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●して、せんせぇ

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●して、せんせぇ

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「大陸の破壊、始めても構いまへんか?」
「ええっ……」
 バニーの、後片付けでも始めるかのようなあっさりした物言い。
 しかしその言葉の内容に、その場にいた全員が硬直した。
「なんで……なんで? 今までの授業は? この世界は素晴らしいって分かってくれたと思ったのに」
「分かりましたえ」
 ルカルカの言葉に、バニーは物腰柔らかに答える。
「せんせぇたちのおかげで、この世界のこと、新しいものを知る喜び、色々な事が分かりましたえ。感謝しとります」
「だったら、なんでっ……」
「そうだ。言っただろ? 新しい場所を案内してやるって」
 唯斗と恭也も悲痛そうに告げる。
「柊せんせぇにそう言ってもらったのに、心苦しゅうおすなあ」
 一瞬、恭也に向かってすまなさそうにバニーが頭を下げた。
「けど、最初っから、うちはこの大陸を破壊するゆうとりましたし」
「ねえ……聞いて」
 バニーの声と同じくらい、静かな声が響いた。
 神崎 零(かんざき・れい)の声は、しかしバニーのそれとは全く違う質、重みを湛えていた。
 零は、バニーの手を取る。
 今にも破壊に使われようとしていたその華奢な手を。
「貴女にとってこの大陸や人々は消滅しなくてはならない存在なのかもしれない。けどだからって消滅したら何にも変わらないの。何故ならそこに住む私達自身で変えていこうと行動しなきゃ意味がないから」
「ああ。俺達や世界は、意外に簡単に解り合えるものだ」
 神崎 優も、バニーの手を取っている零の手に自らの手を重ねる。
 彼は、彼らは望んでいた。
 解り合いたいと。手を取り合いたいと。
「私は優と出会って共に行動し、共に触れ、共に想いを伝えあって気付いたの。私達の想いや行動で未来や明日を変える事が出来るんだって」
 零は優を見る。
 優も零を見る。
 微笑みと共に視線が交差。
 そして、次にその視線が向けられたのは――バニー。
「……わかりまへんなぁ」
「えっ」
「えっ……」
 二人の視線を真正面に受けながら、バニーは首を傾げる。
 皮肉でもなんでもなく、むしろ理解しようと努力したが理解できないといった様子だ。
「せんせぇ方は、この世界は面白いと、素晴らしいと、大切だと教えてくれはりました。ほんでも」
 唯斗を、恭也を、ルカルカを、そして今までバニーに授業を行った全ての先生を、バニーは見つめる。
「この世界がほんなに大切なら、どうして誰一人、世界をうちから護ろうとせんかったのん? うちを殺そうとせんかったのん?」
「それは……っ」
 貴仁は何か言おうとして、しかし結局口籠る。
 どんな事情があろうと、バニーを、女の子を殺したくはなかった。
 彼自身、最初からそう考えていたから。
 小暮が、なななが苦しそうに歯噛みするのを永谷とシャウラは感じた。
「もしも、うちがうちの姿でなかったら。例えばもっと不定形な体をしていたり、触手だけの存在だったりしたら、もっと違ってましたのん?」
「……信じてたからよ。ルカたち、みんなの授業を受けたバニーが大切なものを身に着けてくれるって。破壊を止めてくれるって」
「それがもし失敗したら、消えてもいい程度の重さなんどすか?」
 ルカルカが苦しげな言葉に、しかしバニーはやはり不思議そうな表情を返すだけ。
「うちに、大陸を消さないでと言うたんは、唯斗せんせぇ一人どした。他のせんせぇはそうでもないのかと思ってましたん」
 違う、そうじゃない。
 その場にいた全員の、悲痛な心の叫び。
 言っていた。
 いや、伝えようとしていた。
 その授業で、言葉で。
 しかし彼女は、ストレートな唯斗の言葉以外理解できなかったのだ。

 バニーの手が一閃した。
 その場にあった教室は、跡形もなく崩壊した。
 更に、一閃。
 建物が次々と崩壊していく。
 人々は逃げる間もなく潰され、将棋倒しになっていく。
「あぁああああああああああああああああ……はっ!?」
 目を覆いたくなるような――幻覚。
 気が付けば、どこも壊れていなかった。
 誰も怪我していなかった。
 教室すら、元通りだった。
 しかし、全員が感じていた。
 今見たものは、まもなく本物の光景になると。

 ふと、バニーがダリルを見た。
 そして優を。
「そういえば、うちのこと知りたい言うとりましたっけ」
 艶然と笑う。
 破壊とはまるでミスマッチな笑顔で。
「ノーンせんせぇにはお話したんどすが……うちはなぁ、未来から来ましたんえ。だから、大陸を消せばうちも消えるんえ」
「ふむ。ならば、何故」
 大方の人間が絶句する中、ダリルは問う。
 この場この状況においても、彼の知識欲は変わらない。
「うちはな、強かったんえ。今のままだと、うちのいる未来を壊してしまいそうな程に。うちを消そうとする人をつい消してしまう程に」
 バニー、もとい、バニッシャー。
 “消滅させるもの”と名付けられた少女は語る。
 今まで秘めてきた彼女の内側を。
「ほんでな、考えたんえ。うちを消すにはどうすれば良いのかを。ほんで、賭けてみることにしたんえ」
「賭けるって、何を」
 優が問う。
 しかし彼にはもうその答えが分かっていた。 
「ここなら、破壊すればうちは消える。殺されても、消える」
「バニーさん……」
 零の手は、先程までバニーの手をとっていた彼女の手は、ただ伸びるだけ。
 届かない、手に向かって。
 いや、あと僅か……
「……それでも。暇つぶしとゆうとりましたが、せんせぇ達の授業は楽しかったどすなぁ。今まで、破壊しか知らんかったので、はじめての体験どした」
 バニーはすうと目を細める。
「そやから、もう少しだけ抑えまひょ。お時間を作りまひょ」
「どういう事や」
 泰輔の問いに、バニーは微笑んだ。
「もう一度、うちに授業を。そしてその時にこそ、うちに死を――ね、せんせぇ」

担当マスターより

▼担当マスター

こみか

▼マスターコメント

 こんにちは、お世話になっております。
「●して、せんせぇ」を執筆させていただきました、実は京都弁より名古屋弁のが得意な、こみかと申します。
 バトルで、暗殺もののシナリオでしたが、一人も、本当に一人も殺るアクションをかけた方がいらっしゃいませんでした……
 殺す気まんまんで出したNPCでしたが、だから性格もあんな困った感じなのですが、生き残ってしまいました。
 その上目的を翻すこともなく……どうしたものでしょう。

 授業のアクションは、どれもとても面白いものでした。
 命の授業も、趣向をこらしたり真正面から向き合って、本当に素晴らしい物でした。
 ですが、今回のシナリオに限らず、シナリオの中のアクションは全て影響しあって、結果が出てくるものだと思っています。
(シナリオによってはそうとは限らない物も多々ありますが)
 良いアクションでも他の人のアクションと絡んだ結果失敗したり、逆にいまひとつなアクションが他の全く別なアクションの結果、思わぬ成果を上げたりもします。
 今回は、結果として暗殺失敗、となってしまいました。

 バニーの今後ですが……ひとまずは、教導団が対応するかと思います。
 もしも、彼女に関わってみたいという方がいらっしゃるのでしたら、どこかでご意見いただければ再び関わる(授業と暗殺する)機会があるかもしれません。

 それでは。
 また――暗殺シナリオに限らず――どこかでお会いできましたら、とても嬉しいです。