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第1章 おもちつき大会!

「はぁああああああああっ!」
「ちょ、ま、おぃいいっ!?」
 ぺったんぺったんぺったんぺったん。
 2月にしては暖かい日差しの下で、賑やかな声が響く。
 雑貨屋ウェザーの餅つき大会。
 一番手のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の餅つきパフォーマンスが行われていた。

「お餅つきなら任せてください!」
 ぐっと握りこぶしを突き出していたフレンディス。
 その言葉に違わぬ見事な杵さばき。
 ベルクもおぼつかないながらなんとか餅を返し、餅つきは順調に進んでいく。
 筈だった。
「では、ここでひとつ余興をお見せいたしましょう!」
 勢いがついたのか何処かスイッチが入ったフレンディスは、きりりとハチマキを締めると杵を持ち直す。
 そして冒頭へ。
「はぁあああああああっ!」
 フレンディスは、突いた。
 しかしその速度は常人の目では観測不可能。
 あまりのスピードに、彼女の姿が複数に増殖したようにさえ見える。
 増えたフレンディスは、そのままのスピードを保ったまま餅をつき続ける!
 ぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……
「ちょ、無理、あんなの返すの無理!」
 フレンディスの餅つきは、ベルクが悲鳴を上げまで続いた。
 その後は、つき手をベルクと交代しフレンディスは返しに専念。
「よっ」
 ぺったん。
「はいっ」
 ぺったん。
 何事もなかったかのように、ほのぼのと餅つきは無事終了した。

「すごい迫力でしたね」
「そうねー。お餅つきってあんなにも激しいものだったのね」
「いや、本当はあそこまでするものじゃないんだけどね……」
 フレンディスのパフォーマンスに、審査員席が沸く。
 感心したように頷き合っているのは杜守 柚(ともり・ゆず)サニー・スカイ(さにー・すかい)
 サニーの間違っていきそうな餅つき観に修正を加えようと努力しているのは彼女の隣に座っている杜守 三月(ともり・みつき)だ。
 審査員席にはピンク色の薔薇の花束が飾られているが、これはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)からサニーへのプレゼントだ。
「あれ、レインは?」
 ふと、サニーはさっきまで座っていた弟がいないことに気付く。
「ほら、あそこ。人手が足りないから」
 クラウドが指差した先を見ると、そこには緊張気味の弟の姿。
 杵を構えた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の隣にいるということは、返し手役なのだろう。
 それはいいのだが、吹雪から漂う異様な雰囲気が気になる。
 知る人が見れば、その雰囲気の正体が何だったのか分かるだろう。
「――いくであります!」
「あ、はい」
 若干テンションの異なる二人は、蒸したてのもち米が入れられた臼の前に立つ。
 ぐっぐっと杵でもち米を整える。
 そして。
「たぁあああああああああっ!」
 ぺったんぺったんぺったんぺったん。
「あぁあ、こっちもかっ!」
 吹雪の目は、真剣そのもの。
 一心不乱に、ただ餅だけを見ていた。
 そう、餅だけを。
 レインとか、眼中になかった。
「心静かにっ」
 ぺったん。
「餅だけをっ」
 ぺったん。
「見てっ」
 ぺったん。
「つくでありますっ!」
 ぺったん!
「いや俺も見てえええっ」
 最初は真面目に返そうとしていたレインだったが、早々に身の危険を感じて退散した。
 そう、彼女が発していた異様な雰囲気。
 それは殺気だった。