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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

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【カウンター】

「一緒に頑張りましょうね」
 にこにこと邪な部分の無い笑顔を向けられると、何だかばつが悪い気がする。
 耀助はあははーと困った笑顔を返した。
(おまけに怖そうな兄貴付き……)
 ちらりと視線をやると、「ああっ!?」と音が聞こえるような視線を返されて、耀助は慌てて視線を目の前のフライパンへ移した。

 今、耀助は高柳 陣(たかやなぎ・じん)ティエン・シア(てぃえん・しあ)の二人に挟まれている。
(沈黙が痛いわー……)
 思っていると、陣がため息をついた。
 つい肩を震わせてしまうと、意外にも陣が話し出した。

「……この定食屋にはいつも世話になってんだよ……」
(あ、意外といい人なの?)
「普段より忙しいみてぇだし、なによりティエンの奴がジゼルを手伝ってやりたいって張り切ってるからなぁ。
 ま、仕方ねぇ。
 ティエン。
 これ、一つタッパー入れといてくれ。
 それであとでジゼルに、女将さんに食わせてやれって渡しとけ」
 賄いようの鮪漬けを準備しながら話す陣に、ティエンは嬉しそうに頷く。

「みんなでお料理したり、お客さんに喜んで貰ったり、こういうのってとっても楽しいね!」
 えへへと笑いながら顔を上げたら、厨房に入ってきたホール担当者の背中に当たってしまって、ティエンは
ぶつけた鼻をこしこししながら「ごめんなさいっ」と頭をさげた。
(小動物!)
 ティエンの動きはまさに小動物のそれである。
 胸をわしづかみされて、耀助は勝負に出た。
 オリーブオイルとご家庭の冷蔵庫によくある(?)謎野菜を両手に持って
「大丈夫かい?」 
 と、イケメンの表情を作ったのは束の間、背中に痛い視線を感じて、そろそろと向き直る。
「あはは、オニーサン怖いなぁ……大丈夫ですよー何もしないからー……」
 耀助の棒読みの言葉に、陣は不快感を隠さない。
「ったくなんで俺がこんなことに……」
 そう口で言いつつも、楽しそうに仕事をしているティエンを見ていると、次に続くのはこの言葉なのだ。

「まぁ、仕方ねぇか」



 ところで、ナンパ師耀助の華麗なるナンパ失敗遍歴の一つをここにもう一つ紹介しよう。
「わざわざ俺が忙しそうだから手伝ってくれるって?
 嬉しいなぁ……
 ……
 ……
 今度お茶でも一緒にどう?」
「ふむ、それもよいかのぉ」
「(脈あり?)じゃあさ、場所は」
「学食合った時にでもな。聖、アリア、楽しみじゃのう」
 おねーさんは天然さんだった。
 神凪 深月(かんなぎ・みづき)狼木 聖(ろうぎ・せい)アリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)の三人は厨房に立っていた。

 深月は黒い着物の上に借りた割烹着を着ると、聖に借りた包丁セットを水でさっと流して料理を始めた。
 マグロの血合いを酒、生姜、薄口醤油で少々漬けて下味をつけ、汁気を切って片栗粉を塗す。
 揚げた血合いを横に置き、一口大に切った人参、ピーマン、筍などを油通しをし、
その後、中華鍋に揚げた血合いと油通しした野菜をさっと炒め、
みたらしソース、酢、ケチャップで甘酢を作り絡めて

「出来上がりじゃ!
 マグロの血合いの甘酢餡掛け炒めじゃ」
 かなりの手際のよさに周囲にいた耀助らは拍手をした。
「あとはカルパッチョを作るのじゃ」
 深月は口笛でも吹きそうな雰囲気で料理を続けた。


「その格好は、中々シュールだな」
 耀助に指摘された聖の格好は、黒スーツに割烹着。
(サングラスだけは取ったら?)
 と、耀助は突っ込むべきか悩んでいる。
「わいはねぎま鍋を作るわ」
 昆布でとった出汁に、醤油とみりんで味を整えて、赤身のマグロを少し厚手に切ったものと
白葱をぶつ切りにしたものとさっと火を通して
「出来上がりや。

 あとはマグロのステーキ二種盛りや」
(やっぱサングラスはしたままで?)
 脂の乗った部位を塩胡椒で下味つけて鉄板でさっと焼いて
表面はきちんと中は熱を通しつつもレアに仕上げる。
 そしてマグロの頬肉。
 これも同様に焼き、皿に盛ってシソの葉を刻んだものを上に散らしておく。
「ソースは柚子を効かせたポン酢と、ニンニクおろし醤油の二種類でどや?」
 聖の考案したメニューは人気だった。
 サングラスのおにーさんが料理する迫力を間近で感じていないカウンター以外の客には。


 アリアはわたげうさぎのアップリケのついたピンクのエプロンをつけながら、準備は万端。
 だったのだが
「怖いですの……」
 普通に手伝いたい。気持ちはあるものの、アリアは被害妄想の激しい重度の対人恐怖症であった。
 物陰に隠れ、タイミングを見はからい、深月と聖の二人のところへ皿や丼を出す。
 それだけで彼女には精一杯だった。
 それだけの行動で、きゃーきゃーと悲鳴を上げていた。
 そんな中、アリアにも指示が回ったきてしまった。
「アリア、すまんが厨房の奥にいるものたちにネギを分けてきて貰うよう頼む」

 そろり。そろり。
 深月に頼まれたおつかいを一刻も済ますべく、アリアは厨房の棚の後ろに冷蔵庫の上にと隠れながら進んでいく。
「こ、こんなんじゃおネギを頼めない……」
 意を決して飛び出そうとした時だった。
 厨房に立っていたのは新兵衛だったのだ。
 本来は子守だから、子供好きで優しい彼なのに、口を開く前にその顔の迫力に、アリアは耐え切れずに叫んだ。

「椅子に縛りつけられてそのネギで殴られるですのー!?」