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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城

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第1章 弾幕の嵐に

 パラミタ内海の≪バイオレットミスト≫に覆われた空を、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が跨る聖邪龍ケイオスブレードドラゴンが駆け抜ける。
「一気に上昇するわよ! ちゃんと捕まってて!」
「承知であります――」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の返事を聞き終えるより早く、ブレードドラゴンが敵の機銃を掻い潜り巨大飛空艇の頭上へと舞い上がる。
「いまよ!」
「これでどうでありますか!!」
 吹雪は素早くブレードドラゴンの上で態勢を整えると、軍神のライフルを敵の機関砲に向けて撃ち放った。
 その間隔は数十秒とかからない。常人なら反応もできない速度である。
 しかし――
「厄介でありますな……」
 弾丸は間に割り込んできた小型襲撃兵器の盾に防がれる。
 円形をした小型襲撃兵器は高い機動力を持ち、表面が盾の役割を果たした。そのうえ、近づけば回転する刃で斬りつけてくる。
「このまま移動しながら攻撃を続行しますよ!」
「了解であります!」
 ブレードドラゴンは口から白と黒の螺旋状の攻撃を放ちながら、巨大飛空艇の上空を移動する。

「ッ――全然、接近できない!」
 巨大飛空艇の主砲を回避した弓彩 妃美(ゆみさき きみ)は、恨めしそうに睨め返す。
 先ほどから生徒達が頑張ってくれているが、襲撃兵器の数と弾幕の多さから近づくことができないでいた。
「中には祖母ちゃんがいるのに……」
 手元の端末には、GPSの位置情報が飛空艇がいる場所を示している。
 焦りが妃美の集中力をかき乱す。
 その時、次弾のために敵の主砲へ収束していた光が一瞬消えた。
「故障か!? しめた――」
「弓彩さん、駄目!!」
 飛空艇に向かおうとした妃美を、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が横から突き飛ばす。瞬間、リースの背後を光の粒子が駆け抜けた。
 リースのおかげで、妃美は直撃を免れることが出来た。
「あ、ありがとう」
「いっ、いえ、怪我はありませんか?」
 妃美に怪我はなかったが、リースは衣服の端を焦がしてかすり傷を負っていた。
 呆然とする妃美。そこにソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)がやってくる。
「焦るな。チャンスは必ずやってくる」
「……うん。わかってるんだけど……」
「大切な人がいるからこそ、冷静になって対処する。それが成功への近道だ」
 飛空艇が再び主砲をチャージし始める。
 立ち止まっていては再び狙い撃ちにされてしまう。
 近づいてきた清泉 北都(いずみ・ほくと)が妃美に手を伸ばす。
「弓彩さん、僕が前にでるから、ソーマと一緒に援護をお願いするねぇ」
「だ、そうだ。いけるな?」
「……大丈夫。あと、ありがとね」
 冷静さを取り戻した妃美は、自分の頬を叩いて飛空艇と向き合う。
「絶対――助けてみせる!」
 行く手を阻むように襲いかかってくる小型兵器。
「私が道を開きます!」
 前に出たリースが薙ぎ払うように手を振ると、指先から発生した雷が天罰のごとく襲いかかる。
 雷に打たれた小型兵器は、黒い煙を上げて次々と爆発していった。
「ありがとう!」
 黒煙を駆け抜け、北都とソーマが飛空艇に向かっていく。
「主砲来るよ」
 駆け抜ける光を二人は左右に分かれて回避する。
「邪魔だ! どけ!」
 襲いかかる小型兵器に対して、ソーマは【ブリザード】を放った。
「少しでも攻撃を減らせれば――」
 北都は宮殿用飛行翼で攻撃を回避しながら、飛空艇の大砲を狙う。
「ゆ、弓彩さん、あんまり前に出ないでください!」
「ある程度、前に出ないと援護できないわよ!」
 リースの制止を無視して、出遅れた妃美は北都達を追いかけた。
 そこへ向かってきた大量のミサイルを、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が風の力で逸らさせる。
「妃美の意見にも一理あるわね」
 爆風に煽られ髪を靡かせながら、マーガレットは笑顔で妃美を振り返る。
「それに、後ろに下がって見てるだけなんて、カッコわるいものね」
「マーガレット、話がわっかる〜」
「ちょっと、二人とも……」
 リースが戸惑っている間にも、小型兵器が迫ってくる。
「下がって! あいつらの足を止めるわ!」
 妃美は腰から爆弾を切り離して前方に投げつけると、それに向かってトリガーを引いた。
 破裂した爆弾は劈くような音と共に発生した衝撃波させ、小型兵器の動きを鈍らせる。
「マーガレット!」
「任せて!」
 風の翼で駆け抜けるマーガレットは、よろめく小型兵器を次々と切り裂いていった。
 連携で数十機の敵を落とした二人は軽くハイタッチを決める。
 そんな二人の様子を見ていたアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)が、楽しそうに笑い声をあげた。
「ホホホ、とんだおてんば娘が二人だと大変じゃのう」
「お師匠様、そんな他人事みたいに言わないでください!?」
「わかっておる。我輩たちがその分働けはいいだけじゃろう」
 そう言うとアガレスは、向かってきたミサイルの束に飛び込んでいく。
 純白の翼は持つアガレスは、疾風のごとき速さでミサイルの間を駆け抜け、同時に目にも止まらぬ動きで攻撃を与えていった。
 抜きさった時、背後で爆発が優雅に翼を広げたアガレスを照らしだす。
「見たか。これが白夜の魔鳥と呼ばれた我輩の力じゃ!」
「白夜の魔鳥!? 初めて聞きました!?」
 リースは瞳を輝かせ、尊敬の眼差しでアガレスを見つめていた。

「ここは大丈夫そうね」
 炎雷龍スパーキングブレードドラゴンを駆るルカルカ・ルー(るかるか・るー)は全体を見渡す。
 飛空艇の上方では吹雪達が、正面では北都達が、他の生徒達も飛空艇の火器を破壊しようと奮闘している。
 あえて手薄な所を挙げるなら――
「ダリル、ルカ達は下から攻めましょう」
「承知した」
 ルカルカはパラミタ内海の空を駆け抜け、飛空艇の下方へブレードドラゴンを潜り込ませる。
「弓彩、敵の数が減ってきたら一気に突入するぞ。いつでも動けるよう準備しとけ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も妃美にひと声をかけ、後を追いかける。
「ミサイルか……そんな攻撃など――」
 向かってきたミサイルの嵐を、ダリルは重力制御で止めるとグラビティガンで撃ちぬく。
 一発。撃ちぬいたミサイルが次々と連鎖して爆発する。
「……やれやれ」
 爆発で跳ね上がった海水を浴びたダリルは落ちた前髪をかきあげ、ルカルカの後を追いかけた。
 ルカルカは水面ギリギリを飛行しながら敵の攻撃に回避していた。
 飛空艇の底に機銃はないが、代わりに誘導ミサイルと小型兵器が無数に襲いかかってくる。
「なめないでよね!」
 ルカルカは動きを読み、間を抜けて一気に飛空艇に接近する。
「見えた! まずは1つ!」
 斜め下から打ち込んだ攻撃が、飛空艇の火器を一つ撃ちぬく。
 ルカルカは再び距離をとりながら、攻撃の隙を狙う。

 すると――上方でも爆発音が鳴り響いた。
 少しずつ、弾幕が薄くなっていく。