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リアクション
第5章 ボーンビショップ 1
洞窟内は薄暗い。冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は慎重に進んだ。敵はいったい、どこから現れるだろうか。警戒を緩めなかった。
「小夜ちゃん、この辺でいい?」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がたずねた。グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に肩車され、天井になにやら四角い物体をくっつけていた。爆弾だ。機晶製の小型爆弾。亡霊軍との戦闘にそなえ、天井にあらかじめ設置しておく作戦だった。
「ええ、良いと思います。これなら、敵も気づかないでしょうし」
「なんにしても、もうすぐ集団がやってくる。早くしないといけないよ、ローザ」
フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が忠告した。ほどなくして足音が聞こえてきた。ざっ、ざっ、という集団の足音だった。ローザマリアはようやく全ての爆弾を設置し終えて、グロリアーナに礼を言って飛び降り、事前に小夜子と打ち合わせしていた配置についた。
骸骨の集団が現れた。守備兵たちだ。ローザマリアたちに気づいたら、骸骨兵たちは真っ先に剣を抜き放った。
「くるぞ!」
グロリアーナが合図を送った。フィーグムンドが、指先に精神力を集中させた。
「光よ、我に集え!」
光の呪文が骸骨兵の中心に放たれた。浄化の爆発が起こり、直撃を受けた骸骨兵たちが塵になる。もうもうと塵が乱れる中で、残った骸骨兵たちが突撃してきた。
小夜子が応戦した。壁を蹴って、すさまじいスピードで骸骨兵に迫った。装備したルナティッククローの爪で骨を断ち、蹴りと殴打を使い分け、相手を撹乱した。フィーグムンドも、使いやすいように柄を短くした紺碧の槍で応戦した。守備兵たちの隊列が乱れる。
そのときにはすでに、ローザマリアが骸骨兵の背後に回っていた。小夜子たちと挟み込むような位置だ。
「深淵の力よ!」
フィーグムンドが目線でローザマリアに合図を送る。同時に、ブリザードが骸骨兵たちを包み込んだ。氷雪の嵐が、骸骨兵を次々と氷漬けにしてゆく。機を逃さぬように、グロリアーナが光によって作られた剣で敵を斬りつけていった。ブリザードで氷漬けにされた敵は、拳で粉砕する。そのうち、骸骨兵たちが後退し、背後にいたローザマリアを倒して逃げだそうとという策に出た。
「今だ!」
爆発が起こった。ローザマリアの合図と一緒に、機晶爆弾が一斉に爆破したのだった。がらがらと崩れた天井が骸骨兵たちを押し潰し、一網打尽にした。
「やった! ローザさん、やりましたね!」
小夜子が飛びはねてよろこんだ。
「うんうん、作戦勝ちってとこかな。ライザも、フィーも、ご苦労様」
「うむ。わらわたちの力を持ってすれば、倒せぬ敵などおらぬよ」
「そうだね。この調子で、早く先に進もう」
骸骨王まではまだまだ先は長い。他の冒険者たちも、今ごろはどこを歩いているだろうか。ローザマリアたちは、崩れた天井を乗り越えて、先に向かった。
洞窟内をダンボールがうろうろしていた。骸骨兵が通る気配がしたら、ダンボールはぴたっと止まり、単なるダンボール箱のふりをする。きょとんとした骸骨兵が通り過ぎたのを、持ち手の穴から確認して、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はもう一度、歩を進め始めた。
「これが、死の亡霊軍と呼ばれているモンスターたちの本拠地ですか。恐ろしいところであります」
「吹雪、ひどいではないか。我よりこんなものを頼りにするとは」
一緒にダンボール箱に隠れているイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が言った。ぬるっとしたタコのような姿をしたポータラカ人。吹雪は不快な顔をしながら、言ってのけた。
「こちらの相棒のほうが頼りになるでありますよ。イングラハムは目立ってしまうではありませんか」
「なにをっ。我もカモフラージュぐらいは出来る!」
「例えば、どのような?」
吹雪はぴたっと足を止めて、イングラハムに顔を向けた
「タコの標本とかはいかがかな? 見事だと思うが」
イングラハムは大真面目だった。吹雪はため息をついて、もう一度歩き始めた。
「イングラハムにきいた自分が馬鹿でありました」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! 我だって、一生懸命なぁ!」
「それよりも、お宝です、お宝。ここにはきっとたくさんの財宝が隠れているはずなのです。早くそれを探すのですよ」
かちゃかちゃっと音がした。骸骨兵が近づいてくる音だった。ぴたっと吹雪は足を止めた。ダンボールの中で息を潜める。緊張が走った。骸骨兵の手がダンボールに伸びてくる気配があった。やばい、見つかる!
