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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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【すちゃらか代王漫遊記】セレスティアーナの涅槃巡り!

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★第七話「犯人は……ケーキだ!(びしっ」★


「わーいセレスちゃんいらっしゃーい☆」
 笑顔で元気に出迎えてくれたヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だったが、なぜかメイド服を身につけていた。
「え、ほらメイドさんだったら男! って変に意識しなくて済むかもでしょ?」
「お前はしょっちゅうそんな格好してるだろう」
 ため息交じりの早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が静かに突っ込みを入れた後、セレスティアーナに向き直る。
「久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです、セレスティアーナ様」
 以前とは違う態度にセレスティアーナが微妙な顔をするが、呼雪は気づかぬふりをした。あくまで代王として接するつもりらしい。
「さあどうぞ。パラミタとの行き来が簡便化されたお陰で展示数も増えたんですよ」
 店内に飾られている絵画はすべてニルヴァーナを題材としたものだが、写実・抽象・前衛といったものから妙にメルヘンチックなものまで、多種多様。題材が同じな分、その差が引き立ち、不思議な空気感を演出していた。
「綺麗」
「これは、なんかカッコイイな」
「見て見て、こっちの可愛いよ」
 それぞれの好みの絵の前に立ち、感想を言い合う。
 あと本日はちょうど音楽教室もやっていると言うことで、そちらも見学させてもらった。代王が来ていると言うことで練習生は緊張していたが、生で聞く演奏は、やはり素晴らしい。心が穏やかになる。
「かんこ……視察お疲れ様! 中庭に特産のスキヤ・ティーを用意してるよ」
「お疲れさまでした。少し休憩していってください」
 中庭には池もあり、そこでは錦鯉が優雅に泳いでいた。ヘルが赤い葉を隠し味にした焼き菓子を運んでいると、セレスティアーナがふと疑問を口にした。
「そういえば、奥の部屋は一体何だったんだ?」
 ヘルが動きを止めた。
 そう、ギャラリーには奥へ続く扉があった。そこには呼雪の絵が飾られているだけなのだが、ただの絵ではない。見る者のSAN値をガリガリ削る絵であるため、入室を禁止しているのだ。
「あ、入っちゃダメだよ? 絶対だよ?」
「もしかして深淵が見えるって噂の部屋?」
「いつのまにそんな噂が!」
「以前、気になるという人がいたので案内したことがあるが?」
「あ〜それか」
 ヘルが慌てて駄目だと言うたびに、周囲の好奇心が高まっていく。
「う〜ん。じゃあ代表者が見てきて、大丈夫そうなら皆も行くってことで良い?」
 話は決まった。呼雪とヘルがセレスティアーナ(と、掴まれた土星くん)を開かずの間へと案内していった。

 五分後。

「素晴らしい絵だったな! あんな才能があったとはな」
「ありがとうございます」
『…………』
「わぁ土星くん! しっかりしてぇっ」
 笑顔で会話するセレスティアーナと呼雪。真っ白に燃え尽きた土星くんと必死に呼びかけるヘルの姿を見て、もう誰も開かずの間へ行きたいとは言わなかった。


* * *



 一行は秘密喫茶へ向けて出発していた。
「大丈夫?」
『○■▽×☆』
「……そうじゃないね」
 コハクが心配そうに話しかけているのは、腕に抱えた土星くん。跳ぶ気力もないらしく、ぐで〜っとしている。
 しばらくそのまま無言でいたのだが、コハクはずっと気になっていたことを土星君に尋ねた。
「どうして壱号は、そこまで修理を急ぐの?」
 たしかにこれから、移動式住居が使えるようになれば便利になるだろう。しかしそれにしても土星くんは急ぎ過ぎな気がした。焦っているような……。
『……んかった』
「え?」
 茫然と、夢うつつな顔をした土星くんが何かを言った。

『守れんかった、誰も』

 移動式住居は、ニルヴァーナ人が脅威から逃れるために作ったものだ。生き延びるために作ったものであり、その制御を司る彼の使命はそこに住む人々を守ること。
 だが目覚めた時、見知った顔は1つとしてなく、守るべき対象(住民)を失ったのだとすぐに察した。

