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【若社長奮闘記】幻の鳥を追え!

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【若社長奮闘記】幻の鳥を追え!

リアクション


★第三話「因果応報」★


 雪崩が起きる少し前。
 ジヴォート一行と同じく、サンダーバードの影を氷の鳥と勘違いした者たちがいた。
「あれが幻の『氷の鳥』でありますかっ?」
 まっすぐに背筋を伸ばして鳥の陰を見ている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)と、濃緑のボディを持つ鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)だ。氷の鳥を捕まえれば大もうけできる、とジヴォートたちよりも早くに山を登っていた。
「話に聞いたとおり、大きな鳥だな」
 話し合う2人の背後には、ダンボールのようなもので作られた天幕? があった。
 きっと表面だけがダンボールで、中は普通なのだ。そうに違いない。
「すぐに追いかけなければ……む。あの一団は」
 吹雪はダンボールハウス(?)を素早く片付け、一歩踏み出したところで眼下で騒ぐ一行を発見した。幼い顔に険が浮かぶ。
「むむむ。自分たち以外にもライバルがいたとは……阻止するであります! 鋼鉄! やるであります!」
「はぁ……分かった」
 ちょうどそのころ、イブが起こした小規模な雪崩を目にした吹雪は、懐から手榴弾を取り出した。
 鋼鉄はいいのだろうか、と疑問に思いつつも88ミリ高射砲やらミサイルポッドやらの準備をした。
 もちろんそれらをどう使うかなど、説明するまでもなく

「氷の鳥を捕まえるのは自分たちなのであります!」
「……いいのか? ここまでやって」
 小規模な雪崩は、すさまじい雪崩へと変化した。吹雪は次々と雪崩に巻き込まれていく一行を見て、胸を張って高笑いをする。
「見ろ人がゴミの〜〜〜おや?」
 背後から聞こえた轟音を振り返る――前に2人は雪の波に飲まれた。

(ああ。こうなる気がしてた)
(大もうけが)
 鋼鉄がそんなことを思いながら。吹雪はまだ氷の鳥へと手を伸ばしながら。
 2人はそのまま下へ下へと流されていった。

 人間。悪いことをするとろくなことがない見本だろう。
 よいこの皆は、真似しちゃいけませんよ。

※ダンボールはこの後スタッフが美味しく(?)いただきました。
(訳:自分が出したゴミはちゃんと持ち帰りましょう)


* * *


「ぷはぁっ」
 いち早く雪の中から顔を出した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、自分の顔をなめるパラミタセントバーナード――救助犬の綱吉に「ありがとう」と笑いかけた。隣で同じように助けられたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も優しく微笑む。
 ロケ隊の後方にいたために体勢を整えられたことと、何より綱吉のおかげで美羽はすぐに雪から脱出できたのだ。
 他にも数名――元から空を飛んで物資輸送をしていたみと、咄嗟に熾天使化した飛都など――を除いてほとんどが生き埋めになっている。いずれ自力で脱出は出来るだろうが、早く助け出すに越したことはない。
 すぐに顔を引き締め、綱吉に協力を頼む。
「さあ、皆を助けるよ」
「わぅん!」

 綱吉は美羽の頼みどおり、見事に皆を探し当てた。念のためにとつれて着てよかったと頭を撫でられ、自慢げに尻尾を振っている。
「うん。ほんとありがとうな……えっと」
「綱吉って言うんだよ」
「そっか。ありがとうな、綱吉」
 毛布に包まったジヴォートが綱吉に話しかけ、今度は美和が自慢げに胸を張った。
 幸い、というべきか。ジヴォートは近くにいたエリスグラキエス(とドラゴンのガディ)のおかげでたいした怪我は無かった。
 プレジはそれらを確認すると、自分の後ろにいたパールビートに「お怪我はありませんか?」とたずね、パールビートは頭の部分を何度も縦に振った。
「お2人もご無事ですか?」
 元気そうな様子に口元だけで笑ったプレジは、服についた雪を払っているリカインヴィゼントへも声をかける。
「ええ。自分、頑丈ですので」
「大丈夫よ。雪だらけになった以外は」
 リカインはため息混じりに返しつつ、「さすがの身のこなしですね」「そんなことは」と謙遜しあうプレジとヴィゼントを眺めた。
 2人ともちゃんと登山用の装備を身につけているにもかかわらず、相変わらずのサングラスのせいなのか。別の何かのか。やっぱりその道の人にしか見えない。
(雪山の任侠物語が始まりそうね)
 そんな感想を抱くも、「なんなのそれ?」と問われたらきっと答えられない。
「ま、それはともかく……周囲の警戒と救助。それからゴミ拾いに行かなくちゃね」
 ゴミ拾い、といいながら雪の中に手をやったリカインが引っ張り出したのは、気絶しているアニキ・デスだった。
 元から一行に目をつけられていた3人組だが彼らが今回狙っていると言う証拠がないために放置していた。そこへ雪崩の前に思わずアニキが口走った「捕まえる」と言う言葉をはっきりとリカインが聞いた事で、3人を捕らえる口実が出来た。
 にっこり笑うリカインに
「私もお付き合いしましょう」
「お嬢、自分も」
 プレジとヴィゼントも同行する。