かちゃかちゃっと、また音がした。仲間の骸骨兵が呼んでいる音のようだった。持ち手の穴から見える視界では、手を伸ばしかけていた骸骨兵が、仲間の骸骨兵のもとに歩いていく様子が見えた。
「ふうぅ……」
「これほど心臓に悪いことはないな」
「早くお宝見つけて、脱出するのであります!」
吹雪は決意を新たにして、先を目指した。
さあ、どうなることか。アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は興味をそそられた。お化けの類は苦手だが、どうやらこういうことには縁があるらしい。不死の軍団がいるとかいう洞窟にもぐりこんだのは、数十分前のことだった。
アルクラントが見守る視界では、猫耳のついたフードを目深に被った少女と、美しい銀髪をたなびかせる戦乙女が戦っていた。少女は完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)。戦乙女はシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)という名だった。
二人とも、装備を新調したとかで張り切っている。骸骨兵と戦いを繰り広げながら、新しい武器の調子を確かめていた。
そのとき、シルフィアがアルクラントのもとに飛び退いてきた。呼吸を落ち着ける。きょとんとして見つめるアルクラントに、シルフィアは言った。
「アル君もちょっとは手伝ってよ。このままじゃ、時間かかっちゃうよ」
「ああ、そういうことか」
「どういうことだと思ったのよ」
「いや、なんでもない。それよりも、手伝うのはちょっと待ってくれないかな。試してみたいことがあってね。それを確かめてるんだ」
「ためしてみたいこと?」
「ペトラの様子さ。両腕に武器をつけて戦うのも初めてだ。何があっても良いように、見守ってるんだ」
アルクラントの視線を追って、シルフィアは首をうごかした。ペトラが懸命に戦っていた。右手に剣。左には腕に直接装着するタイプの弓矢をつけている。ボーガンみたいなものだ。矢が敵の頭部を打ち抜き、剣がその骨の身体を叩き斬った。
「あれのどこが心配なの?」
「あ、やばい。ちょうどだ」
「ちょうど?」
重さのバランスが悪かったのか。ペトラは体勢を崩し、そのひょうしにフードがふわっと脱げてしまったところだった。シルフィアはそれがなにかという顔をする。けれども、すぐにぎょっとなって目を見開いた。
「ペ、ペトラっ!? なに、あれ!?」
「暴走だ。やばいな、こりゃ」
フードがとれたペトラは、まるで獰猛な獣でも憑依したかのように、荒々しく敵を蹴散らした。武器を使おうなんて発想すらない。拳や足で、獣そのものとなったように敵を粉々に粉砕してゆく。猛々しい遠吠えすらあげた。
「シルフィア、いくぞ! 遅れるな!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
アルクラントが飛び出し、シルフィアがそれを追った。アルクラントは目線でシルフィアに指示を送った。付き合いもそれなりに年月を経てきた。シルフィアはアルクラントの言わんとしていることを理解して、うなずいた。先に自分が飛び出て、アルクラントがその隙をついてフードを被せるというのだ。
「ペ、ペトラッ、すとっぷ!」
どんっ、とペトラの拳がシルフィアの持っている槍の柄とぶつかった。一瞬、隙が生まれる。そのとき、アルクラントが背後から飛び出し、フードを被せることに成功した。
しゅううううぅ、と謎の蒸気を発して、ペトラの猟奇的な気配が失われた。大丈夫か? 問題ないか? 二人が緊張しながら見つめる。ペトラは目を丸くした顔をあげた。
「あれ、マスター、それにシルフィア。なにしてるの?」
「もう、なにしてるのじゃないわよ! 心配したのよ!」
シルフィアはペトラを抱きしめた。ペトラはきょとんとする。アルクラントはほっと息をつき、今後はなにか対策を考えないといけないな、と考えた。
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