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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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第1章 水の町・クリスタロス

 自習や休息を終えた祓魔術を学ぶ者たちは、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)からある依頼情報のメールを受け取った。
 早朝、イルミンスール魔法学校に集合した彼らは、百合園の近くにあるいう町、クリスタロスへ向かった。
「先生、カエルが欲しいです!あのカエルは是非とも飼いたいです!捕まえ方と飼い方を教えてください!」
 他の者たちが出発してしまったのにも関わらず、まだ残っている日堂 真宵(にちどう・まよい)ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)に質問する。
「かなり自己主張が強いし、飼われるタイプじゃないから無理かな」
「他人のモノを無理やり奪おうとする欲望の塊…は!?真宵のことですね!また真宵ですか」
 2人の会話を聞きつつ、今回の魔性の情報を思い出したベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が呆れ顔をする。
「な…っ、誤解を招くことを言わないで!飼うのと奪うのは違うわよっ」
 パートナーを蹴って怒る真宵だったが、彼女から見れば同じことのように聞こえたのだった。
「あぁ、それと。この前のノート返すよ」
「授業のことを纏めてみたんです。どうでした…?」
「うーん…。よくわからないことを除いて、他はいいんじゃないかな」
「よくわからないって…。わたくし、そんなこと書いたかしら。…あっ!!?」
 何のことだろうかと思い、ノートを開いてみると…。
 ノートに書き散らしたラスコットへの質問が、テスタメントによって丁寧に纏められていた。
 顔から火が出そうなほど真っ赤になり、ノートを抱えて走っていく。
「(低いランクでもつけられたのでしょうか?)」
 “可”みたいな、ギリなランクだったのかと想像するが、見られた真宵にとってはそれよりも恥ずかしいものだった。