『わしらは移動式住居』
 移動式住居……そう住居だ。住民のいない住居など、なんの意味もありはしない。誰もいないのならば、存在する価値もない。
 だが目覚めた時、見たことない人間たちがそこにいた。彼らが新しい守るべき対象(住民)たちなのだとすぐに察した。ならばやることは決まっている。
『今度こそ、守るんや。わしは……』
 うわ言のように繰り返す土星くんに、コハクは「そっか」と返しつつもこう続けた。
「それでも、たまには休まないと、倒れちゃうよ」
 返事はなかった。

 そう。SAN値直送絵によって、土星くんはここに永眠し

『するかボケェー! 勝手に殺すなー!』

 とりあえず元気そうなので次に行こう。


* * *



「しかしアガルタも随分発展してんなぁ。ついこの間街ができたんじゃなかったか?」
 感心した声を上げたのは姫宮 和希(ひめみや・かずき)。護衛として参加しつつ、街を栄えさせるこのノウハウを学んで、シャンバラに活かしたいと考えていた。
 シャンバラにもまだまだ復興や支援を必要としてる所も多いのだ。
「なるほど物資の輸送か……っと姫さん。ちゃんと前見とけよ」
「んおおっ? た、助かった」
「おう。あ、おっちゃん、話ありがとな」
 道中で住民に話を聞いてしっかり学びつつ、こけそうになったセレスティアーナの腕を引いて支える。
「それにしても中々見つからねぇなぁ、その秘密喫茶とかいうの……お?」
「見つかったか?」
「いや違ぇけど、面白そうな店があるぜ」
 和希が指差した先にあったのは、呪符が貼られた小さな店だ。左側が八卦陣、右側が対極図になるように貼られている。
 立てられた看板には『全然怪しくない八卦術師の便利屋さん』と書かれていた。
 怪しくないとわざわざ書いてしまっているところが、何とも言えない怪しさを醸し出している。
「お、なんだか楽しそうだな。行ってみるか」
 だが我らが代王はそれぐらいでひるまない。止める間もなく店内へ突入。
 出迎えたのは白澤と黒い麒麟……に似た何か。
「……いらっしゃい、ませ」
 驚く面々に声をかけたのは店主である東 朱鷺(あずま・とき)だ。以前は呪符を適当に貼っただけの店だったのだが、アピールが少ないと気づいたらしい。
 マスコット(白澤と黒麒麟)を用意したり、自分で作成した呪符や、数々の冒険で余ったグッズの販売も始めたらしい。店内には何に使うのか分からないものも置いてあった。
 とはいえメインはなんでも屋、なのだが。
「なんでも屋、か……あ、それならさ。秘密喫茶ってしらねぇか? 姫さんたちが探してるんだが」
「秘密喫茶、ですか」
 朱鷺が少し考え込む。
「秘密なのかは不明ですが、喫茶ならそこにありますよ?」
 誰かが驚きの声を上げるのと、朱鷺の店の正面の壁が開くのは同時だった。


