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―アリスインゲート1―前編

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―アリスインゲート1―前編

リアクション

 
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が喚いていた。
「むー……電車男の奴、せっかく手助けしてあげたのにあっさり負けるなんて信じられないの!」
 電車男から切り離された足を、列車の壁に投げつける。彼がやられたのが相当に不満のようだ。殺しの業界ではなかなかに名の知れた殺人鬼だったというのに、こうもあっさりとやれては肩透かしにも程があった。
 彼に運がなかったとも言えなくもないが、この状況であの殺人鬼が生きているとなると面倒なことこの上ない気がする。
「ほほう……アイツを列車に招き入れたのはお前だったのか……ハツネ」
「ゆ、唯斗お兄ちゃん……!?」
 後ろからヌラリと現れた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に気圧されながらハツネ言い訳開始。
「ち、ちがうの! たまたま同じ列車に持っていただけなの! それは……アイツが殺されないように手助けしたけど……人の仕事に手を出すようなマネはしてないの!」
 それに大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)がフォローを入れる。
「……まあ、な。電車男の野郎に加担してないのは本当だ」
「それどころか、電車男さんのおかげで僕達まで帰れない有様なんですよ? 時空間移動の魔術師を異次元ない殺っちゃうなんて僕らでもしませんよ」
 豪華寝台列車の客室で見つかった女性の死体を葛葉が引っ張って目の前に持ってきた。苦悶の表情のまま頭を撃ち抜かれたそれを無造作に唯斗の前に投げる。
 パラミタと上野間を繋ぐ異次元運行の列車には常に時空間移動の魔法を行える専属の魔術師を同行させる。今回の列車においてもそれは同様だった。
 しかし、異次元走行中の彼女の休憩室を特別に寝台車に割り当てたのがいけなかった。電車男は彼女を一乗客に思い、殺してしまった。特に電車男は女性を苦しめて殺す嗜好があるものだから、余計にたちが悪かった。
「ま、異世界に飛ばされて生きているなら、異次元を彷徨うよりましだよね。異世界ならどんと来いだし」
 などと、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が自信たっぷりに言う。自慢できることでもなく、その自信もどこから来るのやら。
 一方、こんな状況でもやっぱりというか、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は淡々としていた。
「ともかく近辺調査だ。それと資金の調達だな……」
「宝石でも換金して、宿も探さないとね。客室車両も使えそうだけど、乗客全員を寝泊まりさせるのも難しいし」
 顎に指を当ててルカルカが呟く。
 現在、列車事故から助かった人は、述べ200名近くと言ったところだ。その大半がパラミタの学校関係者とは言え、横転した列車で全員がいつまでも寝泊まりするわけにもいかない。
 いつ元の世界に帰れるかわからない以上、当面の宿場を確保する必要がある。そしてそれには資金も必要だった。
「というわけだ。調査の方はルカたちがやってくれるな。ハツネ。お前らはここで乗客の護衛してろ。俺はコリマからの頼みも会ってアリサを見張ってないといけないからな」
 といって、アリサを追う唯斗だった。すでにどこかに行ってしまいそうなアリサの気配を【不可視の封斬糸】で辿り追いかけた。
 勝手にお留守番を言い渡されたハツネが「ぇ……」と漏らす。
「というわけでよろしくーぅ」
 ルカたちもハツネを残して何処かへと行ってしまうのだった。
「そんな! お留守番なんてつまんないのぉー!」
 喚く彼女の傍らで鍬次郎が煩そうに片耳を塞いだ。