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一月みんな揃ってのお誕生日会

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一月みんな揃ってのお誕生日会

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■ 会場の飾り付け ■



 会場にと用意した部屋は、テーブルと椅子を残し大きい家具が移動された後はちょっとした大広間になった。
 大鋸が用意した段ボール箱を開け、道具をテーブルに並べた白雪 魔姫(しらゆき・まき)は持参した色紙と箱に入っていた色紙を見下ろし、小さく気合を入れて腕まくりをした。
「とりあえず時間無いから分担した方が早いと思うの。ワタシが紙を切るからフローラは繋げて、エリスは飾り付けね」
 魔姫の目配せにエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)は自分の胸に片手を添えた。
「はい、分かりました♪ と、そうすると少し時間ができますね。魔姫様達の輪飾りがある程度貯まるまでエリスは部屋の掃除を致します」
「気がきくじゃない」
「どの色の組み合わせがいいかなぁ」
 エリスフィアと入れ替わるように席に座ったのはフローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)だ。糊の蓋を開けて、手際良く色ごとに紙を選り分け横幅を均一にして細切りにする魔姫の作業がある程度進むのを待っている。
「どうせなら金とか銀とか混ぜて派手にしましょ」
 この配色で繋げようと提案する魔姫にフローラは切り分けられた色紙を一枚手に取った。
「暖色系、寒色系にこっちは虹色のグラデーションかぁ、派手っていうより凝ってるねぇ。魔姫、結構気合いれてる?」
「べ、別に、このくらい大したことないわ」
「そう? うん、綺麗で可愛い感じだね。これならただ繋げるより子供達が喜びそう!」
「わ、それいいですね。子供達が喜びそうです」
 箒を片手に様子を見に来てフローラと同様の反応をしたエリスフィアに、魔姫はほんのりと頬を染めた。
「子供達の反応なんてどうでもいいのよ。さ、早く終わらせるのよ」
 早口で捲し立ててざくざくと動揺の手で色紙を切る魔姫に子供達の為にやってきたのにどうしてそんな言い方をするのかと首を傾げたエリスフィア。そんなパートナー仲間に魔姫は照れてるだけだよとフローラは肩を竦めてみせた。
「あなた器用ね」
 両脇をホームロボット「トビィ」と魔法のぬいぐるみ達で固め次々と飾り花の山を築き上げていくルカルカ・ルー(るかるか・るー)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は少し羨ましそうだった。プレゼントのラッピング見本を目の前に置く、彼女の指先は先程から緊張で思うように動いてくれない。
「器用って、リリアが緊張しすぎなんだって。肩の力を抜こうよ。それともエースのチェックってそんなに厳しいの?」
 大袈裟だと作業の手を止めずにルカルカは言う。
「で、そのエースはメッセージカードかぁ。相変わらず細かいなぁ」
 プレゼントのラッピングをリリアに任せていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はメッセージカードから顔を上げた。隣に広げられた百科事典ほどの厚さのあるノートのページを一枚捲る。
「名簿を借りたんだけど、内容が細かくて助かるよ」
「子供達ってそんなに居るの?」
 ノートの厚さから子供達の人数を予想したリリアが問いかける。
「これはマザーから与っている子供達の記録帳。インデックスに名前が書いてあるからそんなに居ないよ。二つの孤児院の子供が集まってるわけだから大所帯だけどね」
「で、その厚さなの?」
 その情報量は細かいの範囲を僅かに超えてはいないだろうか。
「コメントが付けやすくて助かるよ。 ――それとバースディを開こうと思った理由が何となくわかった」
 テーブルを囲う飾り付け組の視線が自然と呟いたエースに集まった。
「誕生日の欄の空白が目立つ」
「それってもしかしなくても生まれて初めて祝われる子も居るってことじゃない? なんか俄然やる気出てきた」
 ルカルカに同意と頷いたエースはラッピングに苦戦しているリリアの手を撫でるように誘導して折り位置の間違いを正した。
