さて。では先に宣言しておこう。セレスティアーナ・アッパーは……もうすぐ……やってくる!
「もう鳥の襲撃はないみたいだねぇ。流石に危険だと分かるようになったんだろうね」
少し遠くなったアンテナ塔を見上げていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は、そうだといいな、と小さくつぶやいた。
今はアガルタに向かっている途中だ。
「中継基地の見所は外観の美しさだよね。
そういえば正面入り口の上部分のステンドグラスはジェイダス理事長のデザインなんだってさ。綺麗だよね」
北都の説明に「へえ〜」と返事を返すのは土星くんと白銀 昶(しろがね・あきら)。2人とも後ろを振り返って基地を眺める。
『ジェイダス言うんはしらんし、けったいな形やとは思うが……まあ悪ぅないんやないか』
「オレには美ってよく分かんねぇけど、目を引くし、いいものだなってのは感じるぜ」
みんなが意見を出し合ってできたアンテナ塔だ。奇抜ながらどこか温かい空気を持っているように見える。
昶は基地の店で買った焼き鳥を食べながら、「そうだった」と土星くんを振り返る。
「オレ考えたんだ。土星が嫌なら『サターン壱号』とかどうだ? なんとなくカッコイイだろ?」
「そういう問題じゃ……えっと、ごめんね?」
キラキラ顔を輝かせる昶に慌てて北都がフォローを入れる。
『ふ、ふふん。特別にその名前でも許したろ』
「え?」
『べべっ別にカッコイイとか思っとらへんねんからな」』
少し頬を染めて明後日の方を見た土星くんに、「それでいいの?」と北都は思ったが
「そういやサターン壱号は何食べるんだ?」
『わしは基本食事はせんなぁ。必要あらへんからな』
「へぇ〜。食べなくてもいいのか」
『まあでも、スルメは好きやで』
昶と仲良く話し始めたのできっといいのだろう……と思うことにした。
「何の話をしてるのだ?」
「食べ物の好き嫌いの話。代王は……にんじんとかピーマンとか嫌いそうだよな」
「むっ。そ、それぐらい食べられ」
セレスティアーナが答えようとした時
「ヒャッハー! 獲物が来たぜ」
そんな叫びが聞こえたのだった。
飛び出た影は4つ。しかし
「……他にも6人隠れています。気をつけて」
どこからともなく声がした。気配を消して護衛していた忍者、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)のものだ。
現れたモヒカンたちとは全く別の方角から飛んできた矢を叩き落とし、唯斗は超理の波動で隠れていた敵をあぶり出す。
「ちっ。しゃあねえ。いくぞ! ヒャッハー」
モヒカンたちは舌打ちしたものの、そのバ○っぽい掛け声とは反対に陣形を組んで突撃してくる。狙いは物資!
モヒカンが荷台にたどり着いた、まさしくその時
「ららら土星くん! ららら土星くん! らららら〜♪」
どこかで聞いたことがあるような、不思議な歌が荒野に響いた。その人影は、荷台の上に堂々と立っていた。
風に揺れるロイヤルガードマントのみという格好の変熊 仮面(へんくま・かめん)である。先ほどと違うのは、手にフラフープを持っていることか。
「ひゃっはー?」
さしものモヒカンたちも固まる中、変熊はセレスティアーナの前へと飛びおり、見事な腰つきでフラフープを回し始めた。
「見ろこの輪を! 土星くんより俺様のほうが美しく回しているぞっ!」
高笑いする変熊に『なんやこいつ』とさしもの土星くんも名前に突っ込む余裕がないようだった。
「ひぃっわぁあああっ」
パニックになったセレスティアーナが喚きながら繰り出すアッパー。しかし変熊は笑いつつそれらを避けていく。
だがその時!
