リアクション
神、空に知ろしめす。なべて世は事も無し。
朝露に、緑が煌めいた。
「柊だわ」
歩き慣れた通学路のはずなのに、特別に見えるのは節分の洗礼に遭ってしまったからだろうか。
あれから四日の時が経った。
恐ろしい事件は、再び何事も無かったかのように、
あの餓鬼や怨霊のように霧消してしまった、
残されたのは事件に巻き込まれた人々の記憶だけで、死んだ人間も、傷を負った人間も、何事も無かったかの様に空京の街の中に倒れていた。
それでも何も無かったで済まされないのは、
目の前で大切な人を失った痛みと、消えて行く苦しみ。
それから香菜をはじめ自覚の無い中で人を傷つけてしまった人間の中に残された遺恨の気持ちからだろう。
傷は消えない。
それでも、強く生きなければ。
香菜は隣を歩く相棒を見上げて、眉間を人差し指で掻きながら言う。
「あんな目に遭ってみると、たかが年中行事と侮れないわね。
来年からは真面目に豆まきする事にしたわ」
「来月は確か”ヒナマツリ”だったか?」
「髪が伸びたり夜中に動き出す人形が出なきゃいいけど」
自虐混じりに苦笑すると、キロスも釣られて笑い出した。
案外冗談でも無いのを、こいつは分かっているんだろうか。
「でもまぁ……中々に平和よね」
雲一つ無い晴天を見上げながら、香菜は思う。
呪いは消えないかもしれない。
また事件が起こるかもしれない。
「それでも”神天に居まし、全て世は事もなし。”よね」
「ねえ、ジゼル知らない?」
「四日も学園に着てないのよ」
「あの子携帯持ってないの。
だから何か用事が有る時や体調が悪い時は必ず私に連絡が有る様になってたのよ」
「家はもう友達と一緒に家に行ったわ!
そしたら鍵が空いてて、テーブルに二組のお茶とケーキがそのままで」
捲し立てるように言った{SNM9998784#雅羅・サンダース}は、静かに手を広げてみせる。
その中で光りを放つのは藍色の鉱石。
「ジゼル、ピアスはしてないわ。
これ…………誰のか知ってる?」
マシンがクラッシュしました。やっぱり、鬼モノは鬼門なのだと、身にしみました。