 多種に及ぶプレゼントから好みに合う物を選び、カラフルな包み紙とリボン、鮮やかなトルコキキョウの小さなブーケ。おまけに季節感たっぷりのお正月ポチ袋。
 孤児院の誕生日会。と笑う事なかれ。
 皆の気合の入れ様に高崎 朋美(たかさき・ともみ)も負けじと奮起した。
 誕生日を祝うと聞いて真っ先にプレゼントを思いついた朋美は孤児院に来る前に教室を併設している手芸店に駆け込み、布の切れ端を大量に手に入れていた。
 針と糸よりは工具に油と馴染んでいる手では既成品に劣るかもしれないが、朋美は子供達に「思い出」をプレゼントしたかった。遥か昔、消えかける記憶に、誰かが自分の為に何かしてくれたという嬉しかった思い出があるから、今度は自分が贈る側になって余計にこの気持ちが伝わればいいと強く感じた。
「おばあちゃん、この色とこの形でおかしくないかな? それに縫うの難しくない?」
 しかし、時間制限のある作業に不安がないわけじゃない。
 頼るべきはと高崎 トメ(たかさき・とめ)にこういう形でやりたいんだけどと相談を持ちかけた。
「ええな。朋美はセンスがあるからもっと思い切って組み合わせてええと思う。縫い物は丁寧にやれば難しくないからあまり気にせんとやろう」
 パッチワークというはセンス一つで良くも悪くもなるが、大丈夫そんなこと気にしないでと背中を押され朋美は布切れの束に手を突っ込み、ああでもないこうでもないと作業を再開させた。
 目指すは人数分の襟巻きだ。
「よし、だいぶ作ったわね。エリス飾って」
 机に山盛りになった飾り輪に満足しながら魔姫は掃除中のエリスフィアを呼び寄せる。
「お、進んでるな」
 足りない分の机と椅子を集会所から借りてきた大鋸が孤児院に戻ってきた。外の飾り付けを終えたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がその後ろに続いた。彼らの手にもついでだからと机と椅子がそれぞれ抱えてられている。
「ねぇ、大鋸も飾り付け手伝ってぇ。高いところじゃ手が届かないのよ」
 くす玉が完成したルカルカが大鋸を引き止めるが、彼はすまんなと苦笑した。
「今度は足りない食器を借りに行かなきゃならねえ」
「忙しそうね」
「今は皆同じさ。手、休めんなよ」
 エリスフィアから掃除道具を引き受け、机と椅子を綺麗にしたダリルはカルキノスと共に机と椅子を並べ、小さな舞台の用意も整えた。
「何ボーっと突っ立ってるの」
 広間の中央に仁王立ちになるダリルとくす玉を抱えたルカルカが二人でやいのやいのしているのをただ眺め手持ち無沙汰にしているカルキノスに魔姫がいつものきつい口調で問いかけた。
「あ、ああ」
 室内飾りは繊細な作業で自分の手ではせっかくの飾りを潰してしまうと危惧しているカルキノスはまさか声をかけられるとは思わず、少々動揺した。ドラゴニュートの指先を見て、魔姫は鼻をならした。
「ふぅん? ちょっと暇ならこっち座ってよ」
「魔姫?」
 フローラが名前を呼んだが、魔姫は折り紙から視線を外さない。
「そんなごつい手でも輪にして糊でくっつけるだけならできるでしょ。一人だけさぼろうなんてさせないんだから」
 そして再び、フンと鼻をならした。
「ねぇ、リボンが余ったんだけど使わない?」
 正面でせっせと襟巻きを完成させていく朋美に贈り物を完成させたエースは残ったリボンを器用に組み合わせて花のモチーフを作った。
「こういうの」
「あ、かわいい。いいの?」
「余り物だからね。君が良ければ俺は構わないよ」
 と、更に色違いの花を次々と作り上げた。
 一連のやりとりにリリアは見てるほうが恥ずかしくなると肩を竦め、意外な贈り物に小粋なことをしてくれるとトメは笑った。
「あ、あれ、余ってしまいました」
「そこに一箇所止めて襞を増やせば収まりがつく」
 半端に余った飾り輪に困惑したエリスフィアにやいのやいのやっているダリルが振り向いた。
「こうですか? あ、ぴったりです」
「で、これがここで、で、左右対称だ」
 アドバイスを受けてエリスフィアは作業を再開させ、くす玉の位置を決める為にダリルは再びやいのやいの始めた。どうも互いのセンスがぶつかって決まるには時間がかかりそうだ。
「あれ、この箱に入っているリボンの薔薇ってどうするの?」
 飾り付けが終盤に近づくにつれてテーブルは片付けられていく。その中でぽつんと箱が残っていた。
「あー、置いておいてー」
 残された箱に気づいたフローラの問いかけにルカルカが答えた。
「何に使うの?」
「内緒〜♪」
 人差し指を唇に当ててルカルカはウィンクした。お誕生日というのは何かと贈りたい日である。