彼女がより深くしゃがんだ。もはやパニクって理性がどこかへ飛んだセレスティアーナ。ハッとしたヨルディアが、目を見開いてその光景をしかと見つめた。
襲撃されたというだけでも混乱していた中でのさらなる混乱が、セレスティアーナの中に眠る何かを目覚めさせた!(かもしれない)
「むっこれ」
「うわあああああああああああああああああああああっ」
以前よりも格段に進化した真セレスティアーナ・アッパーが見事に変熊の顎を捕らえ、変熊は昼の空に輝くお星様となったのであった。
「これは予想以上ですわ」
ヨルディアがその光景を忘れまいとしかとメモに残し、後々に修行をして彼女はアッパーを身に付けたのだった。
そしてヨルディアの残したメモは人から人へと渡り、真セレスティアーナ・アッパーを後世に伝えていくこととなる(かもしれない)。
【すちゃらか代王漫遊記】第102話『飛び出せ、真セレスティアーナ・アッパー』完!
『完結さすなー!』
土星くんの渾身のツッコミが荒野に響き、誰もが我に返った。
その後、上空から振ってきたフラフープで頭を打ったモヒカンの1人が気絶したが、全員フラフープは見なかったことにした。
「とにかく行くよ、昶」
「おう!」
再び襲いかかってきたモヒカンへ向かう北都と昶。弓を構える北都に対し、昶はその速度を活かして突撃。攻撃を避けたモヒカンには北都の弓矢が放たれる。
倒すと言うよりは代王に近付けないように、あくまでも守護を目的とした動きだ。
それでも全員の足止めはできない。
「それ以上は行かせないわよ!」
「くそっ」
リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)が剣をなぎ払う。襲いかかってきた10人も決して弱くはないのだが、
「はあああっ……っと、こんなものかしら」
相手が悪かった。しかもリーズは無理して突撃せず、守りを固めている。奇襲が失敗している今、この守りを崩すのは難しい。
「昶!」
「ああっ分かってるぜ」
「リーズ、俺たちは後ろへ」
「分かったわ」
唯斗とリーズがセレスティアーナの周囲を固め、北都と昶が足止めする。急ごしらえの連携とはいえ、中々うまく行っているようだ。
モヒカンは悔しげな顔をした。襲撃してからだいぶ時間が立っている。まったくの手ぶらは悔しいが、潮時だろう。
「撤退だ!」
そんな声と共に、おそらくリーダーと思われるモヒカンが何かを投げた。セレスティアーナの方角へ。
「あれは……まずい!」
いち早く気づいた唯斗が、すぐさまセレスティアーナを抱き上げ、土星くんを懐に入れて跳んだ。数秒後、転がったそれ……爆弾が破裂。音と風、熱が唯斗たちを襲う。
「唯斗!」
リーズが声を上げたが、唯斗は煙から飛び出て何事もなかったかのように着地した。怪我も特にないようだ。ホッと息を吐きだす。
「いやぁ、危なかった危なかった」
「はわ」
呑気にそう言った唯斗は、腕の中にいるセレスティアーナを見下ろして「お怪我は?」と尋ねる。こくこくと頷くセレスティアーナに首をかしげつつ、彼女を降ろすがよたついたその身体を再び支え、リーズの額に青筋が浮かんだ。
「いつまで」
「え?」
「抱き締めてんのよっ!!」
「わああああっ」
駆け寄ってきたリーズとセレスティアーナによる、完全シンクロしたセレスティアーナ・アッパー×2が見事に唯斗の顎に入ったのだった。
「う……なぜ」
訳が分からぬままに吹き飛ぶ唯斗。
(無自覚でこれだから困るわよね!)
リーズはどこか怒ったように跳んでいった唯斗を睨んでいたが
「あれ? サターン壱号はどこ行ったんだ?」
戻ってきた昶の言葉に「しまった」という顔をした。
『な、なんでわしまで』
唯斗の懐の中から、土星くんの情けない声。
直接は食らってないものの、衝撃がすさまじかったらしい。
……まあ、無事だったのでよしとしよう。
『よくないわ、アホぉ……がくっ』
* * *
荒野の風で立派なピンクのモヒカンが揺れていた。
「む。先ほどのはモヒ友! これはモヒ友ピンチの予感」
ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が逃げ行くモヒカンたちを見つけ、モヒ友を救うために彼らの元へと駆け寄っていった。
さあ、どうなるモヒカン盗賊団!?
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