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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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★第五話「深刻なツッコミ不足です」★


 アガルタ。地下に造られた街。
 そう聞いた時、ほとんどの人は暗く狭い、じめじめした、といったあまり良くないイメージを抱く。しかしそこには窮屈さなど微塵も感じさせない広大な空間が広がっており、昼間は人工的な明かりが灯されて明るく、空気はややひんやりしているものの、どこからか空気を取り入れているのか新鮮だった。
「アガルタ総責任者のハーリー・マハーリーと申します。ようこそアガルタへおいでくださいました、セレスティアーナ様」
「うむ」
 恭しく出迎えたハーリーに、ただ偉そうに胸を張るだけのセレスティアーナを見て、リアが一歩前に進み出た。ロイヤルガードとして、こういった応対も彼の仕事の1つなのだ。
 綺麗に一礼。
「ロイヤルガードのリア・レオニスと申します。このたびは――」
 ハーリーと会話しているリアの後ろでは、ザインとセレスティアーナが
「地下って聞いてたからもっと暗いのかと思ってたけど」
「結構明るいな」
 などとのんき〜に会話をしていた。
 そんな様子を見てハーリーとリアが苦笑したのはほぼ同時。堅苦しい挨拶は短めに終わらせる。
「私が案内をしたいところですが、残念ながら予定が詰まっておりまして」
 ハーリーがついていかないと言ったのは、忙しいのもさることながら観光気分を邪魔しないためでもあったが、セレスティアーナは言葉通りに受け取った。
「忙しいのだな」
「恥ずかしながら、まだできたりばかりでごたついているのです」
 苦笑するハーリーに、セレスティアーナは無駄に偉そうだ。さすが我らが代王である。代王の方が忙しいはずじゃね? とかはツッコミ不要なのだ。
 ハーリーが簡単に街の説明をしてくれた後、多忙な彼と別れて、一行は町をぶらぶらと歩きはじめた。

「わぁっすごい! あそこから入ってきたんだ」
 興奮気味にカメラのシャッターを押してアガルタの景色を撮影しているのは皆川 陽(みなかわ・よう)。今はアガルタの入り口を撮影していた。いつも中継基地の店にこもっているため、たまには観光もいいだろうとツアー……視察に参加することにしたのだ。
 存分に撮り終えた後はきょろきょろとあたりを見回す。基本的な建物は地上と変わらないが、地下にあると言うだけで不思議なものに見えた。
(あんなにはしゃいで……可愛すぎる)
 ふふふ、とそんな陽を見守るテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)はなんとも幸せそうだ。
「う〜ん、やっぱり花って咲いてないのかな」
「花、か」
 少し残念そうな陽に、テディはなんとか見つけてあげられないかと周囲を見渡すが、それらしい影はない。
「お花、たしかあるはずだよ! アガルタの名物の1つってパンフに書いてあったよ」
 そんな時に話しかけてきたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。どうもあらかじめアガルタについて勉強してきたらしい。陽がパッと顔を明るくさせた。
「そ、そうなんだ。写真、撮ってみたいなぁ」
「マスター、僕が絶対見つけるから、任せて!」
 主が望むならば、とテディが自身の胸をたたく。花を見つけて「\キャーステキー! 抱いてー!/」とかなったらステキ、という下心などありません。
 シタゴコロ? ナニソレ美味しいの。
「セレちゃん、いっちー。他にもおいしいものたくさんあるんだって! 一緒に食べようね」
「おお、そうか!」
『……ほんまただの観光やないか』
「まあまあ、たまには壱号さんにも休息が必要ですよ」
「そうだよ。今日はゆっくりしよう?」
 ぼそりっとどこか――おそらく住居の方向――を見て呟く土星くんに、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がそう声をかけて優しく手を引く。
「しーちゃん、しーちゃん、アレ欲しいな」
「……ふぅ。分かりました」
「やった! あ、セレスティアーナちゃんたちも食べる?」
「おおっうまそうだな」
「あ、ベアトリーチェ! 私も食べたい!」
「しょうがないですね。はい、どうぞ」
 次原 志緒(つぐはら・しお)にお菓子――店にはアガルタ焼とある。猫の形をしているようだ――をねだっていた天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)はセレスティアーナたちへも声をかけ、美羽も交じって店員にあれやこれやと頼む。女の子たちのそんな会話は見ているだけで微笑ましいが、ザインも小腹が減ったな、と近くにあった別の屋台でくし揚げをいくつか購入した。
「む、それはなんだ?」
 お菓子が焼き上がるのを待つ間、不思議そうにザインの食べているものへと目を向けるセレスティアーナ。食べて見るか、と渡されたそれにかじりつき、声なき悲鳴を上げた。
「んぐっ?!」
「ぷくくっ」
 ザインが笑った。差し出したのはししとうのくし揚げだ。悔しそうな顔に「悪い悪い」と謝ってうずらを渡す。恐る恐る口にしたセレスティアーナだが、美味しかったのか。すぐに笑みを浮かべた。
「しーちゃん、くし揚げもー」
 それを見た結奈がくし揚げをたくさん購入し、アイギール・ヘンドリクス(あいぎーる・へんどりくす)がその量に心配になり声をかける。
「結奈さん、私にも少し頂けないでしょうか」
「どれどれ……お、うめーな、これ」
「いいよー、あわっきょーちゃん! もうっ」
 匂いにつられた次原 京華(つぐはら・きょうか)がひょいとつまむと結奈はぷくーっと頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻って手にしたそれらを口に入れた。アイギールにも渡したところで、セレスティアーナのもの欲しそうな目線に気づき、一本渡す。
「はい、あ〜ん」
「あ〜んむっうまいな」
 そんな様子を見てザインがふと尋ねる。
「俺、あんま好き嫌いないんだけど、セレスティアーナはどうなんだ?」
「う……に、にんじんは食べられるぞ」
「お、偉い偉い。……ま、俺はリアに会う前旅してて、旅してると食べられればなんでもいいって時もあるから、ってのもあるんだけどな」
「旅か。今はしてないのか?」
「してるぜ。探し物があってさ。何かは――見つけられたらセレスティアーナにも話すよ」
「うむ。楽しみにしているぞ」
『いや、だからなんで小娘が偉そうにしとるんや!』
 アガルタに来てからどこか大人しかった土星くんのツッコミが、くし揚げのくしを手に持ち、口もとに少し食べ菓子をつけつつ胸を張ったセレスティアーナにさく裂した。
 威厳って……なんですか?
「わははっセレスティアーナちゃんもどせいちゃんも面白いね! あ、できたみたいだよ」
 始終笑顔の絶えないかんこ……視察……もう観光で良いよね?

