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珍味を求めて三千里?

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珍味を求めて三千里?

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二章 暴角獣の庭



「キュウ〜、キュッキュィ〜」

 森の上空を飛ぶサフラン・ポインセチア(さふらん・ぽいんせちあ)。眼下の木々を眺め、何かを探している様子。
 すると、視界の隅で、森に生えていた木の一本が突然倒れた。

「キュ? キュイキュイー!!」
 それを見たサフランが、下に居る仲間へと尻尾を振って合図を送る。

「あ、サフランが何かを見つけたみたいだね」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)がサフランの合図に気付いた。
 上空のサフランの指示通り森の奥へ。
 超感覚で周囲を警戒しながら進む。
 ややあって、リアトリスの大きな耳がピクリと動いた。
 鋭い聴覚は人の声を捉えていた。暫く進むと、重い振動音と共に獰猛な獣の咆哮も聞こえてくる。
 やがて、木々がまばらに生える開けた場所に出た。

「はああっ!!」
 そこでは激しい戦闘が行われていた。夏來 香菜(なつき・かな)の振るった巨大槌が魔物の横面に叩きつけられる。

「グオォォ!!」
 魔物の巨体がよろける。

「これが暴れ鬼牛……!?」
 リアトリスの目前にいるのは、人の背丈を越えるほど巨大な牛の魔物だった。その頭にはねじれた二本の角が生えている。

「お、丁度良いや、お前らも手伝え!、このデカブツ、俺達だけじゃ手に負えねぇんだ!」
 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)が角を振り回す大牛から距離を取り叫ぶ。
「香菜ちゃん、大丈夫ですか」
 傍らでは杜守 柚(ともり・ゆず)が香菜の傷を癒していた。

「思っていたより大きいな……けど、怯んでる場合じゃない」
 リアトリスが大剣、スイートピースライサーを構える。
(気をつけな。角に掠りでもすりゃあ空高く吹っ飛ばされるぜ)
 リアトリスに憑依しているスヴァトポルク・ブロムクヴィスト(すばとぽるく・ぶろむくびすと)がそう忠告した。
 あの巨体である。下手に攻撃を喰らったら、吹っ飛ばされ木に叩きつけられて怪我では済まないかもしれない。
 その時、暴れ鬼牛が武器を構えたリアトリスに気がついた。

「っ!?」

 鬼牛は頭を低くしたかと思うと、いきなりリアトリス向け突進してきた。
 尖った二本の角が目前に迫り、咄嗟に飛び退くリアトリス。
「わわわっ!」
「キュイー!」
 リアトリスの後ろに居たフリージア・ヴァルトハイト(ふりーじあ・ばるとはいと)とサフランも慌てて避ける。
 標的を外しても大牛の突進は止まらず、そのまま近くに生えていた木に激突。木はへし折られ、大きな音を立てて倒れた。

(なんつー威力だ……)
 スヴァトポルクが舌打ちする。

 振り向いた大牛の頭には、傷一つ無かった。二本の角もまた同じ。
「香菜の一撃も効いてないみたいだし、これはちょっと面倒かな……」
 杜守 三月(ともり・みつき)が柚の前に立ち剣を構えなおす。

 再び突進の構えに入る大牛。

「お願い、眠ってっ!」
 柚が『ヒプノシス』で大牛を眠らせようとする。しかし怒り狂った大牛は眠ることなく、香菜へ向けて突進する。
「このっ……!」
 突進を避けた香菜が大牛に接近、槌を振り上げる。
 しかし、振り向いた大牛が頭を振るい、その巨大な角を振り回した。