* * *



「ここが秘密喫茶でござるか。たしかにこのドアは見つけにくいでござるよ」
 ロビーナが見つけたドアは、見事な迷彩塗装が施されていた。……喫茶なのに?
「ま、行くよー!」
 細かいことは気にするな、とレキが元気よくドアを開けると、聞こえたのは高笑い。
「フハハハハ! この俺が【迷彩塗装】で隠した入り口、よくぞ見破った!
 だが、【要塞化】を施して、悪の秘密結社のアジトと化したこの店から、簡単に帰れると思うなよ!」
 悪の秘密結社風の飾りつけがされている店内でドクター・ハデス(どくたー・はです)にそう言われたが、悪意はまったく感じない。
「ふむ。どうやらゆっくりしていけ、ということらしいの」
 ミアが冷静に頷いた。
「ちょ、ちょっと、兄さん!
 家計の足しにするために喫茶店にしたのに、どうして入り口を隠したりするんですかっ!
 もうっ通りでお客さんが来ないはずです。それに、何ですか、私のこの衣装はっ!」
 文句を言いながら奥からやってきたのは悪の女幹部の衣装(けっこうきわどい)を着せられた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だ。客の存在に気づいてないのか、内装や先ほどのセリフにも文句をつけている。
「ちゃんとしっかり……って、きゃ。お客さん。い、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ、ご主人様」
 悪の女幹部の横に立ち、礼をするのはメイド服のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)
 メイド喫茶なのか悪の秘密結社なのか、どっちなんだろう。
「ご注文は何になさいますか?
 当店のお薦めは、ハデス博士……じゃなかった店長の淹れたコーヒーです」
「ご注文どうぞ。
 当店のお薦めは、手作りケーキです」
 咲耶とヘスティアの声が被る。なんで店員同士でお薦めが違うのか。首をかしげつつも、
「じゃあコーヒーと、ロビーナはケーキでいいか?」
「2つともください」
「あ、私もですぅ」
 とロビーナ、レキ、ルーシェリアがそう頼むと、ヘスティアが「え?」と驚いて哀れむ目を向けてきた。それを見たミアはコーヒーだけを注文した。
 注文が入ったことで嬉々として厨房の奥へと消えていく咲耶。そしてヘスティアがハデスに注文を告げると、なぜか実験室風なカウンターでハデスが試験官やフラスコを使ってコーヒーを入れていく。
「くくく。コーヒーを入れるなど、所詮は実験と同じで、適切な材料を適切に加工するだけだからな!」
 たしかにその通りかもしれないが、見ていて不安になるのは否めない。
 だがミアは冷静にその手つきを眺め、とりあえず危険物ではないと判断した。実はハデス。料理が上手であったりする。
「お待たせしました」
 厨房から咲耶がケーキを笑顔で運んでくる。
 まずそのとき、レキが異変を感じ取った。念のためにと発動させていたイナンナの加護が、彼女に危険を知らせた。
 コトッという音を立ててソレがテーブルに置かれた。
「こ、これはっ!」
 一体何が入っているのか。青紫色のどろっとした何かが皿に乗っている。それを置いたであろう咲耶はニコヤカに「ご注文のケーキです」と言った。
 ケーキって、こんなにどろっとしてましたっけ?
「……俺、初めてニルヴァーナ来たんだけど、こういうのが流行ってんのか?」
「安心してくださいですぅ」
「ボクも初めてだよ(食べ物にイナンナの加護が反応するなんて)」
 何とも言えない顔でケーキ(らしい)を眺める。動じていないのはミアぐらいだ。
「ええいっ女は度胸よ! ミア、何かあったら回復よろしく」
 ぱくりっとレキがそれを口にした。ドキドキと見守る面々に、レキはにこっと笑い
 
 パタっと倒れた。

「れ、レキさんー!」
「しっかりしろー傷は浅いぞ!」
「やれやれ。どうみてもヤバイ物を口にしおって」
「素晴らしい女子力でござった」
 犯人はケーキ……そんなダイイングメッセージがテーブルに残された。仕方ないと傍に寄ったミアが浄化の礼を使ったが、ピクリとも動かない。
「あれ? お客さん寝てしまったんですか?」
 咲耶が首をかしげたのに、ツッコミなど入れられるはずはなく
「お待たせしましたコーヒー……はっ。もしかして咲耶お姉ちゃんの作った料理を食べたんですか? 大変です」
「待ってヘスティアちゃん、そのまま走ったら」
 ビーカーに入ったコーヒーを手に、慌てて近寄ろうとしたヘスティア。咲耶が声をかけるも少し遅く
「はわわっ、コーヒーがっ!」
「あっづ」
「わわわわわっすみません」
「大変ですぅ、すぐに治療を……あれ? なんだか気が遠くなってきたですぅ」
「ルーシェリア、お前もか! うっ、てか俺もやべー。目がいてぇ」
「料理から出る臭気にやられたんですね。とにかくみなさん、マスクを!」
 どたばたとしている面々を、いつのまにか店の端(窓の傍)にいたミアが眺めていた。御託宣のおかげで難を逃れたようだ。
 そして手には店長から直接受け取ったコーヒー(ビーカー)。
「……うむ。良い香りじゃな」
 これが経験値の差か。

 ちなみに気がついた時、レキ、忍、ロビーナ、ルーシェリアの4名はここで起きたことを覚えていなかったという。
「あれ? たしかに行った、よな?」
「そのはずですぅ。店員さんともお話しした覚えがありますぅ」
「おかしいね。ミアも覚えてない?」
「……しらんな」
「不思議でござるな」
「でもちゃんとコーヒー代とかは減ってるし……また行ってみるか」
「そうだね」
 無限ループって怖い。

 記憶を失くしたくない方には、店長の料理を頼まれることをお勧めします。ただ運んでくるのがドジッコなので、まともに口に入れられるかはあなたの運次第です。
 秘密喫茶オリュンポスは、いつでも挑戦をお待ちしております。

 しかしそれにしても、アガルタにはデンジャラスな店が多いような気が……いや。気のせいですね。