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第6章 骸骨王 1

 三道六黒はこの地下洞窟から脱出する方法を知っていると言った。六黒の厚意に従い、ジークはそれについていくことにした。親切な人だ。ジークは六黒をそう思った。けれども、あさにゃんはそうは感じていないらしい。まるでうなりをあげる狼のように、六黒をじっとにらんでいた。ジークには、その理由がよくわからなかった。
 休憩することを六黒は提案した。それまで身につけていた骨のような強化外骨格が六黒から外れた。ひとりでに人型の形になる。ジークはそこではじめて、その鎧が意思を持っていることに気づいた。
「魔鎧だ。名前は葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)。化け物みたいな姿をしてるが、悪いやつではない」
 ジークは面食らいながらも、自分に落ち着くよう言い聞かせ、岩場に座り込んだ。焚き火を作られ、しばらく明かりに照らされた。
「なぜ、このような場所に?」
 六黒がたずねた。あさにゃんが注意するようにぺしっと頭を叩いていたが、ジークは無視して受け答えた。
「骸骨王を退治しにきたんだ。仲間と一緒に」
「地球の契約者たちか。冒険者とかいう、連中だな」
「知ってるの? というより、あんたも地球の契約者?」
「うむ。契約者だ。魔鎧の狂骨と契約しているのが、なによりの証拠」
 六黒はうなずいて、自分の話を語り始めた。これまで数々の敵と戦ってきたこと。ザナドゥと呼ばれる魔界にまで足を運んだこと。他にも契約を交わしたパートナーがいること。数々の話だった。
「あんたも、仲間と一緒に戦うのか? 一つ、聞いてもいいかな。それが強いってことだと、思うか? たった一人で戦うことが、強さの証明じゃないのか?」
「ひとりで到達できる力に限りがあると思うか? そして、互いに寄りかかり合う関係が無限の力を生むと思えるか?」
「みんなはそうだって言う。俺も、そんな気がする」
「結論は簡単にでるものじゃない。ひよっこの小僧が、いっぱしの口をきくでないわ」
「あんたまでそんなこと言うのかよ! 俺はひよっこなんかじゃない!」
 ジークはおもわず立ち上がった。
「威勢だけは良い。それだけは十分なものを持ってるな」
「馬鹿にするなよ。俺だって魔法使いだ。戦う力ぐらい、持ってるんだ」
「別に馬鹿になんてしてないとも。一つ、昔話でも聞くか?」
 六黒は一人の男の話を始めた。それは誰という名前を教えてはくれなかった。ただ、かつて武神とまで一部の者は言われた男だという話だった。男は強かったが、老いとともにその力も衰えていった。人間の限界。男はそれに見切りをつけて、さらなる力を求めていった。
「それも強さの形かもしれん。どの道を行くかは、おぬしが選ぶことだ」
 ジークは、それはもしかしたら六黒自身のことかもしれないと思った。だけども、それをたずねる気にはならなかった。疲れは癒えてきた。また歩き出そう、と六黒は言った。焚き火を消して、物言わぬ魔鎧と二人は立ち上がり、洞窟の奥を目指した。
 しばらく歩いた。時間も感じないほどに。どれだけ経っただろう。そうしているうちに、ジークの視界にようやく、暗闇から脱出できる出入り口が見えてきた。
「やったっ! 出口だ!」
 同時に、信じられない声が聞こえた。
「ジーク!」
 はっとなって、ジークは駆け出した。出入り口を抜けると、仲間たちの姿があった。みんな、探してくれてたんだ!
「みんな!」
 ジークは仲間たちのもとに駆け寄った。
「探したんだよぉ、ジーク!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がジークの手を取って喜んだ。
「待たせたな」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)はジークと美羽の姿を見ながら、嬉しそうにほほ笑んだ。と、そのとき、出入り口から続いて姿を現した男を見て、急にレンや美羽の顔がこわばった。
「あ、紹介するよ、レン。あの人は俺を助けてくれた……」
「紹介なんていらない。あいつのことは、よく知ってるからな」
「えっ」
 レンや美羽は武器を手に取った。ジークはわけが分からなかった。男を見ながら、レンは吠えるように声を張り上げた。
「なぜ、お前がここにいる、三道六黒!」

「ビショップがやられただと!?」
 骸骨兵からの報告を聞いて、骸骨王は驚いた。まさか、あのビショップが負けるとは。思ってもみなかったことだ。部下の骸骨兵はかちかちと口の骨を打ち鳴らし、どうするかとたずねた。骸骨王は、地面に突き立っていた六本の剣を持った。六本の手が、それぞれに剣を握りしめた。
 そのとき、常磐が骸骨王のもとに近づいてきた。それまで沈黙を守っていた男だ。骸骨王は常磐に首を向けた。
「キング、行くのかい?」
「それしか、方法はない。モンスターの誇りにかけて、必ずや奴らを討ち倒してみせる」
「そっか。部下たちはどうする?」
「一部の者は連れていく。だが、残りは……」
 骸骨王は部下の骸骨兵たちを見た。骸骨王の空洞の目が妖しげな光を放つ。すると、ばたばたっと半分以上の骸骨兵が倒れてしまった。
「常磐。頼んでもよいか? 供養を」
「任せといてよ。それぐらいはしないとね。友達だからさ」
 常磐は倒れた骸骨たちを集めにかかった。骸骨王は残った骸骨兵を連れて、部屋を出ようとする。
「待てよ」
 そのとき、正面の入り口から、一人の男が現れた。白装束の特攻服を着た、目つきの悪い男だ。右手には木刀を持ってる。木刀の形をした、刀だ。木で出来た鞘から刀が抜かれ、刃が銀光をきらめかせた。
「貴様は……」
「俺は白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)だ。骸骨王。てめぇの命をもらいにきたんだよ」
 竜造はぎろりと骸骨王をにらんだ。どうやら、あのジークとかいう冒険者たちの仲間ではないようだ。けれども、敵意は剥き出しだ。容赦のない殺気を放ちながら、竜造は構えをとった。
「てめぇが『軍』とか呼ばれるもんのトップにふさわしいかどうか、品定めしてやろうじゃねえか。まあ、どれだけ強かろうが、あの『魔神』にはとうてい及ばねえんだろうがな」
「魔神だと? なんのことだ?」
「答える義務はねえよ。てめぇは俺にとって腕試しだ。俺がどれだけ、あいつにふさわしい存在になったかのなぁ!」
 竜造が飛び出し、骸骨王に迫る。骸骨王の剣が、竜造の刀とぶつかり合った。