 香菜の持つ槌が弾かれ、重い音を立てて離れた所に落下する。

「あ……」

 武器を失った香菜に、魔物の尖った二本の角が迫る。

「香菜ちゃん危ないっ!!」

 角が香菜の体に触れる直前。柚が香菜を抱きかかえるようにして跳んだ。
 地面に倒れこむ二人。その足元すれすれを、巨大な魔物が走り抜けていく。

「香菜!!」
「柚、大丈夫!?」
 キロスと三月が急いで駆け寄る。

「大丈夫?」
「う、うん。ありがと……」
 どうやら二人とも無事のようだ。
 しかし、柚の足首辺りに血が滲んでいた。どうやら大牛の角が掠ったようだ。
 
「任せるアル!」
 フリージアが駆け寄り、ヒールで治療する。
 程なくして傷は癒え、柚は立ち上がる。

「キロス、ちょっと相談があるんだけど」
 三月がそう言ってキロスに歩み寄る。
「ん、何だ?」
 三月は返事をせずに、持っていた赤いマントをキロスの肩に掛けた。

「うん、似合う似合う。それじゃ、うまく引き付けてね!」
 そう言って笑顔でキロスの肩を叩く。
「は? お前何を……」
「ほら、来たよっ!」

 見れば大牛が幾度目かの突進を始めた所だった。その先には赤いマントを羽織ったキロスの姿が。
「うおわっ!?」
 慌てて飛び退くキロス。赤いマントと真っ赤な長髪が翻り、それはまるで闘牛のよう。

「ほらほらしっかりー!」
「てめぇ、後で覚えてろよっ!!」
 大牛はキロスだけに狙いを定めている。キロスは寸での所で避け、または受け流す。赤色に反応してか、大牛は今やキロス以外の存在が目に入ってないようだ。
 それを見た三月とリアトリスが武器を構え、駆け出す。

「サポートするアルよ」
 フリージアがパワーブレスをかける。三月とリアトリス、二人の体に力が漲る。
「キュキュイ〜!」
 サフランはキロスと共に大牛の気を引いていた。キロスの頭上でパタパタと胸ビレや尻尾を揺らしている。
 だが接近した三月達に大牛が気がついた。

「させませんっ!」
 柚が『サンダークラップ』を放つ。発生した電撃が大牛を直撃し、体を麻痺させた。
(ついでにこれも喰らいなっ!!)
 リアトリスが憑依したスヴァトポルクの力を借り、重力に干渉する。
 動きを鈍らせながらも、抵抗するように角を振るう大牛。
 リアトリスはそれを、まるでリズムを取るように軽やかな足取りで避ける。リアトリスお得意のフラメンコだ。
 そのまま大牛の懐に潜り込み、首元目がけて渾身の一撃を放った。
「レジェンドストライクっ!!」
「グオォォッ!」
 
 大きく仰け反る暴れ大牛。

「これで止めだよっ!!」
 三月が剣を構え大牛へと突進する。急所を狙った一撃は、大牛の心臓を見事に貫いた。

 巨体がゆっくりと傾き、地響きと共にその場に倒れる。

「やったアルー! これで珍しいお肉食べれるネ!」
「キュルキュ〜♪」
 喜びとび跳ねるフリージアとサフラン。

「まったく……酷ぇ目にあったぜ」
 地面に座り込みごちるキロス。そこに柚と三月が駆け寄った。
「キロス君、怪我はありませんか?」
「おつかれさま。流石キロス、しっかり役に立ってくれたね」
「てめぇ……」
 睨みつけるキロスだったが、当人はそ知らぬ顔で手を差し出す。

 その時、業者の人間がこの場に到着した。どうやらサフランが空を飛んで呼んできてくれたらしい。
 すぐに手際よく大牛を運び始める。

 差し出された手を払い、キロスは自力で立ち上がった。

「ふんっ。おい、とっとと帰るぜ、香菜!」
「はいはい、まったく……」



 苦労して手に入れた食材と共に、学園へと帰還する一行。


 調理場に肉を届けに行くと、キロス達に声を掛けてくるものが居た。

「あ、キロス、香菜、新年おめでと! 丁度良かった。これからワイバーンの卵取りに行くんだけど、キロスも一緒に行かない?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がそう言って首を傾げた。

「正直疲れてんだがな……。ま、思ったより時間食わなかったし、もう一つくらい食材取ってくるか。飛竜相手に暴れるのも楽しそうだしな」
 そう言ってキロスは再び学園を後にするのだった。
 香菜は学園に残り、調理の手伝いに向かう。