 そんな3人が、極道一家そのものに見えた、というのは。当人たちだけが知らない事実だった。


* * *


 雪崩はジヴォートたちだけでなく、後を追いかけていたドブーツたちをも飲み込んでいた。
「大丈夫?」
 目を瞑っていたドブーツは、かけられた声と宙を浮く感覚に目を開けた。
 声の主は天音だ。天音はドブーツを抱えたまま、雪の上に着地した。
 どうやら一行から少し離れていたため、避けることができたようだった。
「自然の雪崩にしてはやや不自然だったが」
 ブルーズが顔を歪めながら、魔法を解いて2人の隣に着地した。どうやら彼がとっさに全員を宙へと浮かべあがらせて雪崩から守ってくれたようだ。
 ついてきた部下たちが全員いるのを確認したドブーツは、すぐにハッとしてジヴォートのほうを見た。
「ジヴォートも無事みたいだよ、ほら」
 天音が指さした方を見てみると、雪から助け出されたジヴォートは寒そうにしているものの元気そうだった。
 思わず安堵の息が漏れ、しかしその様子を天音が笑いながら、スピカがつぶらな瞳で見ているのに気づき、すぐに明後日の方向を向いた。


* * *


 不幸中の幸い。けが人と言うけが人はいないようだったが、それでも一度は雪に埋もれたのだ。今はとにかく身体を温めるのが大事。元々野営をしようとしていたのもあり、今日はここで休むことになった。
 安全のために仕方ない、と分かってはいるのだろうがジヴォートは先ほどからそわそわと落ち着かない。がくがくと寒さで震えながら目線が動く。――先ほどの鳥の影はもうどこにもない。
「ジヴォートさん。どうぞ、これを」
 ベアトリーチェはジヴォートが目で何を探しているのか察したが何も言わず、ホットココアを手渡す。
「ああ、さんきゅ」
「いえ」
 優しく微笑んでから、ベアトリーチェは他の面々に飲み物を配りに向かった。

 ベアトリーチェが飲み物を配り歩いているその向こうでは、弥十郎が温かいスープを作って配給していた。仁科 響(にしな・ひびき)もそれを手伝っている。
「さぁ、これをたべなっせぇ」
「今日はゆっくり休んでください」
 雪崩に巻き込まれて疲れている面々が響の励ましの声で少し元気を取り戻しているように見えた。もちろん、温かく美味しい食事で活力も取り戻す。

 それらを見ていた笠置 生駒(かさぎ・いこま)ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は、自分たちもと動き出す。
「えーっと、たしかこれをいれてこう」
 見よう見まねで調理を開始する生駒。リイムが生駒に駆け寄る。
「僕も手伝うでふ!」
「ありがとう。じゃあ――」
 ジョージは、というとなぜか酒ビン片手に雪の中を歩いていた。自前の毛皮に腰布一枚と言う格好の彼は、下手したら雪男に間違われそうだ。
 ……フラグではない。はず。
 雪に埋まった者は全員救出したとはいえ、中々自力で動けないものも多い。そんな彼らの元へと向かったジョージは、おもむろに酒ビン(日本酒のようだ)を寒さで震える彼らの口に突っ込む。
「大丈夫か。これでも飲め」
「んぐっ? んんんっ」
 ばんばんと苦しさからジョージの腕を叩くも、彼はまったく意に介さず。
 ぐでっと意識を失った身体を軽々とかつぎあげ、生駒のもとへと運ぶ。
 生駒とリイムは意識を失っていることに疑問を感じることはなく
「はい、これで元気出してねぇ」
「元気いっぱいになってくださいでふ
 作りたてのスープ(?)をその口の中に流し込んだ。

 スープに(?)をつけたのは、まあそれがスープであるかどうか。ちょっと良く分からなかったからだ。

「……さて。俺たちは周囲の警戒に行くか」
「今、明らかにスープから目をそらしたよね、ダリル
 ちょうど良い?タイミングでやってきた雪山の獣たちに目を留めたダリルは、スープを置いて魔力を高め、吹雪を起こす。
 ルカルカも突っ込みいれつつ、気持ちは十分理解できたため。ルカは救助犬とともに雪崩を起こして巻き込まれたものたちを雪の中から拾い出す。
「これに懲りたら、もうしちゃ駄目だからね」
 にこやかに。かつ迫力ある声でそういった。――悪いことはするものじゃない。
 
