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運任せ!! 冬のパラミタグルメの旅!!

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6/おみまいしよう。

 一体、どこまで連れて行かれるんだろう。というか、何時間、こうしていればいいんだろうか。
 多分その思考は、キロスと雅羅に共通していた。
 
 これは偏に拉致と言って、いいんじゃあないだろうかと。
 あ、着きましたよー。スタッフの声を聞いて、アイマスクに手を伸ばして。まだとらないでと叱られて。
 すんません。……いや、すまないのか? それすら疑問に思えてくる。すまなく思う必要性、あったか? と。

 段差を越えて、靴を脱いで。足元に畳の感触を感じる。旅館、だろうか。

「ここ、どこ?」
「俺に訊くなよ」

 とりあえず、互いにまだ一緒にいることは確認。

「大体──ん? あれ?」
「どうした」
「なんか、いい匂いしない?」
 言われてみれば。どこかから、味噌のような匂いがしているのがわかる。わりと、すぐ近くだ。
「じゃあ、目隠しとっていいよー」
「へ。あれ? 美羽?」
 そして聞こえてきた声に、首を傾げる。
 まあ、外していいというのなら、外そう、この目隠し。
 ふたりしてほぼ同時に目隠しに手を伸ばし、解いていく。


「いらっしゃい」


 開けた視界の中心に、鍋があった。

 囲炉裏にかけられて、ぐつぐつ煮えて。先ほどから漂っていたいい匂いの原因がそれだと、はっきりとわかる。
 美羽が、ベアトリーチェが、柚が。理沙たちが、皆がそれを囲んでいる。
 耀助や、エースたちまでも。

 えーと。これは一体、どういうことだろう。

「おいしいおいしいイノシシのぼたん鍋、できあがってるよー」

 ネージュが、ぽっかり空いたふたりぶんの座布団をぽんぽん叩いてふたりを手招きする。
 状況がいまいち呑み込めないまま、ふたりはそちらに吸い寄せられていく。
 まあまあ、座って。はい。腰を下ろす。

「……どういうこと?」

 ようやく、雅羅が口を開く。
「わかってて参加した皆はともかく、あなたたちは無理矢理だったでしょ? だから、まあ多少はね? いい思いもしないと」
 美羽が不敵に笑い、箸を渡す。柚が、器を。セレスティアが、マヨネーズを。

「……いいの?」

 いーんです。全員が頷く。
「またなんかオチがあるとか、そういうのじゃあ」
「ないない。心配しなさんな」
 いつの間にか、なぜかドレス姿のルカルカが背後に立っていた。その手には、いくつかの紙袋を抱えていて。
「ほら、男衆!! ちょっと遅くなったけど、チョコだよ!! 受け取って!! それで、鍋食べよう!!」
 まごつくキロス。どうやら、ほんとうにほんとうに、信じてもいいようだ。
 顔を見合わせる、キロスと雅羅。

「それなら」
「じゃあ」

 ──お言葉に、甘えて。


「「いただきます」」


 それが宴会の、はじまりの合図だった。





 ああ。あっちは楽しそうだなぁ。それなりに離れたこの部屋にまで、わいわい賑やかな宴会の声が漏れ聞こえてくる。

「いいなぁ」

 これはなにか。料理を食えないことが確定したパートナーに「ざまあ」なんて思った、罰かなにかか。
 ちょっと思ったくらいでまともなもの、食わせてくれないのかよ。

 和深は、目の前の囲炉裏で煮えたぎっている土鍋を見る。
 たしかにそれは鍋だ。いや。鍋、なんだけどさあ。
 ぐつぐつ煮えているというより、その液面はぼこぼこと泡立っている。漂ってくるのは湯気というよりも、明らかに煙だ。なんだかとっても、すっぱいやら辛いやら混じりあった匂いがして、目に痛い。じわじわ、粘膜にしみてくる。
「……これ、ほんとに食えるのか?」
「だーいじょうぶですって、主様」
 つくった張本人──シアンが和深の手にした器をひったくり──もとい受け取って、その中に煮えたぎる具材を次々、放り込んでいく。
「食べられないものは入れてませんから」
「あ、ああ、そう」

 それはいいんだけどね。問題はそれが「食える味の組み合わせかどうか」という部分にあるわけで。
 一体なにが入っているんだろう。今までどうにか呑み込んできたけれど、なにひとつ元が何であったのかわかるものがなかった。
 そのことを、問えば。

「え? わかりません? それじゃあ、わかるような食材、そろそろ入れましょうか」
「……え」

 よっこいしょ。どこかから、なにやらごそごそ中で蠢く音がするお櫃を持ち出すシアン。
 蓋を開いた、そこには。

「うわっ!?」

 たっくさんの。特大の──虫。
 そう。ジャタジャンボタガメである。

「なんでここにあるんだよっ!?」
「キロス様たちを連れてきたスタッフのみなさんに、一緒に持ってきてもらいましたー」
 いえい、とブイサインをつくるシアンに、ドン引きしている和深という構図は実に対照的だった。
「じゃ、入れますねー」
「え!? あ、ちょ!?」
 引き留められようはずもない。
 無数の巨大タガメたちを、シアンは容赦なく鍋の中に飛び込ませていった。
「……マジで?」
「だいじょーぶ、食べれますって。きっと、おいしいですって。いやー、食べられないのが残念至極です、まったくもって」
 いけしゃあしゃあとした、シアンの声。
 蠢きながら、今度は紫色に変わった水面にタガメたちは沈んでいく。

「お残しは、許しませんので」
「……はい」

 宴は、まだまだ続く。和深にとっては、残念なことに。鍋が空っぽになるまでは、少なくともその間、続くのだ。



                                         (了)

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

ごきげんよう。お待たせしました、本シナリオ、リアクション担当マスターの640です。皆さまはどの目を出して、どのように楽しまれたでしょうか?
アクションを拝見した感じ、皆さま各々、個性的な旅を考えてくださっていて、すべてを完璧に拾えなかったのが自分としても残念になるくらいバリエーションに富んでいたように思います。ご期待に添える内容になっていれば幸いですが。さすがに今回くらいはキロスたちにもいい目を見させてあげないといけませんしね。
 
ではでは、また次のシナリオでお会いできることを祈りつつ。