「人の声が聞こえませんわね…」
 クリスタロスに到着したエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は周囲を見回してみるが、人影が見当たらずカエルの鳴き声ばかり聞こえる。
「エリシアおねーちゃん。ほとんどの人は、カエルにされちゃってるんだっけ?」
「どうやら、情報通りのようですわ。ビバーチェ、いくつか香水を作ってくださいな」
「空き瓶分でいいのね」
 からっぽの瓶を数えたビバーチェは赤色の花を咲かせ、舞い散らせた花びらを砂粒のように変化させた。
 さらさらと透明な瓶の中へ落ちていくと、彼女のドレスに似た鮮やかな色合いの液体へと変わった。
「ルルディちゃんもいい?」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の頼みに物静かな少女はこくりと頷いた。
「ありがとう!」
「この…置いてあるものだけでよかったんですよね」
「あまりたくさん作ってもらう時間がないからね。…皆に配らなきゃ!」
 出来立ての香水を林田 樹(はやしだ・いつき)に渡す。
「私もクローリスを呼べるようになったのだから、問題はないと思うが…。小娘、おまえが持っておけ」
「いいんですか?タイチのお母さん」
 投げ渡された小瓶をセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)がキャッチする。
「キレイな色ね…」
「観賞用じゃないぞ、ツェツェ。呪いから身を守るものだからな、それ。使ったらなくなるものだ」
「ちょっとくらい、見ていたっていいでしょ!」
 消耗品として使うものだと言う緒方 太壱(おがた・たいち)に、セシリアは頬を膨らませた。
「…忍び娘の弟。この聖杯はどうやって使うのだ?」
「その前に、呼び出ための陣を描く必要がある。四角形の魔方陣がいい…。紙か…地面に、描いてみてくれ」
「模様はなんでもよいのか?」
「いや…、呼び出す種類に相応しいものでないと…。クローリスなら花の模様がいいだろう」
「ふむ……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に教えられた通りに、樹は千切ったノートの紙に描いてみる。
「それを地面に置き、聖杯を掲げて祈りを捧げるんだ。…相応しい言葉でないと、使い魔の涙が聖杯に落ちてこない」
「涙?祈りだけで現れるものではないのか?」
「まだ先がある。それに術者の血を…一滴混ぜ、魔方陣に落とすんだ」
「なるほどな…。(呼ぶための相応しい祈りか)」
 どのような言葉がよいだろうか?と考えた樹は、静かに祈りの言葉を呟いてみる。
「お袋の聖杯に、何か落ちたぞ!」
「タイチ、うるさいっ」
 大きな声を出す太壱の脇腹を、セシリアが殴って黙らせる。
「なんか神聖な儀式みたいだね…」
 普段の樹の姿とは違う、清楚な女性を思わせる雰囲気に、緒方 章(おがた・あきら)が見惚れてしまう。
 彼らの会話は彼女の耳に入らず、グラキエスの言葉を思い出しながら、召喚の手順を進めていく。
 涙と血を混ぜたものが魔方陣に吸収され、そこからひょっこりとサボテンが出現した。
 サボテンは娘の姿に変わり、樹に顔を向けてにっこりと微笑んだ。
「ウチは、エキノプシスマルティプレックスという名前です〜」
 その名を耳にした太壱が、“名前長くねぇか!?”と驚いた。
 召喚を見守っていたグラキエスは、名前は樹が考えたのだろうと分かっていた。
 呼び出された使い魔は術者の血の情報で、その者のことや考えをほとんど理解しているのだ。
「どう呼べばいいんだ…。キノックスでよくね?」
「エキノプシスマルティプレックスです〜。兄様、間違えないでくれまへん?」
「無理っ!覚えられねぇよ」
「―…エキノと呼ぶか」
「そのほうがいいな、お袋
「呼び出すクローリスってさ。いつも同じなんだっけ?」
「ああ、どうやらサボテンになったようだ…私らしいとは思わんか、アキラ。それと、エキノと呼べ」
「う、うん…」
 名前があるのだからきちんと呼べ、と睨まれる。
「(一応…花は咲くよね。たぶん…咲くはずだよ)」
 花らしき雰囲気が見当たらず、本当にクローリスを呼んだのだろうかと、章は不安顔になった。
 トゲばかりで美しい花一つないため、“私らしい”という樹の言葉に対して、なんて反応していいか分からない…。
「アウレウスも使い魔を呼び出すのか?」
 召喚の準備をしているアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)にグラキエスが声をかけた。
「ええ、主を護るのは、私の役目ですから!」
「(可愛い模様だな…)」
 白い用紙に描かれた魔方陣を覗き込む。
 それには細やかな花を模した柄が描きこまれていた。
「(私も…主のための力を!)」
 手順を思い出しながら呼び出すと…。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
 召喚者であるアウレウスの前に、紫のドレスに鎧を着けた少女の姿をしたクローリスが現れた。
「ウィオラ、主を呪いから守るのだ!我等は主の鎧にして盾。主には指一本触れさせんぞ!」
「はい…かしこまりました」
 アウレウスにウィオラと名づけられた彼女は、紫の花の蕾を模した盾のような杯を手にして彼に傅く。
「主、御覧ください!私の主への忠誠を理解し、共に主をお守りすると誓った新たな相棒です!」
「頼もしい仲間が増えたな。(紫色が綺麗だ…)」
 “綺麗”などという言葉は、戦士のようなウィオラはあまり好まないだろうか…と思い、言葉を飲み込んだ。



「人の物を自分のもだと主張するだなんて。なんか証拠でもあるのかしら?」
 今になってなぜそのようなことを言い出したのかと、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は首を捻った。
「もらった情報では、証拠と呼べるものを見せたとかはなかったわね」
「ふぅ〜ん。一応、あの女にコレ借りてきたけど…」
 ラズィーヤに掛け合って借りた、文献のコピーをセシリアに見せた。
「―…ん?」
「本物を見せて獲られたり、破かれたりしたら最悪だから。コピーのほうにしたのよ」
「あー…、やりかねないわね」
 略奪者にそんなものを見せたらエサにしかならない。
「ヴェルレク、今日は本じゃないの?」
「アンタがヘマしないか不安だから、こっちにしてあげたのよ」
「え……?」
「いっとくけど、カエルになりたくないからってこと!」
 セシリアの索敵の能力では、まだまだ心許無い。
 その補助のためだったのだが、いまいち素直に告げることが出来なかった。
「なあ、誰かポチ知らないか?」
 一緒に来たはずの忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の姿がない。
 カエルの魔性に襲われでもしないか、さすがのベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)も心配のようだ。
「マスター。ポチなら安全な場所で待たせています!」
「そうだったのか?」
 安全な場所なんてあるんだろうか…と疑問に思いながらも、ここでツッコミを入れてしまうと、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が大慌てで迎えに行ってしまいそうだ。
 もしもカエルになっていたらなっていたで、後で元に戻してやればよいか。
 尊い放置民として、それ以上ポチについて触れないでおいた。