「花……花……あ。マスター!」
「どうしっわぁ」
 一方で花を探していたデディが陽を呼んだ。どうかしたのかとカメラを片手に近づいた陽が、わっと声を上げた。
 建物の影になった部分に、黒い何かがあった。茎も葉も花弁も黒い花――スキヤルディである。光の当たらない場所にひっそりと咲いている花。薔薇のような華やかさはないが、陽にとってはむしろ好ましいものだった。
「本当に黒いんだ……でも綺麗だね」
 陽はその花をカメラに収めるべく、地面に寝転がってベストアングルを探しだし撮影。良いショットが撮れたのか、ご満悦な顔をしている。テディとしてもその顔が見れたので苦労したかいがある。
 ……もちろん「キャー、抱いてー」とはならないが。
「次はあれを食べるぞ!」
「お待ちください、あまり食べ過ぎるのは」
「嫌だ、食べるぞ」
 セレスティアーナが騒ぐ声に、陽が顔を上げる。
「駄目だよ、我がまま言って人に迷惑かけちゃ」 
 彼女を代王と気づかずお金持ちの子と思っている陽が注意をしている姿を見て、テディは「あれ、代王じゃね?」と思いつつも何も言わない。主が無事ならばそれでいいのだ。
「むぅ、悪かった」
「分かってくれたなら良いよ」
「じゃあ仲直りできたところで、次のお店に行こう? 情報がたくさん集まるところなんだって。何か面白いこと教えてくれるかも」
 美羽の提案で次の目的地が決まる。
「わぁい、楽しみだね!」
「面白い、ねぇ……まあ、いいんじゃねーの?」
「ずっと歩きっぱなしでしたしね」
 結奈が喜び、京華が周囲を見渡しながら適当に、アイギールが結奈やセレスティアーナの様子をうかがいながらそう言った。歩きっぱなしだったため少々疲れが見える。
『ん? ここはまだ建設途中か。……フリダヤ?』
 土星くんが建設中の店に気づき、店名の不思議な響きに首をかしげた。
 建設中の店の代わりなのか、傍に建てられたプレハブ小屋からは良い香りが漂っている。

「このミミズの肉は……やっぱり脂が多いね。燃料になるわけだ」
「火力も強そうだし、持続もしそうだね。コレを使って鍋とかできないかな」
 中で話し合っているのは弥十郎真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)だ。これからはニルヴァーナにも出店をと思った真名美と、ニルヴァーナの食材が気になる弥十郎とで店を出すことにしたのだ。
 店舗面積はそう広くないが、商人として本格活動するための資金を稼げれば、という思いもある。
 ちなみに店名は
「アガルタってなんかインドっぽい名前だねぇ」
「じゃ、ハートを意味するフリダヤでいいんじゃない?」
「美味しいものを食べて欲しいしね。そうするかなぁ」
 という流れで決まった。
「鍋か……問題は具材だね」
 弥十郎が見下ろした調理台には、真名美が集めたものや弥十郎自身が根回しで仕入れたものが置いてある。しかしこれが――シャキシャキするレタス(っぽい)ものや、サソリっぽいエビ(毒あり)、美味しいが痺れる茸などなど、今までの感覚からすると変わったとしか言えないものばかり。
「このニンジンみたいなのも、なんでシャキシャキしてるんだ?」
「ほんっと不思議ねぇ」
 2人で首をかしげつつも、思考錯誤の末に鍋が完成した。
「売り文句は、『涅槃が顔を出す味』でいいかな」
「いいんじゃない? 僕は逝きかけたけど、解毒方法も解ったしお客さんは楽しめると思うよぉ」
 頷きあう2人。……いや、あの。不吉な予感しかしないのですが?
「っと、外歩いてるのって」
 そんな時、外を歩いているセレスティアーナたち――というよりは窓に張り付いている土星くん(よだれつき)――に気づき、外へ出る。
「あ、良かったら試食していきませんか?」
『ええんかっ?』
 悲鳴があがり、泡を吹く者もあらわれる中、土星くんはそれは美味しそうに鍋を食べた。

 さ、さすがニルヴァーナ人の作った機晶生命体! びくともしない!

『美味かったわぁ。あの毒がなんともいえん風味があったな』
「それは良かった……あ、解毒薬いる?」
 ご飯を食べた後の会話にしては少々おかしい。おかしいが、突っ込める(元気のある)人はいなかった。

 フリダヤが正式オープンした後、時折円盤を回した球体が鍋を食べている光景が見られたとか。