「ちょっとセレン。大丈夫なの? 飲んで」
「大丈夫よ。そんなにやわじゃないわ。セレアナも一杯どう? 温まるのは確かよ」
「……遠慮しておくわ」
 ごくごく普通にスープを平らげているパートナーの誘いを断ったセレアナは、やや離れたところで配ってあったスープ(弥十郎作)をわざわざとりにいった。

 セレアナが戻ってきたとき。生駒&リイムスープの入った鍋付近にはぴくぴくと痙攣している者たちが大勢いたとかいないとか。

「あれー? 分量間違ったのかな?」
「みなさんどうしたでふか?」


* * *


「えーっと……アレ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!(たぶん)」
 生駒&リイムの謎スープの威力を見ていたジヴォートが引きつった笑顔で言うと、美羽ベアトリーチェが駆け寄って行ったので大丈夫と思うことにした。
 そうか。
 頷いたジヴォートは、片手でココアのコップを持ちつつ、もう片方の手で綱吉の頭を撫でていた。意識してのことではなく、無意識に撫でているように美羽には見えた。慣れた仕草に、もしかしてと美羽は問いかけた。
「ジヴォート君は犬って飼ったことある?」
 その問いかけに、ジヴォートはようやく自分が綱吉の頭を撫でていたことに気づいたらしく、ハッとしてからどこか寂しげに手を離した。

「ああ、昔……最初に出来た友達だった」

 友達だった
 声の響きから、意味を悟って美羽は眉を下げる。謝ろうとした美和に、ジヴォートは微笑んでから

「俺が……殺したんだ」
 そう、告げた。


* * *


 翌日。
 話し合った結果。一行は登山を続けることにした。ロケ用の破壊された機材は、残念ながらここで修理できるほど軽い傷ではなかったらしく使えないが、個人的に持ってきていた小さなカメラやマイクなどがまだあったからだ。
 ソレに何より、もうすぐ頂上。せめて登りきりたいとジヴォートが告げたからだ。
 少し疲れた様子を見せていたジヴォートだったが、白い世界の中で動くものを発見して目を輝かせた。
 ソレは自分たちを襲ってくる今までの獣よりもはるかに小さく。そして見たことがない生き物。
 捕まえる気はなかったが、近くで見たいと思った彼は走り出そうとして
「待て」
 腕をつかまれて動きを止めた。振り返ると、熊谷 直実(くまがや・なおざね)が険しい顔をしていた。良い修行になる、と参加した彼だが。いや。だからこそ、山の険しさを知っている。
 その間に不可思議な生き物が姿を消してしまい、ジヴォートが残念がる。だが直実の表情が険しいままだったので、ジヴォートは「どうしたんだ?」と声をかける。
 直実は口で説明するよりも見せたほうが早いと判断し、アンガーアンガーを打ち込んだ。ジヴォートが進もうとしていた場所へ。

 とたんに雪が崩れ落ちた。
 ぼろぼろぼろ、と。

 ジヴォートが目を見開く。
「雪山は目で見るだけではだめだ。表面は平らに見えても、雪は地面のない場所にも積もる。気をつけて進め。涅槃に行きたくは無いだろ」
「あ、ああ。助かった。ありがとう」
 安堵の息を吐く。直実は納得した様子のジヴォートを見て腕を放し、再び黙る。元々あまり喋るタイプでもないのだろう。
 ジヴォートは礼を言ってから、ならば先ほどの生き物はどうして雪の上を歩けたのかと首をかしげる。
 その疑問には飛都が答えた。
「羽のようなものが生えていた。それと足跡が見つからない……おそらく歩いていたのでなく、飛んでいたんだろう」
「じゃあなんでわざわざ歩く不利をしたんだ?」
「……おびき寄せて体勢を崩した獲物を捕らえるためじゃないか?」
 はっきりと言うのは、これで少しでも危機感をもってもらえたら、と思ったからなのだが
「へぇ〜。よく考えてるな。だからあんな小さな身体でも生きていけるのか。……むしろ生きるために小さくなったのかもな」
 獲物として狙われていた本人は、暢気に感心するばかり。飛都は額を押さえた。

 とにかく。
 ジヴォートを野放しにしては危ない、と改めて判断し、周囲が安全だと分かるまでジヴォートの身柄をソリにくくりつける(本当にくくりつけたわけではないが)ことにしたのだった。

「むぅ。俺、そんなに子供じゃない」
「黙って大人しくしててください、以上」
「そうそう。逆らってもいいことないぜ?」
 ソリの運転手と同乗者に見張られつつ、信用ないなぁと少しむくれるジヴォートだった。